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第88話 惨劇への出立

 「さて……前々から厄介な存在であったテネリタース教団の殲滅についてだが誰か良い考えのある者はいないか?」


 メノス・センテレオ教団本部地下10階の一室。


 ヴェントは教団の重役達を集めてテネリタース教団という自分達と敵対する宗教勢力の殲滅作戦の会議を行っていた。


 SALE-99達『味噌焼きおにぎり』の【転生マスター】の連中以外の者達もいたようだが、その場に僕、そしてクロイセン神父の姿はなかった。


 どうやらまだメノス・センテレオ教団からそこまでの信頼は得られていないようだ。


 教皇であるヴェントの実の兄弟である僕に関してはもっと教団での立場を優遇してくれてもいいような気もするがSALE-99あたりが反対しているのだろうか。


 「テネリタース教団の戦力を考えるといつものように極秘に殲滅してしまうのは難しいと思われます。規模こそ小さいですがテネリタース教団には古くからその存続を守り抜いて来た由緒ある騎士団が現在も変わらず組織されていますからね。テネリタース教団のアイリッド騎士団と謂えば実力者揃いで国外にまでその名を轟かせています。テネリタース教団については知らずともアイリッド騎士団の名は聞いたことがあるという者も数多くいるのではないでしょうか」


 「つまりテネリタース教団を排除しようと思えばこちらの相応の戦力を投入する必要がなるということか、ブランカ」

 

 「はい。できることならヴェント様にも直々に戦線に加わって頂くのが望ましいでしょう」


 「確かに教皇である私が戦線に出ておいて我々の関与を隠し通しておくのは難しいだろう。しかし正当な理由もなく他の教団に対し武力行使を行ったとなれば世間から多大な非難を浴びることになるぞ。場合によってはメノス・センテレオ教団の信者達にまで我々への不信が広まる恐れがある」


 敵対していると謂ってもメノス・センテレオ教団がテネリタース教団の側から直接損害を加えられるようなことをされたということは一切ない。


 平和に自分達の信仰をしているだけなのにその勢力の拡大が自分達の組織にとって不利益を齎すと判断しヴェント達の側が一方的に敵視しているだけだ。


 表向きは自分達も平和に信仰をしている様を装いながら『味噌焼きおにぎり』の連中は裏で着々と自分達の脅威となる正力の排除に努めていた。


 「ならそうならないよう事前に裏工作をしておくのが得策だね」


 「何か良い考えがあるのか?、アズール」


 「テネリタース教団が救世の泪杯という教義を掲げているのは皆も知っているだろう。人々が流した涙が神の杯を満たした時世界の救済が行われるという教義なんだけど、その教義には悪意に染まった涙で杯が満たされた場合反対に世界が破滅へと導かれてしまうという教えがあるんだ。だからテネリタース教団が本当は世界を救済する為でなく破滅へと導く為、人々に悪意の涙を流させる活動をしているよう世間に思わせればいいんだよ。そうすれば世界の破滅を目論む者達を討伐するとして僕達も堂々と殲滅作戦を遂行することができるだろう」


 「なる程……だがどのようにして世間にそのような流言を広めるつもりだ。古くから伝統のあるテネリタース教団の信用をそう簡単に失墜できるとは思えないぞ。下手をすれば流言を広めた我々の側へと批判が返ってくることになる」


 「ふっ……ならテネリタース教団が悪意の涙を人々に流させている決定的な証拠を突き付けてやればいいだけのことさ」


 「なんだと、一体そのような証拠が何処にあるんというんだ?」


 「テネリタース教団の教義の中で悪に染まりし涙は黒い色をしていると謂われている。テネリタース教団は人を集めて皆で涙を流す儀式を頻繁に行っているようだからその時に黒い涙を流させるよう連中の体にちょっとした細工をしておけばいいのさ」


 「だが一体どうやってそんな細工をする?」


 「君の弟、ヴァンに任せればいいのさ。ヴァンの『注射器魔法シリンジ』の魔法なら連中の涙腺に黒いインクでも仕込んで涙を流させることは容易だろうからね」


 「つまりはヴァンを工作員としてテネリタース教団に送り込めということか……」


 「テネリタース教団の審問部は僕達や他の教団と比べてかなり甘い体制をしているから心配しなくても大丈夫だよ。身分の偽造さえ上手くしておけば末端の信者にまで一々目を引かされたりはしないだろうし、僕達から送り込まれた工作員だとは疑われないはずさ」


 「だが万が一ヴァンの工作が明るみ出るようなことがあれば流石に只では済まないだろう……」


 「それはヴァンがテネリタース教団にバレないよう任務を果たしてくれることを信じるしかないよ。テネリタース教団には事前に送り込んでおいた内通者もいるから上手くヴァンのことをサポートしてくれるだろう。なんにせよリスクは付き物さ」


 「いいだろう。ならばヴァンの所属するクロイセンの部隊にテネリタース教団への工作の任務を命じることとする」


 それから数日後。


 僕はヴェントから正式にテネリタース教団への工作任務を命じられることになる。


 本当なら只自分達の信仰をしているだけで何の罪もない人々を陥れるようなことをしたくはなかった。


 けれどここで任務を拒否しては使い物にならないと見做され、二度と『味噌焼きおにぎり』の連中に取り入る機会を得られなくなってしまうかもしれない。


 正直に言えばそんな任務など断り、もう『味噌焼きおにぎり』の連中に余計なちょっかいなど出さずに平穏な日々を過ごすという選択肢も僕の中にはあった。


 ヴェントも僕に実の弟としての絆を感じている以上無理強いをしてまで任務に駆り出すような真似はしないはずだ。


 それに【転生マスター】である僕が只1度の人生にそこまでの拘りを持つ必要はない。


 『味噌焼きおにぎり』の連中の野望を阻止してやろうなどと変な正義感など燃やさずに今回の転生は地獄行きにならない程度に適当に過ごし、また次の転生に臨んだ際に有意義な人生を送れるようにすればいいのだ。


 しかし僕達が『味噌焼きおにぎり』の連中に対抗しなければならない理由はそのような正義感などではなかった。


 勿論今回のこの『ソード&マジック』の世界に共に転生している魂達の為にも『味噌焼きおにぎり』の連中に好き放題させたくないという思いも少しはある。


 だけど今僕達が一番気掛かりとなっているのはヴェントの家族として『味噌焼きおにぎり』の連中に言いように利用されているPINK-87達のことだ。


 僕の大事なソウルメイトである皆は今『味噌焼きおにぎり』の連中の洗礼の儀の魔法の支配下にありいつでも好き勝手に操られてしまう状態にある。


 特にRE5-87君に至っては『地獄の業火(インフェルノ)』の魔法を扱えるその実力を買われて各地でメノス・センテレオ教団の非道な行いに手を貸さされていると聞く。


 神の子、ヴェント・サンクカルトの兄であるヴィンス・サンクカルトとして教団の為ならどんなことでもしてやろうと本心から思っているのだろうが、僕の大事な大事なソウルメイト、RE5-87としては絶対にそんなことは望んでいないと【転生マスター】である僕達にはちゃんと分かってる。


 直接手を汚すような真似はさせられていなくてもPINK-87とMN8-26も自分達が世界征服を企むような奴等手を貸していたと転生を終えて霊界へと帰った時に知ったらきっと死ぬ程のショックを受けてしまうはずだ。


 『味噌焼きおにぎり』の魔の手から皆を救い出す為僕は自分の手を汚すのを覚悟でテネリタース教団への工作任務を承諾する。


 けれどもその任務の先に覚悟していただけでは到底目も当てられないような惨劇が待ち受けていることを今の僕達が知る由はなかった。


 ヴェントから任務を受けた翌日、僕はクロイセン神父や他に今回の任務に当たっている仲間達と共にテネリタース教団の本拠地のあるティアリステッラの街を目指して出立する。

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