第72話 魔族にして勇者に転生した魂
「(デルトゥーカが勇者だって……。今確かに自分でそう言ったけど勇者に転生した魂が魔族としてこの世に生まれるなんてことあり得るのかな?)」
「(ここにいる皆は驚いてるようだけど特にあり得ないことではないなの。確定キャラとして各世界に設定されている勇者ならともかく、僕達の【転生マスター】と同じ隠しスキルである【勇者】の転生スキルによって勇者に転生する魂には特に種族などに制限があったりはしないはずなの)」
「(しないはずなの)」
各世界への転生を行った際に魂が勇者へと転生する為には2つの方法がある。
1つ目はその世界に勇者の確定キャラに設定されている器へと転生することだ。
確定キャラの勇者に転生する魂はその際の世界の以前の転生においてより相応しい行動を取った者の中から選ばれ、基本的にはその転生に参加している全ての魂が確定キャラの勇者へと転生することが可能だ。
上手くすれば僕やアイシアだって確定キャラの勇者に転生ことができる可能性はある。
けれど何億どころか何兆という中から確定キャラの勇者へと転生が許されるのは僅か数名の魂のみ。
実際に狙って確定キャラの勇者へと転生することはほぼ不可能といっていいだろう。
2つ目は僕達の【転生マスター】と同じく隠しスキルのページに記載されている【勇者】の転生スキルを取得することだ。
【勇者】
魔王から世界を救う力を持つ存在であり、闇の系統に属する以外あらゆる面で高いステータスを誇る勇者に転生することができる。
魔王討伐を第一の使命とし、世界の平和の為に勇敢に行動する。
一応正体を隠して普通の者達と変わらぬ、もしくは勇者らしからぬ悪の道に染まった人生を送ることも可能だが、性格も勇者に相応しい者に変化してしまうことがほとんどなので難しい。
上記が【勇者】の転生スキルの概要だが、確定キャラの勇者へと転生するのと違って確実に勇者への転生が可能になる上、確定キャラの勇者に設定されているような制限もなく自身の魂としての力を最大限発揮できる勇者へと転生することができる。
【勇者】の転生スキルの他に【炎術師】系統の転生スキルを高いLvで取得していた場合には火属性の関して高いステータスを持つ勇者に転生することが可能ということだ。
場合によっては勇者としての力も相まって火属性に関する特別な能力をも習得できるやもしれない。
勿論種族に関しても特に制限がなく、確定キャラの勇者は人間として転生するよう設定されていることがほとんどな為デルトゥーカが本当に勇者に転生しているとしたら後者の可能性の方が高いだろう。
これらの話は勇者だけでなく神の子や魔王に関しても当てはまることだが、『味噌焼きおにぎり』から情報を聞き出したことで【神の子】の転生スキルを取得しているヴェント以外に、今の目の前に首だけの状態になっている魔王のアークドー、それから今この場にいるヴァリアンテ王国が保有する勇者のスヴィェートが確定キャラと転生スキルのどちらによる転生を行ったものかは定かにはなっていない。
「馬鹿を言ってんじゃねぇっ!。勇者は俺達人間を魔王の手から救ってくれる存在だぞっ!。魔族として生まれたお前が勇者であるはずがないだろうがっ!」
「うむぅ……。ヴァリアンテ王国としてもそのような勇者の存在は把握できてはいないが……。自らも勇者であられるスヴィェート殿はどう思われますかな?」
「魔族ではありますが確かにデルトゥーカ殿からは清らかで正義に満ちた力が溢れているのを感じます。ですか本当に勇者かどうか確かめる為には確固たる証拠を見せて頂く方が早いでしょう。もしデルトゥーカ殿が勇者であると仰られるならばあなたも私のこれと同じ勇者としての紋章を見せて下さい」
「お……おおっ!。あれこそがスヴィェート様の勇者の紋章なのか……っ!」
「分かりました……」
いきなり服を脱ぎ始めて下着となり何事かと思ったらスヴィェートさんが僕達の前に晒け出した背中には柄から天使のような美しい羽を生やした剣の紋章が刻まれていた。
一目見ただけで勇者を証明する物だと分かる程の神々しいオーラがその紋章から放たれている。
それを受けたデルトゥーカも意味ありげな様子で自身の右腕の鋏の上側の大きい刃の背を僕達へと見せつけるのだが、そこには焼き爛れた後の傷跡のようなものがあるだけでスヴィェートさんのような紋章は見当たらなかった。
「何だ……。ちょっとした火傷っぽい跡があるだけで紋章らしき物は何もないじゃないか。やっぱりこいつが勇者だなんて只の出鱈目だよ」
「生まれたばかりの私にこの紋章が刻まれていることを知った私の母は私が勇者だと周りに気付かれないよう特殊な魔法で焼き消したのです。なんせ周りは魔王に味方する魔族ばかり……。まだ赤子の私が勇者だと知れれば瞬く間に殺されてしまいます」
「なんだ……。それじゃあ結局お前が勇者だと証明する術はないってことか。都合の良いこといってどうせその話も口から出任せを言ってるだけなんだろう」
「いえ……。来るべき時に備えて今は亡き母は私にこの傷跡を癒す魔法を授けてくれました。今私の勇者としての紋章を再びこの世に解き放ちます」
「うっ……うおぉぉぉーーーっ!。なんだ……この強烈な光は……」
デルトゥーカの右腕の鋏から僕達が目を開けていられない程強烈な光が放たれる。
眩んだの目の視界が元に戻った時、デルトゥーカの右腕の鋏には神々しいオーラを放つスヴィェートさんと全く同じ紋章が浮かび上がっていた。
「この神々しいまでのオーラ……。そして私の紋章もデルトゥーカ殿の紋章に共鳴している。デルトゥーカ殿も私と同じく勇者としてこの世に生を受けた者に違いありません、リヴェラ閣下」
「おおっ……。まさかこの場で2人の勇者が並び立つ姿を拝み見ることができようとは……」
「5歳になった時私は自身が勇者であるという事実を聞かされました。その日を境に勇者としての使命に目覚めた私は魔王アークドーを打倒すべく自身が魔族であることを利用し偽りの配下となったのです。ですがその為に今日まで数多くの罪なき者をこの手に掛けることになってしまいました。ヴァリアンテ王国の中には私に恨みを持つ者も数多くいることでしょう。私のことは処断して下さって結構。ですが魔王アークドーがいなくなった今ヴァリアンテ王国の方々には再び我々魔族との共存を果たした上で真なる平和を実現して頂きたいのです」
「デルトゥーカ殿……」
デルトゥーカの切実な願いの込められた言葉にこの場にいた誰もが深い感銘を受けてる。
最早紋章などに関係なくデルトゥーカが勇者であること、そして僕達同じ世界の平和を願う1人であることは明白だった。
そんなデルトゥーカさんに対し同じ勇者であるスヴィェートさんが歩み寄り優しく声を掛ける。
「あなたの切実なる願い……しかと受け取らせて頂きました。魔王アークドーを打倒す為だったとはいえその犯してしまった罪を背負って生きるのはとても辛いことでしょう。ですが我々があなたを処断することはありません。真にその罪を悔いているというならあなたも最後まで精一杯に勇者としての使命を全うし我々と共に平和な世の実現に協力すべきではないでしょうか」
「スヴィェート殿……」
「あなたが望むなら我々ヴァリアンテ王国は快くあなたのことを迎え入れます。ねぇ、リヴェラ閣下」
「はい。国王の意向を聞くまで確かなことは言えませんが、我が王もきっとご承諾して下さるでしょう。何より魔王アークドーを打倒したいえまだこの世界には他に3人もの魔王が君臨している。その者達を1人残らず打ち滅ぼす為にもデルトゥーカ殿にはどうか今後も我々の国、しいては世界の平和の為にご尽力して頂きたい」
「リヴェラ閣下……」
勿論ヴァリアンテ王国の王様もリヴェラ閣下達の提案を承諾しデルトゥーカさんは暖かく迎え入れられることになった。
これを機にヴァリアンテ王国の魔族達との関係も一気に改善し、僕達の国に一時の平和が訪れる。
戦いが終結したことでこの合同部隊も解散となり、僕はヴェント達と共にメノス・センテレオ教団の本部のある故郷のウィンドベル村へと帰還して行った。




