第82話 侵入成功
冷たく暗い、ほとんど先が見通せず壁に掛けられた松明の微かな灯りだけが頼りの重苦しい空間を私を進んで行く。
ベンから憑依を解き、霊体となった状態でブランカの入って行った扉の先へと侵入できた私だがそこには少し意外な空間が広がっていた。
灯りが乏しく、10メートル先も見通せない薄暗く扉の外の空間とは比較にならない程狭い廊下が延々と続いている。
更に扉の外の空間はしっかりとした石材で内壁も床も整備されていたにも関わらず、ここは全く手つかずの状態で壁も床も天井も土が露わになったままだった。
『味噌焼きおにぎり』の密会場所へと続く通路であるにも関わらず他の場所より遥かに劣るこのようなしがない造りとなっているのは一体どういうことなのだろうか。
「(ふむぅ……。メノス・センテレオ教団の最高幹部達が集う場所にしてはこれまでの場所と比べるとかなりしがない造りとなっていますね。信者達の立ち入ることのない場所にわざわざ手を掛ける必要はないということでしょうか。信者達に教団の力を誇示する為には決して資金や労力を使うことを厭わないにも関わらず自分達の贅沢をしている様などは一切見せないとはやはり『味噌焼きおにぎり』の者達は恐ろしい連中です)」
より教団への信仰心を深める為信者達の使う施設に重点的に資金や労力を使うことはあっても、自分達以外が出入りすることのない密会場所を一々取り繕う必要はないというわけだろうか。
もしかしたら敢えて重苦しい雰囲気を作り出すことで密会場所への侵入を躊躇させようという狙いもあるのかもしれない。
この先の見通せない廊下を延々と歩いていれば大抵の者は途中で引き返そうという気になってしまうはずだ。
マスターからの使命を何としても果たしてみせると心に誓った私がそのようなことで引き返すはずもないのだが。
10分程度歩き続けていると廊下の先にまた扉が見えて来た。
完全な一本道の廊下であった為ブランカもここから更にこの扉の先へと向かったはずだ。
この扉にも霊の侵入を防ぐ為の結界が張られている様子はない。
これまでは階を隔てるごとに結界が張られているのがパターンであったのだが、『味噌焼きおにぎり』の者達の密会場所となっているのならばこれまでのパターンを無視して結界が張られていてもおかしくないはずなのに何か理由があるのだろうか。
少し疑問に思いながらも私はこの先にブランカ、場合にはよってヴェントやSALEー99達が待ち受けていることを覚悟して霊体の体により扉を開けることなく中へと侵入していく。
「(あれはヴェントにSALEー99っ!。それにLS2-77までっ!)」
扉を抜けた先にはこれまでの狭い廊下とは打って変わってだだっ広い空間が広がっていた。
しかし壁も床も整備されていないことに変わりはなく、その広さが却って只地面の中をくり抜いただけの土に覆われたこの空間の殺風景な雰囲気をより助長してしまっているように感じられる。
そんな空間の中央には私が後を追って来たブランカ、それからヴェントとSALE-99、LS2-77と『味噌焼きおにぎり』のリーダーと【転生マスター】達が勢揃いし、何か巨大な芋虫かミミズのような姿をした生物の周りを囲っていた。
「(LS2-77は今日は家にいたはずですが一体いつの間にこの場に移動していたのか……。それにしてもあの巨大なワームのようなモンスターは一体……)」
ヴェント達の姿を発見した私はその会話の内容を盗聴する為に慎重な姿勢で彼等の元へと接近していく。
ヴェント達の中にはクロイセン神父のように私の姿を直接視認できる者がいないのはこれまで彼等のすぐ傍で行動できていたことで判明しているが、SALE-99に関しては私の存在を感じているような節が時折あった。
施設内に結界を張り巡らしたり霊に対する警戒も強いことから私の姿を見ることができないまでもSALE-99も高い霊感を有しているのかもしれない。
ここはこちらとしても最も警戒が必要なSALE-99の背後から接近を試みることにしよう。
「はぁ……どうやら私もとうとう寿命を迎える時が来てしまったようですね」
「そのようだね。300年もの間よく頑張ってくれたよ、TC3-77。君のおかげでこの地下神殿もほとんど完成も間近というところまできた。あと少しで僕達がわざわざメノス・センテレオ教団なんてものを結成してまで目指して来た目的が達成される」
「(あ……あの巨大なワームのようなモンスターは人間の言葉を喋ってヴェント達と会話をしているっ!?)」
なるべく気配を消し、SALE-99の背後から慎重を期して近づいていった私はどうにか『味噌焼きおにぎり』の者達の会話の内容が聞き取れる位置まで来ることができた。
また遠目からではよく分からなかった巨大なワームのモンスターの姿もハッキリと目に移すことができたのだが、等間隔の体節で無数に区切られた太いオレンジ色の体が地面から飛び出している。
飛び出している部分だけでも全長5メートル程の大きさはあるがまだ半分以上の体の部分が地面へと埋まっていそうだ。
目がなく、縁中に鋭利な牙のついた吸盤のような丸い口が顔の先に広がっている。
人間の口のように噛んで食事を取るのではなく、磨り潰しながら飲み込んでいく為のような構造だ。
生きた状態でこのモンスターに捕食される光景を思い浮かべると非常に悍ましい感覚に襲われる。
しかしその姿よりも驚くべきはワームのモンスターが人間の言葉を喋り直接SALE-99達と会話をしているということだ。
一体あの悍ましい口のどこに人間の言葉を発することのできるような器官が備わっているというのだろうか。
更にSALE-99はそのグランディス・ワームのことをTC3-77と明らかに魂のコードネームめいた名で呼んでいた。
まさかあのグランディス・ワームにも『味噌焼きおにぎり』の【転生マスター】の仲間が転生しているというのだろうか。




