第96話 立ちはだかるナミュラス
「(はぁ……はぁ……)」
「(大丈夫っ!、アイシアっ!。随分と苦しそうにしているようだけど……)」
「(そ……それが……。先程ナミュラスを足止めする際に魔力を使い過ぎてしまったようです……。ナミュラス程の人物を足止めするには魔法に相当な魔力を込めなければと思い……)」
「(僕達を逃がすためとはいえあんまり無理しちゃ駄目じゃないかっ!。アイシアの霊体が今にも消えちゃいそうなくらい薄くなっちゃってるよっ!。相当エネルギーを消費しちゃってる様子だし一先ず僕に憑依して休んでおいて)」
「(はい……。すみませんがそうさせて頂きます。従者として不甲斐ないばかりで申し訳ありません)」
「(いやっ!。こっちこそいつもアイシアに無理ばかりさせる不甲斐ない主でごめんね。今回はもう僕達に任せてアイシアはゆっくり休んでおいてっ!)」
「(はい。では失礼致します)」
「(僕達を逃がす為に頑張ってくれてありがとうなの~、アイシア~)」
「(ありがとうなの~)」
ナミュラスが訪れた部屋を出てから僕達はナミュラス城の出口に向かって一直線に走り続けていた。
ヴェント達と合流するにも取り敢えずは出口を目指すのが一番の近道だろう。
その途中でアイシアの霊体が普段に比べて異常に薄くなっていることに気が付いた僕はアイシアに僕の体に憑依して休むよう促す。
自身に敵対する感情を持っている者に対しては憑依するのにも霊力を消費してしまうのだが、友好的な相手からは反対に霊力を分け与えて貰えることができる。
今の僕はアイシアにとって公園のベンチに座るようなちょっとした休憩所のようになっているという感じだろうか。
アイシアを自身に憑依させたところでちょうどクロイセン神父と他の2人の潜入者とも無事合流を果たし引き続きティアリス城の出口を目指して突き進んで行く。
「おいっ!。こっちだっ!。ここの中庭を突っ切って行ったほうが城の出口に近いっ!」
クラースさんの先導に従い僕達はティアリス城の中庭を突っ切って進んで行く。
中庭といっても広大な規模を誇るティアリス城のものだ。
ちょっとした森林と思えるくらいの広さがあり、進む僕達の視界を覆い隠すぐらい草木が生い茂っていた。
とは謂っても無造作に生い茂っているわけではなく、しっかりと手入れの行き届いた思わず森林浴がしたくなる穏やかで美しい景色が広がっていたのだが勿論今の僕達にはそんなことにかまけている暇はない。
必死に中庭を突き進む僕達であったが少し広げた場所に出たと思ったところで思わぬ人物がそこに立ちはだかっていた。
「お……お前はっ!」
「………」
「テネリタース教団の教皇っ!、シオン・アフェクシアっ!」
僕達の前に立ちはだかったのはテネリタース教団の教皇、シオン・アフェクシアだった。
普段の穏やかで優しい雰囲気とは一転殺伐とした表情で僕達のことを睨みつけている。
「くっ……まさか教皇自らがお出迎えとはな。絶対に俺達のことを逃がすつもりはないってことか」
「あなた方がいなければユーカンシア陛下に我々に無実を証明することができなくなってしまいますからね。しかし私達の大事な仲間であると信じていたのにまさかあなた方がメノス・センテレオ教団からの工作員だったとは残念です。……特にヴァン。あれ程純粋で優しさに満ちた涙を流してたあなたがまさかあのような非道な行いをしていただなんて……」
「何だと……っ!。ヴァン様は我らが教皇神の子ヴェント様の実の弟なんだぞっ!。てめぇ等のような罪深き異教の信者が知ったようなことを言うんじゃねぇっ!」
シオンの言葉に僕をヴェントの弟として慕う共に潜入していた信者の1人が怒りを露わにする。
確かにテネリタース教団の信者となったのは偽りではあったけれど、同時に彼等メノス・センテレオ教団に対しても裏切り行為を行っている僕としては彼の言動にとても複雑な気持ちだった。
「例え異教の者であっても涙を見れば私にはその者がどのような人物なのか全てわかります。異教の者ではあるとはいえ心優しいはずのあなたが我々に対しあのような行いをしたのにはきっと理由があるのでしょう。ですがテネリタース教団の教皇として私は決してあなた方のことを許すわけにはいかないのです……」
「ああんっ!。許すわけにはいかないと言いながら涙なんか流しやがって俺達が裏切り者だったことがそんなに悲しかったのかよ」
「いや……どうやらそういうわけではないみたいですよ」
「えっ……」
強張った面持ちで話すシオンの目から数滴の涙が零れ落ちる。
クロイセン神父が指摘している通りいくら自分達の信者の中に裏切り者がいたとはいえ教団の教皇を務める程の者が僕達の為に涙など流すはずがない。
シオンの目から流れる涙は地面へと落ちると共に眩い光を発し、その光の中からナミュラス、更に数名の騎士達をこの場へと呼び寄せた。
「ナ……ナミュラスっ!。ちっ……今の涙は仲間を呼び寄せる為の転送系の魔法だったってことか」
「この者達のことは頼みましたよ、ナミュラス。私はこのティアリス城へと攻め込んできているメノス・センテレオ教団の教皇、神の子ヴェントの対処に向かいます」
「お任せを。この者達を捕えたら私もすぐ援護に向かいます。神の子ヴェントは計り知れない実力を持つ相手ですのでどうかお気をつけを……」
「ええ……分かっています」
神の子であるヴェントの対処には教皇である自分が向かうしかないと判断してだろうか。
ナミュラス達を残しシオンは神妙な面持ちでこの場を去って行った。
シオンがいなくなったとはいえ僕達が城から脱出するには目の前に立ちはだかるナミュラスと3人の騎士達を突破するしかない。
「さて……。先程は不覚を取ったが今度は絶対に逃がしはせんぞ、貴様等」
「糞がっ!。偉そうなことほざいてんじゃねぇっ!。ヴェント様達が来た以上お前等はもう終わりなんだよっ!。だからもう諦めてとっと道を開けやがれっ!」
「馬鹿っ!。やめろっ!、ディゴンっ!」
「ふんっ……」
「ぐはぁぁーーっ!」
「ディ……ディゴンさんっ!」
高圧的なナミュラスの言動に挑発され、僕達の仲間の1人であるディゴンさんがナミュラスに向かって単身で突っ込んで行ってしまう。
慌ててクラースさんが制止するがもう遅い。
軽く剣を振るっただけのようだったのにディゴンさんはナミュラスにより一瞬にして斬り伏せられてしまった。
体の前面から大量の血を噴き出しながら地面へと倒れ込んだディゴンさんが起き上がることは最早なかった。
「くっ……ディゴン……」
「捕える必要があるのは我々に対し工作を行っていた張本人であるヴァン・サンクカルトだけだ。歯向かうなら他の者達は今のこいつと同じ運命を辿ることになる」
「うっ……」
「怖気づいちゃ駄目だっ!、皆っ!。ヴェント兄ちゃん達がすぐそこまで来てくれてるっていうにこんなところでこんな奴等にやられるわけにはいかないだろっ!」
「ヴァン様……」
「ヴァンの言う通りだっ!。数の上ならこっちが有利だしヴェント様達が援軍に来るまで耐え凌ぐんだっ!」
「クラース……そうだな。俺達は神の子ヴェント様が率いるメノス・センテレオ教団の一員なんだ。こんな異教のスカした騎士野郎なんかにビビってられるかよっ!」
「ぐっ……私も手負いの身ですが最後まで抗わせて頂きますよ」
「リーンツェルさん……でも傷の方は大丈夫なの?」
「ええ……。移動の最中にクロイセン神父がずっと回復魔法を掛けてくれたおかげで万全ではありませんがどうにか戦えると思います」
「よしっ!。ならナミュラスの相手は僕がするから皆は他の騎士達をお願いっ!」
「了解っ!」
僕の激励が功を奏したのかどうにか皆の戦意を取り戻すことができたようだ。
PINK-87達を『味噌焼きおにぎり』の連中から助け出す為にもこんなところでやられるわけにはいかない。
他の者達では太刀打ちできないだろうと判断した僕は一番の強敵であるのを承知の上でナミュラスへと立ち向かって行った。




