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第97話 ナミュラスとの死闘

 「うおぉぉぉーーーっ!」

 

 威勢の良い僕の咆哮と共に僕達メノス・センテレオ教団の潜入者組とナミュラス達との戦闘が開始された。

 

 僕達の方は既に仲間に1人であるディゴンさんがやられてしまっているがそれでも数の上では互角。


 僕がナミュラス、クロイセン神父達が他の騎士達とそれぞれ1VS1で戦う形となった。


 ナミュラスの実力は言わずもがなだがクロイセン神父達が相手にしている者達もそのナミュラスが率いるアイリッド騎士団の一員だ。


 剣術の腕前だけなら僕達を遥かに凌駕し、1VS1で近接戦闘を余儀なくされる状況で皆苦戦を強いられていた。


 そんな中僕は前回の寮の部屋からこの中庭へと戦いの場が移動し、メルクリオ注射器を用いた『水剣ウォーター・ブレイド』で剣戟を繰り広げながらも開けた空間をフルに活用し同時に7つもの『自律稼働型注射器シリンジ・ビット』を展開して戦っていた。


 『自律稼働型注射器シリンジ・ビット』はその名の通り宙に浮きながら自律して行動し僕のサポートをしてくれる注射器だ。


 主な用途は注射器の針の先端から撃ち出される『水弾ウォーター・バレット』の魔法の水弾による相手への牽制。


 多方から、それも死角を突いて打ち放たれてくる攻撃に注意を払いながらではナミュラスと謂えど中々強く剣を振るえない様子だった。


 押し切れそうなタイミングで僕により力の込もった斬撃を打ち放とうとしても僕の窮地と判断した『自律稼働型注射器シリンジ・ビット』が即座に『水弾ウォーター・バレット』の魔法を撃ち放ち斬撃を阻止する。


 「ちっ……自動で敵を追尾して攻撃してくるとは厄介だな。これが噂に聞くヴァン・サンクカルトの『注射器魔法シリンジ』の魔法か。我々の儀式で人々に黒い涙を流させたのもこの魔法で黒のインクでも涙腺に注入しておいたのだろう」


 先程の会話で潜入者の中で何故僕が工作を行った張本人だと確信に満ちた口調で言っていたのか不思議に思っていたのだが、どうやら僕の身元だけでなく『注射器魔法シリンジ』の魔法についても知られてしまっているらしい。


 『注射器魔法シリンジ』の魔法の能力の詳細を知っていればあの工作が僕によるものだと大抵判断できる。


 メノス・センテレオ教団の教皇にして神の子であるヴェントの実の弟。


 更にヴァリアンテ王国から招集を受けた対魔王アークドー軍合同部隊での活躍もあり思った以上に僕についての情報が各地に広まってしまっているようだ。


 「くっ……ああっ!、そうだよっ!。これまでのことは全部僕がやったんだっ!。ナミュラスさん達が僕を許せないのは当たり前かもしれないけどだからって僕もこんなところでやられるわけにはいかないんだっ!。てやぁぁーーっ!」


 「ふんっ!」


 「くっ……」

 

 ナミュラスが回避に回ったタイミングで今度は僕の方が攻勢に打って出るのだけれど、相手が『自律稼働型注射器シリンジ・ビット』を回避しながらの状況だというのに僕の方も中々押し切ることができずにいた。


 それだけ剣の腕前にナミュラスとの差があるということだ。


 メルクリオ注射器の『水剣ウォーター・ブレイド』を解いて遠距離から高出力の『水撃ストリーム』の魔法等で攻める手もあるけど躱された挙句敵の接近を許して反撃で斬撃を食らう可能性を考えると危険過ぎる。


 誰かもう1人援護に来てくれて前衛に回ってくれると助かるんだけど……。


 「はあっ!」


 「ああ……僕の『自律稼働型注射器シリンジ・ビット』が……」


 僕が攻めあぐねている間にナミュラスは上手く僕との間合いを測りその隙に『自律稼働型注射器シリンジ・ビット』の注射器を1つ1つ斬り落としていく。


 既に2つの注射器が破壊され残りは5つとなってしまっていた。


 『自律稼働型注射器シリンジ・ビット』の注射器が全て破壊された際には瞬く間に僕はナミュラスの剣に斬り伏せられてしまうだろう。


 もう追加の『自律稼働型注射器シリンジ・ビット』の注射器の在庫ストックは持ち合わせていないし全て破壊されてしまう前に勝負をつけなければ。


 「自律で動くと謂ってもやはり動きのパターンはある程度限られているようだな。もう動きのパターンはほぼ見極めることができたし先にこの厄介な注射器を全て落とさせて貰うぞっ!」


 「くっ……させるかっ!」


 「ふっ……掛かったな」


 「……っ!。し……しまったっ!」


 『自律稼働型注射器シリンジ・ビット』の注射器が次々に落とされていくのを見て、僕はそれを阻止すべく慌ててナミュラスの元へと飛び込んで行った。


 しかしその直後ナミュラスは『自律稼働型注射器シリンジ・ビット』の注射器へと向けていた剣を下げ、意味深な表情でこちらに視線を向けてくる。


 ナミュラスと視線が合った瞬間は僕は誘い出されたものと気付いたけど今更反応したところで遅かった。


 ナミュラスの強烈な剣の一撃が僕へと放たれてくる。


 「はあぁぁぁーーーっ!」


 「しゃがめっ!、ヴァンっ!」


 ナミュラスの斬撃が振り下ろされてくる光景を為す術なく見ていることしかできなかった僕の背後から強い口調でしゃがめっ!という言葉が聞こえてくる。


 誰の声かもその瞬間はハッキリとは認識できていなかったのだけれど僕はその声に従い咄嗟に身を屈めた。


 するとその直後僕の頭上を何かの魔法と思われる青白い球体が通り過ぎナミュラスへと向かって行く。


 咄嗟に対処へと回りナミュラスの斬撃の標的が僕からその魔法へと移り変わるが、自身への攻撃を防ぐことで代わりに僕を仕留める絶好の機会を失ってしまう。


 ナミュラスの斬撃が魔法の撃墜へと振るわれている隙に僕はすぐさま後ろに後退して距離を取った。


 僕が後退したその場には先程の魔法を放ち僕を窮地から救ってくれたクラースさんがいた。


 「無事かっ!、ヴァンっ!」


 「ク……クラースさんっ!。ありがとう……助かったよ。けどクラースさんが戦ってた相手は……」


 「ああん?。そいつならもうとっくに片付けちまったよ。ほら、あそこで気持ちよさそうに伸びてやがるだろうが」


 「………」


 「ほ……本当だ。この凄腕の騎士をこんな短時間の内に倒しちゃうなんて凄いね」


 クラースさんが視線を向けた先に目を向けると先程までクラースさんが戦っていた相手が仰向けとなって倒れていた。


 どんなやり方で倒したのか完全に目を見開いたまま人形のように無表情となって天を見上げている。


 「トレーネっ!。……くっ!」


 倒れてる仲間に気付きすぐその場へと駆け寄るナミュラスだったが僕の『自律稼働型注射器シリンジ・ビット』の注射器が容赦なく攻撃を仕掛けていく。


 倒れた仲間の様子を碌に見ることもできなかったはずだが、それでもナミュラスはその敗因についてある程度考察することができたようだ。


 そしてクラースさんの能力を探ろうとしてか僕達に対しその考察の内容を強気な態度で突き付けてくる。


 「命までは奪っていないようだがトレーネのあの様子……。更に既に2度受けた今の魔法……。どうやらお前は死霊術ネクロマンシーの魔法を扱えるようだな」


 「ネ……死霊術ネクロマンシーだってっ!。それじゃあクラースさんは死霊術師ネクロマンサーなのっ!」


 「ああ……って。知らなかったのか?、ヴァン」


 「う……うん。初耳だよ……クラースさん」


 ナミュラスの口から明らかになったクラースさんの事実に僕は衝撃を受ける。


 なんとクラースさんは死霊術ネクロマンシーの魔法を操る死霊術師ネクロマンサーだというのだ。


 死霊術師ネクロマンサーと謂えば死体や霊を従える力を持つ存在として有名だ。


 そして霊を従えることができるということは霊を視認する力も強く持っている可能性も高いということ。


 テネリタース教団への工作を行おうとしていた際中。

 

 クラースさんは僕に対して洗礼の儀の魔法を発動させるという未だにその意図が掴めない不可解な行動を取っていた。


 もしかしたらSALE-99達が僕達を監視させる為に寄越したのではないかとも疑っていた僕は慌ててアイシアにクラースさんに姿を見られているような節がなかったかを問い質す。


 「(まさかクラースさんが死霊術師ネクロマンサーだったなんて……。一緒にいる間に姿を見られているような気配はなかった?、アイシア)」


 「(いえ……もし見られていたとしても全く気が付きませんでした。やはりクラースさんはSALE-99達が私達を監視させる為に寄越した人物なのでしょうか)」


 「(さぁ……分からないけど今はクラースさんにそんな疑いを掛けている場合じゃないよ。ナミュラス達に打ち勝つ為にも仲間として本気で協力し合ないと……)」


 「(そうですね……。私もまだマスターの体から離れない状態ですができる限りの援護をさせて頂きます)」


 「(僕に憑依したまま援護をするって……。それって僕の体の中からアイシアが魔法を放ったりするってこと?)」


 「(えっ……まぁ、そういうことですが単純にマスターの能力に補正を掛けたりすることもできます)」


 「(じゃあなるべくそっちの方で援護をお願い。何の節もなく突然体から普段僕の使わないような魔法が飛び出だして来たらクラースさんや他の皆に怪しまれちゃうだろうから)」


 「(了解しました。ではそのように致します)」


 アイシアはそれらしい気配を感じたことはないとのことだったが、確証があるわけではないしそれでクラースさんへの疑いが晴れるわけもない。


 しかしながら今クラースさんへの疑惑を検証している余裕等なく、僕達は協力してナミュラス達への対処に当たらなければならなかった。


 「一体どのような悪霊をトレーネに憑依させた」


 「はんっ!。悪霊なんてそんな大そうなもん使ってねぇよ。ヴァンの工作のおかげでてめぇ等テネリタース教団に送られてくるようになった怨念を利用してちょっとした呪いを掛けさせて貰っただけさ」


 「罪を捏造し我々に対する人々の悪意を促した上にそれを利用した攻撃を仕掛けて来るとは……。神の子ヴェントが率いるメノス・センテレオ教団がそのような低俗な連中の集まりだったとは思い寄らなかったぞ」


 「何とでも言え。俺達だってそんな安い挑発に乗るような半端な覚悟でこの教団に潜入したわけじゃねぇからな。こんな奴等とっとと片付けてヴェント様達と合流するぞ、ヴァン」


 「うんっ!。それじゃあ僕は後ろから援護をするからナミュラスの相手をお願い、クラースさん」


 「はぁ?。馬鹿言え。俺の剣の腕前であいつに敵うわけないだろうが。俺が援護に回るからナミュラスはお前が直接相手にしろ」


 「えっ……。た……確かにその方が良さそうだね」


 本当はクラースさんに前衛を任せて僕が後方からの援護に回りたかったんだけど、なまじ剣の技量がある僕の方が引き続き直接ナミュラスの相手をすることになってしまった。


 高出力の『水撃ストリーム』の魔法による決めてがあるからこそ僕が後方に回りたかったのだけれど、果たしてクラースさんはそれに代わる威力を誇る魔法を持ち合わせているのだろうか。

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