第57話 模擬戦後
「(はぁ……。やっぱりヴェントには敵わなかったみだいね)」
「(いやっ!。でもLA7-93も【神の子】の転生スキルを取得しているヴェント相手に滅茶苦茶良くやったと思うなのっ!。『注射器魔法』の魔法もかなり使いこなせていたようだったしこれまでの僕達の転生の成果を十分に実感できた試合だったと思うなのっ!)」
「(思うなのっ!)」
「(私もマスターの戦う姿につい魅入られてしまっていました。ヴェントに勝てなかったのは残念ですが我々の目的である『注射器魔法』の魔法の固有転生スキルとして取得にはかなり近づいてきているのではないでしょうか)」
「(そうだね。皆の言う通り負けはしたけど僕もそれなりの手応えを感じることができたよ。でも最後のヴェントはどうやってあの泥濘から抜け出したんだろう。一瞬にしてその場から姿を消してしまったようだったけどやっぱり魔法か何かかな。ちょっと聞いてみてみようか)」
「はぁ~、やっぱりヴェント兄ちゃんは強いや~。僕なんかじゃまるで歯が立たなかったよ」
「何言ってるんだよっ!、ヴァンっ!。確かに勝負の結果としてはそうだけどヴァンの実力には兄ちゃんも驚かされた。まさかヴァンがこんなに強くなってるなんて夢に思わなかったよ。これなら教団の戦闘部隊にも加わっても十分活躍できそうだ」
「本当っ!。それじゃあ僕も……」
「ああ。ヴァンが望むならいつでも部隊に加わって貰って構わない。但し父さんと母さんにはちゃんと自分で自分の進む道を説明するんだぞ」
「うんっ!。ところでヴェント兄ちゃんに1つ聞きたいことがあるんだけど……」
「何だい?」
「試合の最後でヴェント兄ちゃんに僕の攻撃を躱されて一瞬で背後に回り込まれてしまったけど……。あの泥濘から一体どうやって抜け出したの。まるで瞬間移動でもしたかのようだったけどあれもヴェント兄ちゃんの魔法の力?」
「ああ。光属性の魔法で自分の肉体を光に変えて移動したんだよ」
「えっ……」
肉体を光に変えるという神業めいたことをスラッと言ってのけるヴェントに僕は驚愕を覚える。
いや神業めいたことができるようになるのが【神の子】の転生スキルの力なんだろうけれども……。
万が一敵として相対した場合にそのような力を行使されたら成す術がなく、もしこれが実戦であったのなら僕はあのまま背後から串刺しされ止めを刺されてしまっていた。
裏ではヴェント達『味噌焼きおにぎり』のことを敵視し色々と情報を探ろうとしている僕達であったが、もし本当にヴェント達と敵対するようなことがあった場合今の僕達の実力ではまるで歯が立たないのは今の模擬戦の結果を見れば明白だ。
これはもう本格的にヴェント達『味噌焼きおにぎり』を敵に回すわけにはいかなくなった。
もういっそのことこちらから【転生マスター】であることを明かして協力を申し出ようか……。
そう思ってしまう程のヴェントの実力だった。
「ところで兄ちゃんからもヴァンに1つ言いたいことというが提案があるんだけど……」
「んん?。何、ヴェント兄ちゃん」
「ヴァンの『注射器魔法』の魔法だけど……。魔力で注射器を具現化するより実物の注射器を製造して用いたより高い性能を発揮できると思うんだ。良かったら教団の方で腕の立つ錬金術師に依頼してヴァンの『注射器魔法』の魔法専用の注射器を作製して貰おうか?」
「え……ええっ!。本当にそんなことして貰っていいのっ!」
「ああ。ヴァンは教団の教皇である僕の兄弟なんだからちょっとぐらい特別扱いしても誰も文句は言わないよ」
「そ……そう。なら折角だしお願いしてみようかな……」
「(しかしそう易々と敵の施しを受けるのは危険ではありませんか、マスター。この場のヴェントはあくまで好意で提案してくれているように思えますがその錬金術師とやらも『味噌焼きおにぎり』のメンバーである可能性を考えると信用はできません。それに注射器を製造する過程でマスターの『注射器魔法』の魔法に関して更にヴェント達の側に情報が漏れてしまう危険もあります)」
「(だけど断念したとはいえ『注射器魔法』の魔法に錬金術で作製した注射器を用いるのは当初は僕達も計画していたことだよ。それに『注射器魔法』の魔法の情報だって今回の模擬戦でそのほとんどが明るみに出ちゃったようなものだし今更隠し立てすることなんてないよ。こうなったら折角『味噌焼きおにぎり』のリーダーであるヴェントの兄弟として生まれたことを徹底的に利用して僕達の『注射器魔法』の魔法を強化させて貰おう。それにさっきの模擬戦の内容を見れば分かる通り今の僕達とヴェント達の実力の差には思った以上の開きがある。僕達の素性がバレない内にヴェント達に対抗する力をできる限り身につけておくためにも今は四の五の言ってられないよ)」
「(畏まりました……)」
「(ベル達もヴェントに注射器の製造を依頼して構わないよね)」
「(構わないよなの。製造して貰った注射器の性能によっては僕達も錬金術の腕の立つソウルメイトに注射器を製造して貰う計画を真剣に練ってみるなの。MN8-26じゃあちょっと頼りないしそれだけの錬金術の腕前を持った魂を見つけるのはちょっと大変かもしれないけどなの)」
「(しれないけどなの)」
こうして僕はヴェントに『注射器魔法』の魔法専用の注射器の製造を依頼した。
あくまで兄弟としての絆から言ってくれているヴェントの好意を利用するみたいで悪いけど現状の僕達は置かれている状況に対してどう考えても力不足だ。
ヴェントとは兄弟として深い絆で結ばれた関係を築けてはいるけど裏でSALE-99達が手を引いている以上いつ表立って敵対することになるやも分からない。
そうなった場合のことも考えて僕はできる限り『味噌焼きおにぎり』のリーダーであるヴェントの弟という身分を利用するつもりでいた。
しかしながらそんな僕達のささやかな抵抗など物ともしない壮大な計画をSALE-99達は水面下で進めている。
僕の元を去り先程の模擬戦を観戦していたSALE-99達の元へと向かった先でヴェントは……。
「……っというわけだ。教団の人脈を使ってヴァンの注射器を製造できる腕を持つ錬金術師を探してやってくれ。俺達『味噌焼きおにぎり』のメンバーにそのような人物に転生している魂がいればそいつに頼んでも構わない」
「ふむぅ……どうだい、CC4-22。今の時代に錬金術師に転生している僕達の仲間はいたかな?」
「いえ……。BG4-55がここより東のローメル王国で錬金術師とて名を馳せていたようですが残念ながら3年程前に寿命で亡くなっています。しかしながらその弟子のメルクリオ・ジーニクスという者がBG4-55を超える錬金術師として代を受け継いでいるようですのでそちらに依頼しましょう。BG4-55と接触した際に出会ってから私はそのメルクリオともある程度の親交がありますから」
「だけどいくら兄弟だからって私達『味噌焼きおにぎり』のメンバーでもないヴァンにそこまでの施しをするのは危険なんじゃない?。SALE-99もあっさりと了承しちゃってるけど元々ヴァンのことを【転生マスター】じゃないかって疑っていたのはあんたでしょ」
「確かにね。でも今の模擬戦を見ていれば分かる通り上手く成長を促せばヴァンは僕達メノス・センテレオ教団にとって相当な戦力となるはずだ。それにヴァンが【転生マスター】かどうか確実に確かめる手も考えてある」
「へぇ……それって一体どんな手よ」
「もうじき僕達メノス・センテレオ教団の洗礼の儀の魔法が完成する。それを上手く利用すれば容易くヴァンが【転生マスター】か確かめることができるはずだよ」
「洗礼の儀ですって……ああ。なる程、そういうことね」
模擬戦で疲れて草原に横になる僕の方を見ながらヴェント達が何やら話をしている。
本当はアイシアを差し向けてどのような会話をしているか様子を探って来て欲しかったのだが、霊体の存在にまで警戒を怠らないSALE-99がいた為断念した。
アイシア曰くSALE-99は霊体であるアイシアの存在を捉えてるような節があるらしく時折凄まじく冷徹な視線が自身に向けられているのを感じるらしい。
【転生マスター】でないヴェントを交えての会話はテレパシーではなく直接言葉を用いて行われるはずだ。
そのことを考えれば今は『味噌焼きおにぎり』のメンバーの秘密の会話を盗み聞きする絶好の機会であるはずだというのにそれを躊躇させる程僕達は『味噌焼きおにぎり』のメンバーの中でも一際SALE-99のことを脅威に感じていた。




