第41話 衝撃の事実
「ようやく2人きりで話せる機会がやって来ましたね、ヴェント様。いや……VS8-44」
「だ……誰……?」
僕達の赤ちゃん部屋の暗がりの向こうからヴェントに話し掛けて来た謎の人物。
明らかに僕達の父さんや母さんではないその怪しげな声にビクついた様子のヴェントが恐る恐る後ろを振り向くとそこに居たのは……。
「なんだ……ブランカさんか……。驚かさないでよ……」
ヴェントの背後に居たのは僕達の家に居候中のブランカだった。
声の主が知り合いと分かってホッとした様子のヴェント。
しかしそんなヴェントと違って今のブランカの言葉の内容に衝撃を隠せない僕達は……。
「(い……今確かにブランカは僕達の魂の名前めいた名でヴェントのことを呼んだよねっ!?)」
「(はい。確かにVS8-44と口にしていました)」
「(僕達の魂の名前が分かるってことはブランカも【転生マスター】ってことなのっ!。けどそうだして何故ヴェントの魂の名前を……)」
「(断言はできないけどブランカはヴェントのソウルメイトで【転生マスター】の力で魂の名前の表示を見ることができたんじゃないかなの。まだ適当に言っただけの可能性のあるしとにかく今は2人の会話を聞き取ることに集中するなのっ!)」
「(集中するなのっ!)」
もし本当にブランカがヴェントの魂の名前を呼んでいたとして一番可能性として高いのはブランカが僕やベル達と同様に【転生マスター】で、更にヴェントのソウルメイトであり、僕がPINK-87さんやRE5-87君の魂の名前を頭上に表示された文字で見れるのと同じようにブランカもヴェントの魂の名前を確認できたということだ。
しかしもしそうだとしてもわざわざ魂の名前を呼んでヴェントに話し掛ける理由が分からない。
これまでの考察通りヴェントが【神の子】の転生スキルを取得しているとするのならば、ブランカが【転生マスター】だとしても魂の名前を呼んだ相手であるヴェントは【転生マスター】ではないはずだからだ。
隠しスキルのページにある転生スキルは1つの魂に付き1種類のものしか取得できないという制限ある以上【神の子】と【転生マスター】の転生スキルを同時に取得することはできない。
つまりヴェントが【神の子】の転生スキルを取得しているものとするならばブランカは【転生マスター】でない相手に対し自身が【転生マスター】であると悟られる危険性のある行為を行ったことになる。
【転生マスター】には転生中に他者に魂の記憶と思考を有していることを悟られてはいけないという制約もあるはずだし……。
僕だって同じ【転生マスター】であるベル達はともかく例えソウルメイトであったとしてもPINK-87さんやRE5-87君には自身が【転生マスター】であることを明かすことなんてできるわけがない。
っということはやはりヴェントも【神の子】じゃなく【転生マスター】……ってことなのか。
「こ……こんな夜中に一体僕に何の用なの……ブランカさん」
「私の本当の名はブランカではありません。本当の私はあなたのソウルメイトとして共にこの『ソード&マジック』の世界に転生を行った魂の1人……CC4-22と申します」
「CC4-22……。さっきも僕のことをそんな何かの記号みたいな名前で呼んでたけど一体どういう意味なの……」
「ヴェント様は魂というものの存在をお信じになられますか?」
あまりの衝撃からまるで理解の追い付かない僕達を余所にブランカはヴェントとの会話を続けている。
今度は魂の名前だけでなくこの世界が『ソード&マジック』であることまでも明かしてしまった。
それに対する反応を見る限りではやはりヴェントは【転生マスター】ではなさそうだし一体どうなってるんだ。
「(ブ……ブランカの奴ここが『ソード&マジック』の世界であることまで明かしちゃったよっ!。ヴェントの反応を見る限りやっぱり【転生マスター】ではなさそうだし一体どういうつもりなんだ……)」
「(ま……まさかなの……)」
「(なの……)」
「(……っ!。ベル達はブランカの狙いについて何か分かったのっ!)」
「(まだ確証はないけどなの……。とにかく今は僕達も【転生マスター】だとブランカの奴に怪しまれないように静かに会話を聞くなの)」
「(聞くなの)」
ベル達にはブランカの行動の理由に何か心当たりがあるようだ。
しかしまだ確証は得られていないようで僕達は再び2人の会話に耳を傾けることに集中していく。
「魂の存在って……。別に信じているわけでも信じていないわけでもないけどそれが一体どうしたっていうの……」
「ふっ……これ以上子供の道化を演じずとも結構ですよ、ヴェント様。それにヴェント様なら既に私の言わんとしていることに大よその見当はついているはず……。もう少し私の話を聞いて貰えれば自身の状況を完全にご理解するはずです」
「……いいだろう。話してみろ」
「(……っ!。ヴェントの雰囲気が変わったっ!)」
「(ええっ!。先程までとは明らかに違う凄まじい威圧感を放っていますっ!。とても3歳の子供の持つ雰囲気とは思えませんっ!)」
「(どうやらようやく本性を表したみたいなの……。【神の子】の転生スキルを取得しているような奴があんな他と変わりない何処にでもいるような子供でいるなんておかしいと思っていたなの)」
「(思っていたなの)」
ブランカとの会話の途中で突如としてヴェントの雰囲気が変わり、直接話しているわけでもない僕達が思わず緊張してしまう程の威圧感を放ち口調も厳かなものへと一変する。
それはとても3歳の子供の取るような態度とは思えない。
大人……いや。
只単に大人染みているだけでなくそれこそまるでブランカが言うように神の子として地上の人々の上に君臨する人物のように威厳に満ちたものだった。
「まずもう一度言いますがヴェント様の本当の名前はVS8-44、私はCC4-22と言い、共にソウルメイト……いえ、ソウルギルド『味噌焼きおにぎり』のメンバーとしてこの『ソード&マジック』の世界へと転生してきた魂です」
「(ソ……ソウルギルド……『味噌焼きおにぎり』だって……。それって一体何のことだ?)」
「(ソウルギルドっていうのは霊界の魂達が集まって作る組織のことで『味噌焼きおにぎり』っていうのはその組織名のことだと思うなの。ソウルギルドについては後でまた詳しく教えてあげるから今は気にしないでおくなの)」
「(気にしないでおくなの)」
霊界には僕達魂が集って作るソウルギルドという組織なるものがあるらしい。
ソウルメイトとはまた違うようだが、単に魂達を集めるだけでなくそのソウルギルドなるものを組織することによって何かメリットを得られるのだろうか。
ソウルギルドについても気になるけど今はヴェント達の会話を聞くことに集中しないと……。
「『味噌焼きおにぎり』……」
「それについては我々のメンバーの魂の1人が自身の好物の食べ物を勝手にギルドの名前にしただけなのでお気になさらず……。ソウルギルドというのは霊界で集った魂達が作る組織のことです。私とあなたもその『味噌焼きおにぎり』という同じソウルギルドに所属する魂……つまりは仲間であるということです」
「………」
「我々魂は霊界から数多ある世界へと転生し自らを成長させていくのですが、世界に転生した際には霊界にいた頃の記憶を失ってしまうのです」
「ならどうしてお前はそのことを知っている?」
「それは私の魂が転生先の世界でも魂の記憶と思考を有することのできる特別な能力……。【転生マスター】の転生スキルを取得した状態でこの世界への転生に臨んでいるからです」
「【転生マスター】だと……」
「はい。【転生マスター】は魂の取得できる数ある転生スキルの中でも隠しスキルとされている特別な転生スキル……。そしてヴェント様の身に宿るVS8-44も【転生マスター】と同じくその隠しスキルの1つである【神の子】の転生スキルを取得しておられるのです」
「………」
【転生マスター】に続きヴェントが取得している【神の子】の転生スキルについても説明を行うブランカ。
これまでの会話の流れからヴェントが【転生マスター】ではなく【神の子】の転生スキルを取得しているのは間違いないがまさか霊界や魂の存在等について全て説明するつもりなのだろうか。
「俺が神の子として力を持って生まれたのはその為か。まさか魂に転生スキルなどと謂うような能力が存在していようとはな……。しかし何故そのことをわざわざ俺に知らせにきた。【転生マスター】というのはこの転生先の世界で自身が魂の記憶を有することを他者に知られてはいけないのだろう」
ヴェントがブランカに対して抱く疑問は当然であり、僕達も先程からずっと同じ疑問を抱いていた。
しかし今の僕達がそれ以上に驚いていることは……。
「(や……やっぱりヴェントも僕達と同じ疑問を抱いているみたいだ……。【転生マスター】が【転生マスター】以外に自身に魂の記憶があることを教えるのはどう考えても不自然だけど……。でもそれ以前にヴェントはブランカの話した霊界や魂の存在について受け入れることができているのっ!。まだ3歳の子供がこんな話を瞬時に理解した上で受け入れて全く取り乱すことなく応対できていること自体の方がおかしいんじゃないのっ!?)」
「(はい。先程から急に雰囲気が大人びたものへと一変しましたが、それだけでなくまるで知性や精神まで一気に大人と同等かそれ以上にまで成長してしまったようです)」
「(成長したんじゃなくて元からそうだったけど家族である僕達やPINK-87達を欺く為に敢えて普通の子供の振りをしていただけなの。【神の子】の転生スキルを取得しているような奴の成長速度を他の普通に転生している魂達と比べちゃ駄目なのっ!)」
「(比べちゃ駄目なのっ!)」
「(つ……つまりヴェントは本当に3歳にして大人以上の知性と精神を持っているってことなのか……。だとしても【転生マスター】として魂の記憶があるわけでもないのにこんな話をすんなりと受け入れられるとは思えないんだけど……)」
にわかには信じがたいけどこれまでのブランカの話への対応を見る限りヴェントはベル達の言う通り本当に実年齢を遥かに超えた知性と精神を手にしているとしか考えられない。
【転生マスター】でないにも関わらずそれだけの成長度を誇るなんて【神の子】の転生スキルの能力補正はそこまで凄まじいものなのか……いや。
もしかしたら【神の子】だけでなく他にも知性と精神への成長補正の大きくする為の魂の成長を行っているのかもしれない。
例えば魂のステータスの『知性』の項目を重点的に成長させたり、【成長速度上昇】や【理解力上昇】、【平常心】等といった転生スキルを高いレベルで取得していたりだ。
しかしだとしても今度は再び……。
同じ【転生マスター】でもないヴェントを相手にどうしてブランカが自身が魂の記憶があることを明かしたのかという疑問へと戻ってしまう。
「はい。ですがその《《転生中に他者に魂の記憶があることを知られてはならない》》という制約も相手が同じく自ら隠しスキルのページの存在を知った者であるならば受けはしないのです」
「(な……なんだってっ!。それじゃあ【転生マスター】であるブランカが【神の子】の転生スキルを取得しているヴェントに魂の記憶があることを知られても何も問題はないってことかっ!)」
「(そういうことなの……。恐らくこいつ等は初めから【転生マスター】であるブランカ……CC4-22が【神の子】の転生スキルを取得しているVS8-44に接触し霊界や魂の存在について教える算段で転生しているなの……)」
「(転生しているなの……)」
「(で……でもいくら隠しスキルのページを知る者同士なら制約に引っ掛からないとしても同じ【転生マスター】以外の相手以外に魂の記憶があることを教えるなんて危険過ぎないっ!。話したところでちゃんと理解して受け入れて貰えるとも限らないし怪しまれて敵対しちゃうなんてこともあるかもしれないよ。下手したら【転生マスター】でない相手の方から他の転生中の魂達に隠しスキルのページの存在が漏れちゃって共に折角取得した転生スキルを失う可能性だってあるのに……)」
突如としてブランカから明かされた《《転生中に他者に魂の記憶があることを知られてはならない》》という制約は同じ自ら隠しスキルのページの存在を知った相手には通用しないという事実。
確かにそれならブランカがヴェントに魂の記憶があることを明かしたことにも納得できる。
もし【転生マスター】が上手く相手に霊界や魂、転生中の世界の存在について知らせることができれば疑似的ではあるが【転生マスター】の仲間を増やせるということになるしそのメリットの程は計り知れない。
しかしながら同時にとても許容できるはずもないリスクを背負うことにもなるはずだ。
上手く霊界や魂、転生中の世界の存在について教えて【転生マスター】としての仲間を増やせたとしても所詮は疑似的なもの。
本当の【転生マスター】として正確無比に霊界や魂、転生中の世界の存在について認識できていない以上は確実にその情報を有効活用できる保証はないし、場合によっては隠しスキルのページの存在を知る者が絶対に遵守しなければならない制約まで犯してしまう危険性まである。
その点を考えるとやはり【転生マスター】以外の存在に魂の記憶があることを決して打ち明けるべきではないと思うのだが……。
「そういうことか。それでつまりお前の目的は俺に霊界や魂についての知識を教えた上で同じその……『味噌焼きおにぎり』とかいうソウルギルドの魂の仲間としてこの現在転生中の『ソード&マジック』の世界での協力を図ろうというわけだな」
「はい、流石はVS8-44。察しの程が良くて助かります」
「しかしお前の目的は分かったがいくら制約に引っ掛からないとはいえお前と同じ【転生マスター】でない俺に魂の記憶があることを打ち明けるのは危険過ぎる行為ではなかったのか。俺がこうして問題なくお前の話を受け入れられているから良いものの下手をしたら共に隠しスキルのページとやらの転生スキルの力を失うことになっていたかもしれないのだぞ」
「それについては心配ありません。現在の年齢まで成長したあなたなら今の私の話を理解した上で受け入れて下さるのは幾度となく繰り返した実験の転生で検証済みですし……。それに万が一あなたに霊界や魂の存在について打ち明けた上で我々に不利益を被ると判断した時はその場であなたを始末する算段になっていましたから……」
「何だと……」
「本当はあなたがこの地に出生したことは随分と前に調べがついていたのです。にも拘らずこれまで私が接触が控えて来たのはあなたが私の話を理解できる年齢になるのを待っていた為……。そしてあなたが3歳になるこのタイミングで接触を試みたのは話を理解して頂けると同時に万が一の事態が生じた場合に簡単にあなたを始末できる頃合いでもあったからです。勿論この取り決めは転生前にあなたも含めたギルドのメンバー内で了承済みのことなのでご容赦下さい」
「なる程な……。まさかこの俺がお前の【転生マスター】として力を活かす為に自らの命を差し出すことを了承していたとは……いや。人生は一度きりという認識もある転生中の今の状態では少し馬鹿げているようにも感じるが本来の魂となった俺はそういう奴なのだろう。俺を始末すると聞いてお前に怒りを覚えるどころか逆にしっくりきているくらいだ」
「あなたの仰る通り本来なら例え制約に引っ掛からないとしても【転生マスター】でない相手に魂の記憶がないことを打ち明けるのはあまりにも愚かと謂える行為です。しかし我々はそのリスクを承知の上で【転生マスター】としての力を最大限に活かす為に幾重にも転生の実験を積み重ねてあなたに霊界や魂の存在について理解して貰えるルーティンを完成させました。だからこそあなたは高い知性と精神を持ち合わせているからというだけでなくこうして私の話を理解し自然と受け入れて頂くことができたのです」
「確かにこのような話をすんなりと受け入れられたことは自分でも不思議に感じていた。これも俺とお前が同じソウルギルドとやらの仲間であるからなのだろう。『味噌焼きおにぎり』という組織の名前にもどこか懐かしい感じを覚える」
な……なんて恐ろしい奴等なんだ。
淡々と話を進めるヴェントとブランカを余所に僕は心の底からそういった感想を述べていた。
いくら【転生マスター】としての力を最大限に活かす為のルーティンを完成させる為だからって転生中の自分の仲間の命を平気で奪う算段を立てて転生を行うなんてどうかしている。
僕にはいくら【転生マスター】として霊界や魂の存在を認識できていたとして大事なソウルメイトであるPINK-87さんやRE5-87君の命を奪うことなんて絶対にできない。
【神の子】の転生スキルを取得しているヴェントと家族として転生できて心強く感じていたのから一変。
僕はなんと冷徹で恐ろしい考えを持った魂達と共に転生してしまったのだろうと身を震わせていた。
これからこんな奴等と家族として暮らしていかなければならないなんて耐えられるわけないよ。
「それで俺達の所属するその『味噌焼きおにぎり』というソウルギルドは今回のこの『ソード&マジック』の世界でどのような計画を練って転生しているんだ。早く計画の内容と現在の進行度合いについて教えろ」
「それは……」
「ふっ……全く……。折角新入りの【転生マスター】であるお前にVS8-44との接触の役目を任せてやったのにまさかこんな軽率な行動を取るとはね……CC4-22」
「……っ!。この声は……っ!」
ヴェントがブランカに自分達の所属するソウルギルドについての話を催促する中またしても僕達の赤ちゃん部屋の中に何者かの声が響き渡って来た。
その声の主もヴェントやブランカの魂の名前を当然のように口にしいてる。
新たな【転生マスター】の取得者かそれともブランカが今のヴェントと同じように霊界や魂の存在についての知識を話した協力者なのか……。
何にしても次々と明らかになるとんでもない事態に僕の【転生マスター】としての思考はまるで追い付いていなかった。




