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第73話 帰還後

 「フ~フンっ♪、フ~フンっ♪、フ~、フ~フンっ♪」


 朝の穏やかな空気の中、僕達の食卓にご機嫌な様子で朝食をするPINK-87さんの鼻歌が響き渡る。


 席に座って朝食が出来上がるの待つ間その鼻歌のリズムに合わせて首を振りながら一目で興味を引かされた新聞の1面に目を通していた。


 「デルトゥーカさんとスヴィェートさんが結婚するだってっ!。合同部隊で会った時は勇者同士互いにとても尊敬し合っているように見えたけどまさか結婚までするなんて夢にも思わなかったよ。人間の勇者と魔族の勇者のカップルなんてとっても素敵だね」


 デルトゥーカさんにより魔王アークドーが倒され、僕達メノス・センテレオ教団も招集された合同部隊が解散してから約半年が経過。


 魔王アークドー軍の脅威が無くなったヴァリアンテ王国内では平和な日々が続き、ウィンドベル村に帰還した僕も実家で平穏な日々を過ごすことができていた。


 一応はメノス・センテレオ教団の幹部である僕だが合同部隊への招集以降ヴェントから目立った仕事は回されていない。


 偶に行われるチャリティー活動にPINK-87さんやLS2-77の転生したアイシアと一緒に参加するくらいだ。


 自身とヴィンス兄さんことRE5-87君が教団の活動で忙しくしている手前、僕達にはなるべくPINK-87さん達の傍にいて欲しいと考えているのだろう。


 もうメノス・センテレオ教団の活動など糞くらえと思っていた僕にとっては好都合だ。


 BS1-52君から僕の魂の従者であるアイシアが殺されるきっかけとなった襲撃事件の事実を聞かされたことで僕がヴェントに対して僅かに抱いていた絆も砕け散った。


 最早『味噌焼きおにぎり』の連中と完全に敵対する覚悟も決まった僕だったが、依然として戦力の差は激しく、有意義な情報も得られていなかった為特に成果のある行動は起こせていなかったのだが少しは進展した点もある。


 「(よお、久しぶりだな、お前等)」


 「(こっちこそ久しぶり、BS1-52君)」


 この日僕は教団のチャリティー活動の為PINK-87さんや他の信者達と共に馬車で1日掛けてウィンドベル村から東に山を越えた先にあるゼルウィンドの街へとやって来ていた。


 そこで僕はBS1-52君との再会を果たす。


 再会と謂ってもこの街でBS1-52君と落ち合うのはこれでもう3度目だ。


 魔王アークドーが亡くなりその軍隊が壊滅した後無事もう一度会うことのできた僕達は正式に共闘を結び、こうして定期的に落ち合い情報交換を行っている。


 BS1-52君はSALE-99に顔を知られているというわけなので万が一にも2人を鉢合わせるわけにはいかず、メノス・センテレオ教団の本部がある僕達の村まで来て貰うのはあまりにも危険だ。


 だからBS1-52君と情報交換ができるのはこうしてチャリティー活動で別の街にやって来た時だけ。


 会話は全て【転生マスター】によるテレパシーで行い、一応互いの姿が確認できる距離までは接近するが直接面と向かって顔を合わせることはしない。

 

 僕は今街の一角にあるお洒落なレストランの屋外席でサンドイッチを摘まんでいるのだが、BS1-52君は通りを挟んだ向こう側にある書店で立ち読みをしている。


 教団のチャリティー活動の日程はその街にある教団の支部で誰でも確認できるのでヴェントやSALE-99、『味噌焼きおにぎり』の者達が同行して来ていないのを確認できた時だけBS1-52君から声を掛けて貰うようにしていた。


 LS2-77の転生したアイシアに至っては毎回のように同行している為仕方ないが今のところ僕達の密会に気付かれている節はない。


 「(どうだ。『味噌焼きおにぎり』の連中について何か新たな情報を入手することはできたか?)」


 「(ううん……。特には何も……。『味噌焼きおにぎり』の連中の更なる情報を得る為には恐らく教会の地下に行く必要があるんだけど警備がとてつもなく厳重で教皇の家族である僕も絶対に通しては貰えないんだ。LS2-77の転生したアイシアに関しては自由に出入りしているようなんだけど……)」


 「(その教会の地下が『味噌焼きおにぎり』の連中の密会場所になってるってことだな。他にも何か連中の秘密にしたい情報が隠されてるのかもしれねぇ。どうにか忍び込むことはできないのか)」


 「(今のところ難しそう。実は地下って謂ってもとてつもなく広い空間があるみたいで僕が立ち入りを許可されてるエリアだけでも地下5階までの階層があるんだ。しかも1つ1つの階層の広さが半端なくてそれだけでも地下100メートルぐらいの深さはありそう)」


 「(ち……地下100メートルだってっ!)」


 「(うん。おまけに1つの階の面積も僕達の村と同じぐらいの広さがあって……。一体いつの間にそれだけの空間を切り開いたのやら……)」


 「(そうか……。そんなに馬鹿デカイんじゃあお前1人で調べるのにも確かに無理があるな)」


 「(そうなんだ。立ち入りが許可されている範囲だけでもまだ3分の1くらいしか調査が進んでない。しかもどれだけ調べたところで表上公開されているような教団の資料しか出てこないし僕達の方は正直大分行き詰ってる。BS1-52君の方はどうなの?)」


 「(俺の方は各地でのメノス・センテレオ教団の活動を追ってるんだが表上は熱心な布教活動をしているぐらいで特に怪しい動きは見られない。だが確証のある情報じゃないんだが裏で色々とあくどいことをやってるって噂を聞いた)」


 「(えっ……あくどいことって一体どんな……)」


 「(俺達にお前等の村を襲わせたのと同じようなことだよ。デルトゥーカの奴が魔王アークドーを倒した英雄として迎え入れられたことでこのヴァリアンテ王国では俺達魔族も普通にお前達人間に混ざって暮らせるようになっただろ。だけど未だに俺達魔族を抹殺して人間だけが平和に暮らす世界を望んでいる奴等が少なからずいる。最近のメノス・センテレオ教団はわざとそういった奴等をけしかけておいて襲われてる連中を助けることで魔族の信者達を急激に増やしていやがるんだ)」


 「(くっ……自分達の勢力を拡大する為にヴェントやSALE-99達はまたそんなことを繰り返してるのか……)」


 「(更に自分達に敵対する教団に直接攻撃を仕掛けるような真似もしてるって聞いた。なんでもつい先日メノス・センテレオ教団の者と思われる黒い炎を操る男の率いる手勢によってファムレスペ教団が壊滅させられたらしい)」


 「(えっ……黒い炎を操るメノス・センテレオ教団の者ってもしかしてRE5-87君のことじゃあ……)」


 「(確か【地獄の業火(インフェルノ)】の転生スキルを取得しているお前のソウルメイトだよな。確かなことは言えないが【地獄の業火(インフェルノ)】を操れる奴なんてそうそういないだろうし可能性はあるだろうぜ)」


 「(そんな……。でもどうしてRE5-87君がそんな残虐な行いを……)」


 「(分からんがその場に居合わせたって言う奴に直接話を聞いたら襲って来た連中は全員白目を剥いたように瞳の色が失われていたそうだ。一切の言葉を発することなく淡々と相手を抹殺していきまるで感情を持たない人形が動いてるようだったと)」


 「(白目を剝いたように瞳の色が失われ……それはきっと洗礼の儀によるものに違いないよっ!)」


 「(洗礼の儀というと……。【転生マスター】であるお前には効かなかったっていう奴等の洗脳の魔法か)」


 「(うんっ!。きっとRE5-87君や他の皆も『味噌焼きおにぎり』の連中の洗礼の儀によって操られて自分では望まずそのような行いをしてしまったんだっ!。僕の大事なソウルメイトを洗脳してそんな残虐な行いをさせるなんて『味噌焼きおにぎり』の連中絶対に許せないよっ!)」


 「(ヴァリアンテ王国はメノス・センテレオ教団のそのような行いに対し何の対処もしていないのですか?)」


 「(一応攻撃を受けた教団の連中が国の執行部に訴えを出したようだが証拠不十分でお咎めなしとなってしまったようだ。ヴァリアンテ王国としても国内で一番の宗教勢力であるメノス・センテレオ教団を相手に揉め事を起こしたくなかったのか調査もすぐ打ち切られてしまったらしい)」


 「(こうなったら僕達で奴等の不正を暴くしかないよっ!。そうすればヴァリアンテ王国を動かして『味噌焼きおにぎり』の連中を叩き潰せるだろうし……。どの道僕達だけで『味噌焼きおにぎり』の連中に立ち向かうのはどう考えても無理があるからね)」


 「(だがどうやって奴等の不正を暴く……。今言った通りヴァリアンテ王国はメノス・センテレオ教団との関係を壊したくはないだろうから生半可な証拠を提示したところでもみ消されちまうぞ)」


 「(ヴァリアンテ王国が動かざる得ないと判断するだけの決定的な証拠が必要ってことだね。今のところそれだけの証拠を手に入れる方法は皆目つかないけどとにかく教会の地下の奴等のアジトの調査を続けてみるよ。あれだけ厳重な警備を敷いてるんだし確かな物証となるような物を保管してる場所があるかもしれないし……)」


 「お~いっ!、ヴァン~っ!」


 「(あっ!、LS2-77がやって来たっ!。残念だけど今日の情報交換はここまでだね。また次のチャリティーの時によろしく)」


 「(ああ。それじゃあ互いの調査が上手くいくことを願ってるぜ)」


 レストランの屋外席で食事を取る僕の元にLS2-77の転生したアイシアがやって来たところで今回のBS1-52君との情報交換は終了だ。


 万が一にも『味噌焼きおにぎり』の連中に存在を知られるわけにはいかないBS1-52君は早々とその場を立ち去って行く。


 LS2-77の転生したアイシアと共に昼食を済ませた僕は再びチャリティー活動へと戻りゼルウィンドの街の孤児院の子供達の為に炊き出しと魔法の授業をしてあげる。


 メノス・センテレオ教団の評判を上げるのに協力するのはしゃくだけど恵まれない子供達を前にして放ってはおけない。


 行く行くはメノス・センテレオ教団の信者となりヴェントやSALE-99達の都合の良い駒となってしまうと思うと居た堪れない気持ちになるけどせめて普通の家に生まれた子供と同等な環境は整えてあげないと。


 PINK-87さんの手料理を美味しそうに頬張り、僕の魔法の授業を興味津々な様子で受けてくれる子供達の姿はヴェント達仮初(かりそめ)の家族達の関係に疲れる僕の心を癒してくれた。

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