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第106話 最悪の結末

 「僕は……【転生マスター】です……」


 「ふっ……」


 弱弱しい言葉で発せられた僕の告白を聞きSALE-99が満足げな笑みを浮かべる。


 ここまで必死に誤魔化し通そうとしてきたけどPINK-87さんの首へとSALE-99の剣が振り下ろされようとする光景を見せつけられてはもう耐えることはできなかった。


 赤ん坊の時に出会ってから約16年。


 遂にSALE-99達に僕が【転生マスター】であることが明らかになってしまったのだった。


 「(ごめん……皆。PINK-87さんが殺されると思うとどうしても黙っていることができなかった……)」


 「(大事なソウルメイトが人質に取られてしまったんだから仕方ないなのっ!。LA7-93さんが言わなかったら僕達が【転生マスター】のテレパシーでSALE-99に打ち明けていたなのっ!)」


 「(打ち明けていたなのっ!)」


 「(うん……。それでこれから一体どうしようか……)」


 「(とにかく今は態度を大人しくして『味噌焼きおにぎり』の連中が僕達の処遇をどうするつもりなのか見極めるなの。問答無用で僕達を処分するつもりなのか、それとも何かしら交渉する余地がありそうなのか……。それによってこちらも対応を考えるなのっ!)」


 「(対応を考えるなのっ!)」

 

 「(わ……分かったっ!。取りあえずは相手の出方を窺ってみることにするよ)」


 「(あっ!。あと僕達とアイシアの存在はできるだけ知られないようにして欲しいなのっ!。後で隠し事してたことがバレると余計不味いことになるかもしれないから隠し通すのが難しいと判断したら無理しなくていいけどなの)」


 「(いいけどなの)」


 「(了解)」


 今のところ【転生マスター】だとSALE-99達にバレているのは僕だけだ。


 僕の細胞に転生しているベル達に関してはその存在すら全く知られていない。


 アイシアやベル達にまで疑いが及ばないよう僕は慎重な姿勢でSALE-99達への対応に当たった。


 「ふふっ、ようやく白状してくれたのね。それじゃあまずは君の魂の名前を聞かせて貰おうか」


 「エ……LA7-93だ」


 「LA7-93か……。僕が把握している【転生マスター】の魂達の情報にはない名前だね。それじゃあ次は君の魂の成長度について詳しく教えて貰おうか。魂Lv、ステータス、それから取得済みの転生スキルとそのLv。今の内に忠告しておくけど僕達の質問には全て正直に答えることだ。でないとまた君自身ではなく、君の大事なソウルメイトに危害が及ぶことになるんだからね。ふふっ……」


 「ぐっ……」


 ここで嘘を付いたところでSALE-99に真偽を確かめる術はないはず……。


 しかしそう頭の中で思ってはいても僕は自身の態度から嘘と疑われてしまうことを恐れ、再びSALE-99の剣の矛先がPINK-87さんへと向くことのないよう自身の魂の情報を偽りなく話した。


 「何だって……。それは本気で言っているのだろうね、LA7-93。少しでも嘘を付いているような素振りを見せれば君の大事なソウルメイトに危害及ぶとさっき説明したはずだよ」


 「う……嘘なんか付いてないよっ!。ちゃんと自分の魂の情報について嘘偽りなく話したのにどうして信じてくれないんだっ!」


 「けれど今君の話してくれた魂の成長度ではとても今この場に転生しているヴァン・サンクカルトとしての君の実力にはどう考えても見合っていない気がするのだけれど……」


 「そ……それは転生した僕自身も感じていたことだっ!。何故か分からないけど今回の僕は普段より相当高い能力のスペックを持った器に転生することができていた。僕自身はそれが神の子であるヴェントの兄弟として転生したからだと考えていたのだけれど……」


 「成程ね……」


 「………」


 SALE-99と向かい合ったまま暫く沈黙が続く。


 自身の魂の情報について正直に話したはいいがどうやらそれがヴァン・サンクカルトとして転生した僕の実力と見合っていないことで疑われてしまっているようだ。


 「いいだろう。ヴェントの兄弟として生まれたことでスペックに補正が掛かっていることは事実だろうし取り敢えずは信じてあげるよ」


 SALE-99からの言葉を聞いて僕はホッと安堵したため息をつく。


 ヴェントの兄弟として器のスペックが上昇しているのも事実ではあるのだろうが、僕が魂の成長度以上の実力を持って転生できているのは僕の細胞に転生してくれているベル達の力によるものが大きい。


 PINK-87さんの身の安全を思うならベル達のことも正直に話すべきだったのだろう。


 しかし正直に話したところで確実に僕達の身の安全が保障されるわけではない以上はできる限りの情報は隠し通すべきだ。


 PINK-87さんが人質に取られている状況で何処までを正直に話し何処までの情報を隠し通すべきか。


 緊迫した状況の中で僕は強い葛藤に苛まれていた。


 「さてと。それじゃあ次は今回君と共に転生しているソウルメイトについて話してもらおうか。まずはこの君の母親に転生している魂はなんという名なんだない?」


 「ピ……PINK-87さんだ。あと父親のMN8-26とヴィンス兄さんに転生しているRE5-87君も僕のソウルメイト。それから……」


 「それから……何だい?。その3人以外にも最低でもあと1人は君のソウルメイトがいるはずだろう。さっき自分で【従者】の転生スキルを取得していると言っていたじゃないか」


 「くっ……アイシア」


 「はい……マスター」


 僕の呼び出しに応じ憑依していた僕の体からアイシアが姿を現す。


 先程自ら【従者】の転生スキルを取得していることを白状してしまった上、以前の侵入作戦の際から既にSALE-99にはアイシアの存在を疑われてしまっている。


 細胞に転生しているベル達はともかく、アイシアに関しては存在を隠し通しておくのは不可能だと僕は判断した。


 「ふっ、やはり赤ん坊の時に亡くなった本物のアイシアが守護霊として君についていたか。この子が君の魂の従者ということでいいんだよね、LA7-93。そして主の君と同じくこの子も【転生マスター】としての力を持っていると……」


 「そ……そうだ。【従者】の転生スキルで連れて来た自分の魂の従者にも【転生マスター】の力が宿るのはそっちも知ってることだろうっ!」


 「ふっ……まぁね」


 霊体、それも赤ん坊の姿でこの場に現れたアイシアを見てもSALE-99達はまるで驚いた様子を見せない。


 アイシアの存在については事前に予想がついていたような感じだ。


 やはりアイシアに関しては下手に隠そうとしないで正解だった。


 「あなたが本来のこの器に転生していたアイシアさんね。ごめんなさいね。予期せぬことだったとはいえあなたの人生を私が奪うような形となってしまって」


 「いえ……。確かに私の体で行うあなたの素行には色々と不快に思うところもありましたが、そもそも私は一度命を落としている身ですので新たに蘇った私にあなたの魂に転生したことについて不満を抱いたりは致しません。それに蘇れずとも私は私でこうしてマスターの守護霊として有意義な人生を送れています」


 「あら、もっと怒っているものと思っていたけれど意外と心が広いのね。それにマスターの守護霊として有意義な人生有意義な人生を送れていますだなんて私の従者にもあなたのその寛容さと殊勝さを少しは見習って貰いたいわ」


 「あなたもマスターと同じくご自身の魂の従者を転生に連れていらっしゃるのですか?」


 「ええ。【従者】の転生スキルをLv1で取得するだけなら10万程度のソウルポイントで済むでしょう。それで転生先の世界で【転生マスター】の仲間を増やせるんだから超お得じゃない。他の私達の仲間の【転生マスター】もほぼ全員が1人は従者を転生に連れ込めるようにしているわ。【転生マスター】で従者を連れていないのはここにいるSALE-99ぐらいじゃないかしら。私も散々あんたも従者を連れて転生するように助言してあげてるんだけどこいつったら面倒くさいとか言って頑なに拒否するのよ」


 「質問しているのはこっちだっていうのに余計な情報をベラベラと話すのは止めて貰えないかな、LS2-77。お喋り好きの君には悪いけど話の邪魔だから少し黙っていてくれ」


 「はいはい、分かったわよ」


 「それじゃあ次は君達が僕達に関して知っている情報を全て話して貰おうか。こちらからコンタクトを取ったことがあるにも関わらずこれまで僕達を欺いて【転生マスター】であることを隠してきたんだ。何も知らないで済まされるはずがないことは重々承知しているよね」


 「………」


 侵入作戦の際ヴェントから叱責を受けるのを承知で僕に手を出してきた程だ。


 恐らくSALE-99はグランディス・ワームに転生したTC7-33が亡くなる際にこの場に侵入してきた霊はアイシアであると確信していることだろう。


 僕は侵入作戦でアイシアが持ち帰ってくれたものも含めてこれまで自分が取得していた『味噌焼きおにぎり』についての全ての除法を包み隠さずに話した。


 「なる程……。やっぱりあの時この場所に侵入して僕達の話を盗み聞きしていた霊は君の従者だったみたいだね。しかしまさか長年僕達を欺き続けていただけでなく、僕達『味噌焼きおにぎり』についての情報をそこまで掴んでいようとは……。これはもう君を生かしておくわけにはいかなくなってしまったかもしれないね」


 「……っ!」


 高圧的な口調で言い放たれたSALE-99の言葉に思わずたじろいでしまう。


 やはりこのまま戦闘になることは避けられないだろうか。


 勝ち目はないことは分かりつつもも僕は最後まで抗う覚悟を決めて臨戦態勢を取っていた。


 「待って下さい、SALE-99。彼を敵と見做す前に私に彼と話をさせて貰う約束だったでしょう」


 「ああ……。そうだったね、TC7-33」


 「ヴォルン……」


 このまま『味噌焼きおにぎり』の【転生マスター】4人を相手に戦闘を余儀なくされるのかと思われたその時、ヴォルンが僕とSALE-99の話に割って入って来て前へと出て来た。


 目の前にいるのはもうこれまで大事に思ってきた弟ではなく『味噌焼きおにぎり』の【転生マスター】、TC7-33であることは重々承知しているつもりなのだが未だに兄としての思いを捨てらずヴォルンの名を呼んでしまう。


 これから戦わなければならない相手に対しそのような甘い考えをしていては駄目だと僕は改めて強い口調でTC7-33の名を呼び直した。


 「一体僕に何の話があるっていうんだっ!、ヴォルン……じゃなくてTC7-33っ!。こっちはもうお前達と戦う覚悟はできているんだぞっ!」


 「ふっ、そのような強がりを口にしたところでそちらには何のメリットもありませんよ。私達4人を相手に勝ち目がないことはあなたも重々承知しているでしょう」


 「くっ……」


 「どうせ勝ち目がない戦いをするならその前に少し私の話を聞いて下さいませんか、LA7-93、そしてその従者のアイシアさん。先程までのSALE-99の高圧的な態度に関しては私が代わって謝罪致しますので……」


 「しゃ……謝罪だって……」


 「ええ。SALE-99は我々を欺き密かに情報収集を行っていたあなた方を敵視しているようですが私はそのようには考えておりません。【転生マスター】なら他の【転生マスター】を警戒しその動向を探るのは当然のこと。むしろこれまで我々に悟られずに通したあなた方の慎重さや忍耐力は同じ【転生マスター】として賞賛に値します」


 「………」


 「その上で提案があるのですが……。もしよければ我々と協力関係を結んで頂けないでしょうか」


 「きょ……協力関係だって……」


 「ええ。先程の話を聞く限りあなた方は僅か5名のソウルメイトでグループで今回の『ソード&マジック』の世界へと転生してきているのでしょう。このように言っては失礼かもしれませんが、そのような小規模なグループで転生しているあなた方にわざわざ我々と対立するだけの目的があるとは思えません。精々個人で名を馳せるぐらいのものでしょう。例えば冒険者として1流と呼べるだけの功績を残す……とかね」


 「………」


 何をっ!


 っと謂った表情でTC7-33のことを睨みつけるが完全に図星だった。


 確かに今の段階の僕達の転生先の世界での目的は固有オリジナル転生スキルとしての【注射器魔法シリンジ】の能力の完成、それを目指す過程でそれなりに有意義な人生を送れればいいと謂った程度のものだ。


 世界の動向に多大な影響を及ぼすどころか全てを支配しようすら考えてる『味噌焼きおにぎり』の連中の計画の壮大さには遠く及ばない。


 目的、そして連中の組織との規模にこれだけの差があってはまともな対立構造など成り立たないことを確認した上でTC7-33は僕への話を続けていく。


 「我々に協力して頂けるのであれば今回の転生においてあなた方の人生の安泰と充実を約束しますよ。勿論ここにいるあなたの母親や他のソウルメイト達も含めてね。その上で我々との協力が有意義なものであると感じて頂けたのなら今回の転生が終わった後で是非正式に我々の同志となって頂きたいのです」


 「ぼ……僕達がお前達の同志だってっ!。そんな馬鹿なことがあり得るわけないだろうっ!」


 「はて……私にはあなた方が何故我々のことをそこまで敵視しているのか理由が分からないのですが……」


 「魂の記憶についての説明が上手くいかないからって大事なソウルメイトを自分達の手で殺したり、変な教団を作って人々を騙し世界を征服しようとする……。その上洗礼の儀なんてもので僕達の大事な仲間達を操るお前達のことを信用なんかできるわけないだろうっ!。僕達だけじゃなくこの世界に転生している魂達皆の敵と思って当然だっ!」


 「これは……同じ【転生マスター】とは思えない発言ですね。そのようなことで我々に対し軽蔑の感情を抱かれるとは心外です。まぁ、【転生マスター】として転生の経験がまだ浅いあなたには仕方のないことなのかもしれませんが……」


 「な……何だとっ!。それは一体どういう意味だっ!」


 「あなたは我々の行いがあたかも悪行であるかのように仰いました。なる程、確かに大抵の転生先の世界の価値観や倫理観に照らし合わせてみればそう見えるのも仕方ないことでしょう。しかしよく考えてみて下さい。【転生マスター】である我々が転生を終えて霊界に帰った際に閻魔大王にそのように判断され兼ねない行いをすると思いますか?。大量のソウルポイントを取り上げられた挙句最悪の場合地獄行きになってしまう可能性もあるのですよ」


 「な……なんだってっ!。それじゃあまさか……」


 「その通り。我々が『味噌焼きおにぎり』のソウルギルドを結成して以来ずっと転生先の世界で同じような行いを繰り返していますが閻魔大王からマイナスの評価を頂いたことは一度もありませんよ。それどころか日々ソウルポイントの最高獲得量の記録を更新している程です。前回の転生では我々のソウルギルド全体で10億以上のソウルポイントを獲得できたでしょうか」


 「じゅ……10億だって……」


 TC7-33から聞かされたソウルポイントの獲得量に僕は驚きを露わにする。


 10億ものソウルポイントを獲得するなんて10人にも満たないソウルメイトの人数で転生を行っている僕達には想像も付かない数字だ。


 個々の魂が保持しておけるソウルポイントの最大量は9999999ポイントのはずだけどその数字は『味噌焼きおにぎり』に所属している全ての魂の獲得量を合算してということなのだろうか。


 「ま……まさか……。お前達みたいなあくどい魂の連中にどうしてそんな大量のソウルポイントが……」


 「だからあなたのそのあくどいというのは転生先の世界での価値観や倫理観においての話でしょう。転生の経験が浅い……。特に『地球』の世界にばかり転生を繰り返しているような魂はあなたのように偏った考えを持ってしまうのは多いのです。ですがそのような1つの側面からのみで見た評価と、その我々の行いが転生先の世界の始まりから終焉に至るまでどのような影響を及ぼしたのか真なる裁定を行う閻魔大王の評価がまるで違うということは【転生マスター】であるあなたなら容易に想像できるはずです」


 「そ……それはそうかもしれないけど……。一体お前達の行いの何処がそれだけのソウルポイントを得られるだけの評価を得ているというんだっ!。お前達のやってることなんて詐欺まがいの方法で人々を騙し、世界を自分達の都合の良いものに塗り替えようとしているだけじゃないかっ!」


 「私にとって都合の良い正解(イコール)閻魔大王からの評価が高く大量にソウルポイントを獲得できる世界(イコール)その世界に転生したなるべく多くの魂達にとって都合の良い世界という構図になっていることがまだ理解して頂けませんか。表面上はあくどいことをしているように見えますが我々も我々なりに転生先の世界をより良きものにする為に力を尽くしているのです」


 「ふざけるなっ!。洗礼の儀なんて魔法で信者達を無理やり従わせて、自分達の邪魔になるからと謂ってラナリーのような何の罪のない人達を惨たらしく殺しておいて何がより良き世界だっ!」


 「ふっ……ではお聞きしますがあなた方は自分達の人生だけでなく転生先の世界をも良くしようと実際に活動したことがあるのですか?」

 

 「えっ……。せ……世界をどうこうしようだなんてそんなことたった5人しかソウルメイトのいない僕達にできるわけないだろ……」


 「ならば何故我々の行いをそこまで否定することができるのです。確かに今あなたが仰った部分だけを見れば我々は悪と呼べる存在でしかないでしょう。それこそ閻魔大王に地獄行きにされてしまうような……ね。しかしその一方で我々がメノス・センテレオ教団として行っている活動が世界に齎した成果にもちゃんと目を向けて頂きたい。メノス・センテレオ教団の世界の秩序の維持への貢献、そして何より信者達が幸せな日々を送っている光景をあなたも見てきたはずです。重役達に関しては我々『味噌焼きおにぎり』のソウルギルドに所属している魂が転生している者達がほとんどですが、信者達の9割以上は我々とは何の関わりのない魂が転生している者達なのですよ」


 「うっ……そ……それは……」


 必死に反論する僕だがきちんと論理を組み立てて投げ掛けてくるTC7-33の正論に言葉を詰まらせてしまう。


 そもそも【転生マスター】である彼等が閻魔大王の裁定にマイナスなるような真似をするはずがないことは初めから予想がついていたことだ。


 しかしそうであったとしても僕は『味噌焼きおにぎり』の連中の行いにも正当性があることを断固として認めたくはなかった。


 「転生の経験が浅いあなた方が平和的な価値観や思想に囚われてしまうのは致し方ないことです。しかしよく考えてみて下さい。転生先の世界であなた方がそのような崇高な思想を抱いて平和に暮らせるのは一体誰のおかげなのか。それは平和の裏で例え悪行に手を染めることになろうと世界の秩序の為に尽力する我々のような存在があってのことなのです」


 「で……でもだからって洗礼の儀の魔法で皆を無理やり操ったり、ラナリー達のような何の罪もない人々を排除する必要はなかったじゃないかっ!」


 「それは我々以外にも世界の覇権を握ろうと転生してきているソウルギルドの者達は大勢いますからね。それに言っておきますが中には災厄を撒き散らし世界を混沌に陥れることで多大なソウルポイントを得ているソウルギルドもいるのです。そういった者達に対抗する為にこちらも多少は不善と思える手段を取らざるを得ないのは致し方ないことなのです」


 「………」


 「それと先程からラナリーと口にしているのは恐らくあなた方が5年前に潜入任務に就いていたテネリタース教団のことを仰っているのですよね。あなた方は彼等のことをとても善良な存在だと認識しているようですが、我々からしてみれば自ら世界の秩序を構築しようとすることもなく、只独善的な思想を人々に押し付けている彼等のような偽善者達の集団の方がよっぽど悪質な存在なのです」


 「ラナリー達が偽善者だってっ!。そんなことあるもんかっ!。ラナリー達は本気で世界の平和を願ってテネリタース教団の教えを信仰していたんだっ!」


 「それこそがまさに独善的だと言っているのです。平和を願うだけで何の行動も起こさない……。只自分達の理想に縋るだけの者達が一体世界に何を齎してくれるというのですか。彼等は世界を良くしようとしているわけではなく、自分達が良き存在だと世界に訴えたいだけなのです。転生を終えた後に閻魔大王から下される裁定の差をを見比べて頂ければハッキリと分かることでしょう」


 「うっ……」


 「どうです?、少しは我々の言い分について理解して頂けましたか。その上でもう一度お聞きしますが、我々と協力関係を結ぶ件について考えを改めては頂けないでしょうか?。あなた方にとっても【転生マスター】としての視野を広げる大きなチャンスになり得ると思いますよ」


 きちんと順序だてて自分達の言い分を伝えてくるTC7-33の言葉にはとても強い説得力があった。


 絶対にこんな奴等のこと認めちゃいけないと自身に対し必死に言い聞かせつつも、もしかして連中の方が正しいことをしているんじゃないか?、そもそも自分の人生を良くすることばかりで世界に対して考えたこともない僕達に連中を糾弾する資格なんてないんじゃないか?、っと謂った疑問が頭の中に繰り返し浮かんでくる。


 そんな僕に対しTC7-33は再び協力関係を結ぶよう提案してきた。


 理屈で考えれば協力関係を結ぶ方がリスクが小さく、メリットも遥かに大きいことは分かっている。

 

 しかしそれでも僕は自分の心……いや。


 【転生マスター】として持つ自身の魂の意識を奮い立たせてTC7-33達に返事を返した。


 「エ……SALE-99は……」


 「はぁ……?」


 「SALE-99の行いについてはどうだって言ってるんだっ!。お前達もお前達なりに世界に貢献しようとしていることは分かったっ!。けどSALE-99は……あいつは自分が【転生マスター】であることをいいことに転生先の世界で魂の記憶のない者達を見下して彼等の人生を踏みにじることを心の底から楽しんでる最低の奴だっ!」


 「理由は分かりませんがどうやらあなたはSALE-99に対しては特別な感情を持っているようですね。確かにSALE-99の素行については多少なりとも問題があるとは我々も感じております」


 「おやおや。仲間に対してその言い草は酷いんじゃないか、TC7-33」


 「しかしそれを補ってSALE-99は戦闘、策略、指揮、様々な点において優秀な能力を有しております。我々『味噌焼きおにぎり』の貴重な戦力である彼を多少素行に問題がある程度のことで責めたりはできません」


 「ならお前達との協力関係なんて絶対にお断りだっ!。SALE-99はターナやトド達を……僕の友達を必要もないのに惨たらしく殺したっ!。お前達の仲間にSALE-99がいる限り僕達がお前達と協力関係を結ぶなんてことは絶対にないっ!」


 「何ですと……。たかが1人気に入らない者がいるという理由だけで折角の我々の提案を退けるとは……」


 「ふっ……だから言っただろう、TC7-33。彼と僕達は決して相容れない存在だろうって……。交渉が決裂した以上後の始末は僕に任せて貰うよ」


 「致し方ありません。私としては是非彼に我々の同志となって欲しかったのですが……」


 傍から見ればどう考えも僕の下した決断を馬鹿だと思うだろう。


 しかし僕は5年前SALE-99にターナやトド達を殺された怒りをどうしても抑えておくことができなかった。


 そんな僕の気持ちを察してアイシアやベル達ももう僕を制止しようとはしない。


 死を覚悟で戦う道を選んだ僕達へとSALE-99が立ちはだかる。

 

 「さてと……。それじゃあ当初の予定通り君達にはここで死んでもらうことにするよ。相手が【転生マスター】の場合本当は生かしたまま拘束しておくのがベストなんだけど、ヴァン・サンクカルトとしての君は僕達のリーダーであるVS8-44の実の弟としてあまり好ましくない影響を与えているようだからね。厄介なことになる前に始末しておいた方が得策だろうから」


 「黙れっ!。向こうはどう思っているかは知らないけど僕はもうヴェント……いやっ!。VS8-44のことを実の兄だなんてこれっぽっちも思っていないっ!。それに多勢に無勢だからと謂ってそう簡単に僕達を倒せると思うなよっ!」


 「ふっ、この状況よくそんな息巻いたことが言えるね。こっちには人質がいることを忘れてしまったのかい」


 「くっ……PINK-87さん……」


 「ふふふっ、人質として連れて来たのは彼女だけではないよ。……そうだ。折角だから君の始末は彼に任せることにしようか」


 「……っ!。ア……RE5-87君っ!」


 クロイセン神父、PINK-87さんに続いてRE5-87君までこの場に姿を現した。

  

 PINK-87さんと同じように虚ろな状態となって完全にSALE-99達によって操られてしまっている。


 PINK-87さんと同じように只人質でいてくれるだけならまだ良かった。


 洗礼の儀の魔法によりSALE-99達の意のままに操られてしまったRE5-87君は僕達に対し……。


 「……っ!。マスターっ!」


 「えっ……」


 「ぐっ……ぐあぁぁぁーーーっ!」


 「ア……アイシアぁぁぁーーーっ!」


 虚ろな状態のまま立ち尽くしていたRE5-87君が突然右手を上げてその手の平を僕達を向けてきたと思ったその次の瞬間だった。


 右手の平から黒い炎……。


 RE5-87君の十八番にして最も威力のある【地獄の業火インフェルノ】の炎が僕達に向けて撃ち放たれてくる。


 まさかの事態にまるで反応できない僕を庇いアイシアが【地獄の業火インフェルノ】の炎の直撃を受けてしまった。


 霊体となってからこれまでずっと守護霊として支えてくれたアイシア……。


 ソウルメイトであるはずのRE5-87君からの攻撃に無念そうな叫び声をアイシアの霊体はとうとうこの世から消え去ってしまった。


 「な……なんでっ!。今君が消し去ったのは僕達の大事なソウルメイトのアイシアなんだよっ!、RE5-87君っ!。そんな奴等の言いなりになんてならないでどうか目を覚ましてっ!」


 「ふふっ、どんなに呼び掛けたところで無駄だよ。【転生マスター】以外で僕達の洗礼の儀の魔法の支配から逃れられた者は極僅かしかいない。彼の魂がどのような成長を遂げているかは知らないけど『精神メンタル』の値に相当なソウルポイントを割り振っていないと無理だろうね」


 「うぅっ……」


 「さぁ……今度はそっちの奴を始末するんだ、ヴィンス」


 「………」


 「ぐっ……ぐあぁぁぁぁー---っ!」


 例え向こうから攻撃してこようとRE5-87君を相手に反撃など僕にできるわけがない。

 

 何も為す術がないまま僕の身もアイシアと同じように【地獄の業火インフェルノ】の炎によって焼き尽くされていった。


 僕の体の細胞に転生しているベル達諸共……。


 死にゆく意識の中。


 RE5-87君の虚ろな目から一筋の涙が零れているのが見えた。


 SALE-99達の洗礼の儀に精神を支配されている以上悲しみの感情など感じるはずはない。


 きっとあの涙はRE5-87君の魂そのものが流しているのだと僕はそう確信していた。


 そして僕は死にゆく中でこの『ソード&マジック』の世界を運営する神へと願う。


 どうか僕の残された最後の6回目の転生。


 その人生でRE5-87君達を救い出し『味噌焼きおにぎり』の者達の野望を打ち砕く機会チャンスが欲しいと。


 最後までその願いを強く念じながら僕の意識は暗闇の中へと消えていった。

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