第25話 冒険者試験4
「それじゃあここから僕は試験官を務めさせて貰うよ。よろしくね、アル君」
「よろしくお願いします」
次の試験へと移行し試験がメル・メイヤーからハーディン・ウルズへと変わった。
ハーディンは恐らくメルと同じく魔術師系統のジョブに就いている者だと思われるが、メルより大分若く僕からしてみればとても親しみやすい近所のお兄さんといった感じだった。
『地球』の世界で学校に通っていた時よく教育実習でやって来てクラスで人気者になっていた若い先生なんかを思い出す。
どうやらハーディンは僕の魔法の能力を判定してくれるらしい。
得意とする魔法の属性は水属性。
使用できる主な魔法は『水撃』と『水弾』、他にも『泡の障壁』等があると伝えるとそれらを汲みした試験の内容を即興で考え出してくれた。
「それじゃあまずは君の『水弾』の魔法を実際に使って見て貰おうかな。目標風船を用意したからまずはそれを『水弾』で撃ち落としてみて」
「分かりました……はあぁっ!」
僕の右手の人差し指の先から少々の水滴が弾丸のような速度で撃ち出されハーディンの用意した的の印された風船を次々と撃ち落としていく。
用意された風船はその場に固定されていたようなので狙いを定めるのは容易で外す方が難しいくらいだった。
水弾が命中した全ての風船が勢いよく破裂していたし恐らく威力も十分だったはずだろう。
この程度の試験ならなんら問題なくクリアできると思うのだが……。
「やるね。それじゃあ次は目標風船に動きをつけされて貰うよ」
続いてハーディンが容易した目標風船は先程と違って会場の中を縦横無尽に動き回っていた。
動きの軌道、速度共にランダムに変化しているようでこれは中々狙い撃つのが難しい。
少し時間を掛けて狙いを絞り確実に命中させる為先程より弾速を速めて僕は全ての風船目掛けて水弾を撃ち放った。
「また1発で全部撃墜っ!。錬金術がメインだと言っていた割にはこっちの魔法の腕も凄いじゃないかっ!、アル君っ!」
「ありがとうございます」
狙いを定めるのが難しかったがどうにか全ての風船を一発で撃ち落とすことができた。
ハーディンの反応を見る限りこの時点でかなりの評価を得られているようだ。
試験に合格する為僕はこの調子で次の課題へと挑んでいく。
「それじゃあ次はこの装置に向かって『水撃』の魔法を力の続く限り全力で撃ち続けて見て。魔法の威力を測定する為に造られた頑丈な装置だから遠慮する必要はないよ。正確な威力を測る為にもなるべく装置に書かれた的の中央に命中させるようにしてね」
「分かりました。……スゥー……はあぁぁっ!」
全力で放てとの指示を受けて僕はゆっくりと息を吸いながら体に魔力を溜め込んでいく。
今度は魔法の威力を重点的に測ると言っていたが僕の前方には巨大なサンドバックような形状の装置が置かれていた。
より威力を高めて魔法を放つ為に僕は両手を前へと突き出し、その合わせた手の平の中で一度魔力を圧縮させるようにして目標の装置に向かって一気に放出していく。
巨大な水流がまるでレーザーのように僕の手から撃ち出され装置の的目掛けて直撃する。
力の続く限り撃てとの指示も受けていたので装置に直撃してからも攻撃の手を緩めることはしなかった。
直撃の瞬間だけでなく持続可能な時間も含めた威力を測定したかったのだろう。
最終的に10秒程『水撃』を撃ち続けたのだが、ハーディンの言っていた通り装置は何一つ破損することなくその場からも微動だにしていなかった。
「直撃時威力値・312……。秒間平均威力値・277……。持続時間・12.73秒……。総合判定値・1293だって……。これはマジで凄いよっ!。錬金術師としてはとかじゃかく一流の魔術師と比べてもほとんど遜色ないじゃないかっ!」
「そ……そうですか……。なら良かったです……。はぁ……はぁ……」
限界まで魔法を放ち続けた反動で流石に息が上がってしまう。
だがそのおかげでハーディンからはこれでもかというくらい良い評価が貰えたみたいだった。
その最後に『泡の障壁』という防御系等の魔法の性能も判定して貰ったのだが……。
「うんっ!。『泡の障壁』についても十分な性能を発揮させることができているよっ!。3つの魔法をテストさせて貰ったけど全てにおいて標準以上の性能を誇っていたし第2試験は見事合格っ!」
『泡の障壁』は魔力で強固な水膜を持つ巨大な泡を作り出す魔法だ。
自身が泡の中に入ることにより敵からの攻撃を360度防ぐことができる。
逆に敵を泡の中に閉じ込めることも可能だ。
この『泡の障壁』に関しても十分な性能を有していると判断され僕は無事第2試験もクリアすることができた。
錬金術師のジョブを希望している以上は主となる錬金術より大分合格ラインは下がっているだろうが、それでもかなりの手ごたえを感じることができた。
これなら魔術師のジョブを希望して試験を受けても試験に合格できたのではないかと思える程だ。
これもベル達により細胞レベルで肉体を強化して貰ったおかげなのだろう。
ベル達のおかげで僕の体内ではこの世界で魔力を生み出すことのできる細胞である『魔力細胞』、魔力を魔法へと変換する為の『術式細胞』、術式を記憶しておく為の『刻印細胞』の量が大幅に増加している。
『魔力細胞』が増加したおかげで一度に生成できる魔力の量も増加、更には発動する魔法の威力が増し、『術式細胞』が増加したおかげでより高度な魔法の術式を構築できるようになり、『刻印細胞』が増加したおかげで複数の系統の魔法を使いこなせるようになった。
この説明を聞いただけだと一見『魔力細胞』と『術式細胞』さえあれば魔法を扱えるように思えるが実際はそうではない。
確かに魔法は魔力に術式を加えることで発現するのだが、魔法を発動する度に1から術式を構築していたのでは発動までに多くの時間を要しとても使いこなせているとは謂えない。
そこで重要となるのが術式の形状を記憶しておくことのできる『刻印細胞』だ。
『刻印細胞』が術式を記憶しておいてくれることで術式の構築時間が短縮され初めて実戦で有効に魔法が扱えるようになるのだ。
僕のように錬金術と水属性の魔法のように異なる系統の魔法を扱おうと思えばこの『刻印細胞』が大量に必要となる。
錬金術と水属性の魔法の術式は互いに応用がほとんど利かない為ベースとなる術式を最低でも2種類は記憶しておかなければならないからだ。
十分な『刻印細胞』があるからこそ僕はこうして錬金術と水属性の魔法もどちらも標準以上のレベルで発現することが可能となっている。
錬金術の魔法と戦闘系の魔法は只でさえ系統が全く異なり両立するだけの『刻印細胞』を保持している者は少ない。
錬金術師で冒険者となる者が少ないのもそれが一番の理由だ。
「さて……次はいよいよ最後の試験だよ。……ベンっ!」
「あいよっ!。俺が担当する最後の試験は実戦形式だから覚悟しとけっ!」
第2試験をクリアした僕は屈強な体格と肉体を持つ試験官、ベン・チャンベルの元最終試験へと臨む。
最終試験は実戦形式だと言っていたがまさか試験官であるベンと直接戦うことになるのだろうか。
試験に合格できるかはともかく恐らくはAランク以上の現役の冒険者であるベンを相手に勝つことはほぼ不可能だぞ。
冒険者として相応しい実力があることさえ示せればいいのだろうが格上の相手に果たしてそう上手くいくだろうか……。




