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流青群は柊に舞う  作者: ノスケ
第四科【蝉時雨】
13/22

〈三類 夢と反射とトランシーバー〉

 柊冬馬が狐者でも幽霊でも存在している限り、新しく柊冬馬が複製される事は無いらしい。過去には飛んでいるものの、パラレルワールドと言っても過言ではない状況に冬馬は居るらしい。

「あ、でもその場合弟さんって……」

「そう。春馬、弟の名前ね、は新しく生まれてくる。彼が俺を知る事は無い。一人っ子として生まれてくるんだ」

 つまり弟の柊春馬、その周りのこの世界は冬馬からすればリセットされているということである。

「あれ? でもその場合って春馬さんに会っても分からないって言われちゃうんじゃないですか?」

 その可能性は確かにあった。それは冬馬も危惧しており、過去でお狐様に尋ねていた。

「その鍵になるのが蒼灯籠の光なんだ、蒼灯籠を知っているかな?」

「あ、はい。お狐様に近い家系なので聞いたことはあります」

「話が早くて助かるよ。同じ話があると読者が疲れるからね」

「読者?」

「あぁこっちの話だよ」

 冬馬は焦ったように話を戻した。どうやら冬馬はその話を聞いて調べてみることにしたらしい。時間はかかったが九百年という時間を全て費やす必要は無かった。そこで一つの原理にたどり着いたようだった。

「原理?」

 冬馬によれば、蒼灯籠には狐者の体を反射させる働きがあるということだった。咲葵がポカンとしていると、冬馬はポケットからリンゴを取り出した。夜ご飯に食べる予定だったらしい。

「リンゴが赤く見えるのは赤い光を反射しているからだ。それと同じように、蒼灯籠の光には狐者自身を反射させる働きがある」

「えーっと、つまり?」

「俺たちの姿が人間に見えるってことだよ」

 これには咲葵も驚いた。さっきまでの冬馬の自信はそういうことだったのかと納得した。そして姿が見えることで存在しない記憶を呼び起こせる可能性が高い、というのがお狐様の見解だった。

 その場合パラレルではない、冬馬を知っている春馬と話すことができる。冬馬はそれを希望に九百年もの間狐者として過ごしてきたのだ。

「あれ? でもどうやって春馬さんを山に呼ぶんですか?」

「それが計画の準備だったんだよ」

 冬馬は春馬が生まれてからのことを話した。春馬に夢を見させて、蒼灯籠と俺が登場することで、青く光る虫に本能的に反応するように仕向けたのだという。これも狐者の能力らしい。

「まぁ、内容を覚えることは無いんだけどね」

 冬馬は残念そうに言った。夢の中でも頻繁に狐者が色々な人の前に登場していたら問題になるからだ。

「本当にそんなこと出来るんですか?」

 咲葵はまだ疑い腰だった。どうしても原理的に信じることができない。

「人にはレム睡眠とノンレム睡眠という二つの眠りがあるね」

「は?」

 冬馬があまりに突拍子もないことを言い出すので、咲葵は困惑した。冬馬はレム睡眠とノンレム睡眠の違いについて説明しだした。

「夢を見るのは主にレム睡眠中だといわれている。さすがに狐者でも普通の夢に干渉することは難しい。だからノンレム睡眠中に夢を見させることにした」

 咲葵には冬馬が何を言っているのかよく分からなかった。レム睡眠とノンレム睡眠という言葉も聞いたことがある程度だったため、冬馬の言っていることが余計に分からない。

「本来存在しない夢だから、内容を覚えることは無いんだけどね」

 冬馬は残念そうに言った。しかしそれは想定済みで、それでも本能にはたらきかけることに意味があると冬馬は自慢げに語っていた。

「すごい……」

 咲葵が声も出ないほど驚いていると、冬馬が付け加えた。

「サブリミナル効果みたいなものだよ」

 サブリミナル効果、咲葵も聞いたことがあった。映像の中にほんの一瞬だけ写真を数回挟むと、無意識に働きかけることが出来る。サブリミナル効果の仕組みを、冬馬は丁寧に説明してくれた。

「極端な話、ホラー映画にちくわの絵を挟んだらちくわが食べたくなる」

「す、すごい……」

 もはや返す言葉もなかった。咲葵に分かったのは、柊冬馬という人物の知能の高さのみであった。

「まぁ人間は使っちゃいけないらしいんだけど、俺には関係ないし。それで後は山を探すだけになってるよ」

 ここまで来るのに20年以上、冬馬が今まで耐えてきた年月に比べれば少ないものの、かなり長い期間だった。それももうすぐ終わりを迎えることに冬馬は感慨深さすら覚えていた。

「凄いじゃないですか!春馬さんと茜は一緒に行動しているんですよね?」

「そうだけど、俺の準備を手伝っても来ないかもよ?その茜って子は」

「いや、茜は来ます。手伝わせてください」

 咲葵の目に迷いはなく、覚悟で透き通っていた。冬馬は咲葵を連れて行くか少し迷っていたが、目を見て信用できると判断した。冬馬は咲葵に、計画中に他の人が来ないように山を見張っていてもらいたいと頼んだ。

「別行動にはなるけど、大丈夫かな?」

「はい、大丈夫です! この辺の土地には詳しいので!」

 冬馬は最初に会った時には信じられないくらい生き生きしている咲葵を見て嬉しくなっていた。

「もしその茜って子が来たら呼ぶよ!」

「呼ぶって、テレパシーとか使えるんですか?」

 咲葵が喋り終わる前に冬馬は下手投げで何かを投げた。咲葵はなんとかキャッチしたが想像以上に重かった。石のような見た目だった。

「何ですかこれ?」

「トランシーバーみたいなものだよ。俺が作った」

 さりげなくとんでもないことを言ってのける冬馬に驚きつつ、咲葵は手に持っている石を眺めた。冬馬によれば狐者の力をうまく使えば連絡できるらしい。他の狐者も使っているので扱いは簡単だという話だった。

「え? 凄いけど全然幽霊っぽくない……」

 冬馬は機械工学が得意なことを自慢しながら、身の回りの荷物を整理した。

「詳しくはこれで連絡するよ。じゃあ始めようか!」

「はい!」

 二人は山の奥底へと向かっていった。ヒグラシはとうに鳴きやんでいた。




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