3話 気色の悪い
「知らない....ベッドだ」
目を開けたら天井、ゴツゴツした壁、鉄みたいに硬いベット、抜けれそうで抜けれない鉄格子
どうやら牢屋に入れられたらしい
どうしよう
どうしようか
どうしたらいい
これから私の冒険が初まるというのに、これじゃあゆっくり牢獄生活を過ごすしかないじゃないか!
脱獄......は出来ない......この牢屋、鉄格子以外全てがレンガで建てられてて欠陥もどこも見つからない完璧な牢屋だ。
鉄格子も一見抜けれそうな隙間が空いているが絶妙に抜けれない
もうだめだ、おしまいだ、これで終わりなのか
ソロモンに天界から落とされて牢屋に入れられて終わるのか.....
私が途方に暮れて頭を抱えている中
「さっきからゴソゴソうるさいのお」
隣から声がした、私は鉄格子の間から顔を出そうとしたが、やっぱり絶妙な隙間だ、顔を出せない
私は隣の人の顔を分からず、そのまま返事をすることにした
「お前、だれだ?」
「人の睡眠を邪魔して開口一番がそれかい.....まあ良いか、しがない、名乗るほどでもない、馬鹿なことをして捕まった老婆だよ」
「老婆....?」
「何、それ以上でもそれ以下でもない、本当にただの老婆さ」
「そうか.....」
老婆と言ってる者は、聞いていると眠くなってしまうような、落ち着いた声をしていた。
にしても、この老婆.....?声が若いような...
「ほれ、何者なのかお前も言うべきだろう?
そうだった、自分も言うべき、言うべきなんだね
「私はアベル、不法侵入?の罪でここに入れられたんだ」
「ほお、アルベドか」
「いや、アベルだ」
「そうかそうか、アヤベか」
「......もうアルベドでもアヤベでいもいい」
この老婆、声だけしか聞いてないが、相当ボケている、こんな老婆とこの先一緒なのか....
私はこの先のことを想像し、絶望に頭を抱えて、髪をぐしゃぐしゃにした
「ところで.....」
ボケた老婆がしおれた声で話しかけてくる
「アヤベさんは、何故不法侵入したのじゃ?この国だけじゃない、不法侵入は立派な犯罪じゃ、なんの目的があったのじゃ?」
「うーん......」
どうしよう、天界から落ちてきたなんて言えないし.......そうだここは適当に、適当に生きることが長生きの秘訣だ
「ちょっと、金が無くね」
「お金目当てで不法侵入したのか!ハハッ!私も同じじゃよ、酒に使いすぎて金がなくなってのぉ、これも美味い酒を渡してくる酒場のせいだと思って、酒場の金庫を漁ろうとしたら捕まってしもうたんじゃ」
「そ、そうか」
「それで、アルベドさんの年齢は幾つじゃ?」
「13だ」
嘘だけど
「13か!アハハッ!私は150じゃよ!150年も生きて最後の死に場所が牢獄って面白くないかのぉ?面白いじゃろ」
「そ、そうだねぇ」
「それで、それで」
この婆さん、相当孤独だったのか、話し相手が出来て嬉しいのか、ずっと話しかけてくる、正直うるさい
この先もこんなうるさい婆さんと一緒なのか.....こりゃ精神が壊れるのも時間の問題かも.....
ああもう!!早く出してくれ!!!
私が絶望して鉄格子に手をかけた、その時
笑っていた老婆がすぐに静かになった、まるで、何かに気づいたかのように
「ッ!」
突然どうしたんだ、喉になんか詰まらせたのか?どっちでもいいか、静かになったし
「お前さん」
すぐに喋り出したし
「ここから、出たくはないか?」
「......はぁ?何を言って」
「.....手を見せてみい」
「は?嫌だよ、なんか嫌だ」
怪しさ満点、さっきまで陽気だった老婆の声が突然真剣な声になった、しかし、老婆はまた続ける
「お前さんの手と私の手、繋ぐだけでいいんじゃ、それだけでここから出ることが出来る」
「はぁ?なんで?突然そんな、さっきまで陽気に喋ってたじゃないか、態度変えて静かになったかと思えば一緒に手を繋げだと?150の老婆のしおれた手なんか触りたくない、見たくもないね」
私は壁を思い切り蹴り、老婆をさけるため、できるだけ部屋の隅に移動した
「…......では問うが、貴様、やるべき事はあるか?」
「........何?」
声色が変わっている、何か少し若くなった?
「例えるなら、"神殺し"とか...?」
「....ッ!」
「貴様はなにか、強い憎悪を抱いているな、うむ、それは神...それも、もっと高貴な、高い、強い、美しい者...貴様、そのためにここに来たのではないか?」
「お前......なんでそれを.....」
老婆の気色の悪い笑い声が、牢屋全体に広がる、掴んでいる鉄格子からも、手を伝って響いてくる
さっきまでの細々とした声とは違う、弱々しいが、耳につく声
奇妙
不気味
混沌
それだけの感情しか感じ取れない
「それは、教えられないねぇ、最も、貴様が私のような汚い老婆の手を繋いでくれたら、教えてやれることも無い無い」
.....変に意地を張るのもやめようか、この際、悪い気がするのは一瞬だけ、もしも出られなかったら、それは運が悪かったってことだ
「いいだろう、繋いでやるよ」
「良いねぇ、面白いねぇ」
左から牢屋越しに今にも崩れそうな、萎れた老婆の手が出てきた、私は嫌な感情を押さえ込み、鼻が曲がりそうな刺激臭のする老婆の手を掴んだ
途端に、目の前が薄暗くなってくる、その横では牢屋の笑い声が聞こえてくる
目の前が光ってきた、でも目の前は薄暗かった、肺の空気が外に出てくるのを感じる、全身の血管が外に出てくるのを感じる、爪、目、歯、全てが外に出てくるのを感じる空気の流れる音、雫の音、自分の息の音、あらゆる音が消失してくるのがよく分かる、でも老婆の笑い声だけは同じ音のまま
死ぬ
私はそう思った
老婆は私を騙したのか、そう疑いたかった、でもそう疑うことが出来るほどの脳みそはもう私にはなかった
もう私は、アザゼルという名前のただの容器
なにも、なにも、なにも無い、無い、無い、無い
もう、どうでもいいか
「はい、おしまいね」
「....ぁえ?」
自分を容器だと勘違いしていた私は、目を開ければ見知らぬ場所にいた、見知らぬ場所、いや、見知らぬ空
浮いている.....?そう、私はいつの間にか抱かれていた、それも、王子様が姫を助けにきたような、この場合、私が姫側だ、途方に暮れた、意識しないうちに私の頭の中は俗に言うところの「??????」状態、脳が理解出来ていない、街ゆく人から見れば私は汚い老婆にだかれながら寝ていた、はしゃぎすぎて疲れて寝た幼児のように見えていたのだろうか
まずはどうしたらいいのかが分からない、普通に考えれば老婆を突っぱねてここから降りることが正解なのだろうが、さっきまで死んだと思ってた私にそんなことが考えられるほど状況が飲み込めていなかった
「はい、ありがとうございます」
横で声がした、考えれるのは昨日会った包帯好きの女性だろうか、それにしては声が優しすぎるように感じた
「ほれ、出れただろう?」
「.......は?」
その声、よく聞いてみればいつしかの聞きなれた声、それは横からではなく上からだった、そして上から声がするのはもう考えられるのは一つだけ、状況が飲み込めていない止まった脳でもそれは直ぐに理解ができた
「あら、起きたか、居眠りさん」
「う、うわあああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」
私は反射で抱かれている腕を振りほどいた、まともに動いたこともないのに脳よりも先に体が動く、熱い物を素手で触った時の手の動きのような、緊急回避だった、即座に老婆から離れるということで頭がいっぱいだった
うん?
そこで見たのは萎れた顔をした汚い老婆ではなかった、腕よりも遥かに長く、腕を下げたら袖が地面についてしまう程長く、古臭い素材のローブのようなものを着ており、広い円錐の、帽子のようなものを被っている、姿勢も全く猫背でもない綺麗な姿勢、身長全く縮んでもない、むしろ私よりも二頭身程大きい、私だ見上げしまう程だ、顔の肌しか見えなかったが、肌色も悪くはない
ほんとにさっきの老婆か?
「ほれ、でれたであろう?」
「あ、ああ…」
まず一体どうしてでれたのか、ここはどこなのか、色々聞きたいことがありすぎる
「この国が優しい国でよかった、どうやら、貴様身長が低いからなのか、道端で寝てたのを迷子センターで保護されてたようじゃのお、そして貴様の服装もボロボロで、寒そうだし、見慣れないものじゃったから、どうやら服も着替えさせてくれたらしい」
迷子センター!?ふ、服を着替えさせた!?
全身の血の気が引いてくるのを感じる、今回は想像の域だが、それってこの街中に「ボロボロの服を着た迷子の子供がいます」って知れわたっていたのか、いや、それよりも服を脱がされた屈辱の方が強い、私は元だが高貴な天使、そんなもの考えるような者ではないが、私もレディーだやはり恥ずかしいものは恥ずかしい。
なんてこった、これじゃ完全に幼児じゃないか
「ふむ、羞恥心がない人かと思ったが、思い違いだったかの」
「うるさい!!羞恥心?そんなもの私にはない!!」
「ふむ…」
老婆は気色の悪い笑顔を見せてきた、まるで口が裂けているかと思ってしまうぐらい広い口、牢屋で聞いた笑い声と同じくらい、いやそれ以上に、思っていなくとも自然と目を逸らしてしまうような、そんな顔だった
「で、何か聞きたいこと、あるのではないか?」
ああ、そういえばそうだった、どうして私の目的が分かったのか、…いや、どうやってここから出られたのかも聞きたい
「…答えられる質問は一つまでじゃぞ」
「はあ!?なんで!?そんなこといってないじゃないか!」
「言ってないからのお」
このクソババア
「…じゃあ、どうして私の目的が分かったんだ?」
クソババアは気色の悪い笑顔をしながら答える
「何、別に大したことはやっていない、ただ貴様の手をみてそう思っただけじゃ」
「そ、それだけ?もっと何かあるだろ」
「質問は一つだけといったぞ」
「…クソババア」
「へへ、そうじゃ、私はずるいクソババアじゃよ」
ババアは気色の悪い笑い声をしながら、気色の悪い笑顔で、気色の悪いことを言った
「へへ…まあそれは良いとして、貴様、これからどうするつもりじゃ?」
「あー…」
アザゼルが地上に降りてから丸一日が経過したが、まだここの話方すらよく分からない、言わば都会のとの字を知らない人がただカッコイイから、という理由で超田舎からこ都会にきた人のような、この地のことを私は全く知らない。
「良かったら、案内してやろうか」
「結構です」
断る速度は音速、こんな存在が気色わるい人に案内されるのはごめんだ
「へへ…まあそういうと思って、私の知り合いに声をかけてある、まずはその人に、この街のこと、知っておきな、私は用がある、では」
「え、あちょっと」
老婆の去る速度もまた音速、まだ老婆のことまだなにも知らないというのに、それに地上に降りて一日が経ったというのに気味の悪い女に包帯を巻かれ、牢屋に入れられ…色んなことが起こりすぎていて、今にも頭が爆発してしまいそうだ。
「おい」
私が頭の整理をしてると、後ろから声をかけられた
こんどはなんだと、後ろを向いた
「おまえが、アヤベか?」
それは出会ったことのある人、そこまで良い思い出もないし、むしろ悪い思い出しかない
白いシャツに胸には金色のこの街の兵士のマークがつけてある、いかにも騎士のような佇まい
あの消毒好きな女性だった