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第76話 クロイセン神父の正体

 「………」


 「黙ってないで早く答えてよ、クロイセン神父。あなたは何故危険を冒してまで立ち入り禁止のエリアに侵入しようとしたの?。初めに言っておくけど嘘をついても無駄だからね。僕の『解析注射器アナリシス・シリンジ』でクロイセン神父の体の反応を把握しておけば嘘をついているかどうかなんて一発で見破ることができる。一度でも嘘をついていると判断したら僕特製の自白剤を使わせて貰うから覚悟しておいて」


 「はぁ……分かったよ。どうやら正直に話すしかないようだ。だけどどうしても答えるわけにはいかないものは答えられないと返事をさせて貰うが構わないね」


 「うーん……まぁ、一先ずはそれで構わないよ。話せることだけ全部正直に話して」


 小人となった今の姿では僕に太刀打ちできず、事前に多少の脅しを掛けておいた甲斐もあってクロイセン神父は嘘をついてない様子で僕の質問に答えてくれた。


 『解析注射器アナリシス・シリンジ』で質問に答えるクロイセン神父の肉体の反応を探り嘘発見器の代わりとして活用していたのだが、『地球』の世界のそのような機械とは比べ物にあらない精度でクロイセン神父の極僅かな肉体の反応の変化をも捉えることができる。


 人形と思えるくらいに感情を持たない者でなければ誤魔化すのは不可能な筈だ。


 返答の内容も嘘をついているにしては具体的だしこの様子なら自白剤まで使う必要はなさそうだ。


 「ええっ!。それじゃあクロイセン神父はミーズ・ニーズ教団のスパイとしてメノス・センテレオ教団にやって来てたのっ!」


 クロイセン神父の口から明かされた衝撃の事実。


 なんとクロイセン神父はあのミーズ・ニーズ教団のスパイとしてメノス・センテレオ教団に侵入していたというのだ。


 ミーズ・ニーズ教団と謂えばヴァリアンテ王国内でメノス・センテレオ教団に次ぐ宗教勢力で、この前の合同部隊への招集でその信者の1人であるアルバニア・ブルーアイという女性と出会っている。


 確かにブルーアイはその時もヴェントや僕達に対し露骨なまでに敵対的な態度を示していたがまさかスパイまで送り込んできていようとは。


 立ち入り禁止のエリアに忍び込もうとしたのもメノス・センテレオ教団の内部情報をより探る為だったようだ。


 ミーズ・ニーズ教団も先日僕がBS1-52君から聞かされたようなメノス・センテレオ教団の不正な行いを把握していて、僕達と同じくそれらの証拠を掴むことでメノス・センテレオ教団断罪に向けてヴァリアンテ王国を動かそうとしていたらしい。


 「なる程……。一年も掛けて敵側の神父にまで上り詰めるなんて凄い執念だね。それも僕達の教団の本部のあるこの村に配属されるなんて……。でもどうして苦労して僕達の教団の信用を得たのに一発で台無しにしてしまうような真似をしたの?」


 「これ以上メノス・センテレオ教団の勢力が拡大するのを見過ごしてはいられないからだ。このままではいずれこの国は奴等によって完全に牛耳られてしまうだろう」


 「えっ……。でもクロイセン神父達のミーズ・ニーズ教団はメノス・センテレオ教団に次いで第2位の宗教勢力のはずでしょ。そんなに焦る程メノス・センテレオ教団と勢力差があるの?」


 「残念ながら……。人というのは目先の利益に捉われやすい。ヴァリアンテ王国の要人達も着々と連中の参加に取り込まれていて既に国政にまで干渉する程多大な影響力を手にしている。中立な立場にある者達も領内の統治に大きく貢献しているメノス・センテレオ教団を敵に回すような真似はしたくないのさ。状況を逆転するには奴等の裏の顔を皆の前で知らしめるしかない」


 「そうか……。それでクロイセン神父はミーズ・ニーズ教団の誰の指示で動いてるの?。他にメノス・センテレオ教団にスパイとして潜り込んでいる人もいたりするのかな?」


 「悪いが私以外の者については君が本当に信頼に値すると判断できるまでは答えることはできない。どうしても喋らせたければどうぞ君特製の自白剤とやらを使ってくれ。最も情報を話す前に私は自身に死の魔法を掛けてあの世へと去らせて貰うがな」


 「くっ……分かったよ。なら今度は僕がクロイセン神父の質問に答えるから聞きたいことがあるなら何でも聞いて」


 「では教団のトップの親族であるはずの君が何故私を助けるような真似をしたんだ。只の優しさだというなら今からでも遅くはない。私を連中へと差し出すんだ。もし万が一私を庇っているところを見つかってしまったら子供と謂えど教団の者達は君に容赦はしないだろう。私などの為に君のような子供が危ない橋を渡る必要はない」


 「クロイセン神父の方こそ優しいんだね。でも心配しないで。メノス・センテレオ教団を打倒す為に身を危険に晒す覚悟ならとっくにできてるから」


 「そうか……。しかし何故君が身内がトップを務める教団のことをそこまで敵視すると謂うんだい?」


 「それは……」


 まだ完全に信用したわけではないがクロイセン神父が善人であると判断した僕はメノス・センテレオ教団について知っている情報を僕が【転生マスター】だと疑われてしまないよう粉飾を加えて話した。


 多少話に辻褄が合わない点も出てしまっているかもしれないがどうやら僕が本気でメノス・センテレオ教団のことを敵視していると分かって貰えたようだ。

 

 「なる程……。では君はそのウィザークという魔族から今は生き返ってはいるが妹のアイシアさんが殺された事実を知り教団を敵視するようになったんだね」


 「そうなんだ……。生き返らせる手段があったとはいえ教団の信頼を高める為に自分の家族の命を奪うような真似をするなんて許せないよね」


 「(我々と同じくメノス・センテレオ教団に敵対する者とはいえ侵入者の真似をした者に我々について情報を軽々と話してしまってよろしいのですかっ!、マスターっ!。あたかもメノス・センテレオ教団の悪事を暴くような口振りで話していますがこの者の所属するミーズ・ニーズ教団とやらがメノス・センテレオ教団と違って信用できる組織だという保証はありませんっ!)」


 「(いや、確かにミーズ・ニーズ教団のことは分からないけどクロイセン神父自身は信用できる人物だと思う。僕の質問にも嘘偽りなく答えてくれていたみたいだし。その癖仲間の情報のこととなると徹底的に口を閉ざしていて、子供の僕の身も案じてくれていたし善人であることは間違いないよ。思わぬ形で僕達と同じメノス・センテレオ教団と敵対する人物が現れてくれたわけだしここはクロイセン神父を味方につけた方が得策だと思う)」


 「(僕達もLA7-93に賛成なの。どの道僕達だけでメノス・センテレオ教団、ひいては『味噌焼きおにぎり』の連中に立ち向かうのは難しいと考えていたところだしこの際クロイセン神父を通じてミーズ・ニーズ教団と手を組むことも考慮に入れてみるべきなの)」


 「(考慮に入れてみるべきなの)」


 「(しかしクロイセン神父はともかくとしてまだミーズ・ニーズ教団が同じように善良な組織と決まったわけでは……)」


 「(だとしてもメノス・センテレオ教団に立ち向かう為に利用する選択もあるという話なの。完全に善良な組織など早々あるものではないし高望みばかりしていられないなの。勿論ミーズ・ニーズ教団がメノス・センテレオ教団よりあくどい組織だとしたら話は変わってくるけどなの)」


 「(変わってくるけどなの)」


 今のベル達の話にもあった通り僕はこの機会にクロイセン神父を通じてミーズ・ニーズ教団と協力してメノス・センテレオ教団に立ち向かうことを考えていた。


 アイシアの心配する通りまだミーズ・ニーズ教団が信頼できる組織だと決まったわけではないけど、こうしてスパイを送り込んでまでメノス・センテレオ教団と敵対している以上ヴァリアンテ王国により遥かに協力を仰ぎやすいだ。


 何よりメノス・センテレオ教団に次いで第2位の宗教勢力であるミーズ・ニーズ教団を味方にすることができれば戦力差の問題も一気に解決する。


 一先ずクロイセン神父からミーズ・ニーズ教団の情報も聞き出したいところだけどクロイセン神父の方も完全に信用を得るまではミーズ・ニーズ教団に関する詳細な情報は教えてくれなさそうだ。


 「そうかい……。君も子供ながら既に壮絶な人生を生き抜いてきたんだね。ところで私を助けたことや教団には関係なく、さっきから君についてずっと気になっていたことがあるんだが……」


 「んん?。別に気なることがあるなら何でも聞いてよ」


 「君自身が認知しているかどうかは分からないんだが……。君の傍をずっと離れずについて回っているその赤ん坊の霊は君の守護霊なのかい?」


 「えっ……クロイセン神父にはアイシアのことが見えているのっ!」


 「(マスターっ!、いけないっ!)」


 「アイシアだって……。それってもしかしてさっき話していた赤ん坊の頃に一度殺されたという君の妹のことなんじゃあ……」


 「(あっ……し……しまったっ!)」


 「もしそうなら生き返ったはずの人物の霊体が何故まだ……」


 不意の質問に対しつい守護霊となったアイシアについて僕が認知しているようなことを発してしまった。


 自分の傍にいるからといって霊の存在を認知できていなくても何ら不自然はないのだから知らない振りをしていれば良かったのに……。


 だけどなぜ基本的に僕にしか姿が見えないはずのアイシアのことがクロイセン神父にも認知されてしまったんだ。

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