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第84話 バレた憑依

 「ブランカ様ぁっ!」


 「あれって……確かあんたの部下よね。C……じゃなくてブランカ。私達の密会場所に立ち入らせるなんて一体どういうつもりなの」


 「どういうつもりかなんてどうでもいい。許可なくこの場所に入って来た以上は処分するだけのことさ」


 「待て。あの様子から察するに何か余程の事情があるようだ。処分するかどうかの判断は話を聞いてからにしろ、アズール」


 「分かったよ」


 『味噌焼きおにぎり』の中でも隠しスキルの力を持つ自分達しか立ち入りを許可していない場所に突然ディックが現れSALE-99やLS2-77はかなり戸惑った様子だった。


 そんな中ヴェントは2人を諫め冷静に事態の把握に努めようとしている。


 立ち入り禁止の区域へと入って来たディックを別段咎める様子もない。


 【転生マスター】でないにも関わらずヴェントが『味噌焼きおにぎり』のリーダーに据えられているのもこの懐の深さ故だろう。


 「一体何事ですっ!、ディックっ!。ここへの立ち入りは禁じる様強く命じていたはずでしょうっ!」


 「も……申し訳ありません、ブランカさんっ!。ですがトイレから戻って来たベンの奴が気になることを……」


 「ベンっ!。あなたまでここに来ていたのですかっ!。それで気になることとは一体何なのです?」


 ディックの後ろからもう1人のブランカの連れであるベンも姿を現した。


 そのベンの姿を見たことで私の焦りが明確なものとなってしまった。


 私の憑依が解かれたことで気を失ったベンを私はトイレへと置き去りにして来たはずだった。


 それがここへやって来たということはもう意識が目覚めてしまったということなのだろう。


 レイノスさんと違ってベンへの憑依はマスターの『注射器魔法シリンジ』の魔法による手助けもなく、相手の意識もハッキリとした状態で行ってしまった。


 恐らくベンは私とは分からずとも何者かに意識を乗っ取られたということには気付ているはずだろう。


 そのことをヴェント達に報告する為にやって来たとするなら私の身が危うい。


 「そ……それが先程までブランカさん達と共に行動していた私は私ではなかったのです。『風鈴軒』のトイレへと入ったところで突然何者かに意識を乗っ取られるような感覚に襲われて……。気が付いたら11階のトイレの中で倒れていたのです」


 「な……なんですってっ!。それでは『風鈴軒』を出てからこれまでの間あなたは何者かに操られていたということですかっ!」


 「………」


 ゾッ……!。


 ベンがブランカに報告をしている最中突然私の身に見も凍り付くような戦慄が走る。


 単に私が憑依していたことをブランカに知られてしまったからというわけではない。


 ベンの報告を聞くと共にSALE-99から私に向けられてきた悍ましさを感じる程にまで冷酷な視線のせいだ。


 ベンから報告を聞いたことで霊に憑依されていた可能性に気が付き、それとともに私がここにいる気配を感じ取ったのに違いない。


 このままここにいては間違いなく殺される。


 そう直感した私は考える間もないまま脇目も振らずにこの場を逃げ出していく。


 本当は霊体である利点を利用して天井を通り抜けて一気にマスターの元まで逃げ帰りたかったのだが、生憎とこの施設には階層を隔てることに霊の出入りを防ぐ結界が張られている。


 また何者かに憑依しなければ私はこの11階から出ることができない。


 密会場所から扉を出て11階の通路に出た私は人通りの少ないこの場所を必死に見渡して憑依できる人物がいないか探すが中々見つからない。


 焦りが頂点に達した状態で通路を駆け回りようやく通路の脇のベンチに腰掛けてカップでコーヒーを飲む男性を見つけた。


 私はなりふり構わずすぐさまその男性へと憑依を試みる。


 「うっ……な……なんだっ!?。ぐおぉぉぉーーっ!?」


 「よしっ!」


 男性への憑依に成功した私は猛ダッシュで上の階へと上がる階段を目指した。


 ベンからの報告を受けてすぐの状態ではヴェント達もまさかあの場で私に話を盗み聞きしていたとは思わず、只1人私の気配に気付いていたSALE-99も私の姿までは視認できていない以上すぐには追って来れないはずだ。


 全力で上の階へと駆け上がっていくのだが、この施設は階層ごとに階段の設置されている場所が違う為マスターの部屋のある5階まで相当な距離を走り続けなければならなかった。


 もう限界というところまで息を切らしながらも私は走るのをやめることはない。


 それ程までにSALE-99から私に向けられたあの冷酷で無慈悲な視線は恐ろしかった。


 「おっと。そんなに慌ててどうしたの?、ルヴィンさん」


 途中憑依した男性の知り合いと思われる人物に話し掛けられたがそのようなものに構っていられるはずがない。


 後で怪しまれるようなことになろうと私は全力でマスターの部屋のある地下5階を目指した。


 「はぁ……はぁ……。どうにか地下5階へと辿り着くことができたようですね。後はこの者からの憑依を解いて早くマスターの部屋へと逃げ込……」


 地下5階へと辿り着いた私はマスターの部屋へと帰還する為この男性からの憑依を解こうとするのだが、その時ちょっとした疑念があることに気が付いた。


 ここまで一心不乱となって全力で駆け上がって来た私の姿は施設内にいた数多くの信者達に目撃されてしまっている。


 ヴェント達ならばすぐさまベンに憑依していたのと同一の者がこの男性にも憑依していたと気が付くだろう。


 ならばここで憑依を解いて意識を失った男性を置き去りにしては同じ階層に部屋のあるマスターに疑いが及ぶかもしれない。


 咄嗟にそう判断した私はこの場で憑依を解くのを止め、念のため地下3階のトイレまで移動した後に憑依を解いてからマスターの元へと帰還していった。


 「いました……ルヴィンです。気を失っているようですが恐らくベンと同じように何者かに意識を乗っ取られていたのでしょう。地下11階にいたはずの彼ですが血相を変えた様子でこの地下3階へと駆け上がって行く姿が多くの信者達から目撃されています」


 「って言われても全然意味が分かんないなんだけど。ベンやルヴィンの意識を乗っ取った者は一体何者でどんな目的があったわけ?」


 「恐らくベンやルヴィンの意識を乗っ取っていたのは霊的な存在さ。霊体のままでは僕達の張った結界を通り抜けることができず、教団の信者に憑依することで僕達の密会場所へと侵入して来ていたのだろう」


 「えっ!。それじゃあその霊の目的は密会場所での私達の会話を盗み聞きすることだったってことっ!」


 私がマスターの部屋へと帰還して間もなくヴェント達は私が地下3階のトイレに置き去りにしたルヴィンを発見していた。


 ルヴィンに憑依した状態でここまで逃げ出して来る姿はとても目立つものであったので仕方ない。

 

 しかし憑依が解けた状態のルヴィンを発見していたところで私やマスターにまで疑いが及ぶことはないはずだ。


 「ああ。ベンからの報告を聞くまで気付くことができなかったけど僕達がTC7-33の弔いをしている最中もずっと話を盗聴されていたようだ。僕に気配が気付かれたことを察するとすぐさまその場を逃げ去ったようだけどね」


 「なる程……。それで逃げ去る際にまた結界を抜ける必要が出て来て地下11階にいたルヴィンへと憑依しこの地下3階のトイレまでやって来たというわけですね。この先にはもう霊の出入りを妨げる結界はありませんから他者に憑依をする必要はなくなったということでしょうか」


 「ならルヴィンから憑依を解いたそいつはとっくにこの施設の外へと逃げ出してしまってるってこと。憑依してる状態ならともかく霊体の状態で動き回る奴なんてそう簡単に捕まえることはできないわよ」


 「そうだな。そいつを捕まえることより霊の侵入への対策を強化しておいた方が良いだろう。何か信者達に憑依しての侵入を防ぐ手立てはないか、SALE-99」


 「結界に関してはこれ以上強めるのは止した方が良い。内部で霊体の活動を制限する程結界を強めると普通に生きて活動している者達の体に宿る霊体にも悪影響を及ぼす可能性があるからね。地下11階へと立ち入る際には事前に信者達に聖水を飲ませるようにするのが良いと思うよ。聖水を飲めば霊的な不浄物を全て取り除いてくれるから霊もその者に憑依していられなくなるはずだから」


 「そうか。なら明日までに手配させておけ」


 「了解」


 私の憑依による侵入が発覚したことに対してもヴェントはSALE-99達の意見を聞き冷静に対処していた。


 これでもう再び『味噌焼きおにぎり』の者達の密会場所へと侵入することはほぼ不可能となってしまっただろう。


 「だけど霊を使って私達の活動を探ろうとするなんて一体どこの連中なのかしら。初めから私達の会話を盗み聞きするつもりでやって来たなら私達と同じ【転生マスター】の力を持つ者が手を引いてる可能性が高いわよね。ってことは一番怪しいのはミーズ・ニーズ教団の連中かしら。アルバニア・ブルーアイって言ったけ。前のヴァリアンテ王国の合同部隊で出会ったミーズ・ニーズ教団の【転生マスター】は?」


 「転生している魂の名前はMIZ-32というのだけどね。確かにミーズ・ニーズ教団の彼女が手を引いてる可能性も高いけど僕にはもっとすぐ近くにいる怪しい人物に心当たりがある」


 「えっ……それってまさかヴァンのことじゃないでしょうね。確か前にあんたはヴァンの周囲に纏わりつく霊の気配があるって言ってたわよね。洗礼の儀のことがあるっていうのにあんたまだヴァンのことを疑ってるの」


 「LS2-77の言う通りだ、SALE-99。もうヴァンに要らぬ疑いを掛けるのは止めろと命じたはずだろう」


 「けどヴァンではなくその霊の方が【転生マスター】であるという疑いが晴れたわけじゃないだろう。ちょっとこれからヴァンの部屋に行ってその霊の様子を確かめて来るよ。別に構わないよね、VS8-44」


 「いいだろう……。但しお前の憶測で勝手にヴァンに手を出したりはするな」


 「ふっ……了解」


 この場にいる『味噌焼きおにぎり』の者達が皆が侵入者の正体を明確に掴めない中SALE-99だけは違っていた。

 

 なんと奴はこの数少ない情報だけでマスターと私に対し疑いを向け私達の部屋へと向かって行く。


 無事マスターの元へと逃げ帰り安堵する私だったが、再びマスターと私にSALE-99の魔の手が忍び寄ろうとしていたのだった。

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