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第75話 人間の抽出

 「ク……クロイセン神父っ!。一体何故……」


 「………」


 立ち入り禁止のエリアへの侵入を決行した矢先に出会ってしまった自分以外の侵入者。


 互いに予期せぬ出会いだと謂わんばかりに僕とクロイセン神父は視線を合わせたまま硬直してしまっていた。


 「何だっ!、今の声はっ!」


 「上の階からだぞっ!。早く確認に向かおうっ!」


 「や……ヤバい……。下の階の警備の人達が来るっ!」


 僕達のとどまる階段に異変を察知した下の警備の者達が向かって来る気配がする。


 自身も侵入を試みようとしていたこともあり思わず動揺してしまっているが、現状の僕は侵入者であるクロイセン神父を捕えた立場にある為警備に見つかったところで問題はないはずだった。


 しかしこのままクロイセン神父をメノス・センテレオ教団に差し出して良いものだろうか。


 一体何故クロイセン神父がこのような真似をしたのか気になった僕は警備の者達が上がって来る前に急いで……。


 「クロイセン神父っ!、こっちっ!」


 「えっ……」


 「いいからっ!。教団の連中に見つかりたくなかったら僕の後について来てっ!」


 「わ……分かったっ!」


 下の階から警備の者達が上がって来る前に僕はクロイセン神父を連れてその場を去って行く。


 しかし5階の警備に当たっていたダドリーさんとミルティーさんはクロイセン神父に気絶させられ地面に倒れたままの状態だ。


 僕達の姿は見られずとも何者かが侵入を試みたことは瞬く間に知られてしまうだろう。

 

 「こ……これはっ!。おいっ!、大丈夫かっ!、ダドリーっ!、ミルティーっ!」


 「う……うーん……」


 「くっ……一体誰がこんな真似を……。直ちに警備全員に知らせてこのフロアを隈なく捜索させろっ!」


 「了解しましたっ!」


 すぐさま侵入者の捜索が開始されるだろうし急いでクロイセン神父を何処かへと隠さないと……。


 一番見つかる可能性が低い場所となるとやっぱり僕の部屋へと連れて行くしかないか。


 「さぁっ!、早く入ってっ!。クロイセン神父っ!」


 「あ……ああ……」


 急いで帰って来た自身の部屋へとクロイセン神父を迎え入れる。


 取り敢えず椅子に掛けて貰ったのだが、クロイセン神父の方も事態が飲み込めずに落ち着きのない様子だ。


 教団の幹部、それも教皇にして神の子であるヴェントの実の兄弟である僕が何故侵入者である自身を庇うような真似をするのか不思議でならなかったのだろう。


 「き……君は確かヴァン君……っと謂ったよね。メノス・センテレオ教団の教皇の実の家族である君がどうして侵入者である私のことを……」


 「しっ!。色々と疑問に思う気持ちは分かるけど今は静かにしてっ!。侵入があったことがもう知れ渡って外で警備の人達が探し回ってるみたいだから。クロイセン神父はこの階にも立ち入りが許可されていないはずだし見つかったら一発で侵入者だと思われちゃうよ」


 「(ですがマスター。警備の者を2人も襲うような真似をした以上いずれは我々の部屋の内部まで調べに来るのではないでしょうか)」


 「た……確かにその通りだね。でもそうなったら一体クロイセン神父を何処へ隠せばいいのやら……。ベッドの下とか布団の中なんかに隠れたところですぐに見つかっちゃうだろうし……こうなったらっ!」


 「……?」

 

 「これからクロイセン神父を僕の魔法で隠そうと思う。だけどかなり危険な方法でもしかしたらクロイセン神父の命に関わるかもしれないんだ。でも確実に教団の者達からクロイセン神父を隠し通すにはこの方法しかないしどうか僕のことを信じて欲しい」


 「ヴァン君……」


 「………」


 「分かった……。君が私を助ける理由については未だに見当がつかないが今の私に頼れるのは君しかいない。どうとでも好きにしてくれ」


 「よ……よしっ!。それじゃあベッドに横になってジッとしてて」


 僕の指示に従ってベッドに横になってくれたクロイセン神父を前に僕は『注射器魔法シリンジ』の魔法によって1本の注射器を生成する。


 僕が思い付いた方法とはそう。


 この『注射器魔法シリンジ』の魔法の注射器にクロイセン神父を抽出するというものだった。


 注射器の中へと抽出することができればクロイセン神父の姿は外界からは完全に消えて無くなり警備の者達に見つかることはほぼなくなるはずだ。


 しかし問題なのはこれまでに『注射器魔法シリンジ』の魔法により生きた生物を丸ごと抽出した経験がないということだ。


 一応人間やそれ以上のサイズの生物を注射器へと抽出し持ち運ぶことも想定して魔法を設計しているが実際に試行するのはまだまだ先の段階となるはずだった。


 けれども今更クロイセン神父を差し出したところで僕も共に疑われてしまう可能性が高い以上やるしかない。


 ベッドに横になるクロイセン神父の右腕へと注射器の針を挿し、『抽出エキストラクト』の能力を発動させる。


 「……っ!。こ……これは……っ!」

 

 「動かないでっ!。途中で『抽出エキストラクト』の能力が中断してしまったらクロイセン神父の肉体が崩壊してしまう可能性もあるからっ!」


 僕の『抽出エキストラクト』の能力が発動していく毎にベッドに寝転ぶクロイセン神父の肉体がどんどんと収縮していく。


 既に最初の半分以下、子供の僕よりも小さい程の姿になってしまっていた。


 そのまま抽出を続けていくと共にクロイセン神父の肉体はその場から完全に消え去る。


 『解析注射器アナリシス・シリンジ』で抽出したクロイセン神父の状態を確認てみるがどうやら通常の肉体の状態を保った上で無事生存しているようだ。


 「ごめんっ!、ヴァン君っ!。ちょっといいかなっ!」


 「あっ……はいっ!」


 クロイセン神父を抽出し終えた直後、慌てた様子で扉を叩いて教団の警備の人が僕の部屋を訪ねて来た。


 怪しまれることのないよう僕はすぐに扉を開けて出迎えなるべく自然な振る舞いを心掛けて応対する。


 「実は先程ちょっとした騒ぎがあって……。実は何者かがこの施設内へと侵入して来たみたいなんだ。ヴァン君は誰か怪しい人物を見かけたりしてないかな?」


 「いえ……。ずっと部屋に居たので僕は何も……」


 「そうかい……。疑ってるわけじゃないんだけど一応部屋の中を調べさせて貰っても構わないかな。中には侵入者によって怪我を負わされた者もいるのでね」


 「構いませんよ。だけど確かに何度かトイレに出て留守にしたけど誰かが部屋に侵入してるなら気付くと思うけどな……」


 「まぁ、用心に越したことはないってことで……。それじゃあちょっと失礼させて

貰うよ」


 割と念入りに部屋の中を調べられたが怪しまれるような物はなく、一言謝罪の言葉を言って警備の人は部屋から去って行った。


 一応許可が出るまで部屋から出ないように言われてしまったがこれで暫くは僕の部屋が怪しまれることはないだろう。


 警備の者が部屋から遠ざかったのを確認して僕は抽出したクロイセン神父を外界へと放出していく。


 「ふぅ……まさか注射器の中に入れらるとは不思議な感覚だったよ。ってあれ?。

また無事に外に出られたのはいいんだけどなんだか僕の体滅茶苦茶小さくなっ……うわぁっ!」


 僕の方を見上げたクロイセン神父が驚きの声を上げているがそれもそのはず。


 無事外界へと放出されたクロイセン神父だがその姿は人の手の平と同じぐらいの大きさしかない。


 まさに童謡に出てくるような小人の姿でクロイセン神父は僕の机の上にちょこんとした感じで立っていた。


 そんなサイズで見上げる僕の姿は巨人のように見えていただろうから驚くのも無理ないことだ。


 先程はなんとか誤魔化すことができたがいつまた警備の者が僕の部屋を訪ねてくるか分からない。


 万が一の時に備えてなるべく隠れやすいよう僕はクロイセン神父の肉体の一部だけ放出することでこの小人サイズのクロイセン神父を生み出したんだ。


 残りのクロイセン神父の肉体はまだ僕の注射器の中に収容されていて小人となったクロイセン神父に注入することで元のサイズへと戻すことができる。


 万が一クロイセン神父の残りの肉体を抽出している注射器が破壊されてしまった場合クロイセン神父は今回の人生を一生この小人の姿で過ごさなければならなくなってしまうのだが。


 「また誰かが訪ねて来て見つかったらマズイし悪いけど暫くはその小さな体のままでいて、クロイセン神父。後でちゃんと元のサイズの体に戻してあげるから」


 「は……はぁ……。全く君はまだ子供だというのに恐ろしい魔法を使うねぇ……。まぁ、おかげで私は連中に見つからずに済んだわけだが……。それでそろそろ君が私を助けた理由を聞かせて貰えるかな?」


 「うん……だけど先に質問するのは僕達の方だよ。クロイセン神父は一体何者なの?。あんな危険を冒してまで立ち入り禁止のエリアへと侵入しようとしていた理由は?」


 「………」


 小人の姿となったクロイセン神父に僕は率直な疑問を投げ掛ける。


 一応助けはしたけど完全にクロイセン神父の味方をすると決めたわけじゃない。


 返答によってこの状況から敵対することも十分にあり得ることだ。


 僕は小人となったクロイセン神父の姿をジッと見ながらその返答を待つ。

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