第111話 屈辱の敗北……赤ちゃんカニ人間
「おぎゃあっ!、おぎゃおぎゃおぎゃおぎゃあっ!」
お前っ!、僕達の母さんのスヴィェートさんはどうしたんだっ!。
「ふむぅ……赤ん坊の泣き声では何を言っているのかは分からないが明確な意思を持って発しているのが感じられる。少し成長した程度の子供か、それとも成人レベルの我々と同程度なのかどれ程のものかは分からないが通常の赤ん坊では考えられないレベルの意識を有しているようだな。サーシャを打ち破ることができたのは勇者と勇者の間に生まれた子供としての持つ身体能力だけでなく、その意思能力の高さ故だろう」
扉の前で佇み高圧的な態度で僕達のことを分析するもう一人の襲撃者である長い水色の髪の女。
威勢よく泣き叫んでスヴィェートさんのことを問い質すがやはり赤ん坊の言葉では内容が伝わらない。
痺れを切らした僕とアイシアはサーシャを打ち破った勢いのままに女に対してこちらから攻撃を仕掛けていく。
「おぎゃあぁぁぁーーーっ!」
「ほぅ……」
「おぎゃおぎゃおぎゃおぎゃおぎゃあぁぁぁーーーっ!」
「相当なバネと跳躍力……そしてスピードだ。これならばサーシャがやられてしまったのにも頷ける。だが……」
「おぎゃんっ!」
「(アイシアぁぁーーっ!)」
サーシャに対してと同じように鋏と背中の鋏で猛攻を仕掛ける僕達であったが、水色の髪の女はサーシャの手にしてた短剣より更にサイズの小さいナイフを右手に構え僕達の攻撃を全て防ぎきってしまった。
その対応する様には相当な余裕があるのが感じられる。
女は僕達の攻撃を軽々しくあしらった後で反撃に転じ容易くアイシアを蹴り飛ばした。
そして僕は女に首根っこを掴まれまるで子猫のように女の手へとぶら下げら首元へとナイフを突きつけられてしまう。
ナイフを突きつけられた上、今の僅か数秒の間の攻防ではあったがサーシャとは比べ物にならない実力を持つ女を相手に為す術がなくぶら下げられた状態でこれまでの威勢が嘘のように一気にしおらしくなってしまっていた。
「ウ……ウルカっ!、アイシアぁぁぁーーーっ!」
「動くな。動けばこいつの首を切り落とす」
「うっ……ウルカ……」
「(マ……マスターっ!)」
「(ううぅ……僕のせいでごめん……アイシア)」
僕が人質となってしまったせいでアイシアもダルカも身動きが取れなくなってしまった。
スヴィェートさん達を襲撃したこいつ等は恐らくその子供でもある僕達も始末するつもりだろう。
この状況を打破するには強引に振り解いて僕を掴む女の手から逃れるしかないが首元に差し向けられたナイフが僕の意志を日和らせてしまう。
僕の身を案じて手出しできないアイシアとダルカも同様だ。
一先ずこの場は大人しくして相手の出方を窺いながら女の手の内から脱する機会を見つけださなければ。
「ウ……ウルカを放せっ!。もしウルカに手を出したりしたら絶対に母さんが許したりしないぞっ!。なんたって僕達の母さんは勇者なんだからなっ!」
「ほぅ……それは怖ろしいな。だがしかしお前達の窮地にその勇者の母さんは一体何処に行ってしまったんだ」
「うっ……ま……まさかリティシアさんだけじゃなく母さんまで……」
「ふっ、心配せずともお前達の母親なら尻尾を巻いて私から逃げて行ったから安心しろ」
「ほ……本当っ!。なら良かったっ!」
「お前達からすれば喜ばしいことかもしれないが私としては由々しき事態だ。勇者の暗殺という重大な任務を失敗した私をメノス・センテレオ教団の連中は許しはしないだろう。お前達の母親に代わって今度は私の方が奴から追われる身となってしまった」
「(メ……メノス・センテレオ教団だってっ!。それじゃあこいつ等を僕達の元へと差し向けて来たのはヴェントやSALE-99達『味噌焼きおにぎり』の連中だったっていうのかっ!)」
「(デルトゥーカさんやスヴィェートさんは勇者としてヴァリエンテ王国内で多大な影響力を誇っていました。ヴァリエンテ王国だけでなく世界をも手中に収めようとしている『味噌焼きおにぎり』の連中にとって邪魔な存在となってしまったということなのでしょうか)」
水色の髪の女から不意に発せられた名を聞いて僕達は驚きを露わにする。
なんとこいつ等を僕達へと差し向けて来たのはヴェントやSALE-99達『味噌焼きおにぎり』の連中だった。
流石に僕達がスヴィェートさん達の子供として転生していることまで予測しているわけはなく、アイシアの言う通りあくまで標的は勇者として多大な影響力を誇るスヴィェートさんだろう。
女からメノス・センテレオ教団の名が出たことで僕は思わずこの状況から脱することよりも少しでもヴェントやSALE-99達の情報を聞き出すことに意識が集中してしまっていった。
「神の子ヴェントが率いるメノス・センテレオ教団の連中から追われる等厄介極まりないことだ。サーシャもやられてしまったしこの先の身の振り方をどうしたものやら……」
「さ……さっきから何訳の分からない独り言言ってるんだ……」
赤ん坊の泣き声でしか話せない僕達に代わってダルカが女との話を進めてくれているがダルカに女の言っていることの内容がイマイチ掴めていないようだ。
僕達としてはもっとメノス・センテレオ教団のことについて突っ込んで聞いて欲しかったのだけれど……。
「そこでだ。お前達に一つ提案があるんだが命を助けてやる代わりに私の配下になるつもりはないか」
「な……なんだとっ!」
「3歳の子供1人と赤ん坊2人であのサーシャを打ち破ったんだ。今の内から鍛えればメノス・センテレオ教団の連中に対抗する為の十分な戦力になり得るだろう。30秒だけ待ってやるからお前達で話し合って返事を決めろ。時間が過ぎても返答がなかった場合は即座に私の手元にある赤ん坊の首を切り落とすからそのつもりでな」
「で……でも話し合うって謂ってもウルカとアイシアはまだ赤ん坊でまともに言葉なんか……」
「お……おぎゃあっ!」
「ウ……ウルカ……。それはこいつの提案を受け入れるしかないと言ってるのかい?」
「おぎゃおぎゃっ!」
赤ん坊の言葉で僕は必死にダルカに女の提案を受け入れるよう促す。
こいつの言いなりになるなんて不服でしかないけどこの場を生きて切り抜けられる上に『味噌焼きおにぎり』の連中の情報まで手に入れる機会が得られるとあっては乗らない手はない。
ダルカが了承の返事をして僕達は女に渋々女に連れられて僅か2週間ばかりではあったが生まれ育ったこの屋敷を後にしていく。




