第78話 憑依作戦
「………」
ウィンドベル村の教会の地下にあるメノス・センテレオ教団の本部の僕の部屋。
そのベッド上に1人の男性が深く眠りについた様子で横になっている。
この端正な顔立ちで気品溢れる風貌の男性の名はレイノス・マーシー。
現在ウィンドベル村に滞在しているメノス・センテレオ教団のメンバーの中で一番位が高いと思われる人物だ。
立ち入り禁止のエリアへの侵入する為にアイシアの憑依する相手として僕達はこのレイノスさんを選んだ。
ちょうどこの近くの炊事室で1人で茶を淹れているところに気付かれないよう部屋の外から『注射器魔法』の魔法を注射器を『遠隔注射器』によって差し向け、淹れ終わった茶を飲んで一息ついたところを狙って協力に調合した睡眠薬を注入し眠らせた後他の者達に見られないよう僕の部屋へと運んで来た。
これで憑依が解けてもレイノスさんに僕達が疑われるようなことはないはずだ。
「さて……。それじゃあ準備はいい?、アイシア」
「はい。いつでもどうぞ、マスター」
「じゃあいくよ……」
ベッドに眠るレイノスさんを前に気を引き締めた様子のアイシアに向けて僕はメルクリオ注射器を構える。
これまでにアイシアと共に色々と憑依の訓練をやって来たのだけれど、僕の『注射器魔法』の魔法でアイシアを相手の体に注入すればより憑依の効果が高まることが分かった。
しかしアイシアの霊体のエネルギー量は肉体を持つ僕達よりも遥かに大きく、最大の抽出量を発揮できるメルクリオ注射器を使わざるを得ない程だった。
魔力を最大限に振り絞り、アイシアの霊体の全てをどうにかメルクリオ注射器へと抽出し収めることに成功する。
メルクリオ注射器の筒の中が淡く揺らめく青白い煌めきで満たされまるで神話の世界に登場する幻のアイテムでも手にしたような気分だった。
そんなアイシアの入ったメルクリオ注射器を今度はレイノスさんの右腕へと針を挿し、抽出したアイシアをレイノスさんに憑依させる形で注入していく。
すると次に目が覚めた時レイノスさんは……。
「………」
「(どう?、上手くいった?、アイシア)」
「はい。上手く憑依ができたようで完全にレイノスさんの体を掌握できています、マスター。ですのでもう普通に話して貰って大丈夫ですよ」
「ふぅ……良かった。それじゃあ憑依が解けない内に早速立ち入り禁止のエリアの調査に向かって貰えるかな、アイシア。この方法でクロイセン神父に憑依を試した時は最高で6時間程しか持たなかったし……。レイノスさんの抵抗力によってはもっと制限時間が短くなっちゃうかもしれないから気を付けてね」
「了解しました。それでは行って参ります」
「うん。頼んだよ……アイシア」
ベッドがゆっくりと起き上がったレイノスさんは姿形は変わらずとも中身は完全にアイシアへと変わってしまっていた。
無事レイノスさんへの憑依に成功したアイシアは僕の部屋を出てここより下の立ち入り禁止の階層へと続く階段へと向かって行く。
事前に入手した情報によるとここより地下には少なくともまだ5つもの階層があるようだ。
それだけ広い範囲から限られた時間内でメノス・センテレオ教団の不正を暴くだけの証拠、更には『味噌焼きおにぎり』の連中の進めている計画の情報を得るのはレイノスさんに憑依したことで堂々と立ち入ることができるとはいえ決して容易くはないだろう。
けれど肉体を持つ僕では警備に見つかってしまう可能性が高い以上アイシアを信じて任せるしかない。
アイシアが出て行った後の自分の部屋で僕はベル達と共にどうかアイシアが無事に帰って来てくれることを願っていた。




