第77話 クロイセン神父からの提案
「今アイシアさんと言ったけど……。君のその守護霊は本当に赤ん坊の頃に亡くなったという妹さんなのかい?」
つい油断してアイシアのことを口走ってしまった僕のことをクロイセン神父が追及してくる。
同じ名前でも別人だと言って誤魔化すこともできるだろうけどどうすべきか。
「そ……その前にクロイセン神父は霊の姿を見ることができるの?」
「ああ。私は幼い頃から霊感に長けていてね。例の姿形までハッキリと視認することができるんだよ」
「そ……そうなんだ。それは凄い能力だね」
恐らくは霊能力を高める系統の転生スキルを数多く、それも高Lvでクロイセン神父に転生している魂が取得しているということなんだろうけど霊の姿をハッキリと視認できる者はそうそういないだろう。
それ程の能力を持つなら変に誤魔化そうとするとクロイセン神父から疑念を抱かれかねない。
より密接な協力を図る為にもここは正直に話すことにしよう。
「なる程……。君がメノス・センテレオ教団に不信感を抱いていたのには蘇った自分の妹の魂が別人となっていることに気付いていたのもあったんだね」
「うん……。だけどヴェント兄さんがアイシアを生き返らせてくれたことには変わりないし最初の頃は普通に感謝してたんだけど……」
「それにしても生きている人間と同等の知性を有している守護霊とは珍しい。それもまだ赤ん坊の状態で亡くなってしまったのにも関わらずにだ。恐らく相当高貴な魂であるか、兄であるヴァン君を守ろうという思いが余程強かったのだろうね、アイシアさん」
「さぁ……。私の魂が高貴であるかどうかは分かりませんが兄を思う気持ちは何よりも強かったと思います」
「しかし我々と普通に会話ができる程の知性を持つ霊が仲間がいるのならばこのメノス・センテレオ教団の本部の立ち入り禁止となっているエリアにも容易く侵入できるのではないのかい?」
「姿の見られない上に障害物もすり抜けられるアイシアなら誰にも気付かれることがないだろうってことでしょ。でも残念。このメノス・センテレオ教団の地下施設には霊の侵入を遮断する結界が張られていてここより下の階にアイシアは行くことができなくなっているんだ」
「では誰かに憑依する方法は試してみたかい?」
「えっ……。憑依……だって」
守護霊となったアイシアが生身の体を持って生きる僕達と普通に会話ができていることにクロイセン神父は豪く驚いた様子だった。
霊体となった者は生前に肉体を持っていた時と同等の知性や意識を有することができず、死に際に強く思いを抱いたことや生前の未練に関してのみほとんど無意識で行動するような状態となるのが通常らしい。
僕の守護霊となったアイシアで謂えば本来なら直接僕に危害を加えられるようなことから守護することはできても、霊体である利点を活かしての情報収集などはできないということだ。
もし【転生マスター】としての力がなければ今頃はアイシアもこのような会話などせずに只僕を守ることのみをプログラムされた機械のような存在となってしまっていただろう。
勿論そうであったとしてもそこにはしっかりと従者として主である僕の身を案じる強い思いがあるだろうが。
そんな守護霊でありながら【転生マスター】としての力を持つアイシアに対してクロイセン神父は憑依という手段を提案してきた。
憑依と謂えば相手に乗り移って精神と肉体を支配するような恐ろしいイメージを思い浮かべるが一体どういう意味なのだろうか。
「憑依って……。それってつまり霊体のアイシアを他の誰かの体に乗り移させるってこと?」
「ああ。教団内で高い地位にある者の体に乗り移ることができればここより下のフロアにも侵入者としてではなく立ち入りを許可されている者として堂々と乗り込むことができるはずだ」
「でも憑依したからって立ち入り禁止のエリアに張られている結界を通り抜けることができるの?」
「憑依相手の体に上手く自分の魂の馴染ませることができれば大丈夫なはずだ。肉体を持つ我々と同等の知性を持つアイシアさんなら十分可能だろう。勿論多少の訓練は必要だろうが……」
「ってクロイセン神父は言ってるけど……アイシア自身はどう思う?」
「私自身は他者に憑依するなど考えたこともありませんでしたが、メノス・センテレオ教団の情報を得るのに役立てるのであれば是非やってみたいです。ですができればぶっつけ本番というのはよして頂きたいです」
「それは……そうだよね。クロイセン神父も訓練は必要と言っていたし……。だけど僕としてはアイシアにそんな危険な真似はあんまりさせたくはないな……」
「いえっ!。メノス・センテレオ教団に立ち向かう為ならどのような危険も冒す覚悟ができているので是非やらせて下さいっ!、マス……じゃなくてヴァン兄さん。それにやはり肉体を持つヴァン兄さんやクロイセン神父より霊体である私の方がより安全に侵入できると思います。万が一不測の事態が起きたとしても憑依を解いてその者の体から抜け出せば霊体である私自身が捕まるようなことはないと思いますし……」
「そっか……」
「(ベル達はどう思う?。クロイセン神父の言った作戦でアイシアに任せてみても大丈夫かな?)」
「(大丈夫かどうかは分からないけどアイシアに任せられるならそうした方が良いと思うなの。やっぱり肉体を持つを僕達じゃあ警備の目を搔い潜るのは大変だし。クロイセン神父と鉢合わせたことで中断してしまったけど仮にあのまま侵入を決行して下の階に行けたとしてもその先の立ち入り禁止のエリアがどこまで続いているかも分からないなの。もし更に2階も3階も地下にフロアが続いているようだったら僕達では見つからずに探索することは不可能なの)」
「(不可能なの)」
「(なる程……確かにその通りだね。ならここはクロイセン神父の提案に乗ってアイシアに任せてみることにしようか)」
その後僕は正式にクロイセン神父と協力関係を結び、アイシアの憑依による侵入作戦を遂行することとなる。
しかし憑依の経験がないアイシアにいきなり作戦を遂行させるのは危険だ。
施設内の侵入者騒ぎは中々収まることはなかったが、『注射器魔法』の魔法を駆使してどうにか無事この場をやり過ごすことができた僕達は翌日からアイシアの憑依の訓練、更には憑依相手の選定など入念に計画の準備を進めていく。
そしてそれから1か月程が経過し僕達が再び立ち入り禁止のエリアへの侵入を決行する日がやって来た。




