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第61話 対魔王軍部隊への招集

 「やぁ、ヴァン君。頼まれていた君の『注射器魔法シリンジ』の魔法専用の特注の注射器が完成したから渡していおくよ」


 「やったぁーっ!。ありがとう、メルクリオさんっ!」

 

 「それとこれは魔力で具現化した君の注射器を収めておくことのできるケースだ。ホルスターにして作っておいたからベルトでも服の裏でも好きな場所に装着して使うと良い。物質を《《抽出》》した注射器をそのままの状態で留めておくよりずっと魔力の消費を抑えられるはずだよ」


 「わぁっ!。こんなものまで作っておいてくれたのっ!」


 僕が【転生マスター】だというヴェント達の追及をどうにか逃れてから約2か月が経過していた。


 この日僕は前にした約束通りヴェントが村へと呼び寄せてくれた隣のローメル王国で有名な錬金術師であるというメルクリオ・ジーニクスさんから僕の『注射器魔法シリンジ』の魔法専用に特注で製作して貰った注射器とホルスターを受け取る。


 ヴェント達『味噌焼きおにぎり』が裏で操るメノス・センテレオ教団の力を最大限に利用し着実に戦力を強化していく僕達だったが、この日更にヴェントからメノス・センテレオ教団の一員として対魔王アークドー軍部隊への参加を命じられてしまう。


 僕が【転生マスター】だと疑うことを止めた以上はヴェント達の方も僕のことを自分達の戦力として利用する方針へと切り替えたようだ。


 しかし利用されていると知りながらもヴェントやSALE-99達のような熟練の魂達に戦力として認められているというのは正直気分が良い。


 そして対魔王アークドー軍部隊へ参加することで不安や緊張を感じる反面、いよいよ『注射器魔法シリンジ』の魔法を習得した自身の実力を実戦で確かめる機会がやって来たと思うと僕は胸の中から湧き上がる興奮を抑え得なかった。


 「ヴィンスに続きあなた達まで戦いに繰り出されることになるなんて……。ヴェントの役に立ちたい気持ちは分かるけど決して無茶はしないでね……」


 「疲れた時は皆いつでも家に帰って来なさい。くれぐれも3人のことをよろしくな、ヴェント」


 「はい、父さん」


 「おいおい……。ヴァンとアイシアはともかく一番兄貴の俺までよろしくなんてそりゃないんじゃないのか、親父。まぁ、俺なんかより神の子(・・・)のヴェントの方がよっぽど頼り甲斐があるのは事実だけよ」


 「それじゃあ行ってくるよっ!。必ず魔王アークドー軍をコテンパンにやっつけて帰ってくるから期待しててっ!、父さんっ!、母さんっ!」


 「ああ……何度も言うがくれぐれも自分の身を大事にな……」


 「4人共必ず生きてまた私達の元に帰って来るのよ……」


 とても辛そうな表情で僕達を送り出すPINK-87さんとMN8-26に見送られて僕達はメノス・センテレオ教団の対魔王アークドー軍部隊の拠点を目指して出立する。

 

 しかしまさか新たなアイシアまで共に部隊に参加するとは思っていなかった。


 僕と違ってこれまで特に魔法の修練を積んでいる様子はなかったはずだがいつの間にそれだけの力を身につけたというのだろうか。


 【神の子】の転生スキルを取得しているヴェントならいざ知らず隠しスキルのページから僕と同じ【転生マスター】を選んだ新たなアイシアはそこまでステータスの恩恵を受けられていないはずなのに……。


 やはり『味噌焼きおにぎり』に所属するメンバーは誰も彼もが決して油断を許さない実力を秘めているようだ。


 「でもまさかアイシアまで対魔王アークドー軍部隊に参加するなんて夢にも思わなかったよ。僕は毎日魔法の修行をしてようやくヴェント兄ちゃんにその実力が認められっていうのに……。っていうか本当にアイシアまで部隊に参加させちゃって大丈夫なの?、ヴェント兄ちゃん」


 「ああ。アイシアもちゃんと部隊に参加しても問題ないだけの実力を身につけているから大丈夫だよ」


 「一体いつの間にそんな実力を……。僕と違ってアイシアが魔法の修行をしてるところなんて一度も見たことがなかったのに……」


 「ふふふっ。ヴァンの知らないところで私もちゃ~んと自分の力を鍛えてたってことよ。まぁ、私の場合は元から才能があったからそこまで修行をする必要がなかったっていうのもあるかもね~。この分じゃあ私の方がヴァンよりよ~っぽどヴェン兄の役に立っちゃうかもね~」


 「むっ!。僕だってヴェント兄ちゃんに色々協力して貰って、今日なんて紹介して貰った錬金術師に専用の物凄いアイテムだって造って貰ったんだからアイシアには負けないよっ!」


 「こらこら……。兄妹で張り合うのは止めないか。そのような余計な雑念を抱いて戦いに望まれては自分だけじゃなく僕や周りの仲間の命まで危険に晒されることになるんだよ」


 「だ……だってアイシアが……」


 「これは2人共に対して言ってるんだ。折角2人の実力を買って部隊に参加して貰ったんだからこんなことで評価を下げさせないでくれ」


 「はい……ヴェント兄ちゃん」


 恐らくヴェントは本気で僕の身を案じているからこそ厳しい口調で忠告してくれているのだろう。


 そんなヴェントの忠告を僕は真摯に受け止めて返事をする。


 只その一方で僕を戦力として効率よく利用する為でもあると思うと少し悲しい気持ちになってしまう。


 どれだけ僕のことを大事にしてくれていようと最終的には自分がリーダーを務める『味噌焼きおにぎり』の利益を優先するはずだ。


 兄弟としての絆と魂としての絆。


 2つの狭間の中で感情を揺れ動かされているのはヴェントだけでなく僕の方も同じだった。


 「分かってくれれば良い。ところでウィンドベル村を出て大分進んで来たようだけど今日はどの辺りまで進む予定だったかな、ブランカ」


 「予定ではマールセラの街ですね。ここまで特に問題もなく進んで来れていますし後1時間程で到着するでしょう。既に宿の手配もしてありますので着いたらゆっくりとお休みになってください。……あっ、そうそう。マールセラには地元の牛肉を使った有名なすき焼き鍋の店があるようですので夕飯はそちらに出向いてみてはいかがでしょうか」


 「すき焼きだってっ!。そんな店があるなら是非皆で行こうよっ!、ヴェント兄ちゃんっ!。ねぇっ!、ヴィンス兄ちゃんにアイシアだって行きたいよねっ!」


 「勿論よっ!。ねぇ~、ヴェン兄~。これから魔王軍と厳しい戦いが始まるんだし今の内にちょっとぐらい贅沢しておいてもいいでしょ~」


 「うーん……」

 

 「いいじゃないか、ヴェント。まだヴァンとアイシアの部隊への配属祝いもしてなかったし偶には兄弟姉妹きょうだい水入らずでパァ~っとやろうぜ」


 「はぁ……分かったよ、ヴィンス兄さん。だけどヴァンにアイシア。僕達メノス・センテレオ教団の活動は世界中にいる信者の皆さんの支援によって成り立っている。僕達がそんな贅沢ができるのも皆さんの支援があってのことなんだからちゃんと感謝する気持ちを忘れないようにね」


 「ってことはOKってことだよねっ!、ヴェント兄ちゃんっ!。感謝の気持ちなら僕はいつだって何に対しても忘れたことはないから安心してっ!」


 拠点へと向かう馬車の中、そしてその道中によったマールセラの街のすき焼きの店で僕達は兄弟姉妹きょうだい揃っての団欒を楽しんだ。


 自身が【転生マスター】であり、また兄弟姉妹きょうだいの内2人が敵対関係にある者達だと分かっている僕にとっては半分演技のようなものだったけれどそれでもやはり家族の団欒はとても楽しく感じられた。


 もし【転生マスター】でなかったらこのまま皆とずっと仲の良い家族のままでいられたかもしれないのに……。


 心の中で僕はそう感じていた。

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