第64話 配属先
「はい……それじゃあ今日の強化素材を注入していくよ~。ベル~、ベルル~」
「(待ってたなの~、LA7-93っ!。今日のメニューは確か火曜日だから『メリオルマッシュのメイデン・スペクターのエクトプラズムソース掛けレイジブル牛乳バターソテー』だったはずなのっ!。滅茶苦茶お腹空いているから早く注入してくれなの~)」
「はいはい……今注入していくからちょっと待ってて……よいしょっと」
合同部隊の拠点で割り当てられた部屋の中でそう言いながら僕は『注射器魔法』の魔法で生成した注射器で自分の肉体に強化素材の注入を行っていく。
強化素材と聞くと武器や防具などの性能を高める為の素材を連想するだろうが、僕の謂う強化素材とは僕の肉体の細胞としたベル達に取り込ませてその細胞の能力を高める為の物だ。
つまりは僕自身を強化する為の物でもあるのだが今日のメニューは『メリオルマッシュのメイデン・スペクターのエクトプラズムソース掛けレイジブル牛乳バターソテー』。
如何にも高級レストランで出てくるような長ったらしい料理名のような名称だが、全然料理であるということはなくベル達にはそんな感じの名前のキノコのソテーの料理の味に感じるように僕が錬金術で調合した霊薬だ。
素材はその名称にある通りメリオルマッシュとメイデン・スペクターのエクトプラズムとレイジブルのバターミルク。
今までは口から僕が食事や飲み物として摂取していたのだけれど、『注射器魔法』の魔法が本格的に完成に近づいてことでその『注入』の能力により細胞に転生したベル達に直接注入し与えることができるようになった。
口から摂取し胃に溜まった物をベル達に摂取して貰うよりもこの方がベル達による僕の肉体強化の効率も良く、強化素材の味を直接堪能できるようになったとのことでベル達にも大変喜んで貰えていた。
素材に味を付けて調合するのは大変だけど僕の肉体の細胞としていつも頑張ってくれてるベル達にも人間の僕と同等の食事の味を楽しんで貰わないと。
肉体と細胞の関係上自然なこととはいえ僕が一度食べた物をまたベル達に食べて貰うなんてなんだか悪い気がするしね。
「(あ~、美味しかったなの~。これでまたLA7-93の肉体もしっかりと強化されたなの~。明日からはいよいよ実際に戦場に赴くみたいだしパワーアップした力を遺憾なく発揮してアイシアの仇である魔王アークドー軍をコテンパンにやっつけてやるなの~)」
「(やっつけてやるなの~)」
「うんっ!。勿論そのつもりだから期待しててっ!」
「(戦場に赴いた際私はどのように行動すべきでしょうか、マスター。霊体の身として私もマスター達と共に戦闘に加わった方がよろしいのでしょうか)」
「いや。万が一にもSALE-99達にアイシアの存在を知られるわけにはいかないからもしもの時以外は加勢しないようにして。アイシアには周りの偵察をして僕への戦局の報告を逐一して貰えると助かるかな」
「(了解しました)」
コンコンッ……。
「失礼するよ、ヴァン君」
「あっ……クレイヴァーさん」
今日の肉体強化の注入が終わり僕達が今後の方針について話し合ってるところにクレイヴァーさんが訪ねて来た。
こんな夜更けに一体何のようだろう。
「こんな時間にごめんよ。遅くなったけどようやく明日の部隊の編成が決まったから君達にも部隊の配属先と任地となる場所の資料を渡しておくよ。明日の集会でも改めて発表されるだろうけど今の内に詳細を把握しておいてくれ」
「分かりました。わざわざありがとうございます」
「ところで……さっき誰かと話しているような声が聞こえたけど部屋にはヴァン君1人なのかな……」
「は……はい。僕には1人事で色々と呟いてしまうちょっと変な癖がありまして……」
「そうなのかい。まぁ、とにかくそういうわけだから明日からはよろしく頼むよ。任地についたからといってすぐ戦闘が始まるなんてことはないだろうけどなるべく気を抜かないようにね。向こうについてから現地の指揮官の指示に従って行動するようお願いするよ」
「了解しました、クレイヴァーさん」
「それじゃあお休み。明日に備えてなるべく今日は早く寝るんだよ」
「はい。お休みなさい」
「(ふぅ~、クレイヴァーさんに皆との会話のことを聞かれた時はヒヤッとしたよ~。やっぱり周りに僕しかいない場でのアイシアやベル達との会話はなるべくテレパシーで行った方がいいね)」
「(まぁ、あんまり気に過ぎてもLA7-93が疲れちゃうだろうしほどほどに気を付ければ良いと思うなの~。よっぽどのことでなければ今みたいに誤魔化しも効くもだろうしなの。ところで部隊の配属先は一体どうなったなの?)」
「(どうなったなの?)」
「(えーっと……。僕達はブランカが指揮官を務める部隊に配属されたみたいだ。ついこの前部隊に参加したばかりなのに1部隊の指揮官を任されるなんて凄いね。それだけヴァリアンテ王国から僕達メノス・センテレオ教団への信頼度が高いってことなのかな)」
「(まぁ、リヴェラやクレイヴァー達ヴァリアンテ王国の要人が揃って国内最大の宗教勢力と口にするぐらいだしそれだけヴェントやSALE-99達が教団の活動に精力を注いでるということなの。やっぱり『味噌焼きおにぎり』はこのメノス・センテレオ教団を根城として自分達の仲間の魂の勢力を拡大していくつもりみたいなの。それでその部隊にはヴァンとブランカ以外にはどんな奴らがいるのなの?)」
「(いるのなの?)」
「(僕以外はLS2-77の転生したアイシアがいるかな。他にも何人かメノス・センテレオ教団で見覚えのある名前があるけどほとんどは知らない人ばっかり。まぁ、参加したばっかりの合同部隊だから仕方ないね。部隊の赴く場所はここから東にある陣営みたいだ)」
クレイヴァーさんに渡された資料によると僕達はブランカ・ティーグレことCC4-22が指揮を務める部隊に配属されたようだ。
『味噌焼きおにぎり』の連中の指示に従って戦うのは癪だけど初対面の人が指揮官を務めるよりはマシか。
何よりSALE-99じゃなくて本当に良かった。
翌日僕達は丸1日掛けて任地の陣営へと赴き、そこから更に1週間が経過した後今回の人生で初となる戦場へと駆り出されていた。
「これよりリヴェラ総司令閣下直々の指揮の元アークシア要塞攻略作戦が開始されます。我々の部隊の役目は先陣となって本隊の要塞への突入の隙を作り出すこと。各自指定されたポイントから敵陣営の撃破に当たって下さい」
「けっ……。よりによってメノス・センテレオ教団の奴の下で働かされることになるとは最悪の部隊だぜ。まぁ、誰が指揮官だろうと関係ねぇ。この戦いで魔王アークドー軍を蹴散らし俺達『飛翔する雄傑』の名を全世界に轟かせてやるぜ」
ブランカから作戦の詳細が説明され僕達は各々の持ち場について魔王アークドー軍との戦闘を開始する。
僕達の部隊にはブランカやLS2-77の転生したアイシアの他に拠点に着いた時ヴェントに絡んで来たあのゴロツキの冒険者達もいたようだ。
実力者ばかりを集めたとはいえ全く所属の違う者達によて急遽編成されたばかりのこの部隊。
連携は取り辛いし何かと信用のおけない奴も多い状況の中ではあったのだが、僕は初の実戦での使用となる『注射器魔法』の魔法の感触を確かめる為積極的に前に出て戦っていた。
「てりゃぁぁーーっ!」
「ぐあぁぁぁぁーーーっ」
僕の右手に握られた注射器から伸びた『水剣』の剣が敵のオークのモンスターを両断する。
相手のオークは体格が大きい上に分厚く硬い皮膚をしていたが難無く斬り裂くことできた。
更に僕はベルトとコートの内側に装着したホルダーに収納していた『注射器魔法』の魔法の注射器を5本離れた位置から魔法を放っていたオークへと『遠隔注射器』の能力を用いて差し向ける。
翻弄するように相手の周りを飛び交う注射器から一斉に『水弾』の水弾が撃ち放たれ敵のオークの体を撃ち貫いた。
こちらも十分実戦で通用する威力を誇っているようだ。
今の『遠隔注射器』のよる5本の注射器を収めていたホルダーだがベルトとコートの裏に全部で20個装着しているそれらはウィンドベル村を出立する前にメルクリオさんから受け取った物だ。
1つのホルダーにちょうど1本の注射器がすっぽりと収まり切るような細長の形状をしており、これに物質を抽出済みの注射器を収めておくことで自身の魔力消費を大幅に軽減することができる。
修行の成果で僕の『注射器魔法』の魔法の容量も大分増加したが、それに伴い抽出済みの注射器を維持したまま持ち運んでいる間も継続的に魔力を消費してしまう為メルクリオさんはとても使い勝手の良いアイテムを製作してくれた。
そしてそんなメルクリオさんに製作して貰ったアイテムには僕の『注射器魔法』の魔法を超絶強化してくれる物がもう1つある。
今僕が右手に持ち替えたのがそのメルクリオさんが僕の『注射器魔法』の魔法専用に製作してくれた注射器だ。
注射桿の部分に指を入れて固定する為の輪っかが3つ付いた時代を感じさせる形状の物ではあるが性能としては断然こちらの方が上。
水で換算した場合の現在の僕の『注射器魔法』の魔法の許容量は15トンだが、その15トンとは別に50トンの水を収容しておける程の性能をこの注射器は誇っている。
僕の『注射器魔法』の魔法専用に製作して貰っただけあってそれだけ効率良く魔力を魔法に転換できているということだ。
見た目も針と筒の接着部や 注射桿部に金の装飾が施されていてこちらの方が断然格好良い。
この専用の注射器を僕はメルクリオ注射器と名付けることにした。
メルクリオさんに製作して貰ったということで取り敢えずで付けた名前だが今後新たな錬金術師の魂をソウルメイトに加えてまた注射器を製作して貰った際にはまた改めて専用の名前を考えたいと思う。
「(マスターっ!)」
「(アイシアっ!。他の部隊の戦況はどんな感じだった?)」
「(何処も一進一退といった感じですがブランカとLS2-77のいる部隊はあからさまにこちらが押しているような状況でした)」
「(そうか……。やっぱり『味噌焼きおにぎり』の連中はその戦闘能力も凄まじいものを持っているみたいだね。それでブランカとLS2-77はどんな能力を使って戦っていた?)」
「(ブランカは恐らく土属性に属する魔法でしょうか。何かの金属と思われる物質を生成していました。剣の形にして武器として使用したり、巨大な壁の形にして出現させ防壁として利用したりと状況に応じて臨機応変に対応していたました)」
「(なる程……。LS2-77の転生したアイシアの方は?)」
「(右手から炎、左手から吹雪を放ち立ちはだかる敵を悉く薙ぎ倒していました)」
「(炎は火属性、吹雪は氷属性の魔法だよね。LS2-77の転生しているあの肉体は元々はアイシアの転生していたものだったわけだから氷属性の魔法に関してはアイシアの取得していた転生スキルの影響を受けているのかな)」
「(さぁ……以前私が転生していた時の影響がどの程度LS2-77の転生している肉体に残っているかは定かではありませんが……。そもそも敵との実力差があり過ぎてブランカ、LS2-77共に実力の半分も出していないといった様子でした)」
「(どちらもまだまだ隠された能力を持ってるかもしれないから安易に相手の力量を推し測ろうとしない方が良いってことだね。まだまだ戦いは序盤だし魔王アークドー軍の幹部クラスの敵が出てくればより『味噌焼きおにぎり』の連中の実力を探れるかもしれないし監視を怠らないようにして、アイシア)」
「(了解しました、マスター)」
「ぐあぁぁぁぁーーーっ」
「……っ!。今の悲鳴はっ!」
ブランカの指揮する部隊に配属された僕達だけどブランカの指示によりそこから更に複数の班に分かれて僕達は任務に当たっていた。
アイシアには他の地点で戦っているブランカやLS2-77達の戦闘の様子を探ってもらっていたのだけれど……。
その報告を受けている途中で僕達の元に10人以上は一斉に叫んだような壮絶な悲鳴が鳴り響いてくる。
声質からして敵のモンスターではなく恐らくこの合同部隊の僕達の味方だ。
悲鳴を聞いた僕達はすぐさまその場へと駆け付けて行ったんだけど……。
「こ……これは……」
僕達が駆け付けて行った場には実に50人以上の仲間達の遺体が転がっていた。
そしてその大量の遺体の向こう側に立つ1人の女性の姿が……。
人であるようにも見えるが背中から翼から生えているところを見るとその女性もモンスターであり恐らくこの悲惨な光景を作り出した張本人だ。
辺りには敵、味方共に見当たらない荒れ果てた戦場で僕はその女性と相対する。




