第一話 合宿先の噂
ザッザッザ…と土を踏みしめる音が辺り周辺に響き渡る。
夏が近いとはいえ嫌に暑いこの場所はジメジメしていて…それでいて気色悪い風があたりに吹いている。
最悪だ…ただでさえこんなど田舎の不便な場所にわざわざ来たというのに、『目標』が見当たらない。
「はぁ…今までも『任務』で何度も似たような場所に来ているとはいえ、好き好んでこんな場所には長居したくないというのに…アレはどこに行ったんだ。」
銀髪の細長い髪を筒状の髪留めでまとめ上げ、茶色のサングラスをかけた青年は山奥で独り言を呟く。
彼の本心としては今すぐ自室に戻ってシャワーを浴びて、それからここ三週間ほど働き詰めで疲れ切った体に休息を与えてやりたい気持ちでいっぱいだ。
しかし上の命令に背くわけにもいかないし…自分と同じ階級の人間もほとんど存在しないため、今回の任務に割り当てられるのが自分しかいないのは分かりきっている。
わかってはいるのだが…やはり三日も徹夜して、さらにその状態のままこの場所まで駆り出されたことには腹が立つというもの。
「手早く片付けてさっさと寝よう…まあ熟睡できるかどうかは別だが…。」
そんなことを呟きながら、青年はどことなく気味の悪い山中をさらに奥へと歩いていった。
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「ソフィアこっちこっち!」
「わかってる!」
キュッキュッと体育館内にスパイクの滑る音が響き渡り、何人かの女子が楽しそうにバスケをしていた。
その中でもとびきり目立っているのはピンク髪ピンク目の女の子。
彼女の名前はソフィア・クレス。
ミレット学校のバスケ部に所属している女の子だ。
運動神経抜群で、一年にしてすでにバスケ部のエース。
しかもこの学校、毎回全国大会に出場していて、しかも優勝常連校。
そんな学校のバスケエースでしかも一年、これは先輩たちから嫌味や悪口なんかを言われてるんじゃ…?と思うかもしれないが、持ち前の明るさや無邪気さのおかげで先輩たちからは可愛がられまくっている。
今も
「ソフィア〜!今のパスマジナイス!」
「いやいや!先輩がいいところいてくれたからだよ〜!」
「こっんの〜!可愛いやつめ〜!」
「お〜い2人ともー!休憩時間だってさー!」
「はいはい今いくー!ソフィアも一緒に行こうぜ!」
「あ!ちょっと先輩引っ張んないで〜!」
一年前まではギスギスしていたバスケ部も、彼女が入れば今の通り温和な雰囲気で満たされた。
しかし彼女には欠点もあって…
「そういやソフィア、明日の数学抜き打ちテストあるってセンセー言ってたけど、ソフィア勉強した?」
「あ、あれ?テストって明日だっけ?」
「明日だよ。あーしーた。…もしかしてソフィア」
「ヤバイ…1ミリも勉強してない…どーしよ〜!?今回のテストって確か成績に反映されるよね?!」
「バッチリ反映されるね。乙〜。」
「乙〜じゃない!今度さっちゃんの気に入ってたところの飲み物奢ってあげるから助けてよ〜!ほんとに数学の成績やばくて…明日ので赤点取ったら先生に呼び出されちゃう!」
「え〜?どうしよっかな〜?」
「そこをなんとか〜!」
「うそうそ冗談。ソフィアには色々お世話になってるし教えてあげるよ。」
「ありがとさっちゃん〜!」
「うおっ!急に抱きつくな!今疲れててすぐに受け止めてあげられないんだから。」
そう言いながらも突進してきたソフィアを危なげなく抱き止めるサラ。
…まあ見ての通り、彼女は勉強が大の苦手である。
ある程度の科目は自力で勉強すれば赤点回避はできるのだが…数学だけは毎回赤点、もしくは赤点ギリギリの数値を維持していた。
一応理解しようとは頑張っているけれど…応用問題がからっきしできない。
そりゃもうなんでできないのかと自分で疑ってしまうほどには簡単な応用ですら解けない。
多分運動神経に全部持ってかれたんだろ、とは彼女の友達談。
「はぁ〜助かった〜。」
「まああのお店のドリンク奢ってもらうのはほんとだけどね。」
「えっ?!」
「だって自分から言い出したことじゃん。それに〜、ちょうど期間限定のやつ飲んでみたかったんだよね♪」
「えぇ〜…いやまあ自分からいったことだし、別にいいけど…。」
「やりぃ!んじゃこの後あのカフェ寄って明日のテスト範囲の勉強教えてやんよ。」
「神様仏様さっちゃん様!」
「おうおう、存分に崇め讃えよ。」
「普通にありがたい〜。」
「今日の部活はこれまで!全員集合!」
顧問の声がかかり、2人はスポドリ片手に話していたのをやめ、顧問の場所にささっと集まった。
その後顧問の口から言われたことは、1週間後に合宿としてとある山奥の施設に一週間ほど泊まることになったということ。
「我が校はバスケの優勝常連校だしな、学校側からも色々と恩恵を受けていて、山中の自然が綺麗な場所にバスケ部用の合宿場が用意されているんだ。」
「合宿場?!しかもバスケ部専用って…めちゃめちゃすごい!」
「先輩たちは行ったことあるんだろうけど…私たち一年だから行ったことないし、どんなところか楽しみだね〜。」
「でも山中の施設か〜、私田舎の方とか山とか一回も行ったことないんだよね〜。」
「マジ?ソフィアって夏休みの間とかどこも出かけないの?」
「う〜ん…おばあちゃんの家とか行くことはあったけど、おばあちゃんの家もローズシティの中にあったからシティから出たことなかったし、あんまり田舎の方とかは行こっかってなったことなかったし、お姉ちゃんが高校に上がってからは人里離れた場所は危険がいっぱいだから行かないほうがいい〜ってお姉ちゃんがいってた。」
「へぇ〜、やっぱ熊とか出てきたり鹿が道路に飛び出してきたりとかあるのかな?」
「多分あるんじゃないかな?ほら、そういう場所の道路には鹿に注意!みたいな標識があるらしいし。」
「うへぇ〜行きのバスとかで鹿が体当たりしてきたらやだな〜。」
「そこはないといいな〜って祈るしかないよ。」
「まあそうだよね〜。」
帰り道が同じサラと合宿のことについて駄弁りながら、ソフィアたちは人がごった返す交差点を歩いていた。
目指すはサラお気に入りのカフェ。そこで期間限定のドリンクをサラに奢ってやってから、2人は明日のテストに向けての勉強会を開く。
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「うぅ〜…やっぱりこの問題難しすぎだよ〜。そもそもこの…ろ、ろぐ?だっけ。これ大人になっても使う機会絶対ないじゃん〜!」
「わかる〜。どうせ数学者になる人か数学教師になる人しか使わないだろうに、なんでこんなめんどくさくて難しいやつ習わせるんだろうね?」
「全部ほっぽり出してバスケしたい〜!でもそれしたら赤点取って先生に怒られる〜…。」
「ははは、勝手に板挟みになってら。まあ基礎問題だけで50点近く出すって先生言ってたし、基礎問だけできてればいいんじゃない?」
「その基礎問題すら難しいって言ってるんだよぉ〜!なんか問題文似てるのに方程式全く違うやつ出てくるし、そもそも計算がいちいち難しい…。」
「まあ正直私も点数ちゃんと取れるか心配だわ〜。」
「むぅ…でもサラはそう言っていっつもいい点数取ってくるじゃん!」
「やっぱ頭の出来が違うのよ、出来がね。」
「うわぁ〜ん!私にもその頭の良さの1ミリでいいから分けてよ〜!」
「やだね。私の頭の良さをやるならソフィアの運動神経と引き換えだ。」
「えぇ?!ば、バスケと勉強…どっちか取るなら…むむむ……やっぱ勉強よりバスケの方が大事!」
「じゃあこの取引はなしということで。」
「それとこれとは話が別〜!」
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次の日、1時間目から数学のテストが始まり、ソフィアは昨日サラから教えてもらったことを頼りに全力を出し切り、なんとか基礎問題分の答案用紙は埋めることに成功した。
残り半分の応用問題については…まあ察してほしい。
そうして1時間まるまる使ったテストがチャイムの音と共に終了し、答案用紙を集め終わった直後、ソフィアは全身を思いっきり伸ばして「これでようやく自由だ〜!」とつい大きな声で言ってしまった。
その瞬間、教室中からドッと笑いが盛り上がり、みんなが面白おかしそうにいう。
「これで自由って、まだ学期末の試験だって始まってないってのに!」
「まだまだテストはたくさんあるのに、そんなんで大丈夫なのソフィア〜?」
「まあソフィアは中学校の頃からバスケ一筋だったしな。テストなんかやってらんないんだろ。」
そう、ソフィアは中学校の頃からバスケ部に所属していて、弱小校だったというのにソフィアの力でなんと県大会の準優勝まで導いた実績がある。
まあ流石にフォワードのソフィア1人だけが強いんじゃ、守りが疎かになって負けることも多々あったが…それでも1人の力で準優勝まで導けたのは凄まじい実績であることに間違いはない。
そのおかげでこの学校には運動推薦で、勉強が苦手なソフィアも難なく入ることができたし、そもそも彼女は体を動かすことが大好きだから、好きなことで少し億劫だった進路を決めることができてラッキー、くらいに思っていた。
ちなみに中学の頃対戦相手から呼ばれていた異名はピンクのジャガー。
なんでジャガーなのかは相手のチームもソフィアたちのチームもよくわかっていなかったが、多分語呂がいいからだとかそういう理由だったのだろう。
まあソフィア自身がその異名を知ることは卒業するまでなかったわけだが…卒業して初めて自分がそう呼ばれていたと知って、ソフィアはずいぶん驚いていた。
『ジャガーじゃなくてユキヒョウがよかった!ジャガーのこと全く知らないし!絶対ユキヒョウの方がカッコ良かったし強そうな名前になってたもん!』
いや、ツッコミを入れるところはそこなのか?と当時聞いていた人たちは思ったが、彼女は若干無自覚な天然が入ってる純真で、ある意味ポンコツな少女だったので全員がスルーした。
ちなみにジャガーもユキヒョウも同じ猫科だしヒョウの一種なので足の長さとかそれくらいの違いしかほぼないらしい。
「そうそう!私はバスケをめいいっぱい楽しみたくてこの学校入ったんだから!勉強なんて最低限以外したくな〜い!」
「そのうち先生に呼び出されるぞ〜。」
「実際先月、次赤点取ったらしばらく部活禁止だって担任に脅されてるのみたわ。」
「…あ!そういえば私来週から部活の合宿で一週間いないから、その間に習ったこと帰ってきた私に誰か教えてあげて!あとノートも写させて!」
「相変わらずだな〜。まあソフィアって昔から運動ばっかやってたもんな。」
「ノートならあたし貸してあげるよ〜。」
「勉強はサラちゃんに教えて貰えば…って、サラちゃんもバスケ部だっけ?」
「さっちゃんもバスケ部だからいない間の分は教えてもらえそうにないの〜。だから帰ってきた後の私のフォローは誰か頼んだ!」
そんなふうにクラスみんなで楽しくおしゃべりをしながら、ソフィアは今日1日をいつもと同じように過ごした。
放課後はバスケに勤しんで、帰りは時々カフェやファミレスなんかに寄って過ごす。
そうこうしている間に一週間が過ぎ去り、気がつけば明日が部活の合宿の日になっていた。
「ただいま〜。」
「あら、お帰りなさいソフィア。今日はいつもより早かったじゃない。」
「うん。明日部活の合宿で山中の施設に行くから集合時間がいつもより早くって。それでバスケ部に所属してる子はみんな4時間授業で帰っていいよ〜ってなったの。」
「あぁ、前に言ってたやつね。確か一週間だったかしら?」
「そうそう〜。だから合宿前にお姉ちゃんにちゃんと挨拶しとかなきゃ〜って帰り道思ってて、ちゃんとお姉ちゃんの大好きだった豆大福も買ってきたんだ〜。」
「そう。じゃあお母さんは今から買い物に出かけてくるから、その間に挨拶しちゃいなさい。」
「うん!しばらく会えないからいつもよりいっぱい話したいこともあるしね〜。」
母親と仲良く会話しながら靴を脱ぎ、カバンを玄関に置いてから向かうは誰もいない座敷の間。
そこには少し大きな仏壇が一つ、ポツンと飾られていた。
仏壇の中心に置かれている写真の中の人物はどこかぎこちない笑顔を浮かべながら、少し恥ずかしそうにピースをしている。
ユスティナ・クレス、ソフィアの姉であり6年前に亡くなった故人である。
姉はとても優しくて、ソフィアが話しかけると花が綻びるかのような笑みを浮かべて、心底愛おしいものを見るかのような瞳でソフィアを見つめていた。
親孝行者で、宗教系の高校に入ってからはバイトで稼いだというお金を毎月家に振り込んで、ごくたまに帰ってきては姉の奢りで少し高めのフレンチなどを食べに行ったこともある。
正直ソフィアが姉について知っていることは少なくて、8歳違いの姉はソフィアが8歳の頃に寮付きの宗教系の高校に入り、向こうにも色々と事情があるらしくなかなか連絡を取ることも難しかった。
仏壇の前に姉が大好きだった豆大福を置き、ソフィアは仏壇の前で一礼してから最近あったことを話し始めた。
「実は部活の合宿に明日から行くことになってて、お姉ちゃんとはしばらく会えないんだ〜。あ、あと最近は小テストとかの点数も比較的よくって、私やっぱりやれば出来る子だったのかも!あとあそこの喫茶店で食べたパンケーキは乗ってるクリームの量がすっごく多くて、食べ切る頃には流石に胸焼けがしそうになったんだよ〜。…お姉ちゃんも向こうのほうで元気にやってるのかな?」
一通り最近あったことを話し終えると、ソフィアは少し悲しそうに眉を下げて、すでにこの世にはいない姉があの世で元気に過ごしているだろうかと考える。
普段の彼女の姿からは想像もできないようなしゅん…とした姿を見せていたが、数秒後には自分の両頬をパン!と軽く叩いて
「私がこんなふうにしょぼくれてたらお姉ちゃんも困っちゃう!それに、お姉ちゃんがいた時も、いなくなった今も私は幸せだし、お姉ちゃんに届くくらい楽しいことをしまくるぞー!」
「おー!」と1人で自分を奮い立たせ、ソフィアはその晩母親と談笑しながら過ごし、一週間分の荷物の支度を整えてから就寝についた。
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プルルル、と電話の鳴る音が静寂な森の中に響き渡り、青年は少し苛立ったような様子を見せながらもポケットからスマホを取り出して電話に出る。
「はい、イリスですが…はい。そうですか…え?一般校の運動部がここに?まだ討伐対象も見つかっていませんし、それに何よりこの地域は気味の悪い空気で満ち溢れている。たとえ今回の対象を倒し終えたとしても、この辺に生息している低級たちが一般人に被害を起こす可能性も考えられます。その学校に連絡は?…何?上の指示で今回の事は秘密裏に処理しろ?そもそも今回の任務は周辺に及ぼした被害も多い、これ以上一般人の被害が増えるのは避けた方がいいと思うのですが?……はあ、そうですか。では私は引き続き任務にあたりますので、これで。」
ピッと通話を終了させ、イリスと名乗った青年はその場で「はぁ…」と重苦しいため息を吐き出す。
「やはり上の連中は一般人がどれだけ被害に逢おうがどうでもいいらしい…腐った連中だ。そんな奴らの言いなりになって働かされていると思うと…反吐が出る。」
独り言を漏らし、イリスは嫌な気配のする場所へと足を向けた。
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翌朝、ソフィアは荷物がいっぱいに詰まったボストンバックを肩に下げながら、集合場所に来ていた。
集合時間より少し早いくらいだが、すでにチラホラと人が集まっている。
「おっはよ〜ソフィア!」
「うわ!…さっちゃん!もう、びっくりさせないでよ〜!」
「あはは、まあ私も今日の合宿楽しみでさぁ。実は昨日楽しみすぎてあんま眠れなかった。」
「ほんと?私はグッスリだったよ!」
「ソフィアらし〜。まあどうせバスでの移動時間長いだろうし、乗ってる間に眠るとするよ。」
「え〜?さっちゃんが眠っちゃったら私話す人いなくなっちゃうじゃん!」
「あ〜、そういやソフィアが窓側の席で私が通路側だっけ?確かに私が眠った後だったら話しかけづらいかもな〜。」
「そうそう。おねむのさっちゃんにはちゃんと睡眠とってほしいし、あんまり起こすようなこともしたくないし。…あ、そういえばゲーム機持ってきてたんだった。」
「マジ?何持ってきたの?」
「え〜と、確かミドリの冒険復活の魔王〜ってやつ!」
「あ〜!今めっちゃ人気のやつの続編?あれ私も前作やったんだけど、めっちゃ物語に気合入ってるし探索してるだけでも面白いゲームだよね〜。シナリオのラストは泣けたわ。」
「わかる〜!私もヒロインのモモちゃんが涙ながらに主人公のミドリを助けようとして庇ったシーンは息を飲んだよ〜。」
「その後モモが『ミドリ様…おしたいしておりました。どうかお元気で。』って言って意識を失うシーン!あれ本当に死んだかと思ってマジでビビった!」
「メインストーリー終わった後の外伝の話やるとなんとか一命は取り留めたって話があるんだよね〜。それ知って私涙出ちゃったもん。生きててよかった〜って!」
「あれの続編か〜、今回もシナリオに気合い入ってるんだろうな〜。」
そんなふうにして、あのゲームも面白かった、これもおすすめ!なんてゲームの話をしている間に時間は過ぎ去り、とうとう出発の時間。
部員たちが持ってきた荷物を大型バスの下の格納空間に入れて、ガヤガヤとそれぞれが楽しそうに話しながらバスに乗り込んでいく。
ソフィアもサラと一緒に話しながらバスに乗り込み、全員が乗ったことを確認した後、ついにバスは出発した。
バスが動き出してから大体10分くらいでサラは宣言通り寝始めた。
まさに爆睡、という文字が似合うくらいには本気で寝てて、よく椅子でここまで爆睡できるもんだな〜と思いながら、ソフィアは腰に巻き付けていたポーチの中からゲーム機を取り出し、ずっと気になっていたゲームを開始する。
今回のやつはフルボイスでメインストーリーが進行していくのでイヤホンをつけるのも忘れずに、ソフィアはどんなふうに物語が展開されていくのかをワクワクと期待しながらゲームに夢中になった。
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ちょうどゲームの序章が終わった頃あたり、バス内に顧問の先生の声が響き渡った。
「そろそろ合宿場着くから降りる準備しとけよ。」
「は〜い。」
もう合宿所に着くんだ…やっぱゲームをするのも楽しいけれど、大自然の中でのバスケ…想像するだけで楽しそう!
それに、合宿所で出される料理とかもどんなのが出てくるか気になるし…楽しみなことがいっぱい!
それから数十分ほど経ってから、ようやくバスが止まった。
前の方に座っている人から順番に席をたち、バスを降りていく中、ソフィアは隣でいまだに爆睡しているサラを起こしにかかる。
「さっちゃん!もう合宿所着いたよ!おーきーてー!」
「んぅ…?まだ…もうちょっと…。」
「そんなこと言ってるとバスと一緒に置いてかれちゃうよ!」
「ぇえ…?もう着いたの…?」
「もうついた!私たちももう降りなきゃだよ〜!」
「わかった……立ち上がるの面倒だから起き上がらせて…。」
「も〜!さっちゃんってば本当に手がかかるんだから〜。」
「ソフィアに言われたくない…。」
ぐでりと力の抜けた手をソフィアの方に伸ばしてくるサラの手を掴み、ソフィアはまだねむそうにしているサラのことを起き上がらせてあげる。
ふらふらと少し危なげな様子で立ち上がったサラはググーっと手を天井の方に思い切り伸ばして、体を左右に軽く曲げてから「よし!一応覚醒した!」と言ってバスを降りていく。
そんなサラの後ろについてソフィアもバスを降りた。
瞬間、サラサラと心地の良い風がソフィアたちに吹き付けてきて、思わずソフィアは少しの間目をつむり、風が止むのを待つ。
ようやく風が治まった後、ゆっくりと瞳を開けると…そこには大自然が広がっていた。
見渡す限りの緑色、奥の方にはてっぺんが白く染まった大きな山が見える。
空気も都会とは違っていて、なんだか美味しく感じた。
「ここが今日から一週間過ごす場所!めっちゃ空気が美味しく感じる気がする〜!」
「確かに排気ガスまみれの都会とは空気が違うわ〜。」
「言い方が悪い!でもまあやっぱり自然が豊かな場所って本当に空気が美味しいものなんだね〜。」
一面に広がる緑色に夢中になっていたが、ふと視線をそらすと…白い大きな建物が聳え立っていた。
あれが今日からお世話になる施設なんだと、ソフィアは感覚的に理解して、じっとその建物のことを観察する。
建物には白以外の色は入っていなくて、所々ヒビが入っているかのような炭っぽい色の線があるのが見える。
昨日ここにくるに当たって顧問から説明された話によると、相当前からある施設のようなので、建築してから結構な年数が立っているのだろう。
「よし、全員いるな。それじゃあ各自事前に言っていた部屋に自分の荷物を運び込んでから体育館に集合だ。」
「はい!」
顧問からの指示に返事を返してから、ソフィアはサラと一緒に割り当てられた部屋に向かう。
「じゃあ私こっちだから、じゃあねソフィア〜。」
「また後でね〜。」
ひとりになったところで、ソフィアは目の前の扉をガチャリ、と勢いよく開けて部屋の中へと入る。
実際に入ってみた部屋の中は、やはり合宿以外で使うことがないからかシンプルで、机に椅子、クローゼットとベッドの4つしか家具が置いてなかった。
「まあ合宿所だし、こんなもんだよね〜。」
と独り言を呟きながら、ソフィアは肩に下げたボストンバックを机の上に置いて、ジーッとチャックを開く。
中から必要なものだけをチャチャッと出してから、ソフィアはジャージに着替えて体育館へと向かった。
合宿所の体育館は普段学校で使っているところの何倍も広くて、さすがバスケ強豪校、やっぱりバスケ部って優遇されてるんだ〜、となんとなく考えながら、ソフィアは部員全員が集まったことを確認して話し始めた顧問の話を軽〜く聞く。
いわく「午前中の間はウォーミングアップや個人スキルの練習を、午後はチーム間での連携やフォーメーションなどの確認をする」とのこと。
その話を聞いた一部のメンバーは文句を言っていた。
ずっとバスケばっかやってるのも飽きるし、せっかくだからこの辺の観光とかもしていきたい!とのこと。
それを聞いた顧問の反応はといえば…
「あー…まあ来てすぐにバスケ漬けにするのもちょっと厳しすぎるか…それじゃあ明日は一日フリーにしてやるから、その間にめいいっぱい楽しんどけ。」
「やったー!」
「せんせーまじ神!」
「ねーねー明日どこ回る?」
「その代わり今日はちゃんと練習だぞ。」
「はーい。」
「優しさから急に落としてくるのはないわ…。」
「いいから練習!」
「は〜い。」
そうして合宿所に着いた初日は顧問のいう通りちゃんと練習を行い、ソフィアはいろんな技の練習をしているうちにあっという間に時間が過ぎ去り、今日の練習はおしまいになった。
その後仲良くしている同級生や先輩たちと備え付けのお風呂に入り、明日どんなところに行こうかなどの相談をして、気がつけば深夜0時。
そろそろ寝たほうがいいかもね、と誰かが言ったのを皮切りに、各々自分の部屋へと戻っていった。
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次の日、今日は一日フリーとして朝早くからサラに叩き起こされたソフィアは眠い目を擦りながらも、そういえば先輩たちと下の村とか山の中とか探検するんだった!と思い出し、急いで私服に着替えて集合場所のロータリーに出た。
「おはよ〜!みんな〜!」
「ソフィア遅いぞ〜。」
「まあまあ、まだ朝も早いほうだし仕方ないっしょ。」
「それでそれで!?最初はどこ回る〜?!」
「もーソフィア、興奮しすぎ〜。」
「最初はまず下の方にある村じゃない?なんかお土産とかもそこ売ってるらしいし。」
「じゃあそこ寄って、それで森の中探検ってことで。今日の予定決まったな!」
そんなふうに和気藹々と話ながら、ソフィアたち一行は麓の村へと繰り出した。
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「うわ〜、都会ではみたこともないようなものがいっぱい!特にこのお面とか、すっごい奇妙!」
「いろんな種類のお守りとかも売ってんね。交通安全に…金運、縁結びなんかもある。」
「やっぱこんな場所の村だし、神社とかお寺だとかもあったりするのかね?」
「おやおや…めんこい子たちがいるのぉ〜。」
ソフィアたちがお土産コーナーでわいわいとはしゃいでいると、中からこのお店の店員だと思われるおばあちゃんが出てきた。
顔に刻まれた皺はそれまで生きてきた年数が刻まれているかのように見え、ただ優しそうな声と顔でソフィアたちに話しかけている。
「めんこい…?」
「最近の若者たちの言葉で言うと…可愛いってやつじゃの〜。」
「おばあちゃんありがと〜。」
「てかてか、せっかく現地の人に話しかけてもらったんだし、この辺の噂とか迷信とか聞いてみねぇ?」
「それもいいかも。おばあちゃん!」
「何かのぅ。」
「この辺になんか神社とかお寺とかあったりしない?もしくは昔から伝わるお話とか。」
「そうじゃのぅ……昔からこの村には土地神がおってなぁ、いろんな願いさぁ叶えてくれるって言われてたんじゃよぉ。」
「へぇ〜、じゃあその神様を祀ってる神社とかもあるの?」
「あるにはあるんだけどねぇ…神社があった場所は今は立入禁止区域さぁなっててなぁ、み〜んな近寄らんのよぉ。なんでも、神様が怒って暴れてるとか、黒い服を着た怖そうな知らんもんらが言ってたんだよぉ。」
「神様が怒ってる?」
「そうなんよぉ…数年前に神社を取り壊したから、それが神様の怒りに触れてしもうたんやないかって話があってなぁ。」
「ふ〜ん…それでその立入禁止区域ってのはどこにあったの?」
「ここから東にずぅ〜っといった先でねぇ、看板が立ってる場所があるんだけど、そこに山奥に続く道があってなぁ、その道をずぅ〜っと進んでいくとその場所さぁ着くんだよ。」
「そうなんだ。ありがとね〜おばあちゃん。」
「いえいえ、あんさんらも神社があった場所には入っちゃいかんよぉ〜。」
手を振って見送ってくれるおばあちゃんにこちらも手を振りかえし、それからしばらくして先輩が言った。
「…言ってみる?立入禁止区域。」
「え?でもあのおばあちゃんが危ない場所だから入っちゃいけないって…。」
「もぉ〜、ソフィアは心配しすぎだって!どうせ倒壊寸前の建物とかがあるから危ないだとか、山の中だから子供が迷子になりやすいだとかそういう理由で立ち入っちゃいけないってなってるだけでしょ〜。」
「でも黒い服を着た人が言ってたって話は?」
「それも話に真実味を持たせるための嘘じゃない?まあこんな辺鄙な場所にある村だし、そう言う迷信とかたっくさんありそうだよね〜。」
「それに、元々この辺の山とか森の中とか探索する予定だったんだから、そこが禁止区域かどうかなんて関係ないっしょ!」
そんなふうに言う先輩たちに連れられて、ソフィアたちははあのおばあちゃんが言っていた立ち入り禁止区域まで来てしまった。
地面に突き刺さっている看板には「この先稲荷神社」という文字と矢印が筆っぽい筆圧で描かれていた。
「稲荷神社?なんか聞きなれない神社の名前だな…。」
「確か稲荷って極東とかいう島国にある神様の名前じゃなかったっけ?」
「うっわ、お前よくそんなこと知ってるな〜。」
「まあ入ってみようぜ〜。」
「や、やめといたほうがいいと思うんだけど…。」
上へと続く細い道を眺めながら、ソフィアは直感的にこの奥には進んではいけないと感じていた。
理由はわからないが、何か嫌な物がこの奥には存在しているのだと、そうソフィアの中の何かが警告している。
行きたくない…だからこそソフィアは色々な理由を述べてみんながこの奥へといかないようにしようと説得を試みた。
「ほ、ほら!もし本当に倒壊寸前の建物とかがあるなら普通に危ないし…それに、なんだか奥の方も暗そうだし、迷子になりそうだからやめない?」
「なんだソフィア〜?ビビってるの〜?」
「び、ビビってるっていうか…なんかあんまり良くない気がするからやめといたほうがいいんじゃないかなって。」
「大丈夫大丈夫〜。どうせ神様の怒りとか、そんな非現実的なこと起こりっこないって〜。まあ強いて言うなら獣とか出てくるかもだけど…そんときゃそん時っしょ。」
誰もソフィアの提案は聞いてくれず、とうとうソフィアの抵抗も虚しく立入禁止区域へと入ることとなってしまった。
今までに投稿していた『虚空のソフィア』を大改編してみました。
過去に投稿していた方と同じ人物も登場しますが、その性格や出会い方は過去のものとは全く違うかも…?
新たに新キャラなども追加されているので、今後の投稿も楽しみにしていただけたら嬉しいです!