第45話 襲撃
「ぐへへへへへっ!。こんなところにいやがったのか」
「あ……あなた……。この人達は一体何なの……」
平穏な日常の最中突如僕達の家に押し入って来た《《魔王アークドー》》率いる魔王軍と名乗る襲撃者達はあっという間に赤ちゃん部屋に立てこもる僕達の元へとやって来た。
PINK-87さんはこの人達なんて言ってるけど僕達にも通じる人間の言葉を話してるだけで姿はまるで人間なんかじゃない。
ゴブリンやオーク、他にも2足歩行で立つ人に近い姿をした牛や鳥の化け物達。
まさに『地球』の世界のRPGで謂うところの敵モンスターのような存在達が敵意を露わにして僕達の目の前へと迫って来ていた。
人間の言葉を話せるということはそれだけ知能が高い。
この世界でも屈指の実力を誇る《《魔族》》に分類されるモンスター達だ。
「分からない……。私が村の公会堂で住民達と話しているところにやって来て突然村を襲い始めたんだ……。既に私の目の前でリッキーがこいつ等に殺されてしまった……。私達を殺すことに何ら躊躇いの奴等だから気を付けるんだっ!」
「気……気を付けろって言われてもこんな状況でどう……」
「うわぁぁぁーーーっ!、助けてぇぇぇーーーっ!」
「きゃあぁぁぁーーーっ!、誰かぁぁぁーーーっ!」
「いやぁぁぁーーーっ!」
聞こえてくる悲鳴にPINK-87さんが窓を振り向いて外を見ると村のあちらこちらで火の手が上がり、モンスターに襲われる住民達が逃げ惑っている。
どうやら僕達の元に訪れて来た奴等だけでなく本当に《《軍隊》》を引き連れてこの村にやって来たみたいだ。
「ぐへへへへへっ!。俺達は《《魔王アークドー》》様率いる魔王軍だ。大人しく神の子の子供を引き渡しやがれっ!」
「(くっ……こいつ等は一体……。《《魔王アークドー》》って言ってるけど本当にあの《《魔王》》のことを言ってるのっ!)」
「(そうだと思うなの……。どうやら僕達は不運にもこの世界で魔王と同じ時代に転生してしまったみたいなの……。神の子や《《勇者》》は魔王と同時期に転生するものだからもしかしてとは思ってたけど……。どうやら魔王の世界征服の邪魔となる神の子を抹殺しに来たみたいなの)」
「(みたいなの)」
「(つまりこいつ等の狙いはヴェントってことか……)」
「(そうなの。きっとヴェントがまだ力を持たない子供の内に始末してしまおうと考えたなの)」
「(考えたなの)」
「(くっ……いくら敵となることが確定しているとはいえまだ3歳のヴェントを狙って来るなんてなんて卑劣な奴等なんだっ!)」
「この村に神の子の子供がいることは分かってるんだっ!。命が欲しかったらさっさと差し出しやがれっ!」
「………」
「おっ……そいつが神の子か。それともその大事そうに抱えてる2人の赤ん坊のどっちかか?」
「どいつでも構わねぇよ。どの道この村にいる子供共を全員皆殺しにしちまえば済むことじゃねぇか」
奴等の1人。
ぶよぶよの肥満体で口からはみ出る程の牙を生やしたオークのモンスターがヴィンス兄さんことRE5-87君と赤ん坊の僕達に疑いの目を向ける。
しかし奴等の目当てであるヴェントは教会に出払っててこの場にはいない。
RE5-87君だけでなく赤ん坊の僕達まで疑ってるところを見るとどうやら神の子であるヴェントの正確な人相の情報は得ていないようだ。
最もそのせいでヴェントだけでなく村中の子供達の命が狙われる羽目になってしまっているようだけれど……。
「………」
「けっ……どうやら大人しく子供を渡すつもりはねぇみてぇだな。だったらもう面倒くせぇから親共々全員この場で皆殺しにしてやるよっ!」
「うおぉぉぉーーーっ!」
僕達の元へ駆け付ける途中に家の物置から持ち出して来たのかMN8-26さんが僕達を守る為勇ましく剣を構えて奴等へと斬り掛かっていく。
しかしこれまでに実戦の経験や戦闘の訓練を積んでいるわけでもなく、転生スキルにおいても直接戦闘に影響を及ぼすものをほとんど取得していないMN8-26さんが正面から奴等と戦って敵う道理はなかった。
「ぐはぁぁぁーーーっ!」
「あなたぁぁぁーーーっ!」
「がはははははっ!。てめぇ等貧弱な人間共が俺達魔王軍に適うわけねぇだろうがよぉっ!」
剣を構えていたにも関わらずオークのモンスターは太く筋肉質な剛腕を素手で軽く振るっただけでMN8-26さんを薙ぎ払ってしまう。
部屋の横側の壁に叩き付けられてMN8-26さん口から血を吐いてしまう程のダメージを負いそのまま床へと倒れ込んでしまった。
MN8-26さんを退けた奴等は赤ん坊の僕と抱くPINK-87さんとアイシアを抱くRE5-87君の元へと余裕そうな笑みを浮かべてゆっくりと迫って来る。
【転生マスター】の意識の中でこの状況を打破する方法を必死に模索するけど赤ん坊の僕達には何も為す術はなく誰かが救援に駆け付けてくれることを願うしかない。
幸い今この村にはSALE-99とブランカが引き連れて来たメノス・センテレオ教団の者達が滞在している。
只信者というわけでなく、聖職者としての力も身に付けている彼等なら多少はこいつ等に対抗することができるはずだ。
「(PINK-87さんっ!、RE5-87君っ!。僕達のことは気にしないでいいからこうなったら思い切って窓から飛び降りてブランカ達のいる教会に逃げ込むんだっ!。あいつ等の教団は信用できないけど神の子でありあいつ等のリーダーでもあるヴェントの家族である僕達を見殺しにはしないはずだよっ!)」
「ばあぁっ!、ばあぁっ!」
そう必死に訴えかける僕だけど【転生マスター】でないPINK-87さん達には只赤ん坊が恐怖で泣き叫んでいるようにしか聞こえない。
それにもしPINK-87さん達自身が窓から飛び降りることを思案していたとしても落下による衝撃が赤ん坊の僕達の命に関わる可能性がある以上そう易々と決断できないだろう。
しかし奴等の脅威がすぐそこまで差し迫っているこの状況で迷っている暇は……。
「母さん……。悪いけどアイシアを頼む……」
「……っ!。ヴィンス……あなたまさか……っ!」
「うおぉぉぉーーーっ!」
「(……っ!。この黒い炎はまさか……)」
「(RE5-87の十八番っ!。【地獄の業火】の炎が出たなのっ!。転生スキルの力があるとはいえまだ6歳の年齢で地獄の業火を発現させるなんてやっぱりRE5-87はやる奴なのっ!)」
「(やる奴なのっ!)」
「(よーしっ!、RE5-87君っ!。こんな奴等自慢の地獄の業火で焼き尽くしちゃえっ!)」
父親であるMN8-26さんが倒され、更に僕達家族が敵の手に掛けられようとする最中。
我が家の長男として怒りに震えるRE5-87君の体から黒い炎が湧きあがってきた。
闇属性の混ざった火を巻き起こすRE5-87君の十八番の魔法の地獄の業火だ。
自ら『地獄』の世界に転生し、地獄の業火の炎による火あぶりの刑に耐え抜いたRE5-87君はエキストラ転生スキルである【地獄の業火】を取得している。
しかしだからとはいえまさかまだ6歳の年齢で地獄の業火の炎を扱えるようになっていようとは……。
やはりRE5-87君は僕達の兄さんとして滅茶苦茶頼りになるソウルメイトだ。
目の前に立ちはだかる敵を焼き尽くさんと……。
何より僕達家族を守らんが為RE5-87君の地獄の業火の炎が魔王軍の奴等に向かって撃ち放たれる。
「ぐわぁぁぁーーーっ!。ま……まるで体の奥から焼かれてるみたいに熱ちぃぃぃーーーっ!。な……何なんだ……この黒い炎は……っ!」
「ま……まさかこれは地獄の業火の炎……。我ら魔族でも扱える者の少ない地獄の業火の力を何故人間の子供が……」
「くっ……糞がぁっ!。早くあの子供を何とかしてくれっ!」
「ちっ……はあぁっ!」
「ぐあぁぁぁーーーっ!」
「ヴィンスっ!」
「(あ……RE5-87君っ!)」
RE5-87君の地獄の業火の炎に焼かれるオークを見て仲間のゴブリン種族のモンスター。
オーク以上の高身長でスラッとした体格でローブを纏う如何にもエリート面した奴がRE5-87君に向かって魔法を撃ち放つ。
その右手から放たれた烈風。
恐らく風属性と思われる魔法によりRE5-87君は窓を突き破って外へと吹き飛ばされてしまった。
地獄の業火の炎を扱えたとはいえRE5-87君1人でこれだけの敵を相手にできるわけがない。
せめて僕達も3歳ぐらい……いや。
立って歩ける程度まででもいいから成長できていたらRE5-87君に加勢してあげることができたのに……。
「はぁ……はぁ……。地獄の業火だが何だか知らんがそんな魔法を扱えるなんてあの子供が神の子だったのか……」
「いや。地獄の業火はその名の通り地獄から呼び寄せた炎を扱う魔法で天からの使いである神の子とは正反対の性質を持つものだ」
「じゃああいつは神の子じゃなかったってことか……」
「ああ。だが地獄の業火の炎を扱えるとは中々稀少な子供だ。《《本物の魔王軍》》に差し出せばそれなりの褒美を貰えるやもしれんし後で回収しておこう。最も俺の魔法を食らった上に2階から叩き落とされて生きていればの話だがな。……ふふっ」
「(ほ……《《本物の魔王軍だって》》……。それって一体どういう……)」
「(今はそのようなことを気にしている場合ではありません、マスターっ!)」
「い……いやっ!。こっちに来ないでっ!」
「げへへへへへっ。もう諦めてこっちに子供共を渡せ。折角だからてめぇの子供が俺達に殺られる瞬間を見せつけてからてめぇ等親共も仲良く後を追わせてやるからよ」
「うぅっ……」
「おらぁぁぁーーーっ!。とっと子供を渡せっ言ってんだろっ!、この糞女がぁぁーーっ!」
「きゃあぁっ!」
MN8-26さん、RE5-87君が倒れもうPINK-87さんと僕達を守る者はいない。
勝利を確信した奴等の1人のオークはニタニタした薄ら笑みを浮かべながらPINK-87さんへと近寄り、髪を鷲掴みにして押さえ込みその手から強引に僕とアイシアを引き剥がし床へと放り投げた。
床に落とされた僕達を必死に取り戻そうとするPINK-87さんだがオークに阻まれた挙句壁に向かって投げ付けられ倒れてしまう。
地面にうつ伏せに倒れた状態から必死に起き上がろうとするのだが、オークに背中から踏み付けられ起き上がるどころか痛みに耐えるのがやっとの状況だ。
それでもどうにか僕達を助けようと口から大量の血を吐き出しながらも涙を浮かべて手を伸ばそうとするPINK-87さんの姿がとても痛ましく……。
何よりこの状況で只泣き叫ぶことしかできない自分達のことが悔しくて堪らない。
「へへっ。こいつは俺が押さえつけておくからお前等はその赤ん坊共の始末を頼むぜ。この痛ましげな母親にまだ赤ん坊の自分の子供共があの世に行くところをしっかりと拝ませてやれ」
「よっしゃっ!。なら子供共を殺るのはこの俺に任せてくれ」
床に転がったまま泣きじゃくる僕達の元に牛の怪物の姿をしたモンスターが巨大な棍棒を携えてやって来た。
赤ん坊の僕達の何十倍もあるその巨体でまるで絶好の獲物を前にしたかのように舌なめずりをしながら僕達のことを見下ろしている。
赤ん坊の僕達なんてこいつの棍棒の一振りでまるでスイカでも割るみたいにあっさりと叩き潰されてしまうだろう。
「や……止めてっ!。私ならどうなっても構わないからどうかその子達だけは助けてあげてぇぇーーっ!」
「はぁ?。俺達は元々神の子の可能性のあるこの村の子供共を全員皆殺しにするよう命令を受けてるんだからそんなことできるわけないだろう。それともどの子供が神の子なのか教えてくれるってのか?」
「そ……それは……」
「なら黙って見てろ。俺達としてもあっさり神の子が見つかるより1匹ずつじっくりと楽しみながら殺していく方が楽しいからよ」
僕達を助ける為とはいえ同じ自分の息子であるヴェントが神の子だとPINK-87さんに明かせるわけがない……いや。
PINK-87さんのことだから例え神の子として生まれたのが他の住民の子供だったとしても決してこいつ等に教えることはなかっただろう。
結果的に僕達を見殺しすることになってもその信念は立派なことだからどうか僕達が殺されても自分を責めないで欲しい。
……ってもう諦めたようなこと言ってるけど例え赤ん坊の状況でも最後まで抵抗してみせるぞ、僕達は。
「(こうなったらアイシアっ!。赤ん坊の状態だろうと何だろうと関係ないっ!。今の僕達の持てる力の全てを解放してこいつ等に立ち向かうんだっ!。【転生マスター】の僕達なら全力で意識を集中すれば赤ん坊の状態でも魔法を発動させることができるかもしれないっ!)」
「(畏まりましたっ!、マスターっ!)」
「(ベル達もできる限り……いやっ!。限界を超えても構わないから僕の体の力を全力で引き出してっ!)」
「(了解なのっ!)」
「(なのっ!)」
「おぎゃあぁぁぁぁぁっ!」
「おぎゃあぁぁぁぁぁっ!」
「ぎゃはははははっ!。おいっ!、こいつ等のこの気合の入った泣きようを見てみろよっ!。この赤ん坊共俺達を前にして一丁前に息巻いてやがるぜっ!。もしかして魔法でも放つつもりなのかな~、僕ちゃん達~」
「がはははははっ!。マジでスーパーサ〇ヤ人にでもなるつもりなのかよ」
「あっ?。なんだ……スーパーサ〇ヤ人って……」
「い……いや……。別に何でもないから気にしないでくれ……」
「(ちょ……今あいつが言った言葉を聞いたぁっ!、皆っ!)」
「(えっ……すみません。私は魔力を集中するのに夢中で何と言っていたのか聞き逃してしまいました……)」
「(僕達はちゃんと聞いてなのっ!。今確かにあの鳥の顔をした奴はスーパーサ〇ヤ人と口にしたなのっ!)」
「(口にしたなのっ!)」
スーパーサ〇ヤ人……。
それは『地球』の世界のド〇ゴンボールという漫画に登場する主人公達が特別な変身を遂げた姿のことだ。
『地球』の世界にしか存在しないはずの漫画の言葉を知っているなんてもしかしてこの鳥人の姿をしたモンスターに転生しているのも……。




