第32話 バージニアは転生マスターなのか
ハーディンさんの隣を歩きながら前を歩くバージニアさんのことをジーっと見つめている。
ティミルデとの戦闘で『煙草魔法』なる魔法を見せつけられてからバージニアさんのことが気になって仕方ない。
ティミルデとの戦闘の後もバージニアさんが扱う『煙草魔法』の魔法を何度か見られる機会があったのだけれどその性能は本当に良くできているとしか評価し得ないものだった。
『地球』の世界でも人間の体にとても有害だとされながらも嗜好品として愛好する者達が大勢いた煙草。
刻んだタバコの葉を紙で巻いた筒状のまさにそれを用いて発現するのがバージニアさんの『煙草魔法』の魔法だ。
片手に持った箱の片側をポンッと叩いて煙草を1本取り出して口へと咥える。
そこから先端に火を付けて煙草を吸う仕草も『地球』の世界の愛好家達のそれだった。
但し火種はライターではなく魔法を用いていたようだが。
煙草の先で指を鳴らす仕草をすると自然と火がついていた。
ここまでは只の煙草の話に過ぎないがバージニアさんの『煙草魔法』の魔法の特筆性はこれから。
まずバージニアさんは腰に巻いたベルトのホルダー、それからジャケットの外と内のポケットに20箱以上の『煙草魔法』の魔法専用の煙草を常に持ち歩いている。
それらの煙草は箱ごとに種類分けされていてそれぞれが『煙草魔法』の魔法を発動させた際に違う効果を発揮する。
まずはティミルデとの戦闘の時に見せた肉体強化の効果を秘めた煙草。
ノーマンさんが唯一の前衛だとハーディンさんが話していたがこの肉体強化の煙草を吸ったバージニアさんが前衛の役割をカバーすることも多いらしい。
他には自身に火属性の魔法の力を付与する煙草。
煙草を吸ってから一定時間の間火を吹けるようになり場合によってファイヤーボールの魔法のように火球を吐き出すことも可能なようだ。
更には体力回復の効果を持つ煙草まであるとのことだ。
その効果の程は僕の調合してきた霊薬にも劣らないらしい。
他にも様々な効果を持った煙草があるようで、それらは皆吸った後爆薬の特性を持ち敵に投げ付けることで攻撃の手段にもなり得るのだ。
それだけの効果を持った煙草を20箱以上も持ち歩いているのだから出立前に僕の錬成してきたアイテムを受け取らなかったことにも頷ける。
重複する効果を持つアイテムを受け取ったところで余計な荷物になるだけだし、体力回復の霊薬なんかバージニアさんの煙草と併用するこもできない。
種類が違えど同じ効果を持つアイテムを服用し過ぎた場合は肉体が効果を受け付けることができず反対に拒否反応を引き起こしてしまうのだ。
アイテムを受け取って貰えなかったことにも納得がいった僕は『煙草魔法』の魔法の力を見せつけられたこともあってバージニアさんのことをすっかり羨望の眼差しを向けるようになってしまっていた。
「………」
「ちっ……さっきから一体何だ……。人のことジーっと見ながら後ろを歩きやがって……たくっ。薄気味悪いったらありゃしないぜ」
そんな感じで僕達は【ヴァーバイン洞窟】のダンジョンをメルトラン鉱物の採れる第8階層を目指して進んで行った。
夕方になる頃には予定通り第4階層の河川近くにあるキャンプ場へと辿り着く。
第5階層まではところどころにこのようなキャンプ場が整備されているようだ。
川辺に焚いた火を囲みながら僕達はここに来るまでに討伐したモンスターから採れた肉なんかを焼いて夕食を取る。
夕食の後は自由行動。
皆が団欒を楽しむ中僕はアイシアを連れて1人離れた場所に小さな台を置き何かしらの作業をしているバージニアさんの元へと向かって行った。
「こ……こんばんは……」
「………」
僕が挨拶をしてもバージニアさんは無視して作業を続けている。
川の周りの森林で採れた素材を擦って粉上にし、それを綺麗な四角を描いてカットされた何かしらの植物へと巻いていく。
一体これはどのような作業をしているんだろうか。
「あの……これは一体何をなさっているんですか?」
「………」
「(もおぉ~っ!。どうしてアルはそんな下手に出てまでこんな奴に話し掛けてるなの~っ!。しかも結局返事をして貰えてないしなの~っ!)」
「(貰えてないしなの~っ!)」
「(私もベルとベルルに同意です。折角の休息ですしこの方とより向こうでハーディンさんやドン兄さんと共にいた方が有意義な時間を過ごせると思います)」
「(皆の言いたいことも分かるけど僕はバージニアさんの『煙草魔法』の魔法のことが気になって仕方ないんだ。僕達の魂が取得できる転生スキルの中に『煙草魔法』なんてものはないはずよね、ベル、ベルル)」
「(えっ……。まぁ……多分なかったと思うんだけどなの……)」
「(思うんだけどなの……)」
「(ならバージニアさんは今回の転生でどうやって『煙草魔法』の魔法を習得することができたのかな。ハーディンさんの話ではバージニアさんが独学で習得みたいだけど、吸う煙草の種類によって様々な効果を発現するなんて高度な魔法を偶然に編み出すことなんてあり得るのかな)」
「(そ……それは分かんないけどなの……。一体アルは何が言いたいのなの?)}
「(言いたいのなの?)」
「(つまりバージニアさんがこの世界で『煙草魔法』の魔法を習得することができたのはその魂が何か特別な転生スキルを持ってからじゃないかってことさ。例えば僕達と同じ【転生マスター】とか……)」
「(……っ!)」
テレパシーによる会話の中で僕の憶測を聞きアイシアとベル達が驚きの表情を浮かべている。
皆言われてみればそうかも……っといったような反応だ。
しかし同時に少し特殊な魔法を習得しているからとって【転生マスター】だというのも憶測が過ぎるのではないか……っと言いたげな無言の圧力も3人から感じる。
直接聞いて確かめられれば良いのだがもしそんなことしてバージニアさんが【転生マスター】じゃなかったら大変なことになるし……。
「(だったら取り敢えずテレパシーを送って話し掛けてみればいいのなの)」
「(いいのなの)」
「(えっ……)」
「(仮にバージニアが【転生マスター】だとしてテレパシーを送ったころで返事をしてくれるとは限らないけどなの)」
「(限らないけどなの)」
「(僕達とアル、それからアイシアの4人からいきなりテレパシーで話し掛けれれば何かしらの反応を見せると思うなの。アルが体の中から僕達に話し掛けれた時みたいに自分の周りに4人も【転生マスター】がいるとなれば気になって仕方ないはずなの)」
「(仕方ないはずなの)」
「(なる程……。それでもし何の反応もなければバージニアさんは【転生マスター】でない可能性がグッと高くなるってことだね)」
「(そういうことなの~)」
「(なの~)」
ベル達の話を聞きてそれは良いアイデアだと思い僕達はタイミングを合わせて一斉にバージニアさんに向けて【転生マスター】専用のテレパシーを送る。
もしバージニアさんが【転生マスター】だとしていきなり自分と同じ【転生マスター】、それも4人からコンタクトがあれば返事はせずとも体がピクついたり何かしらの反応を見せるはずだ。
仮にバージニアさんが【転生マスター】でなかったとしてもその場合はそもそも僕達の送ったテレパシーを聞かれる心配がないので何の問題もない。
「………」
「(な……何の反応もせずに作業に没頭してるね……)」
「(お~いっ!。この失礼極まりないヤニカス糞女~。もし僕達の声が聞こえてたら返事をしやがるなの~)」
「(しやがるなの~)」
「………」
「(だ……駄目なの……。確証はないけどこの感じを見るに多分バージニアは【転生マスター】でないと思うなの)」
「(思うのなの)」
「(僕の予想は恐らく外れだったってことか……でもごめん。【転生マスター】でなかったとしてもやっぱりバージニアさんの『煙草魔法』の魔法について気になるからもう少し話を聞いてみることにするよ。もしかしたら僕も自分だけのオリジナルの魔法を創ろうと思った時に何か参考になるかもしれないから。悪いけどもう少しだけ僕に付き合って)」
「(構わないけど【転生マスター】でないなら転生中は霊界の記憶はないわけだし話しを聞いてもほとんど参考にならないと思うなの。こいつの魔法について聞くなら転生を終えて霊界に帰ってからにした方がいいんじゃないかななの)」
「(いいんじゃないかななの)」
「(まぁ、参考にならなくても話をするのはいいことじゃない。こうしてパーティを組む以上バージニアさんともある程度は打ち解ける努力をしないと……)」
「(いや……努力すべきは向こうの方だと思うんだけどなの……。僕達はもう寝ることにするからまぁ、アルの好きなようにやればいいなの。……それじゃあおやすみなの~)」
「(おやすみなの~)」
「(おやすみ~)」
……ってベル達は僕の体の細胞なのに自分達だけ寝るだなんて何だか変な感じがするな。
宿主である僕が起きてるのに細胞だけ寝るなんてことがあるのだろうか。
それもベル達の魂の宿っている細胞だけ……。
まぁ、細かいことは気にしないでおこう。
そんなことより今は頑張ってバージニアさんから『煙草魔法』の魔法についてできる限りの情報を聞き出さないと……




