第11話 惨敗
「おぎゃぁっ!」
よしっ!。
再び自身の産声を聞くと共に僕は【転生マスター】としての意識の中で息巻いた声を上げる。
前回。
『ソード&マジック』の世界の5回目の転生において僕とアイシアは折角人間に転生できたにも関わらずゴブリンというファンタジー世界では最底辺に位置するモンスターに無残にも惨敗してしまった。
しかしながら僕は6回目の転生において再び人間への転生に成功する。
ゴブリンへの復讐を誓った僕は今回も僕の1つ下の妹として転生したアイシアと共に幼少期の頃から日々厳しい特訓に明け暮れていた。
そして10歳になったある日。
また前回と同じように両親に冒険者となることを願い出ていたのだが……。
「冒険者になりたいですって~。それもマルスとアイシアの2人揃って~」
「うんっ!」
「はい」
「もうぉ~、朝早くから何馬鹿げた冗談言ってるのよ~。あなた達が冒険者になんてなれるわけないでしょ~」
「で……でも3つ上のジェイス兄さんは僕と同じ年に冒険者になる為家を出て行ったよ。この前届いた手紙には今年からAランクの冒険者に昇格したって書いてあったし僕達だって……」
「そりゃジェイスはあなた達とは比べ物にならないくらい魔法の才能があったからよ~。ほら、いつまでも母さんをおちょくってないで2人共早く学校に行きなさい」
「は……はい」
今回の僕達の母さんはちょっと天然っぽいというかかなりおっとりとした性格をしていて、怒られはしなかったけど冒険者になりたいという僕達の申し出をまともに取り合ってくれなかった。
どうやら僕達が冗談で言ってるものと思い込んでいるようだ。
その後も何度も冒険者になりたいと申し出たのだが同じように軽くあしらわれてばかりで結局僕達はまたしても両親に無断で家を出て行くこととなる。
今度こそダンジョンを攻略しないまでもモンスターの1匹ぐらいは打倒してみせると意気込み、初心者向けのダンジョンへと潜って行ったのだが……。
「獲得ソウルポイント、312ポイントっ!。がはははははっ!。流石のお主も初めての世界への転生で苦戦を強いられてしまったようじゃの。『地球』の世界に転生していた時の1%も稼げておらんではないか、LA7-93」
「ぐぬぬっ……」
結局再び冒険者を目指した最後の6回目の転生も惨敗の結果に終わってしまった。
全ての転生を終えて霊界に帰って来た僕の獲得できたソウルポイントはたったの312ポイントでアイシアもほとんど変わらないポイントだった。
その無残な結果を閻魔大王に豪快に笑い飛ばされてしまい僕は悔しさのあまり拳を握りしめて体を震わせる。
僕達の最後の転生の幕を閉じさせたのはまたしてもあの憎っくきゴブリン。
今度は魔法を駆使して遠距離から慎重に攻撃を仕掛けていたのだが、敵を打倒す前に魔力が尽きてしまい棍棒で殴り殺されてしまった。
冒険者としてやっていける程の才能を持って転生するのはそれなりに難しいことだろうとは思っていたけどまさかゴブリンにすら歯が立たないとは……。
やはり魂Lvが1の状態に少し毛が生えた程度の転生スキルしか取得していない今の状態では冒険者となるだけの能力を持って転生することは不可能なのだろうか。
ここは1度天国の部屋に戻って作戦の立て直しだ。
「くそっ!。くそくそくそくそくそっ!。これまでの転生人生でこんな屈辱を味わったのは初めてだっ!。ゴブリン如きにボコボコにされて閻魔大王にも盛大に馬鹿にされてしまった」
「私も全くマスターの役に立てず申し訳ありません……。折角貴重ソウルポイントを消費して【従者】の転生スキルまで取得して転生に連れて行って貰ったというのに……」
「ア……アイシアは全然悪くないよ。まともな準備もせず無謀な転生に挑んだ僕が悪いんだ。でもまさかゴブリンにすら打ち勝てないなんて本当に悔しい。ゴブリンなんて僕が『地球』の世界でプレイしていたゲームだと雑魚中の雑魚だったのに」
「ゴブリンだからといってそのゲームに登場するような軟弱な相手であるとは限らないのでしょうか、マスター。如何に器の能力が低くともにその身に宿っている魂はそうとは限りません。思いますに私達を打ち負かしたゴブリンには相当な魂Lvを持った魂が転生していたのではないでしょうか」
「……っ!。そ……そうかっ!」
アイシアの言葉に僕が目を覚ましたかのようにハッとした声を上げる。
アイシアの言う通りゴブリンと言ってもあの『ソード&マジック』の世界で出会ったゴブリンは僕が『地球』の世界でプレイしていたゲームに登場する雑魚モンスターとは全く別物だ。
なんせあのゴブリンにはやられ役専門の弱小プログラムが施されたAIではなく僕やアイシアと同等、もしくはそれ以上の実力を持った魂が転生しているのだ。
言うなればあのゴブリンだけでなく他の人間やモンスター、将又そこらを舞う蚊でさえ全員が主人公と呼べる存在であるということ。
そう考えれば例えが相手がどのような雑魚モンスターであろうと侮るわけにはいかなかった。
例えばあのゴブリンに転生していた魂が【棍棒】や【打撃武器】の転生スキルを2~3Lvの状態で取得していただけで近接戦闘において僕達より優位な能力を手にしていたということになる。
棍棒1本のみで殴り倒されたことから恐らくそうだったのなのだろう。
それを僕は『地球』の世界のゲームの印象に囚われてなんと愚かな行為を……。
こんな驕った考えをしていては折角カンスト分のソウルポイントを使って取得した【転生マスター】の能力をまるで活かせないどころか却ってマイナスとなってしまう。
今回の人生だって【転生マスター】の能力がなければ実力もないのに冒険者を目指すなんて無謀な真似をせずに済んだだろう。
家の仕事を手伝うだけの平凡な人生となってしまっただろうがそれでも312ポイント以上はソウルポイントを獲得できたはずだ。
これは考えを改めてまずは自分の魂を冒険者となるに相応しいLvにまで成長させなければ……。
っとなればまた暫くは『地球』の世界に転生してソウルポイントを稼ぐのが得策か……。
ピ~ン、ポ~ン。
「えっ……」
「何者かが私達の魂の部屋を訪ねて来たみたいですね、マスター」
「くっ……大事な作戦を練っている時に一体誰が……」
アイシアと共に新たな転生プランを練っている最中突然僕達の天国の部屋の内部にチャイムが鳴り響いて来た。
これは他の魂が僕達の天国の部屋を訪ねて来たことを知らせる合図だ。
面倒くさいけど無視するわけにも行かず僕はアイシアと共に天国の部屋の扉へと客人を出迎えに行ったのだが……。
「ちょっとあんた達っ!。私の子供に転生しといてよくもあんな無謀な真似してくれたわねっ!。おかげで親の監督不行き届きと見做されて閻魔大王に大量にソウルポイントをしょっ引かれちゃったじゃないっ!」
「ご……ごめんなさい」
「今度私の子供に転生してあんな真似したら只じゃ置かないからねっ!。まぁ、あんた達を産むこと自体二度と御免だけどっ!。……ふんっ!」
僕達の天国の部屋を訪ねて来たのは先程の『ソード&マジック』の世界への転生で5回目の転生の時に僕達の母親だった魂だった。
家出した挙句無謀にも冒険者となって無残な死を遂げてしまった僕達に文句を言いに来たのだ。
それは僕達の無謀な行いのせいで自らのソウルポイントを引かれた怒りによるもので決して親心などではない。
霊界へと帰って僕達に最早親子としての関係はないので当たり前のことだがこんな風に天国の部屋にまで文句を言いに来る魂もいるから気を付けないと……。
ピ~ン、ポ~ン。
「またか……」
先程の怒り狂った魂を送り返した後またしても僕の天国の部屋を客人が訪れて来た。
この流れから謂って次に訪れて来た魂が誰なのかも大体予想できるが……。
「こんにちは~。こちらはLA7-93さんの天国のお部屋で間違いないかしら~」
「あっ……これはさっきの『ソード&マジック』の世界の6回目の転生で僕達の母さんだった魂さん。先程の転生では僕達の無謀な行いで大変なご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。もう二度とあんな馬鹿な真似は致しませんのでどうか許して下さい」
「あら~、謝りに来たのは私の方よ~。私の方こそLA7-93さんとアイシアさんが本気で冒険者になりたかったって気付かずにごめんなさい。そのせいで家出までさせちゃって子供2人で生きていくのは大変だったでしょう」
「えっ……い……いえ。結局すぐ死んじゃったのであまり大変だったという感覚はありませんでした。それよりそちらの方こそ僕のせいで閻魔大王に大量のソウルポイントを引かれてしまったのではないですか」
僕の天国の部屋を訪れて来たのは予想通り先程の『ソード&マジック』の世界の6回目の転生で母親だった魂だったのだが、僕達への対応は予想が違い先程の5回目の転生の母親とはまるで正反対のものであった。
和やかな雰囲気で自らの方こそ母親としての至らなさを謝罪するその魂に僕の方も申し訳ない気持ちで一杯になってしまう。
「別にそうでもなかったわよ~。確かに親の不行き届きで少しはマイナスになってしまったけど文句を言う程ではないわ~」
「そ……そうですか。それを聞いて僕も少し気持ちが楽になりました」
「それで今日はLA7-93さんに提案があって来たんだけど……。私とソウルメイトを組んでまた『ソード&マジック』の世界に転生してみない?。勿論アイシアさんも一緒に。今度こそあなた達を立派な冒険者に育て上げてみせるからっ!」
「えっ……それは嬉しい提案ですけど暫くは『地球』の世界でソウルポイントを稼ぐことに集中しようかと思ってたんですけど……」
「そんなこと言わずに俺達とまた一緒に転生しようぜっ!。今度は兄貴の俺が一緒に冒険に連れてってやるからよっ!」
「あっ……あなたはジェイス兄さんだった魂さん」
更に予想外なことに僕はその母親、そして兄さんだった魂にソウルメイトを組んでまた『ソード&マジック』の世界への転生に誘われてしまう。
多大な迷惑を掛けたばかりの僕達にそんな提案をしてくれるなんて喜ばしい限りだけど今の魂Lvのままじゃあ例えソウルメイトを組んで転生したところで同じ結果になるのではないだろうか。
僕は取り敢えず2人に僕の天国の部屋へと入って貰って詳しく話しを聞いてみることにした。