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第63話 ミーズ・ニーズ教団と勇者

「総司令、神の子(・・・)ヴェント様とメノス・センテレオ教団ご一行の方々をお連れして参りました」


 「おおっ!、ご苦労っ!。早くお通してくれ」


 クレイヴァーさんに案内されて僕達はこの合同部隊の総司令官のいる司令室へとやって来た。


 綺麗な左右対称シンメトリー、軍旗や剣のオブジェ等戦いにまつわる装飾が施された厳かな空間の中、中央奥の机に厳格な雰囲気で佇む1人の女性の姿があった。


 オレンジ色の髪を後ろで束ね、白の軍服の上に淡い黒のコートを袖も通さずに羽織っている。


 この女性がこの合同部隊の総司令官のようだ。


 「これは神の子(・・・)ヴェント様にメノス・センテレオ教団の皆様方。この度は我がヴァリアンテ王国合同部隊の招集に応じて頂き誠感謝申し上げます。私はこの合同部隊の総司令官を務めるリヴェラ・ルーと申します」


 「メノス・センテレオ教団の教皇を務めるヴェント・サンクカルトです。こちらは幹部のアズール・コンティノアールとブランカ・ティーグレ。それと兄のヴィンスと弟とヴァン、妹のアイシアです。今日この場に参ったのは私を含めたこの6人のみですが、後日あと300名程が我々の教団からこの部隊に合流する予定です」


 「今や我がヴァリアンテ王国内で最大の宗教勢力となったメノス・センテレオ教団からそれ程の人数が参加して頂けるとは……。何よりメノス・センテレオ教団の教皇にして神の子(・・・)であらせられるヴェント様まで直々にいらして下さり大変頼もしい限りです」


 「あらん~、それは今やメノス・センテレオ教団に抜かされて国内で2番目の宗教勢力へと成り下がった……。その上幹部クラスの人間しか寄越さなかった我々ミーズ・ニーズ教団じゃあ頼りがいがないってことかしらん、総司令官殿」


 「あなたは……ミーズ・ニーズ教団のブルーアイ殿」


 合同部隊の総司令官と丁寧に挨拶を交わすヴェント。


 そこへ僕達の後ろから突然ちょっと嫌味掛かった口調で話ながら1人の女性が姿を現した。


 僕達メノス・センテレオ教団の物とはデザインが違うけど水色の十字架の刺繍の施された青色のコートにフードを被り同じ聖職者らしい格好をしている。


 だけどその女性自体はフードからはみ出すほど伸びた長い藍色の髪、更には左の口元のに大きなピアスをしていて如何にも素行の悪そうな雰囲気を醸し出していた。


 あからさまに僕達に対して敵意を向けているようだけど一体何者なんだろう。


 「あなたは……ミーズ・ニーズ教団のアルバニア・ブルーアイか」


 「えっ!。この人のこと知ってるのっ!、ヴェント兄ちゃんっ!」


 「あらん~、まさかメノス・センテレオ教団の教皇にして神の子(・・・)であらせられるヴェント様にご存知頂けてるとは感激だわん~」


 「ああ……あなたのことはアズール達から色々と報告を受けている」


 「色々と……ね。なる程なる程」


 「(どうやら今回もVS8-44に魂の存在について理解させることに成功したようね、SALE-99)」


 「………」


 「(聞こえない振りをしても無駄よ。どんな姿に転生していようと相変わらず変わることのないあんたのその厭らしい目付きを見れば一発で分かるわ)」


 「(ふっ……元々調べはついてる癖によく言うよ、MIZ-32)」


 「(調べがついてるのはお互い様でしょ。最もそういう小賢しい真似は私達よりあんた等『味噌焼きおにぎり』の方がよっぽど得意のようだけど)」


 「(今日はわざわざ嫌味を言う為に僕達に会いに来たのかい?)」


 「(そうよん~。あと今回こそあんた達『味噌焼きおにぎり』をぶっ潰してあげるっていう宣戦布告をしにね)」


 「(ふっ……確か『水餃子は水心』っていったっけ?。君達のソウルギルドの名前は。これまで僕達に全戦全敗の君達がそんな大きな口を叩いて大丈夫なのかな)」

 

 「(ちっ……本当あんたって奴は私がこれまで会って来た魂の中でもダントツで嫌な性格してやがるわよね。別に言う分には無料タダなんだからそんなのあんたの知ったこっちゃないわよっ!)」


 いきなり僕達の前に姿を現したミーズ・ニーズ教団のアルバニア・ブルーアイという名の女性。


 アズール・コンティノアールことSALE-99と何やら意味深な視線を向け合っているのが気になりはしたもの僕達はまさかこの2人がテレパシーで会話を行っているとは夢にも思っていなかった。


 【転生マスター】であるSALE-99とテレパシーによる会話が行えるということはつまりこの女性もまた……。


 僕は目の前に現れた新たな【転生マスター】の存在に気付くことなくただ疑問気な視線を向けていた。


 「ね……ねぇ……。もしかしてアズールさんのさっき言ってた真の警戒しなければいけない連中っていうのは……」


 「ああ、こいつ等ミーズ・ニーズ教団の連中のことだよ。中でも目の前にいるこのアルバニア・ブルーアイは一番の要注意人物だから決して気を許さないようにね」


 「い……一番の要注意人物……」


 「ふふっ、よろしくねん~♪、僕~♪」


 「ブルーアイ殿……あなたは何の用でこの司令室へといらっしゃったのですか?」


 「別に~。只私達のライバルとも呼べる教団の皆様方がやって来たっていうから挨拶をしに来ただけよ~。他に用もないしもういくことにするわ。それじゃねん~」


 そう言ってアルバニアは僕達の元を去って行った。


 このヴァリアンテ王国は国内における宗教活動にはとても寛容で、僕達メノス・センテレオ教団以外にも今のアルバニアの所属するミーズ・ニーズ教団、他にもヴァルヴォルト教団など複数の宗教組織が存在している。


 それぞれ信仰する神や思想の違う教団は基本的に敵対関係にあり、今や国内最大の宗教勢力となった僕達メノス・センテレオ教団は他の教団から目の敵にされているようだ。


 このままヴェント達に協力してメノス・センテレオ教団に在籍し続ければ僕達もいつかはその争いに巻き込まれるかもしれない。


 そうなった時のことを考えると僕はいつまでヴェント達の味方の側でいるべきなのだろうか。


 もし信用できる組織があるのならヴェント達『味噌焼きおにぎり』に対抗する為思い切って鞍替えする手もあるがそしたらヴェント達の洗礼の儀の支配下にあるPINK-87さん達が……。


 それにSALE-99やLS2-77はともかく本気で僕のことを弟として大事に思ってくれているヴェントを裏切るのは気が引ける。


 一体僕はこの後の人生をどの側に立って過ごせばいいんだ。


 流れに身を委ねるしかない人生に僕は強い不安、そして不満を感じ始めていた。


 「申し訳ありません……ヴェント様、メノス・センテレオ教団の皆様方。信仰の違う他の教団と共に戦うなどあなた様方にとっては大変受け入れがたいことだと思いまずがこれも我が王の意向なので何卒ご理解下さい。私もクレイヴァーも協力を仰ぐ教団はメノス・センテレオ教団のみにすべきだと進言したのですが王は戦力は多いに越したことはないとお聞き入れにならず……」


 「ご心配には及びません。確かに信仰の違う者達と共に肩を並べて戦うのは複雑に思う者達も多いでしょう。ですが我々メノス・センテレオ教団がヴァリアンテ国内でこれだけ幅広く活動できているのもヴァリアンテ国王陛下の寛大な処置のおかげ。この程度のことで不満を口にするはずもありませんよ。皆の士気にも影響するようなことはありませんのでどうぞご安心下さい」


 「そう仰って頂き軍の統括者としての我々の肩の重荷にも少し軽くなりました。この部隊で皆様方の力を存分に振えるよう我々も尽力致しますので、どうかこの国の平和と安全、領土を守る為ご協力下さい」


 組織を束ねる者として互いに尊重し合った様子で話をするリヴェラさんとヴェント。


 ロビーで声を掛けて来たゴロツキの冒険者といい、さっきのブルーアイといい、気性に問題のありそうな人ばかりで不安に感じていたけど部隊の指揮官がとても誠実そうな人柄で安心した。


 これなら僕達もこの合同部隊で気兼ねなくやっていくことができそうだ。


 「失礼致します、リヴェラ閣下」


 「これはスヴィェート様。私に何か御用ですかな?」


 「いえ……。神の子(・・・)ヴェント様とメノス・センテレオ教団の方々がいらっしゃられたと聞いたので是非私も挨拶をと……」


 ブルーアイが去り暫くして僕達のいる司令室にまた1人の女性が訪れて来た。


 ヴェントと同じ日差しのように澄んだ金色の長い髪、凛々しくも抱擁感もある優しい顔つきをし、銀色に輝く衣装に身を包みとても気品溢れる姿をしている。


 彼女もヴェントに会いに来たと言っているが何者なのだろうか。


 先程のブルーアイのようにあからさまに敵意を露わにするような仕草は取っていないが……。


 「リヴェラ閣下……彼女は?」


 「ああ。彼女は先程のブルーアイ殿のようにあなた方を敵視してやって来たのではありませんのでご安心下さい。彼女は我がヴァリアンテ王国が誇る勇者・・、コヴァールニ・スヴィェート様です」


 「勇者ですと……」


 「今リヴェラ閣下からご紹介して頂いた通り私はヴァリアンテ王国に勇者として迎え入れて頂いてるコヴァールニ・スヴィェートと謂います、神の子(・・・)ヴェント様。あなた様の御高名と我がヴァリアンテ王国内におけるメノス・センテレオ教団の方々の活躍ぶりはかねてより承っておりましたので是非一度こうしてお会いしたいと思っておりました」


 「それは誠恐縮の限りです。私がメノス・センテレオ教団の教皇を務めさせて頂いてるヴェント・サンクカルトです。しかし先程スヴィェート様は勇者であられると仰いましたが……。我々の方でヴァリアンテ王国にそのような存在の方がいらっしゃるとは存じておりませんでした」


 「スヴィェート様の存在は我が王の御命令によりこの合同部隊の招集まで完全に伏せられておりましたから。ヴェント様と同じようにスヴィェート様もその誕生時に勇者の証し(・・・・・)となる現象が確認されていたのですが、それについても徹底して情報操作を行っていた為その存在を知っていた者は我が国の宮廷内においても王の側近である極少数の者達だけです。ですが魔王アークドーの勢力拡大に伴い満を持してこの度の戦線に投入するご決断をされたというわけです」


 「なる程……」


 「(これについては報告を受けていないぞ、一体どういうことだって言いたげな視線でVS8-44がこっちを睨んでるわよ、SALE-99。あんたにしては調べが足らなかったんじゃないの?)」


 「(いくら僕でもこの世界の全ての情報を把握することなんてできないよ。それも一国の王の意向で意図的に伏せられていたとあってはね)」


 「(だけどってことはこの勇者がこの世界の確定キャラ(・・・・・)として転生したものか、それとも【勇者】の隠しスキルの力で転生したものかも分かっていないってことでしょ。それにどちらにせよ勇者に転生するような奴が単独で転生しているとも思えないし……。こいつの存在を匿ってた王政の中に転生した仲間……それも私達と同じ【転生マスター】の隠しスキルを取得した奴がいたとしたら私達にとってかなり厄介な存在になり得るかもしれないわよ)」


 「(分かっているよ。悪いけど今すぐヴァリアンテの王政に潜り込ませている僕達の仲間に連絡を取って情報を探らせてくれないかな、CC4-22)」


 「(了解しました)」


 何やら『味噌焼きおにぎり』のメンバー達で意味深な視線を交わしたと思うと突然ブランカが1人で司令室を後にして行った。


 【転生マスター】によるテレパシーで何らかの相談をした結果の行動であることは僕達にも予測できるけどどんな話をして何の目的で部屋を出て行ったのかまでは分からなかった。


 恐らく突然目の前に現れた勇者を自称する女性。


 コヴァールニ・スヴィェートに関しての行動だとは思うのだけれどその存在に衝撃を受けているのは僕達も同様だった。


 「(ス……スヴィェートさんは自分で勇者だと言ってるけど本当なのかな?)」


 「(神の子(・・・)であるヴェントを筆頭に他の勇者、魔王と呼ばれる存在も同じ時代に転生することが多いから可能性としてはかなり高いと思うなの。それにヴァリアンテ王国って謂う強大な一国からそう認められている以上スヴィェートが勇者に近しい力を持っていることは事実だと思うなの)」


 「(事実だと思うなの……)」


 「(神の子に勇者に魔王か……。これまで只『注射器魔法シリンジ』の固有オリジナル転生スキルの完成に勤しむことができていたのとは一転大変な時代への転生に巻き込まれちゃったね。勇者と謂えば世界の救世主としてとても頼りになる存在だけど……。神の子のヴェントにあんな裏の顔がある以上スヴィェートさんのことも容易には信用できないし……。こんなのもう何にどう対応すればいいのか分からないよ……)」


 威勢よくヴァリアンテ王国の指揮する合同部隊に参加したは良かったがミーズ・ニーズ教団に勇者を自称する女性。


 【転生マスター】であるが故にいきなり現れたその者達に対し、その転生した魂達のバックグラウンドまで考察しなければならない僕の頭は既にパンク寸前にまで陥ってしまっていた。


 やはり如何に魂の記憶と思考を有していようと折角得られた情報に対応するだけの能力が今の僕達には乏しすぎる。


 ヴェントやSALE-99達は自分達のソウルギルド『味噌焼きおにぎり』のメンバー達の協力も得て情報戦も効率良くこなしているようだというのに……。


 まだソウルギルドというものがどのようなものかもちゃんと分かっていないけど【転生マスター】としての力を遺憾なく発揮する為には僕も仲間となるソウルメイトをもっと大勢集めるしかないのだろうか。

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