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流青群は柊に舞う  作者: ノスケ
第五科【蛍が照らす道しるべ】
15/22

〈二類 狐雨〉

〈二類 狐雨〉

 春馬が山を探している頃、同じ雨を茜も縁側に座って見上げていた。

「雨……。確かあの日も」

 茜は初めて咲葵に会ったときのことを思い出していた。


 学校の帰り道、茜は傘をさして一人で歩いていた。溜息は雨の音にかき消され、しずくの落ちる音だけが鮮明に聞こえていた。

「はぁ……」

 後ろから走る足音が聞こえた。

(また私を追い越す足跡だろうな……)

 茜が歩みを止めずにいると、肩をポンと叩かれた。茜がびっくりして振り向くと、そこには見覚えのある顔があった。

「ねぇ! 君もしかして転校生の子?」

「あ、はい。そうですけど」

 どうやら自分のことを知っているらしい。確かクラスに居た子だ。名前まではさすがに覚えておらず、茜が戸惑っていると咲葵の方から話を続けてくれた。

「やっぱり! ずっと話しかけたいなって思ってたんだ! あ、私は水上咲葵!」

「あ、えっと、藤原茜です」

「そーだよね、めっちゃ可愛い名前! 茜って呼んでいいよね! よろしく!」

 咲葵は圧こそ強いが、とても活発で話しやすい雰囲気の子だった。“みずがみ”という名前に珍しさを感じつつ、茜は今まで考えていた頭の中の友達と仲良くなるプランを思い返す。

(そうだ、私も名前の呼び方を提案しないと!)

「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします! えーっと、みずがみさん?」

「咲葵でいいよ! ため口でいいし!」

 いきなり下の名前で呼んでくる、呼んでもいいという人は初めてだった。茜が転校してからすぐは、絶対に人のことを苗字で読んでいたからだ。よそ者だと思われてもいいから嫌われることはしたくなかった。茜が苗字呼びを崩さないので、相手も藤原さんと呼んでくることがほとんどだった。

「ありがとう」

 嬉しかった。自分に心を開いてくれていることが。もちろん自分の勘違いかもしれないが、それでも初めて親友になれる予感がした。茜はずっと咲葵の方から話題を振ってくれていることに気づいた。

(あ、私も何かこの辺りで話題振らないと……何が良いのかな? プリクラ? でも都会ぶっているって思われても嫌だし、学校の話もまだよく分かんないし……)

 茜が頭をフル回転させていると、咲葵がまたも話題を振ってくれた。

「それにしても今日凄い大雨だよね! 茜ちゃんは雨好き?」

(そうだ、天気……友達になる前は天気とか共通の話題がいいの忘れてた)

 咲葵もどうやら茜の為に、話題選びに気を遣ってくれている様子だった。雨、茜は思ったことを素直に伝えることにした。

「うん、好きだよ。雨の日って傘が遮ってくれて、一人でも目立たないから」

(あれ、この答えあまりに暗すぎるかな? 変に文学的かな、国語の成績もそんなに良くないし生意気かな……)

「確かにそれも一理あるね!」

 茜が心配していたことは曇りのない咲葵の肯定によって払拭された。茜が安心していると、咲葵は続けて言った。

「でもこれからは一人じゃないよ!」

「え?」

 茜には咲葵が何を言っているのか理解できなかった。ただ、今までに感じたことのない安心感があった。

「今まで茜が見られなかったもの、私が見せてあげる!」

 咲葵は茜の手を引っ張って連れて行った。傘を放り投げ、一緒に走った。雨はもう気にならなかった。


「咲葵……」

 茜が縁側で物思いにふけていると、里穂がやってきて隣に座った。人二人分くらいの距離で、茜はリラックスできると感じるとともに、少し物寂しさも覚えた。

(これも咲葵のお陰かな)

 茜がそう思っていると、里穂が話しかけてくれた。

「急に降ってきましたね。そこだと濡れませんか?」

「少し濡れますけど大丈夫です。雨は好きなので。先生は心配ですけどね」

 春馬がフィールドワークに出かけてから既に三日経っている。宿に戻ってくることもなく、野宿しているようだった。

「そうですね。無事見つかるといいですけど」

 茜は春馬が帰ってくると信じていた。そのためこれ以上春馬の話をしても暗くなるだけに感じ、話題を変えることにした。

「宿まで用意してくれて本当にありがとうございます」

 茜は改めて里穂に感謝を述べた。実家が宿をやっているとはいえ、わざわざ部屋を空けて泊まらせてくれるというのはあまりに親切だった。茜はお金を払おうとしたが、「私が誘っただけなので」という理由で断られたことにも驚いた。

「いえ、私が勝手にやっている事ですから。ある意味お二人を利用したのかもしれませんし……」

「利用?」

 利用、あまり聞き馴染みのない言葉だ。

「資料の話を聞いたとき、菫に会える口実になると思ったんです。すいません」

 茜は身構えたが、里穂の返答は茜が心配していたものとは違った。

「そんなことですか、そんなの利用に入りませんよ!」

 里穂は改めて茜に感謝した。感謝するという意味では茜も同じ気持ちだった。

「でも菫さん、里穂さんに当たりがきつかったですよね」

 里穂によれば、昔はあんな感じではなかったのだという。里穂と菫は小学校の頃からの幼馴染で、中学は別だった。

「高校で再会したときには、菫はもう変わっていました」

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