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第59話 支配に屈しない転生マスター……だが

 「来たよ……ヴェント兄ちゃん。儀式が終わった後で僕1人だけを教会に呼び出して一体どうしたの?」


 全ての住民達の洗礼の儀が終了した1時間後。


 僕はヴェントに静まり返った教会へと只1人呼び出されていた。


 嫌な予感は勿論したがヴェント達に余計な疑いを掛けられない為にも呼出しを無視するわけにもいかない。


 その者を一時的に支配できるとはいえ普段の状態から能力を強化をする洗礼の儀を僕にも授けたのだ。


 もう【転生マスター】だという疑いも晴れ、ヴェント達のメノス・センテレオ教団の信者の1人として信用されているものと僕は思っていた。


 この呼出しも信頼のおける僕だからこそ何か内密に話したいことがあるのだろうと。


 その話を聞くことでヴェント達『味噌焼きおにぎり』の企みについて何か情報が得られると思い応じて来たのだったが……。


 「………」


 「………」


 「………」


 「アズールさんにブランカさん……。それにアイシアまでいるなんて……」


 教会を訪れた僕の心境はその場にいた面子を見て一転する。


 教会の中でヴェントと共に僕を待ち受けていたのはSALE-99とブランカ、そして新たなアイシア。


 現在『味噌焼きおにぎり』のメンバーであり、それも【転生マスター】の転生スキルを取得していることが判明している面々だった。


 メノス・センテレオ教団の幹部であるSALE-99とブランカがヴェントと共にいるのはともかく新たなアイシアまでこの場にいるのはどう考えてもおかしい。


 これは僕がこの場に呼び出されたのは教団としての意向ではなく、教団を裏から操る『味噌焼きおにぎり』達の策略と考えるべきだ。


 まさか遂に僕が【転生マスター】であることがバレてしまったのか。


 祭壇の前へで堂々とした態度で僕を待ち受ける4人の姿を見て戦慄する僕であったが今更この場から逃げ出すことなどできはしない。


 僕は動揺を隠し切れない様子で強い不安と緊張を抱えながら重い足取りでヴェント達の元へと進んで行った。


 「(ど……どうしよう……。これってどう考えてもヤバい雰囲気だよね。もう僕達のことを【転生マスター】だと疑われていないものと高を括っていたけど間違いだったのかな)」


 「(そうかもしれないけどまだ【転生マスター】だということがハッキリとバレたのかどうかは分からないし弱腰になっちゃ駄目なのっ!。あのアイシアを風呂場で出し抜いた時にみたいに今回もどうにかして切り抜けるなのっ!)」


 「(切り抜けるなのっ!)」


 「(そ……そうだよね。普通にそれ以外の用件で呼び出されただけかもしれないし悲観的に考えるのは止めよう。取り敢えず何の用件で呼び出されたのか知る為にヴェント達の話を聞いてみようか)」


 ベル達に励まされ僕はどうにか冷静さを取り戻し始めていた。


 そしてヴェント達の元へと辿り着き一呼吸おいたところで何の用件で呼び出されたのか問い質してみる。


 こちらが動揺していることを悟られないよう必死に普段と変わらぬ態度を装って。


 「それで皆して僕に何の用なの?。アズールさんやブランカさんがいるってことはこれはヴェント兄ちゃんじゃなくて教団からの呼出しってことでいいのかな?。でもだとしたらどうしてアイシアまでこの場に……」


 「やっていいんだね……ヴェント」


 「ああ……」


 「や……やって良いって……。一体何を……アズールさん」


 ヴェントの許可を取るような言葉を発するとともにアズール・コンティノアールことSALE-99が不敵な笑みを浮かべて僕の前へと立ちはだかった。


 こいつのいつも人を見下したような厭らしい目付きの視線を向けられると強い不快感を感じる。


 だがそれ以上に今はSALE-99のこちらの全てを見透かしているかのような威圧的な態度とこれから何をされるのかという恐怖にかつてない程身も心も緊張してしまっていた。


 一体ヴェント達は何を企んで僕をこの場に呼び寄せたんだ。


 「ヴァン……この場に跪け」


 「……っ!」


 僕の目の前に立ったSALE-99が強い命令口調の言葉を発すると同時に僕の体の中に冷たい戦慄が走り、まるで体に真っ直ぐ糸を通されたみたいにピンと背中が立ってしまう。


 強制的に起立を強いられているような感覚だ。


 更にこの時自身では分からなかったのだが僕の体は不思議な白い光に包まれ、瞳もまるで色素と共に生気まで抜かれてしまったかのように真っ白なものへと変わってしまっていた。


 この瞬間僕はこれが先程ヴェント達によって僕の体に施された《《洗礼の儀》》が発動したものによるだと直感した。


 ベル達の解析によれば洗礼の儀は魔法を授けた相手の精神を支配する力があるということだ。


 つまり今のが僕に対し洗礼の儀が発動されたものだとするならば現在の僕はヴェント達の言いなりとなってしまっているわけだが……。


 「(くっ……この僕の体に起きた変化はやっぱりヴェント達の洗礼の儀によるものなのっ!、ベルっ!、ベルルっ!)」


 「(どうやらそのようなのっ!。これは精神に影響を及ぼす魔法のようだからLA7-93の細胞に転生している僕達でもどうすることもできないなのっ!)」

 

 「(どうすることもできないなのっ!)」


 「(くっ……ヴェント達は言いなりになった僕に一体何を命ずるつもりなんだ)」


 僕の細胞に転生しているベル達は僕の肉体に及ぼす影響に対しては内部から働きかけることで多少は抵抗することができる。


 だけど精神となれば話は別だ。


 この世界の僕達の精神は肉体は分離したものとなっていて例えベル達が僕の脳に働きかけたとしても精神に影響を及ぼすことはできはしない。


 一応脳細胞として働き掛けることでベル達も僕の肉体をある程度は制御することは可能だが、僕達が転生する世界において精神と肉体の関係は前者の方が上位に置かれていることがほとんどなので精神が支配された状態でSALE-99達の命令に抗うのは難しいだろう。


 つまりもしこの場でSALE-99達にお前は『転生マスターか?』などと質問をされてしまったらその場で終わり……。


 今までSALE-99達に必死に隠し通してきたことを僕は洗いざらい全て白状してしまうことになるわけだ。


 「どうした……早くこの場に跪け、ヴァン」


 「(くそっ!。まさか1時間前に授けたばかりの洗礼の儀の力をこんなに早く使ってくるなんてっ!。まだ対策も何も考えられていないっていうのに……。もうこのままヴェント達の言いなりになって全てを洗いざらい喋らされるしかないっていうのか……)」


 「早く跪けと言っているだろう」


 「(あれ……でもちょっと待てよ。精神を支配されたというのならどうして僕は今こんな風に色々と思考することができているんだ。それにさっきからSALE-99が散々跪けと言ってきているのに別にそんな命令を聞こうとは全然思わないし……。ヴェント達の洗礼の儀の魔法が上手く発動していないのか……いやっ!。確か僕達の【転生マスター】の効果って何時如何なる状態であっても魂の記憶と思考を有することができるってものだったよねっ!。もしかしてその効果は洗礼の儀によって精神が支配されている状態でも適用されてるんじゃないかなっ!)」


 「(確かに何度跪けと言われてもLA7-93がまるでそれを実行しようとしないところを見るとそうかもしれないなの。敵の精神干渉系の攻撃を全て無効化するとは思わぬところで【転生マスター】の新たな特性が発見できたなの)」


 「(発見できたなの)」


 「(はははははっ!。SALE-99達ったらざまぁないや。肝心の洗脳の効果が効かないなんてこれなら無償タダで僕達の能力を高めてくれたようなもんじゃないか。これならいくら命令されたところで【転生マスター】だと白状することはないから安心だね)」


 「(うん……。だけどSALE-99達のような熟練の【転生マスター】がそのような失態を犯すなんてかなり意外なの……)」


 「(意外なの……)」


 ヴェントによって僕に施された洗礼の儀の魔法。


 その相手の精神を支配し完全に言いなるよう洗脳してまう恐ろしい効果だがなんと【転生マスター】である僕には一切その効果が通用していなかった。


 洗礼の儀の魔法が発動している今でも僕は自分の意識を一切失わずにSALE-99の命令にもまるで強制力のようなものは感じない。


 最初に体がピンッと張り、また瞳の色も失われ全身を白い光に包まれたのはあくまで魔法が発動した際に僕の肉体に及ぼす影響であり、精神へ干渉する力はまるで働いていないようだ。


 こちらはまるで聞くつもりがないのに必死に命令し続けているSALE-99を僕は心の中で嘲笑う。


 肝心の洗脳が効かず只僕達の能力を高めることになるとは何とも間抜けなものだ。


 「これが最後だ……。早くこの場に跪け、ヴァン」


 「(いや……これはまさかなの……)」


 「(まさかなの……)」


 「(はははっ!。ばーかっ!。誰がお前の命令なんか聞くもんかっ!。そうやってずっと無意味に偉そうに命令してろ。お前に何を言われようと僕は絶対自分が【転生マスター】だと白状したりなんかしな……うわっ!)」


 な……なんだ。


 心の中で無意味であるにも関わらず命令し続けるSALE-99を嘲笑う僕であったが、僕の意思に関係なく突然に体が動き地面へと跪いてしまう。


 外側から何らかの強制的な力を掛けられたというよりは僕の意思を通さずに肉体のみの判断で行動を行ったような感覚だった。


 急に僕の意図しない動きを取った自分の肉体に僕は驚きを隠せない。


 まさか今更になってSALE-99達の洗礼の儀の効果が発動したっていうのか。


 でもそれにしては依然として精神は僕の意識を保っているし……。


 これだと精神ではなく肉体の制御を乗っ取られたという感じだ。

 

 「(ど……どうして僕の体が勝手に……。まさかやっぱりSALE-99達の洗礼の儀の効果が今更になって機能し始めたっていうのかっ!。だけどその割には精神は依然僕の意識を保っているし一体どうなって……)」


 「(ごめんなのっ!。LA7-93っ!。この行動は僕達がLA7-93の脳を通して起こさせたものなのっ!。急を要することだったからLA7-93に確認する暇がなかったなのっ!)」


 「(暇がなかったなのっ!)」


 「(そ……そうだったのか。でもなんだっていきなりそんな真似を……。これだとSALE-99の命令に従ってるように見えるけど……)」


 「(SALE-99達からの疑いを逸らす為に敢えてそうやってるなのっ!。多分だけど自分達の洗礼の儀が【転生マスター】に対して効果が無いことはSALE-99達も了承済みの上で僕達に命令を出してきてるなのっ!)」


 「(出してきてるなのっ!)」


 「(えっ……でも効果が無いと分かってるならどうして……ああっ!。もしかして洗礼の儀の効果が無いことで逆に僕が【転生マスター】であることを確かめようとしてるってことぉっ!?)」


 「(そういうことなのっ!。だからこの場はSALE-99達の命令通りに行動をしている振りをするしかないなのっ!)」


 「(するしかないなのっ!)」


 「(くっ……洗礼の儀が効かないことが分かって折角喜んでいたっていうのに結局SALE-99達の言いなりならなきゃいけないなんて……)」


 僕の体が勝手に動いてしまったのは僕の体の細胞に転生しているベル達によるものだった。


 SALE-99達の狙いに逸早く気付いたベル達はSALE-99達の目を誤魔化す為に脳から信号を送り僕の体を強制的に操作してくれたようだ。


 まさか洗礼の儀の効果が【転生マスター】に効かないことの裏をついてくるとは危うく敵の罠にまんまと引っ掛かるところだった。


 しかしどうにかSALE-99の命令通り地面に跪きはしたものの、SALE-99が命令を出してから結構な時間差が生じてしまっているが上手く敵の目を誤魔化せているのだろうか。


 それにこれからどのような命令が出されるかも分からないというのにそれに従っている振りをするというのも大変だ。


 何か洗礼の儀の効果が効いていないことをSALE-99達に悟られずにこの場を切り抜ける手段はないのか。

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