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流青群は柊に舞う  作者: ノスケ
第三科【冬馬灯】
10/22

〈四類 一人の英雄〉

 冬馬は一晩にして英雄と崇められた。多くの村人にもてなされ、現代で得ていた知識を活かして村の復興を指揮した。村は以前にも増して豊かになり、人々には平和が訪れた。

 そこから暫く経ち、冬馬はお狐様と話す機会を設けた。議題は自分の今後についてだった。

「お前は未来の我の力で過去に来た。どうやってその弟とやらに会うつもりなのだ?」

「あ……」

 話を進めていくうちに、お狐様が「ただ……」と言った理由が分かった。

 人間ではないとはいえ、冬馬は現代のお狐様の力で過去にタイムスリップした。つまりこの時代には春馬は存在しない。会うというのは無理な話だった。

「方法が無いわけではない」

 落ち込んでいる冬馬を不憫に思ったのか、お狐様はまだ方法があることを話した。冬馬が意気込むと、お狐様は言いよどんだ。どうやら期待を持たせ過ぎたくないらしい。

「お前がここに来て過去を変えたことで、おそらく未来も変わるだろう」

 柊冬馬はここにいる。おそらく新しく生まれる事は無いだろうというのがお狐様の見解だった。冬馬は一瞬言葉に詰まった。それなら未来はどうなるのだろうか。

「そしたら春馬は……」

「おそらくこれから、元居た時間になれば誕生するだろう。しかし柊冬馬という人間と関わる事は無い」

 柊春馬が自分を知らない。この情報は冬馬に絶望を与えるのに十分であった。

(というか現代にいたお狐様はこれを知ってて送ったのか)

 冬馬はお狐様に対する不満を抱いたが、目の前にいるのが過去の当人で自分を助けようとしてくれているので素直に恨めなかった。実際、きっかけを作ってくれたのは確かだ。

「方法というのはここからだ」

 お狐様は構わず続ける。柊春馬に会うことができれば次元を超えて思い出せる可能性があるという。

 しかしそれには九百年ほど待つ必要があった。狐者には寿命が無いとはいえ、途方もない時間であった。

 お狐様はこれからも狐者を生み出すつもりらしい。もし冬馬が必要になったら狐者たちが協力してくれるとのことだった。

 英雄に協力するようにと狐者になるときに伝えてくれるらしい。強制力がないならいったい何人が協力してくれるのだろうか。冬馬には分らなかったが、ありがたいことなのは確かだった。

 お狐様は記憶を繋げる可能性がある方法を冬馬に一から教えてくれた。とても嬉しかったが、冬馬には一つ気にかかることがあった。ここ数日、お狐様が薄くなっているのだ。狐者について詳しく聞こうと思ったのもそれが原因だった。

 お狐様はもうすぐ眠りにつくという。冬馬と話した後、お狐様は村の人達に別れと感謝を言って回った。どうやら冬馬が来る前にいろいろあったようだった。

 とうとう別れが来るとき、お狐様は冬馬に向かって言った。

「狐者が人と話せるのは永遠ではない」

 冬馬が放った青い炎がもうすぐ消えるらしい。完全に消えたとき、狐者も人の前から見えなくなるそうだ。冬馬はふと思った。

(春馬にはもう会えなくなるってことか?)

 そしたら今まで教えてもらったことの意味がなくなる。冬馬が案じているとお狐様はすぐに言った。

「あの光の一部は生き物の放つ光に吸収されるようになっている。夏にまた光る」

 ただ光は局所的で、雲雀村の山の中だけだそうだ。

(光を放つ生き物ってそんなにいなくないか?)

 冬馬は光る生き物を思い返して、すぐに気づいた。ホタルだ。

(だからあそこで見た蛍は青かったのか……)

 冬馬が納得していると、お狐様が消える寸前まで来ていた。目を凝らせば見えるという感じだ。

「過去の我らを助けてくれて感謝する。英雄」

 その言葉を最後に、お狐様は消えてしまった。目では見えなくなったが、心がつながっている感覚があり安心感は途切れなかった。

 それから一週間くらいが経って、冬馬の体も薄くなってきた。冬馬自身に自覚は無いが、村人たちの話ではそうらしい。確かに村を見て回っても、青い炎を見ることはかなり減った。

 冬馬は消えるまでの間、手動の機械を作ったりして見せた。村人たちは驚いており、冬馬を更に崇めた。英雄である冬馬のことを記録した本も作られた。

 ただ、後に蒼灯籠と名付けられた青い光に関しては詳しく書かないように冬馬は付け加えた。もし物珍しさに乱獲されたら大変では済まない。

 冬馬が消える寸前まで村人たちはよく接してくれた。これからは暫く一人である。冬馬は英雄!と尊敬してくれる人々の笑顔を記憶に焼き付けながら消えていった。いや、厳密にはあちらから見えなくなった。

 孤独なのに孤独じゃない、変な感じである。冬馬は覚悟を決めて九百年を過ごすことにした。

 雲雀村伝説はこうして幕を閉じた。

 ただ、そのとき冬馬はまだ気づいていなかった。幕の外では憎悪の塊が蒼灯籠をいくつか吸収し、青黒い光を放っていたことに。


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