第23話 冒険者試験2
ステータス測定を無事クリアして冒険者試験を受験する僕とアイシア。
錬金術師のジョブを希望する僕に最初に出された課題はダンジョン探索、それから人間とモンスターのそれぞれの討伐を達成する為にこの場にある機材と素材を用いて最適なアイテムを錬成するというものだった。
ダンジョン探索に関しては現在僕達の暮らす中継拠点から2つ下の階層までの探索、討伐に関してはファイアー・ドレイク、それから剣、斧、弓を装備した者達と火属性と雷属性の攻撃魔法を得意とする者達で構成された5人組のパーティを相手にする場合を想定するよう指示が出されていた。
この課題をクリアするに当たりまずはそれぞれのケースに合わせて錬成するアイテムも選定を行わなければならない。
しかし会場には今まで僕が一度も扱ったのことのないような機材や素材までがズラリと並んでいる。
この場にある機材と素材で錬成できるアイテムの種類はざっと見積もっただけでも1000種を超えてしまうだろう。
その中から適正アイテムを選び出すというのはかなり判断が難しいと思われるのだが……。
「くっ……機材はともかくいざこれだけの素材を前にすると判断に迷う……。今まで見たこともない素材もかなりあるし一体どのアイテムを錬成すればいいんだ……」
「(素材の多さに惑わされちゃ駄目なの~。最適なものとは言っていたけどあくまで試験の合格ラインさえ超えていればいんだからこれまでにアルが錬成したことのあるアイテムから適正と思えるものを選んでいった方が良いなの~。変に拘って錬成したこのないアイテムを選んで失敗しちゃったら元も子もないなの~)」
「(元も子もないなの~)」
「確かに……。ベル達の言う通り素材から選ぶよりも先に錬成するアイテムを決めてからこの場に必要な素材があるかをどうかを探した方がずっと判断がし易すそうだよ。的確なアドバイスをくれてありがとう」
「(礼なんていいから今は試験に集中するなの~っ!。早く錬成するアイテムを決めないと実際に錬成を行う時間がなくなっちゃうなの~っ!)」
「(なくなっちゃうなの~っ!)」
「そうだった……。制限時間は1時間しかないんだったしこれ以上悩んでいる時間はない。逸早く錬成するアイテムを選定しないと……」
ベル達の指示に従い僕は一先ずこの場に用意された素材には目もくれず自身が錬成した経験のあるアイテムの中からそれぞれのケースに適したアイテムを選定する。
これだけ豊富に種類が取り揃えられているのだから選定したアイテムに必要となる素材がないということの方が少ないはずだ。
万が一この場に素材が見つからなければそのアイテムのみを別のものへと選定し直せばいい。
時間との勝負にもなっているわけだからとにかく可能なものから順に錬成していかないと。
選定したアイテムの内の7割方を揃えることができれば恐らくではあるが試験の合格ラインには達しているはずだ。
「えーっと……。ダンジョン探索の依頼のケースで想定されているパーティメンバーの構成は剣、槍、斧を装備をした前衛3人に火属性を得意とする魔術師1人に回復役の治癒術師が1人の計5人の構成か。っということは体力回復と疲労回復、肉体強化の霊薬、それから止血剤や各武器の研磨剤なんかの割合が多めで魔力回復の霊薬なんかは少なめで構わないな。念の為火属性魔法の威力を増幅する魔石なんかも用意しておいた方がいいか」
それぞれのケースにはその任務に当たるパーティメンバーの構成まで設定されている。
それらも踏まえた上で僕はまずダンジョン探索のケースにおける錬成アイテムの選定を行った。
その結果5人のパーティメンバーそれぞれに配布する錬成アイテムは……。
前衛|《剣》……体力・疲労回復の霊薬×3 肉体強化の霊薬×2 止血剤×1
研磨剤×1
前衛|《槍》……体力・疲労回復の霊薬×3 肉体強化の霊薬×2 止血剤×1
研磨剤×1
前衛|《斧》……体力・疲労回復の霊薬×3 肉体強化の霊薬×2 止血剤×1
研磨剤×1
後衛|《魔術師・火属性》……体力・疲労回復の霊薬×2 魔力回復の霊薬×3
火属性強化の魔石×3
補助|《治癒術師》……体力・疲労回復の霊薬×2 魔力回復の霊薬×3
爆薬×2 障壁の魔石×2 解毒薬×3
……っとなった。
討伐のケースの課題に対しても同じ要領でアイテムの選定を行い直ちに錬成の作業へと入る。
素材については予想通りこの場に用意されていた物の中から全て見つかった。
後は時間内にアイテムの錬成を終わらせるだけだ。
「……できました」
「よろしい。ではこれよりあなたが錬成したアイテムの評定を行わせて頂きます」
僕が錬成したアイテムを試験官の1人であるメルが念入りに調べ始めたのだが他の2人の試験官は席から動く気配すらない。
錬金術に関する評価はメルに一任する形になっているようだ。
「ふむぅ……なる程。あなたの錬成したアイテムを一通り見させて頂きました。その上でいくつか質問させて頂きたいのですが……」
「は……はい」
「想定した全てのケースにおいてあなたは補助のジョブに就いてるメンバーに爆薬と障壁の魔石を配布していますね。その理由は一体何です?」
「そ……それは……」
メルの言う通り僕はダンジョン探索、人間とモンスターのそれぞれの討伐の全てのケースにおいて治癒術師のジョブに就くメンバーに爆薬と障壁の魔石を配布していた。
爆薬の正確な名称はジルチエテル爆薬というその名の通りジルチエテルという成分を主として錬成したものだ。
ジルチエテルはこの世界で最も主流となっている爆薬の成分で爆発の規模の調整が非常にやり易い。
このジルチエテルを用いて僕は爆発の規模を必要最小限にまで抑えた爆薬を錬成し治癒術師に配布しておいた。
万が一敵が味方の前衛を突破し後方のメンバーにまでその手が及んだ時に攻撃手段の乏しい治癒術師に反撃手段を持たせる為だ。
爆発の規模を最小限に抑えている為敵に接近を許した状態で使用しても自身への被害も同じく最小限に抑えられる。
メルの質問にあったもう1つの障壁の魔石はその名の通り一時的に敵の攻撃を防ぐ障壁を発生させる効果を持つものだ。
これも同じく万が一敵の攻撃の手が治癒術師にまで及んだ時のことを想定して配布した。
発生した障壁で敵の攻撃を防ぎその隙爆薬で攻撃すれば敵を撃退するとまではいかず共その場の窮地を脱することはできるはずだ。
更に敵が爆発の衝撃に怯んでいる隙に改めてこちらの陣形を立て直すことができる。
以上のことを試験官であるメルに具体例も出して詳細に説明し、その他のアイテムの選定にも特に問題がなかったようなので錬金術師としての知識は十分な物を有していると評価して貰うことができた。
次は錬成したアイテムの性能の検証に入っていく。
とはいえこれだけのアイテムを実際に使用して性能を確かめるわけにはいかないだろう。
問題なく錬成された霊薬であっても一度にこれだけの量を摂取すれば副作用で体に異常をきたす。
アイテムの性能に関しては専用の機材と魔法を用いて行うようだ。
それによって出た僕の錬成した霊薬の内の1つの性能は……。
※前衛|《剣》に配布した体力・疲労回復の霊薬の性能
体力回復度・C 疲労回復度・A 即効性・A 肉体への適合度・B
「性能に関してもほぼ問題なく錬成できているようですね。ただ1つ気になるのは同じ効能を持った霊薬でもそれぞれのメンバーに配布されたものによって性能が大きく異なるものがあるようです。例えば……」
※前衛|《斧》に配布した体力・疲労回復の霊薬の性能
体力回復度・A 疲労回復度・C 即効性・B 肉体への適合度・A
「こちらの前衛|《斧》に配布した霊薬ですが先程の前衛|《剣》に配布した物と比べて体力と疲労回復度の性能の値が正反対のものとなっています。明らかに同じ錬成法で錬成されたものとは思えません。察するに前衛|《剣》に配布された霊薬は『メルディア式』の錬成法で錬成された物、前衛|《斧》に配布された霊薬は『ザイイス式』の錬成法で錬成された物だと思うのですが……」
メルの言う通り僕の錬成した2つの霊薬は同じ体力・疲労回復の効能があるものであってもその性能には大きな違いがあった。
同じ効能の霊薬であってもその錬成法にはいくつもの種類があり使われた錬成法によって性能に違いが生じてくる。
『メルディア式』というのは今回の『ソード&マジック』の世界においてメルディアという人物が確立した錬成法、『ザイイス式』とはザイイスという人物が確立した錬成法のことだ。
錬成法に限らず世界中の人々に幅広く運用されるような技術を発明した人物達はその後の世界に発展に大きく貢献したと見做されることだろう。
恐らくこのメルディアとザイイスは今回の転生で相当なソウル・ポイントを稼ぐことができるに違いない。
できれば僕も『アル式』とか『アルティス式』と呼ばれるような錬成法を発明したいが既に錬金術について研究しつくされたこの時代では新たな錬成法を生み出すのは難しい。
配布した霊薬に話を戻すが汎用性の高い剣を装備する前衛|《剣》のメンバーは器用な立ち回りができることから最も敵と接する機会が多いと想定される。
武器を振るう回数も他の者達に比べて多くなりそれに伴って体の疲労の蓄積量も増加すると考えたからだ。
その為前衛|《剣》のメンバーにはは『メルディア式』の霊薬を配布した。
一方で斧を装備する前衛|《斧》のメンバーは一撃の威力が高い攻撃を放つことができるが重量が重いことから武器を振るう回数は減ることになるだろう。
また重量の重い武器を振るえば体力の消費量も大きい。
その点を考慮して前衛|《斧》のメンバーには『ザイイス式』の霊薬を配布することにしたのだ。
それらの説明を聞いてメルもとても納得できたという態度で僕は無事第一試験をクリアする共に錬金術師としてギルドの認定資格も得ることができた。




