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第49話 神の子の奇跡

 魔王アークドー率いる魔王軍の襲撃を受けてから約1週間が経過。


 僕はPINK-87さんに連れられてブランカ達メノス・センテレオ教団の元へとやって来ていた。


 これまで共に抱き抱えられて来ていたアイシアの姿はもういない。


 ヴェントからアイシアが生き返ると聞きつつも僕達家族はその喪失感から誰もが暗い表情をしていた。


 すぐ隣に僕の守護霊となったアイシアが共に居てくれている僕は別だけどやっぱり普通に生きていてくれていた方が嬉しいに決まってる。


 今日はいよいよヴェントがアイシアや他の犠牲になった住民を生き返らせてくれる日がやって来たとの通達が来て皆でメノス・センテレオ教団が用意した会場へとやって来ていたのだけれど……。


 「私はメノス・センテレオ教団のブランカ・ティーグレです。ウィンドベル村の皆さん。この度は魔王アークドーの軍勢の襲撃を受けまだ傷……そして何より家族や友人達、皆さん方にとって数多くの大事な存在を失った悲しみも癒えていないはずだというのに我々の元へと集まって頂きまこと恐縮の限りです。我々メノス・センテレオ教団も力の限り魔王軍に対抗したのですが全ての住民の皆さんをお守りすることができませんでした。ウィンドベル村の皆さん方には突然押し寄せて来た私達を快く迎え入れてくれたというのにその恩に報いることができず大変申し訳ございません……」


 「何言ってるだっ!、ブランカさんっ!。確かに俺もあいつ等の襲撃で大事な1人息子を失ってとてつもない悲しみに暮れているっ!。だけど他の家族や住民達、それに何より俺自身が無事なのはあんた達メノス・センテレオ教団が懸命にあいつ等と戦ってくれたおかげじゃないかっ!」


 「そうだっ!、そうだっ!。メノス・センテレオ教団の皆がいなかったらこんな小さな村なんざぁ完全に壊滅させられちまってたよっ!。悪いのは全部あの魔王軍の奴等なんだからあんた等が謝る必要なんてこれっぽちもねぇよっ!」


 「ああ……。それに聞いた話じゃああいつ等の犠牲になった全員をあんた達の力で生き返らせてくれるんだろう。俺の可愛い娘だったアンナも……」


 僕達家族も含めてウィンドベル村の住民達は魔王軍を撃退してくれていたメノス・センテレオ教団をもう完全に信用しきってしまっていた。


 メノス・センテレオ教団がいなければ今頃はこの場に生き延びることができた僕達も全滅させられてしまっていただろうから当然のことだろう。


 メノス・センテレオ教団。

 

 そしてヴェントやSALEー99の裏の顔を知る僕達もそのことに関しては素直に感謝の感情を感じていた。


 これで本当に襲撃の犠牲者達が生き返ろうものならウィンドベル村の住民達は信用を通り越して最早メノス・センテレオ教団と神の子(・・・)であるヴェントに心酔し切ってしまうのではないだろうか。


 「ええ……ですがそれは我々の力ではありません。全ては神の子(・・・)として地上に遣わされたヴェント様の起こす奇跡によるものなのです」


 「………」


 「うおぉぉぉーーーっ!。ヴェント様ぁぁぁーーーっ!」


 「神の子(・・・)ヴェントっ!。私達の救世主っ!」


 メノス・センテレオ教団の教会は魔王軍の襲撃により現在改修作業中。


 そもそも教会には住民達を全員収容できるだけのスペースがなかった為この集会は村の外れの高原を切り開いて設置された祭壇のような場所で行われていた。


 ブランカに誘われてその祭壇の上へと今や神の子(・・・)として一層認知されるようなヴェントが姿を現す。


 壇上に現れたヴェントの姿を見て住民達から歓喜の声が溢れ出ていた。


 「(あの襲撃依頼ヴェントはもう完全に神の子(・・・)として皆から扱われるようになっちゃったみたいだね。これまでは神の子(・・・)と言いながらも普通の村の子供として接していたのに……。あれじゃあもう怪しげな宗教団体の教祖様って感じだよ)」


 「(まぁ、あの魔王軍の奴等が襲撃して来た時のヴェントの活躍は凄まじかったからねなの。僕達もまさかいくら【神の子】の転生スキルを取得しているとはいえまだ3歳のヴェントがあれ程の力を秘めているとは思ってなかったなの)」


 「(思ってなかったなの)」


 「(ヴェントだけでなく他のメノス・センテレオ教団の者達も魔王軍を撃退するのに奮闘してくれたみたいですしね。SALE-99やブランカについてはヴェントに匹敵する程の強大な力を振るって魔王軍達を撃退していたようです。やはりヴェント以外にも『味噌焼きおにぎり』のソウルギルドに所属する魂達は皆相当な実力を秘めているのでしょうか)」


 「(恐らくね……。そんな奴等に追われてBS1-52君達は無事逃げ切れたんだろうか……ってごめん。いくら同じ【転生マスター】として多少は交流できたとはいえアイシアを殺した奴等の心配をするなんて良くないよね)」


 「(いえ。私も命を奪われたとはいえBS1-52さんについてはそれなりに信用できる魂である気がきます。それこそ同じ【転生マスター】であるSALE-99やブランカ達よりもよっぽど……)」


 「(確かに……。でもBS1-52君達の襲撃から助けられたことでヴェントに関しては大分見方が変わってきたよ。僕達家族が襲われてアイシアが殺された時も本気で怒ってくれてたみたいだしヴェントに転生している魂はそこまで悪い奴じゃないんじゃないかな。ヴェントみたいないい子がSALE-99やブランカとソウルメイトを組んでるなんて未だに信じられないよ)」


 「さぁ……ヴェント様。悲劇に見舞われ悲しみに暮れる我らにどうか神の子(・・・)の奇跡をお与え下さい……」


 「………」


 「おおっ!、ヴェント様の体からまた不思議な光がっ!」


 「神の……神様の慈悲がヴェント様の体を通して我々の元へ舞い下りていてるのよっ!」


 「おお……神よ……」


 沈黙を保ったままのヴェントから魔王軍に襲われる僕達を救った時と同じく不思議なまでに眩い光が溢れ出し、祭壇の前に並べられた亡くなった村の住民達の遺体を包み込む。


 その光の温もりはまるで本当に神様の慈愛にでも包まれているような感覚だった。


 そんな時ふと思ったんだけどこの『ソード&マジック』の世界において神様と呼べる存在に転生している魂などもいたりするのだろうか。


 【転生マスター】である僕達にとって神様とはあくまで僕達の魂を創造した創造主や各世界の管理を行っている魂のことなんだけど……。


 暫くするとヴェントから放たれた光が収まり祭壇の前に並べられた住民達の遺体が再び僕達の前へと姿を現した。


 しかしその者達は既に遺体ではなく……。


 「う……ううん……」


 「あ……あなたぁぁーーっ!」


 「あ……あれ……。ここはどこ……。私一体どうしちゃったの……」


 「アンナぁぁぁーーーっ!」


 再び僕達の前へと現れた皆は本当に息を吹き返し戸惑った様子で体を起き上がらせていく。


 まさか本当に皆を生き返らせることができるなんて正直今目の前の光景を目の当たりにするまで半信半疑だった。


 驚くだけで済むレベルを完全に超えてしまっているのだが皆そんなことに構いもせず蘇えった家族や友人達の元へと歓喜に満ちた表情で駆け寄っていく。


 そして再びこの世に誕生したように産声を上げて蘇えったアイシアを見たPINK-87さん達も……。


 「ばぁっ!、ばぁっ!」


 「アイシアっ!、アイシアっ!。あー本当に良かったぁっ!」


 「はははははっ!。お~いっ!、アイシア~っ!。俺はヴィンス兄ちゃんだぞ~。ちゃんと覚えてるか~っ!」


 「まさか本当にこんな奇跡が起こるなんてっ!。今の今まで半信半疑の私でしたが今確信したっ!。ヴェントは本当に神の子(・・・)だったんですねっ!、ブランカさんっ!」


 「ええ……。どうやらいよいよヴェント様に我々メノス・センテレオ教団の教皇の座に就いて頂き世界を救済へと導く時がやって来たようです。ヴェント様をこの世に誕生させて下さったサンクカルトさんには本当に感謝のしようがない程です。どうかこれからも我々と共にヴェント様の世界の救済にご協力頂けるようどうかお願い致します」


 「勿論ですっ!。私達家族だけでなくきっとこの村の住民達全員がメノス・センテレオ教団の一員となることを望むでしょうっ!」


 「はははっ!。それが本当だとしたら誠頼もしい限りですね。地上の世界の救済はヴェント様お1人の力ではなく皆さん方の神への揺るぎない信仰があって初めて成せることなのですから」


 蘇えったアイシアをありったけの涙を流しながら強気抱き込むPINK-87さん。


 PINK-87さんに代わって僕を抱くMN8-26さんもヴィンス兄さんことRE5-87君も歓喜に表情で元気に産声を上げるアイシアのことを囲んでいる。


 しかしMN8-26さんの腕の中で僕も皆と同じようにアイシアの復活を喜んでいたのだけれど……。


 「(アイシアが蘇ってくれて本当に良かった……。PINK-87さんもあんなに涙を浮かべて喜んで……。これで僕達家族もまたあの穏やか明るく……とても居心地の良い雰囲気を取り戻すことができるね)」


 「(そうだねなの。【転生マスター】である僕達にはそこまで精神的なダメージは無いけどやっぱり落ち込んでるPINK-87達をずっと見ているのは辛かったしなの)」


 「(辛かったしなの)」


 「(あの……マスター……。それなんですが……)」


 「(おおっ!、アイシアっ!。どうだい、ヴェントの力で蘇えった後の体の感触は?)」


 「(いえ……。ですから今の私はそこにいる赤ん坊から話し掛けているのではなく……)」


 「(えっ……)」


 「(………)」


 「(うわぁぁぁーーーっ!。蘇えったはずなのにどうしてまだ霊体の姿のアイシアがいるんだぁぁーーっ!)」


 「(さ……さぁ……。私にもよく分からないのですがとにかく私には自身の肉体が蘇ったという感覚はありません)」


 「(そ……それじゃあこの元気に産声を上げているアイシアは……っ!。【転生マスター】である僕達に見えるはずのアイシアの名前の表示がこの赤ん坊にはないっ!。ってことはもしかして……」


 「(も……もしかしてなの……)」


 「(なの……)」


 「(蘇えった赤ん坊のアイシアには別の魂が転生しちゃったってことなのぉぉーーっ!)」


 アイシアが復活し喜びに明け暮れているのも束の間僕達に突きつけられてきた衝撃の事実。


 なんと蘇えったアイシアはアイシアであってアイシアでない存在だったのだ。


 本当のアイシアは僕の隣で今も守護霊として宙を漂っている。


 そして霊体のアイシアには【転生マスター】のみが視認できる名前の表示があるが蘇えった赤ん坊のアイシアにはない。


 つまりこのことが指し示す真実は蘇った赤ん坊のアイシアには別の魂が転生してしまった可能性があるということだ。


 この事実を知るのは【転生マスター】である僕達のみ。


 PINK-87さん達は以前と変わらぬアイシアと信じて蘇えった赤ん坊を抱いている。


 PINK-87さん達にとっては以前と変わらぬアイシアであっても僕達にとってはまるで違う存在に僕達は戸惑いを隠せずにいた。

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