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第109話 立ち上がれっ!、赤ちゃんカニ人間っ!

 「な……なんだ……お前等はっ!。ぐあぁぁぁーーーっ!」


 「て……敵襲っ!。敵襲ですっ!、スヴィェート様っ!。ぐあぁぁぁーーーっ!」


 「……っ!。今の声はっ!」


 それは突然のことだった。


 いつものように僕達がスヴィェートさんから母乳を貰っている最中に悲痛な断末魔の叫び声が響き渡る。


 恐らく屋敷の護衛に就いていてくれた者達のものだろう。


 僕達のいるこの屋敷に何らかの非常事態が起こったであろうことは明白だった。


 スヴィェートさん達は勿論、【転生マスター】として意識を持つ赤ん坊の僕達にも強い緊張が走る。


 スヴィェートさんは母乳を与える為抱き抱えていた僕達を再びベッドへと寝かしつけ、傍らに立て掛けてあった剣を手に取り従者のリティシアさんと共に扉の方を向いて身構えていた。


 「………」


 「……っ!」


 そんなスヴィェートさん達の前にゆっくりと扉を開けて2人の女性が姿を現す。


 1人は氷のように冷ややかな印象を受ける長い水色の長髪の女性。


 薄めの生地の黒いスーツコートを着ていて長身で身のこなしの良さそうなスラっとした体形をしている。


 もう1人は黒色の短髪に体のラインのハッキリと分かる黒いボディースーツのような服装をしていた。


 どちらもとても冷徹であるかのような印象を受けスヴィェートさん達に対し敵意を露わにしている。


 「お前が勇者、デルトゥーカ・ドゥスミエリの妻にして同じく勇者であるスヴィェート・ドゥスミエリか?」


 「さぁね……。人に名を尋ねるならまずは自分から名乗るのが筋じゃなくて?」


 水色の髪をした方の女性が威圧的な態度でスヴィェートさんへと問いかける。


 もう1人の黒髪の方の女性は少し後ろに下がった位置でその様子を黙って見ていたのだが、その雰囲気からして水色の女性の方が立場が上であるようだ。


 「ふっ……まぁいい。どの道調べはついていることだ。夫のデルトゥーカ同様お前にはここで死んでもらう」


 「随分といきなりなのね。あなた達は一体誰の差し金で私達のところに送り込まれてきたのかしら」


 「そんなもの正直に答えるとでも思っているのか。悪いが無駄話は省いてとっと仕事を完遂させて貰おう。……サーシャ」


 「はっ」


 「お前はあの従者の女をれ。スヴィェートは私がる」


 「了解しました」


 「リティシア……」


 「分かっています、スヴィェート様」


 「ダルカっ!。あなたはヴァンとアイシアを連れて寝室に避難していなさいっ!」


 「わ……分かったよっ!、母さんっ!。ヴァン、アイシア、さぁ……」


 僕達の赤ちゃん部屋には廊下へと出る為の扉とは別に、僕達に何かあった時の為にすぐに駆け付けられるようにとスヴィェートさんの寝室と直接繋がる扉が設置されている。


 廊下へと出る為の扉は謎の襲撃者達によって塞がれてしまっているのでダルカは僕達を抱え上げそちらの扉から明らかに危険と思われるこの場から僕達をスヴィェートさんの寝室連れ出してくれた。


 スヴィェートさんのベッドへと優しく寝かしつけて貰う僕達であったが、【転生マスター】である僕達は例え赤ん坊の状態であってもこの状況で大人しく守られているだけでいるわけにはいかないのだった。


 「(こ……これは大変になってしまったっ!。あいつ等が何者なのかは見当が付かないけどこのままじゃあスヴィェートさん達が危険だっ!。何とかして僕達も救援に向かわないと……)」


 「(ですがマスター……。まだ生まれて2週間の赤ん坊でしかない今の我々にできることなど……)」


 「(いやっ!。今回は前回の僕達と違ってデルトゥーカさんとスヴィェートさんという2人の勇者の間に生まれ落ちて来たんだ。僕達の器に秘められているはずのとてつもない潜在能力と【転生マスター】としての意志の力が合わさればきっと赤ん坊のままでも奴等に立ち向かうことができるっ!)」


 「(マスター……分かりました。マスターがそう仰るならば私もやれるだけのことはやってみます)」


 「(よしっ!。それじゃあ僕達の肉体に全力で意識を集中させるんだっ!)」


 「(はい)」


 「おぎゃぁぁぁぁぁーーーーっ!」


 前回、ヴァン・サンクカルトとアイシア・サンクカルトとして転生した際、魔王アークド軍に扮してまだ赤ん坊の僕達を襲撃したBS1-52君にスーパーサ〇ヤ人と言わしめた時と同じように僕達は覇気の込もった赤ん坊の叫び声を上げて自らの意識を極限にまで高めていく。


 あの2人の刺客の女達の素性は全く分かっていないが、スヴィェートさん達を始末しようとしている以上その子供である僕達とダルカも標的に含まれていると考えた方が良い。


 『味噌焼きおにぎり』の連中を打倒しPINK-87さん達を助け出す為にも僕達は絶対こんなところでやられるわけにはいかないんだ。


 なんたってこのウルカ・ドゥスミエリとアイシア・ドゥスミエリとしての人生が今回の『ソード&マジック』の世界において僕達の最後の転生なのだから……。


 ここでやられてしまえば僕達の魂は即座に霊界へと帰還してしまいもう二度と『味噌焼きおにぎり』の連中に精神を支配されてしまったPINK-87さん達を救出することができなくなってしまう。


 そのことを肝に銘じて僕もアイシアも必死になってこの赤ん坊の体を奮い立たせるのだけれど……。


 「おぎゃぁぁぁっ!、おぎゃぁぁぁぁっ!。……おぎゃんっ!」


 「……っ!。大丈夫かっ!、ウルカっ!」


 先程訓練を行ってきた時のように座ったまま上半身起こすぐらいなら余裕で行えるのだが、やはり立ち上がろうとまですると体のバランスを保つことができずに体勢を崩してそのままベッドの下まで転げ落ちでしまう。


 そんな僕をダルカが優しく拾い上げベッドの上へと戻してくれたのだがこんなことでは襲撃者達相手にまともに立ち向かうことなど不可能だ。


 しかし今回が最後の転生でありもう後が残されていない僕達は僕達のそんな様子を心配するダルカを余所に懸命に立ち上がろうとし続けていた。


 「おぎゃぁぁぁっ!、おぎゃぁぁぁぁっ!」


 「ウ……ウルカもアイシアもさっきから一体どうしたっていうんだ……」


 「おぎゃぁぁぁっ!、おぎゃぁぁぁぁっ!」


 「も……もしかして母さんとリティシアさんを助ける為にあいつ等に立ち向かおうとしているの?」


 「おぎゃおぎゃっ!」


 ダルカの質問に対し『そうだそうだ』と言うように赤ん坊の泣き声で返事をする。


 まだ赤ん坊の僕達にそのような意志があること、そして何よりこんな小さな身でありながら襲撃者達に立ち向かうとする僕達の姿にダルカは驚きを隠せない様子だった。


 「はあぁぁっ!」


 「……っ!」


 僕達が避難した寝室の扉の向こうから激しい怒号が飛び交うと共に剣と剣がぶつかり合う音、その他にもとにかくそこら中の物が破壊されるような荒々しい衝撃音が鳴り響いてきた。

 

 どうやらスヴィェートさん達と襲撃者達の戦いが始まったようだ。


 戦いの開始を感じ取った僕達はこうしてはいられないと最大限を振り切って赤ん坊の肉体へと【転生マスター】としての意識を注ぎ込んでいく。


 そして……。


 「なっ……!。こ……これは一体どういうことだ……」


 スヴィェートさん達の戦いの音が鳴り響いてから数分が経過した頃、突然扉の向こうの赤ちゃん部屋からから聞こえていた物音が静まり返った。


 スヴィェートさん達と襲撃者達の戦いの決着が付いたということなのだろうか。


 静寂に包まれる中赤ちゃん部屋の方から僕達のいる寝室へと何者かが近づいてくる足音が聞こえてくる。


 ゆっくりと扉を開けて僕達のいる寝室へと入ってきたその足音の主は先程もう1人の襲撃者の方からサーシャと呼ばれていた黒い短髪の女だった。


 寝室へとやって来るなりサーシャは酷く驚いた様子で声を上げている。


 驚くサーシャの前にいたのは【転生マスター】としての力を最大以上に発揮し、3つ年上のダルカを後ろに下がらせて勇敢に立ち向かうまだ産毛が生え始めた程度に過ぎない赤ん坊の僕とアイシアだった。


 「おぎゃぁっ!、おぎゃおぎゃおぎゃぁっ!」


 お前っ!、スヴィェートさんとリティシアさんはどうしたんだっ!。


 そう言わんばかりに僕は赤ん坊の泣き声でサーシャに言葉を投げ掛ける。


 サーシャの方も何となくの雰囲気で僕達の言わんとしていることを感じ取ったようだ。


 赤ん坊の身でありながらそれ程までの明確な意志を見せ堂々とした姿で立ちはだかる僕達にサーシャは警戒を最大限にまで強めて僕達に鋭い視線を送る。


 この僕達に残された最後の6回目の転生をこんなところで終わらせてしまうわけにはいかない。


 そう決意した赤ん坊の僕達とサーシャとの戦いが今始まろうとしていた。

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