2024/07/30
「落胆しているのはわかる。だが、彼は君ではない」
別世界の自分の事を一頻り聞き終え、アルバートは机に突っ伏していた。全体の半分を超えたあたりから、もはや呻き声を上げることすら出来なくなっていた。
「お父さん、ジョンの言う通りだよ。お父さんはそんなこと絶対にしないもん」
アルバートの背を摩り、ジェシカが顔を覗き込みながら言う。
「わかっているさ、わかっているけど。あぁ、これは言いたくないが」
顔を上げ髪をがしがしとかき分けて、頭を掻き毟りながらアルバートは言った。
「その境遇に置かれたなら、僕ならやりかね無い。いや、やるだろう。それがわかるから嫌なんだ」
恨めしそうに自分の両腕を見つめて、アルバートは大きく溜息を吐いた。
「お父さんのことはわかったんだけど、私は?お父さんと一緒に私もマッドサイエンティストなの?」
ジェシカが首を傾げてジョンに尋ねた。
「これ以上彼にショックを与えたくないのだがね、もはや伏せている意味もないだろう。私が知っているアルバートの娘のジェシカは、体長6メートルを超える怪物さ」
「嘘だ!自分の娘にまで手をかけたっていうのか!?そんなことするはずがない!」
机を叩き、立ち上がりながらアルバートは叫んだ。驚いたジェシカは小さな悲鳴をあげて飛び上がった。
「アルバート。何度も言うが、それは別の君だ。それに、私も全てを知っているわけではない。ほんの数日間、行動を共にしただけの仲さ」
「わかっている、わかっているさ、だけど…あぁ」
ふらふらとした足取りで、アルバートはドアの前に立つ。
「すまない、時間がないのも重々承知だ、まだまだ君の話を聞かなきゃいけないのもわかる。だが、少し一人にしてくれ」
そう言うと彼は力無くドアを開けて研究室から出て行った。
少しの沈黙のあと、ジェシカが口を開いた。
「怪物って、どんな見た目?カッコいい?」
「ふむ、檻に閉じ込められていたから全身は見ていないのだが、爬虫類を思わせる頭部をしていた。例えるなら、ティラノサウルスに近いかもしれないな」
ジェシカは好奇心が抑えられない様子で、ジョンへ質問を続ける。
「その私とはどんな話をしたの?」
「基本的に自我を失っているようで、会話をすることは難しかった。一日の中で僅かな時間だけ、人間の姿に戻る。その時だけは会話が出来るのだがなんというか、幼いのだよ」
「小さい子みたいってこと?」
「お父さんに会いたい、お父さんはどこ。そればかりで、私のことは眼中に無いようだったな。だから、今の君がとてもしっかりしたお嬢さんで驚いたよ」
アルバートが戻ってくるまでの一時間、二人は話し続けた。