第98話 援軍
「おらぁぁーーっ!」
「ぐあぁぁぁーーーっ!」
正面に一滴の涙を模した紋章の施された巨大な門の前で大勢のテネリタース教団の兵士達が黒い炎にその身を焼かれながら激しい断末魔を上げている。
その黒い炎を撃ち放っているのはテネリタース教団殲滅の為このティアリス城へと攻め込んで来たヴェント率いるメノス・センテレオ教団の軍勢、その一員にして現在僕の兄であるヴィンス・サンクカルトことRE5-87君だ。
エクストラ転生スキルとして取得している【地獄の業火】の力で次々と敵を薙ぎ倒しRE5-87君は遂にティアリス城の城門を突破した。
「よっしゃっ!。城門を突破したぞっ!、ヴェントっ!」
「流石ヴィンス兄さん。このまま教皇のシオンの元に直行してとっとと戦いを終わらせてしまおう」
「ああっ!」
「あら……。そのようなことをなさらずとも別にあなた方の方から出向いて頂く必要はありませんよ」
「て……てめぇはっ!?」
「テネリタース教団の教皇……シオン・アフェクシア……」
城門を突破したヴェントとRE5-87君の前に先程僕達の元を去って行ったシオンが姿を現す。
いきなりの敵のトップの出現に2人共途惑いを隠せない様子だ。
「ちっ!。他の奴等じゃヴェントの相手は無理だと判断して自分の方から出向いて来やがったか」
「お初にお目にかかります。メノス・センテレオ教団の教皇、神の子ヴェント・サンクカルト様。今回の我々テネリタース教団に対するこの仕打ちは一体どういう了見なのでしょうか?」
「あなた方テネリタース教団はヴァリアンテ王国から反逆罪に問われています。我々はユーカンシア陛下から直々に命を受けあなた方の殲滅に参りました。どうか速やかに投降なさって下さい」
「我々の言い分も聞かぬ内にまさか反逆罪にまで問われていようとは……。これで我々を打つ為の大義名分も得られたということですか。態々ご自分の実の弟を送り込んだ甲斐がありましたね」
「……っ!。まさかヴァンのことが……」
「この野郎っ!。俺の大事な弟に一体何をしやがったっ!」
「心配なさらずとも命までは奪っておりませんよ。ヴァン・サンクカルトには我々の無実を証明する為に自らの罪を告白して貰わなければなりませんからね」
「くっ……まさかヴァンの奴こいつ等に捕まっちまったってのか……」
「ヴィンス兄さん……。こいつの相手は僕の任せて兄さんは早くヴァンの元へ向かってくれ」
「だけどヴェントっ!。もしヴァンの奴がこいつ等に人質として捕まってるんだとしたら……」
「本当にヴァンを人質にできてるんだったらとっくに僕達の前に差し出して戦闘の中止を要求しているはずだよ。それがないってことはつまり……」
「ヴァンは奴等の手を逃れてまだこの城の何処かにいるってことかっ!。よっしゃっ!。そういうことならこの場は任せたぜっ!、ヴェントっ!」
テネリタース教団の教皇、シオン・アフェクシアを前にヴェントは1人立ち向かいRE5-87君を突破した城門の先へと行かせる。
こちらもシオンと同様他の者達では太刀打ちできない相手と判断したのもあるだろうが、何より未だティアリス城内に取り残されている僕達の救出を優先したかったようだ。
城内を駆け巡りRE5-87君が懸命に捜索を行う中、僕達は依然として中庭でナミュラス達との死闘を続けていた。
「今だっ!、クラースさんっ!」
「任せろっ!」
「ちっ!」
『自律稼働型注射器』に加え、援護に回ってくれたクラースさんとの連携攻撃で果敢にナミュラスへと攻め入っていくが、やはり剣での攻防では有効的な一撃を与えることができない。
ナミュラスを打倒すには遠距離からの攻撃で仕留めるしかない。
テネリタース教団へと送られる人々の悪意を利用して呪いをかけたと言っていただろうか。
懸命に剣を振い僕がナミュラスの動きを牽制している隙にクラースさんが先程騎士の1人を打倒した死霊術をナミュラスに向けて撃ち放った。
先程の騎士のようにこれでナミュラスも倒れてくれるといいのだけれど……。
「どうだっ!」
「ぐっ……なる程。我々への人々の悪意を利用したと言っていたが中々強力な呪いだ。それだけ貴様達の策略により我々に対する人々からの信頼が失墜してしまっているということか。……だがっ!」
「……っ!」
「シオン様から直々に我らがティアリス神様の加護を与えられている私にこの程度の呪いは通用せんっ!」
「ちっ……糞がっ!」
呪いに対する強い耐性を持っているのかクラースさんの死霊術はナミュラスに対して全く通用しなかった。
この様子だとやはり僕の『水撃』の魔法等の方がより有効なダメージを与えられそうだ。
しかしクラースさんの剣の腕前ではとてもナミュラスに太刀打ちできないだろうし現状僕が後衛に回るのは得策ではない。
こうなったら一か八かどうにかナミュラスの隙を突いてメルクリオ注射器の『水剣』の魔法を解き最大出力で『水撃』の魔法を叩き込むしかないか。
注射器に収容した水の用途をいつでも自在に変えることができる僕の『注射器魔法』の能力を活かした技だけど、近接状態からいきなり高出力の遠距離魔法を撃ち放てる分リスクもかなり大きい。
万が一『水撃』の魔法を躱されてしまった場合、『水剣』を解いた状態でナミュラスのカウンターの斬撃を受けなければならず瞬く間に斬り伏せられてしまうはずだ。
「ナミュラス様っ!」
「ラクリマっ!、ダクリュオンっ!。2人共各々の敵を打倒したかっ!」
「えっ……ってことはもしかして……」
「ううっ……」
「リーンツェルさんっ!、カリュムさんっ!」
強大な力を誇るナミュラスに対しどういった戦術を取るべきか。
悩む僕達の前に更に2人の騎士が立ちはだかった。
その2人の騎士は先程まで僕達の仲間であるリーンツェルさんとカリュムさんの相手をしていた者達だ。
慌てて辺りを見回すと辛うじて息がある様子でリーンツェルさんが地面へと倒れ込んでいる。
カリュムさんの方は大きく斬り裂かれた体の前面から大量の血が溢れ出した状態で倒れており見てすぐもう命を落としていることが分かった。
もう1人残る僕達の仲間であるクロイセン神父もかなりの苦戦を強いられている様子だ。
クロイセン神父はミーズ・ニーズ教団からメノス・センテレオ教団へと侵入して来ている身。
内通者であることを悟られない為にもミーズ・ニーズ教団で培った魔法や術技を他のメノス・センテレオ教団の者達がいる前で使うことはできず、本来の実力の半分も出せない状態で戦うことを余儀なくされていた。
「ちっ……リーンツェルにカリュムまでやられちまったか……」
「ど……どうしよう……。これで僕達2人で3人の相手をしなくちゃいけなくなっちゃったよ、クラースさん」
「ああ……それにクロイセンの方もあまり戦局は良くなさそうだ。こうなりゃまだバラけて逃げた方が生き延びられる可能性は高そうだ」
「えっ……1人ずつになって逃げるなんてその方がよっぽど危険だよっ!。それに倒れているとはいえリーンツェルさんはまだ息があるんだし置いて行くことなんてできるわけないよっ!」
「だが……」
「ヴァンの言う通りだぜっ!。仲間を置いて逃げるなんて何腰の抜けたこと抜かしてやがるっ!、クラースっ!」
「あっ……」
「こ……この声はっ!」
「……っ!。上だっ!、ダクリュオンっ!」
「えっ……。うっ……うわぁぁぁーーーっ!」
次々と仲間がやられ逃げ出すかどうかでクラースさんと口論になり掛けた矢先、何処からかよく聞き慣れた人物の声が鳴り響いて来たと思うと、上空から撃ち放たれて来た炎が敵の騎士の1人を一瞬にして焼き殺してしまった。
その黒い炎は正しく【地獄の業火】の炎。
そして【地獄の業火】の炎を使いこなせる者と謂えば……。
「R……ヴィンス兄ちゃんっ!」
「待たせたなっ!、ヴァンっ!。無事かっ!」
とても頼り甲斐ある背中を向けてヴィンス兄ちゃんことRE5-87君が僕達の前へと舞い降り立った。
その姿を見て僕は歓喜の声を上げる。
僕達の窮地を救うべくRE5-87君が援軍に駆け付けてくれたんだ。
「来てくれたんだねっ!、ヴィンス兄ちゃんっ!」
「ああっ!。ヴェントや他の仲間達もすぐそこまで来てるぞっ!。俺達が来たからにはテネリタース教団の奴等なんてあっという間に殲滅してやるからもう安心しろ」
「黒い炎……。お前が神の子ヴェント・サンクカルトの兄にして【地獄の業火】の使い手、ヴィンス・サンクカルトか」
「そうだっ!。てめぇのことは誰か知らねぇが俺の弟や仲間に随分な真似をしてくれたみてぇだなっ!」
「ふっ……。我々を陥れる為に自分の弟にあのような卑劣な行いをさせた輩が自分のことを棚に上げてよく言ったものだ」
「こいつはテネリタース教団が誇るアイリッド騎士団の団長ナミュラスだよっ!。滅茶苦茶手強い相手だから気を付けてっ!、ヴィンス兄ちゃんっ!」
「ああ……そう言えばヴェントの奴にも注意しろと言われてたっけな。けどそんなの知っちゃこっちゃねぇっ!。俺の前に立ちはだかるなら焼き殺してやるだけだ……クラースっ!」
「お……おおっ!。な……何だよ……いきなり……」
「これで数の上では3対2になったんだからもう逃げるだなんてほざくなよな。俺とヴァンでナミュラスの相手をするからお前は残った奴の相手をしろ。いいな」
「はいはい……分かりましたよ。我らが教皇の兄上様」
いつも通り軽薄な口調でありながらも少し真剣となった表情でクラースさんは返事をする。
どうやらRE5-87君が援軍に来たことで最後まで戦い抜く覚悟が決まったようだ。
これでもう後はナミュラス達を打倒すことに全力を注ぐだけ。
クラースさんに代わって今度はRE5-87君の援護の元僕はナミュラスに向かって威勢よく立ち向かって行った。




