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第79話 今の私はレイノス・マーシー

 「おっ!、こんにちはレイノスさんっ!。レイノスさんがこの階をブラついてるなんて珍しいね。何か用事でもあったのかい?」


 「あ……ああ。ちょっとここの図書室で調べ物があってね……」


 「そうかい……あっ、そうだ。今度家でドロシスの奴の誕生パーティをやるんだ。レイノスさんも是非来てくれよな」


 「お誘いありがとう、ブランティカ。特に用事がなければ是非伺わせて貰うよ」


 廊下ですれ違った際に不意に話し掛けてきたブランティカさんに私はいつもの自分とは違う口調で返事をする。


 今の私は表面上はマスターの従者のアイシアではなく、メノス・センテレオ教団の幹部の中でも最上位の地位に就くレイノス・マーシーであるのだから周りの者に私が憑依していることに気付かれないようそれらしく振る舞わなくてはならない。


 レイノスさんはとても器の大きい人物で部下に対してもいつも大らかな態度で接していた。


 その為他の信者からの人望も厚く、だからこそ教団内においても高い地位を与えられたのだろう。


 一週間掛けて調べたレイノスさんの素行をもう一度頭の中で復習しながら私は下の階へと続く階段のある場所へと向かって行く。


 階段の前には以前に侵入を試みようとした時と同じダドリーさんとミルティーさんが警備として立っていた。


 「これはこれはレイノスさん。どうぞお通り下さい」


 「………」


 「どうかされましたか?、レイノスさん」


 レイノスさんとなった私をダドリーさんとミルティーさんは何の疑いもなく先へと通そうとする。


 しかし快く道を空けて貰えたにも関わらず階段を前にして私は意味深な表情を浮かべて立ち止まってしまっていた。


 ここから下の階には霊の侵入を妨げる為の結界が張られている。


 クロイセン神父との訓練で結界を視覚で捉えられるようになった私の目に階段の前に張られた青白く透き通った膜が映っている。


 以前に知らずに侵入を試みようとした時は全身に電流が走ったような痛みが走り強い力で外へと弾かれてしまった。


 結界の張られている階段を前にその時の記憶が蘇り先へと進むことを思わず躊躇してしまう。


 憑依した状態なら問題なく通り抜けられるとクロイセン神父は話していたが本当に大丈夫なのだろうか。


 一応クロイセン神父の体に憑依した時に同系統の結界を用意して貰って侵入を試した時には何の問題もなかったのだが。


 いつまでもこうしていてはダドリーさんや他の警備の者達に怪しまれてしまう為、私は一度深呼吸をした後マスターから託された使命を強く自分に言い聞かせて階段の最初の段差へと足を踏み出していく。


 「あ……ああ。何でもないよ。只ちょっと忘れ事をしているような気がして気になってただけさ。それじゃあ通らせて貰うよ……」


 ゴクリ……っ!。


 緊張のあまり憑依した思わずレイノスさんの体の喉を鳴らしてしまう。


 不安で一杯の中怪しまれないよう不自然のない足取りで一歩一歩階段の段差を下りていくが特に結界の影響を受けている様子はない。


 どうやら無事これまで立ち入りの許されていなかったエリアへと侵入することができたようだ。


 地下5階から地下6階へとやって来た私は早速何かメノス・センテレオ教団の不正の証拠や、『味噌焼きおにぎり』の者達の秘密が隠されているような怪しい場所がないか階段を下りてすぐの大広間の巨大な柱に設置されたフロアマップを確認して探す。


 しかし怪しい場所を見つける前に私はそのフロアマップに描かれているこの階層の広さに驚かされた。


 このフロアマップを見る限りこの階層はマスターの部屋のある地下5階よりも更に広く2平方キロメートル程はある。


 これではエリア内を全て歩いて回るだけでも1時間以上も掛けてしまうことになりかねない。


 私は一先ずこの階層内で一番怪しいと思われる資料室を目指して向かって行った。


 「ヴァーリー暦233年――3月24日、教団内に魔法戦闘部を結成。同年3月27日、魔法戦闘部にて初めてとなる戦闘訓練を実施。担当者はブランカ・ティーグレ。同年4月……はぁ……駄目だ。このような活動記録をいくら読んだところでマスター達の求める情報など見つかりはしません。全ての資料に目を通すことができれば或いは何か目ぼしい資料があるやもしれませんが私にはそのように悠長に探索している時間は……」


 資料室についた私は取り敢えず活動記録の項目の棚に置かれている資料を読み漁っていたのだがこれといって目ぼしい情報は見つからなかった。


 できれば全ての資料に目を通したいところだが、何十列にも及ぶ棚に詰められた膨大な量の資料があってはざっと目を通すだけでも1日以上は掛かってしまう。


 クロイセン神父の体で行った私の憑依訓練の最長の持続時間は約6時間程度。


 限られた時間内でより有益な情報を得る為にも私は資料室の探索を打ち切りまずは施設の一番下の階層を目指すことにした。


 通常の思考で考えればより深い階層に行くほど重要な情報が隠されているはずだ。


 「ふぅ……どうにか地下10階まで辿り着くことができたようですね。事前の聞き込みではどうやらここが最下層となっているようですが……」


 事前にマスターと共に自分達より下の階層までの立ち入りが許可されている者達に対し聞き込みを行ったのだが、教団から緘口令かんこうれいが施行されているのか皆口が堅く中々正確な情報を得ることができなかった。


 この10階が最下層というのも濁された回答から憶測で判断しているだけのものもしかしたらまだ下の階層が続いているかもしれない。


 そのことを確認する為に私はまずこの階層のフロアマップを見に向かった。


 フロアマップを見るとやはり更に地下へと続く階段の場所が表記されている。


 自分の今いる位置と照らし合わせてしっかりと場所を確認しその階段から更に下の階へと行こうとしたのだが……。


 「おっとっ!、レイノスさんっ!。ここから先は教団内でも極一部の者しか立ち入りが許可されていないエリアですぞ。いくらあなたでもお通しすることはできませんっ!」


 「えっ……お……おおっ!。これは済まなかった。階を1つ数え間違えてしまっていたらしい。っということは今いるここが10階でいいのだったな」


 「そうですよ。こんな夜遅くまで毎日働かれて疲れが溜まっているのではないですか。偶には休暇を取ってゆっくりと休まれて下さい。最近ウィンドベル村に南にある

オーロンの村で質の良い温泉が噴き出したという話ですから是非行ってみては如何ですが」


 「あ……ああ……そうだな。無事休暇が取れたら行かせて貰うことにするよ」


 あ……危なかった。


 どうやらレイノスさんが自由に立ち入りが許可されているのはこの地下10階までだったようだ。


 しかしウィンドベル村に滞在している信者の中では一番位が高いはずのレイノスさんでさえ立ち入りが禁じられているエリアがあろうとは。


 これはメノス・センテレオ教団の不正を暴く為の重要な手掛かりがありそうだがどうやって先へと進んだものか。


 この施設に張られている結界はあくまで霊体の出入りを妨げる為のものであり、一度結界の中に入ってしまえば憑依を解いて霊体の状態で自由に動き回ることができるとのことだ。


 しかしこの地下10階まで進んで来て必ずその階を隔てるごとに新たに結界が張り直されていた。


 先程地下11階の階段の前へを見てきたがこれまでと同様に結界が張られており、この10階で憑依を解いたとしても先へと進むことはできない。


 つまり霊体となればその階層内のエリアであれば誰にも目視されず自由に動き回れるが、他の階層への移動はできなくなってしまうというわけだ。


 そのことを考えると憑依を解くとするならばなるべく目的の階層へと進んでからにした方が良い。


 ここは一先ずレイノスさんに憑依した状態のままこの階層の別の場所を探索してみるか。


 そう考えた私はまたこの階層のフロアマップを確認しに大広間へと向かって行く。


 「えー……模擬戦場に闇属性高位魔法研究所、それに大聖堂とは……。教会の地下の施設に更に教会があるというのも今思えば変な話ですね。しかしこの馬車乗り場とは一体何なのでしょう。まさか施設の中を運行する馬車があるというのでしょうか。まぁ、これだけ広い施設ならそのような物が整備されていても不思議ではありませんが」

 

 一通りフロアマップを確認してみたがやはり特に目ぼしい情報が得られそうな場所の見当は付かなかった。


 しいて言うならこの階層の西側にあるLv5以上幹部専用会議室という場所ぐらいだろうか。


 幹部の中でも選りすぐりの者達専用となれば余程重要な会議を行っているはずだが……。


 「このLv5以上幹部専用会議室に侵入することができれば重要な会議をしているところ盗み聞きできたりするのでしょうか。今の時間に会議をしているとも思えませんが取り敢えず覗きに行って見ましょう。もしかしたら室内に残された資料から会議の内容が憶測できるやもしれませんしもしかしたら会議を行っている可能性もあります。会議には参加できずともこのレイノスさんに憑依した状態なら会議を終えて出て来た者達から内容を聞き出すことができるかもしれません」


 フロアマップを確認した私はLv5以上幹部専用会議室と表記された場所へと向かって歩いて行く。


 その道中ふと改めて辺りが気になって見回してみたのだが、もう深夜近くの時間だというのに大勢の者達が施設内をウロついている。


 それも皆ウィンドベル村ではまるで見覚えのない顔の者達だ。


 もしやこの者達は地上へと出ることなくずっとこの地下の施設で暮らしているのだろうか。


 1つ階層だけでも街1つ分くらいの広さはあり、住居や食料の供給等生活に必要な設備は全て整っているようだし可能性は高い。


 今私が歩いてる廊下も街の大通りとも思えるような幅があり、両側には飲食店や魔法を利用して上映する映画館、更には雀荘等色々な娯楽施設が建ち並んでいることから地上の街と全く変わらぬ暮らしができるであろうことが想像できる。


 これなら地下での生活がストレスになるようなこともないだろう。


 「さて……そろそろLv5以上幹部専用会議室が見えてくるは……っ!。あ……あれはっ!」


 「今日は夜遅くまでご苦労様でした、皆さん。部屋に帰ってゆっくりと休まれ下さい。ベンとディックは引き続き私に同行を。明日はアスラルファの街で仕事の予定があるので11階層で用を済ませた後そのまま共に地下から馬車で向かいましょう」


 「畏まりました」


 「あ……あれはブランカに間違いありませんっ!」


 廊下を歩く私の前にLv5以上幹部専用会議室の扉からなんと『味噌焼きおにぎり』の【転生マスター】の1人、CC4ー22の転生しているブランカ・ティーグレが姿を現した。


 私とマスターはヴェント、SALEー99、そしてCC4ー22のするブランカ、『味噌焼きおにぎり』の幹部の者達がなるべくこの本部のあるウィンドベル村を離れてる日を選んで今回の侵入作戦を決行に移したはずだ。


 1週間前確かにブランカはここから遠く南のビルルンテの街を目指してウィンドベル村を出立していた。


 ブランカの帰還は3週間後の予定になっていたはずだがスケジュールを繰り上げたのだろうか。


 しかしそれにしてもこの施設の地上にあるウィンドベル村でブランカが帰還したという知らせは受けていないし、そもそもマスターと私達がそのような重大なことを見逃すはずがない。


 もしやこの教会の地下の施設はビルルンテの街や他にもウィンドベル村を遠く離れた場所にまで通じているのではないだろうか。


 遠くからであったが今確かにブランカの口からアスラルファの街に地下から馬車で向かうという話が聞こえてきた。


 もしこの地下施設が他の街があるような場所まで通じているのならウィンドベル村で見覚えのない者達が数多くいた説明もつく。


 先程のフロアマップにも馬車乗り場という表記があったし、確か階段を下りた先ではなく同じ階層内を進んだ先に別のエリアがあるという記載もされていたはずだ。


 その先のエリアとは別の街からこの地下施設へと通じた場所ということなのだろう。


 この地下施設を利用してヴァリアンテ王国の領内中を……いや。


 もしかしたらそれ以上の範囲の場所をメノス・センテレオ教団の者達は縦横無尽に駆け回り各地で活動を行っているのかもしれない。


 この地下施設の規模は我々が想像していたものよりもずっとずっと広大だ。


 これでマスターに報告すべき情報が1つだけでも得ることができた。


 最もメノス・センテレオ教団の者達がこの地下施設を利用して世界中を飛び回っている可能性があるというだけではまだまだ収穫としては不十分なのだが……。


 「おや……?。これはレイノスではありませんか。一体このような時間にこんな場所をうろついてどうしたのです。あなたの勤務はもうとっくに終えている時間のはずでしょう」


 ま……マズい。


 メノス・センテレオ教団の本部のあるウィンドベル村に勤務しているというだけあってレイノスさんはブランカともそれなりに親交があったようだ。


 私が憑依しているとは気付かずにブランカの方から話し掛けられてしまった。


 ここでメノス・センテレオ教団の最高クラスの幹部にして『味噌焼きおにぎり』の【転生マスター】であるブランカに目を付けられては施設内の探索が一気に困難となってしまう。


 どうにか怪しまれないように応対したいが一体レイノスさんは普段ブランカに対してどのような態度を取っているのか。


 不意に訪れた窮地に酷く動揺する私を余所にブランカは何気ない様子で私の元へと歩み寄って来るのだった。

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