第21話 パワーアップ後の実力
「うぅっ……」
「お気付きになられましたかっ!、マスターっ!」
次に目が覚めると僕は自分の部屋のベッドで横になっていた。
カーテンの隙間から差し込む眩い光が開いたばかりの僕の目を眩ます。
どうやら外はすっかり朝になってしまっているようだ。
「うぅっ……アイシア……。あれから僕は一体どうなったの……」
「それは……」
「(喜ぶなの~っ!、アル~っ!。ちょっと際どかったけど僕達は無事アルの体の細胞にあのポーションの成分を取り込むことに成功したなの~っ!)」
「(成功したなの~っ!)」
「本当っ!」
「私も一時はどうなることかと思いましたがBELL-55とBELL-56がマスターの為に最善を尽くしてくださいました。2人を信用したマスターの判断はやはり正しかったようです。私の方は最後まで疑ってしまったことを2人に謝罪しなければなりません」
「(別に気にしなくていいなの~。いきなりアルの体の細胞に転生した上にあんなポーション飲めなんて言われたら疑うのが普通なの~)」
「(普通なの~)」
「しかし……」
「2人もこう言ってくれてることだし本当に気にする必要なんてないよ、アイシア。アイシアはアイシアで僕のことを心配してくれてたわけだし……。こうして無事生還できたんだからこの件はもう一件落着だよ」
「(そうそうなの~。それより僕達の頑張りでパワーアップしたアルの力を早速試してみるなの~)」
「(試してみるなの~)」
「そうだね……よしっ!。それじゃあ外に行って昨日の『ハ〇レン』の真似をもう1回試してみよう」
「命にまで危険が及ぶのような状態から目覚めたばかりですしもう少し体を休めてからの方が良いのではないですか、マスター。そろそろ母さんが下で朝食の準備をしてくれる頃ですし……」
「ドン~、アル~、アイシア~。朝食の準備ができたからそろそろ起きてらっしゃ~い」
「ほら。パワーアップした力の実戦は一先ず朝食を食べてからに致しましょう」
「そうした方が良さそうだね。は~い、今下りて行くからちょっと待ってて~、母さ~ん」
一時は生死を彷徨うところまでいった僕だったがどうやらBELL-55とBELL-56のおかげで無事パワーアップを果たして生還することができたようだ。
早くパワーアップした力を試してみたい気持ちもあったけど母さんの呼出しを無視するわけにもいかず僕達は先に朝食を取る為にリビングへと向かって行く。
今日の朝食は母さん自慢のBLTEサンド。
家の店のモーニング・セットでも一番人気のメニューだ。
味は勿論食べ応えも最高でがっつりと堪能して平らげることができた。
体調も万全なようだし食器を片付け終えた後で僕は早速アイシアを連れてパワーアップした力の実戦に向かう。
「はあっ!」
パッ!っと両手を合わせてから地面に手を付く。
昨日と同じその場の土に含まれる成分のみで即座に武器を錬成をする術だ。
昨日は槍だったが今日は片手で振るうことのできる程度の大きさと重量の剣を錬成した。
体の奥から溢れんばかりの魔力が感じられ錬成の手ごたえが昨日までのものとは全然違う。
昨日の槍は錬成できたと思ったと同時に形が崩壊してしまったが今回は……。
「おおっ……。昨日と違ってまだ形が崩れたりしないぞ。それに……」
錬成した剣を特に構えもせず無造作に振るってみる。
ヒュンヒュンと風を切る音が聞こえるがそれでも形が崩れる気配はない。
まだ通常の方法で鍛造された剣と同等の強度があるかどうかは分からないが昨日までより錬成の精度が格段に上がっているのは間違いない。
「よしっ!。それじゃあ実際に実物の剣を相手に剣を交えてみようっ!。準備はいい?、アイシア」
「はい。ですが病み上がりであるということをお忘れなく、マスター。どうかご自分の身を案じて無理をなさらないように」
「分かってる。軽く剣を交えるだけなんだからそんなに心配しなくても大丈夫だって。……それじゃあいくよ」
「はい……」
「はあっ!」
僕の錬成した剣と大きさや形、重量等がほぼ同じ実物の剣を手にしたアイシアとの模擬戦を開始した。
アイシアの持つ剣は家の店を訪れる冒険者の知り合いから借りたものでこの時代の冒険者達が一般的に使用しているものと同等の性能を誇っている。
その剣と持つアイシアとの模擬戦を問題なくこなすことができれば目標達成だ。
僕は錬金術によっていつ如何なる場所でも実戦で使えるレベルの武器を錬成できるようになったということになる。
「うおぉぉーーっ!」
「くっ……」
「てやぁぁーーっ!」
「……っ!」
僕の振るう剣の一撃でアイシアの剣が手元から弾かれ、高く宙を回転しながら舞った後そのまま落下し地面へと突き刺さったところで模擬戦は終了した。
剣を弾かれたアイシアが目の前で驚きの表情を浮かべているが、驚きを隠せずにいるのは僕も同様だ。
錬成した剣の性能を試す為の模擬戦だったけどまさか僕がアイシアに打ち勝つことができるなんて……。
剣術に関しては互いに同等の訓練を積んできたけどこれまで僕がアイシアに模擬戦に勝てたことは一度もなかったのに僕が病み上がりであることを考慮して手加減してくれたのだろうか。
「お……お見事です……マスター」
「うん。でもまさか僕が剣の模擬戦でアイシアに勝てるなんて夢にも思ってなかったんだけど……。やっぱり僕の体のことが心配で手加減してくれたの?」
「いえ……。確かに多少は手を抜いたつもりではありますがここまで圧倒されてしまうとは私も予想していませんでした。マスターの放つ剣の速さ、重み、鋭さ。全てがこれまでより遥かに増しているように感じられました」
「それって僕の剣術の腕前が上達してたってこと?」
「そうですが剣術の腕前どころかマスター自身が全くの別人にまでなってしまっているような感覚です」
「別人だって……。まさかそれも……」
「(勿論それも僕達の力のおかげなの~。アルの体の細胞全てをパワーアップさせたんだから魔法だけじゃなく身体能力も強化されてるに決まってるなの~)」
「(決まってるなの~)」
「そ……そうだったのか……。確かに何となく体が軽いとか力が入るようには感じてたけどまさかアイシアに勝てるぐらいまでパワーアップしてるなんて驚きだよ。やっぱりBELL-55とBELL-56の力は凄いんだね」
「(その通り僕達は凄いのなの~。折角だからアルの力がどれだけパワーアップしているかステータスの魔法で確かめてみればいいなの~)」
「(確かめてみればいいなの~)」
ステータス。
それは『地球』の世界のRPGゲームなんかではお馴染みのキャラクターの能力を数値化して表すものだ。
この『ソード&マジック』の世界ではゲーム内のキャラクターじゃないくてこの世界にしている僕達自身の能力を魔法によってステータス化することができる。
それは霊界でソウル・マネジメントを見ることのできる僕達の魂のものとは何ら関係なく、あくまで現在この世界にアル・アルティスとして転生している状態の僕の能力をステータスとして表したものだ。
それによって表示された僕の現在のステータスとBELL-55とBELL-56によるパワーアップを受ける前のステーテスはこんな感じ。
・パワーアップ前のアルのステータス
STR 32 DEX 55 VIT 40 INT 55
AGI 35 MND 50 MAG 120 CON 80
・現在のアルのステータス
STR 65 DEX 87 VIT 90 INT 85
AGI 87 MND 99 MAG 200 CON 150
見ての通り全てのステータスの項目の数値がパワーアップを受ける前と後とで倍近く上昇している。
たった1日でステータスの数値がこれだけ上昇するなんて現在僕が知る限り一番危険なドーピング霊薬を飲んだとしてもまず起こり得ないことだ。
そのドーピング霊薬を飲んだとしても上昇するステータスの数値は10~20程度が限界のはず。
更に副作用として体に様々な不調をきたし最悪の場合死に至ることもあるはずだ。
それを何の弊害も無しにこれだけステータスを上昇させることができるとはBELL-55とBELL-56の力は僕の予想を遥かに上回っている。
これなら本当に今の魂の成長度のままでも冒険者として成功した人生を送ることができるかもしれない。
「ほ……本当だ。僕のステータスの数値が以前と比べて全部倍近く上昇している。冒険者になる為の推奨ステータスも全ての項目でクリアしているしこれなら2週間の冒険者試験にも合格できそうだぞっ!」
「錬成した剣の性能にも問題はなかったようですしね」
「うん。もっと他の武器も錬成して試してみたいからもう少し付き合って貰える、アイシア」
「畏まりました」
「(う~ん……。どんな能力を磨くかはアルの自由だからあんまり僕達がとやかくいうことはできないと思うんだけどなの~)」
「(思うんだけどなの~)」
「えっ……。何か僕のしてることに問題があるのかな。BELL-55さんとBELL-56さん」
「(僕達のことはベルとベルルでいいなの~。これは僕達の意見なんだけど冒険者になりたんだったら『ハ〇レン』の主人公の真似よりももっと他の能力を磨いた方がいいと思うなの~)」
「(いいと思うなの~)」
「ど……どうして……」
「(確かにいつ何処でも好きな武器を作り出せるっていうのは凄いことなの~。武器を携帯する必要もないしとても便利だとは思うんだけどなの……)」
「(思うんだけどなの……)」
「(やっぱりその場で錬成した武器よりきちんとした形で製造された武器を使った方が良いと思うなの。僕達のおかげでその場で錬成した武器でもある程度の性能と強度を持たせることができるようになったみたいだけどそれでも武器屋なんかでそこそこ値の張る品には全然及ばないと思うのなの~)」
「(思うのなの~)」
「で……でもさ。錬金術で武器を錬成するならいつでもその場の状況に適した武器を用意できることになるわけだし……」
「(それについても状況に合わせて武器を変えるより1つの武器の熟練度を上げた方が結果的に対応力が上がる気がするなの~。いくら色んな種類の武器を錬成できるっていってもそれら全部を使いこなせるようになるまで修練するにはかなりの時間を要するだろうし……。それに何より冒険に出て武器を持って敵と戦うのは実際に前衛の職を就いているメンバーに任せた方が良いなの~)」
「(任せた方が良いなの~)」
「ええ~、でも折角『ハ〇レン』の真似ができるようになったのに~。まぁ、ベルとベルルの言うことにも一理あると思うけど……。でもそれなら一体僕は冒険者になる為にどんな修練を積んだ方が良いと思うの?」
「(今アルが一番得意なのは錬金術なんだから仲間をサポートする為の霊薬の調合の精度を高めるのがまず一番だと思うなの~。冒険に出る前に必要な霊薬を揃えておくのは勿論、ダンジョン探索の最中であってもその場で手に入った素材でも即興で調合できるようなっておいて、その上である程度の戦闘能力もあるとなればきっと色んなパーティが優秀なサポート要員としてアルのことを重用してくれるようになると思うなの~)」
「(なると思うなの~)」
「なる程……サポート要員か。初めに思ってたのとは違うけどここまでパワーアップできたのはベルとベルルのおかげだしここは2人の意見に従ってみるかな」
「(ならまず携帯用の錬金装置で霊薬を調合する練習から始めるなの~)」
「(始めるなの~)」
「携帯用の錬金装置ってあの腕時計みたいに手首に装着する奴のことだよね。確か父さんが倉庫にしまってあるのを見た気がするけど貸して貰えるかな」
ベルとベルルの指示に従って僕は2週間後の冒険者試験に合格する為の訓練を開始する。
まずは家の店のようなキチンと整備が整った環境ではなく、実際に冒険に出ている最中に限られた機材と素材でも最低限の品質の霊薬を調合できるようにならなければならないとのことだった。
最初はアイシアと2人のみで冒険に出ることを想定していたけど、この時代の冒険者達はどうやら最低でも4人以上のメンバーでパーティを組んで冒険に出ることが主流になっているようだしそれでは流石に『『ハ〇レン』の真似は諦めるしかない。
直接敵と戦う役目はパーティを組むことになるであろう前衛の仲間達に任せることにするとしよう。
冒険者試験の最終的な合否は実践性の高さによって判断されるようだし冒険において自身がこなすことのできる役割を明確にしておいた方が良いだろう。




