第105話 最悪の展開
「えっ……ここから先はアズールさんやブランカさん達メノス・センテレオ教団の最高幹部の人達しか立ち入りを許可されていない場所じゃないか。本当にこんな場所にヴェント兄ちゃんが僕達を呼び出したのかい?、ヴォルン」
「僕も驚いたけど本当だよ、ヴァン兄さん。その証拠にねぇ、ディルンさん」
「はい。警備の私もヴェント様からお二人をお通しするようにと仰せつかっております。ですのでどうぞ先にお進み下さい、ヴァン様、ヴォルン様」
「ほら。だから早く行こう、ヴァン兄さん」
「う……うん」
アシュラス教団殲滅作戦でヴォルンの洗礼の儀の魔法を取り除いて約1週間が経過したある日。
僕はヴォルンと共にメノス・センテレオ教団のウィンドベル村の本部の一番最下層。
憑依作戦においてアイシアが侵入した教皇であるヴェントとSALE-99達最高幹部しか立ち入りが許されていないエリアへと呼び出された。
地下5階から下には例の結界が張られている為今回アイシアは僕自身の体に憑依させて連れて来ている。
正直嫌な予感しかしなかったが教皇であるヴェントの命令を無視するわけにはいかない。
強い緊張と不安を抱えた状態で僕はヴォルンと共に壁に掛けられた松明の明かりだけが頼りの薄暗い廊下を進んで行く。
「やぁ、待っていたよ、2人共」
薄暗い廊下を進んだ先の扉を潜るとかなり開けた空間へと出た。
ここもこれまでと同じく内装が全く施されておらず土が剥き出しになった壁に覆われている。
恐らくこの場所がアイシアが『味噌焼きおにぎり』の連中の仲間の1人であるTC7-33の転生したグランディス・ワームが死を迎えていたと話していた場所だろう。
あれから大分時間が経過しているが未だにこの場所の整備が全く手付かずであるところを見ると本当に『味噌焼きおにぎり』の者達が密会するだけの場所として作られたということなのだろうか。
そんな空間内でアズール・コンティノアールことSALE-99、ブランカ・ティーグレことCC4-22、新たなアイシアことLS2-77という『味噌焼きおにぎり』の【転生マスター】達3人が待ち受けていた。
しかしリーダーであるヴェント・サンクカルトことVS8-44の姿はない。
それでもこの場が不穏な空気に包まれていることは変わらず僕は恐る恐るした足取りで3人の元へと向かって行った。
「あれ……僕達を呼び出したのはヴェント兄ちゃんのはずなのに本人は来てないんだね。それで僕達に一体何のようなの?、アズールさん達?」
「ふふっ……まずはこれを見て貰おうか」
「……っ!、クロイセン神父っ!」
魔法で姿を見えなくしていたのだろうか。
魔法が解除されたような現象が起きるとともに突然クロイセン神父がこの場に姿を現した。
しかし只姿を現しただけではない。
手足を拘束され、明らかに拷問を受けたような酷い傷を負った状態でSALE-99達の元で跪かされている。
「こ……これは一体どういうことなのっ!、アズールさんっ!」
「実は最近僕達の教団内で大規模な内部調査を実施してね。その調査でこのクロイセン神父がミーズ・ニーズ教団からの内通者であることが判明したんだよ」
「ええっ!。そ……そんなまさかっ!」
拘束された姿を見た時からもう分かりきっていたことだが、どうやらクロイセン神父がミーズ・ニーズ教団から送り込まれた内通者であることがSALE-99達にバレてしまったようだ。
こうなった以上もうクロイセン神父に為す術はない。
死ぬまで拷問を受けながら残りの人生を過ごすしかないだろう。
協力関係にある僕としてはクロイセン神父を助けたいのは山々だが、それで僕までミーズ・ニーズ教団と繋がっていることが知られてしまっては共倒れとなってしまう。
元より一方が内通者であることが知られてしまった際は見捨てるという取り決めをしてある。
内通者の任を請け負っている者なら当然の取り決めだろう。
問題は既にクロイセン神父だけでなく僕が内通者であることまで知られてしまっているかどうかだが……。
「ま……まさかクロイセン神父が内通者だったなんて……。でもなんでわざわざ僕達だけを呼び出してそのことを知らせたの?」
「君は教団内でも一際クロイセン神父と親密にしていたようだからね。念のため君とクロイセン神父がどういった関係にあるのか確かめておこうと思って」
「それって……。つまりは僕も内通者じゃないかって疑われてるってこと……」
「まぁ……そういうことになるね」
「そ……そんなっ!。僕はメノス・センテレオ教団の教皇にして神の子であるヴェント兄ちゃんの弟なんだよっ!。その僕が他の組織の内通者だなんてことあるわけないじゃないっ!。アイシアとヴォルンも何とか言ってあげてよっ!。まさか家族である2人まで僕のことを疑ってはいないよねっ!」
「………」
「そんな……アイシア」
「ヴァン兄さんが内通者だなんてそんなことあるわけないじゃないかっ!」
「ヴォルンっ!」
自身の問い掛けに対し黙ったままのアイシアに僕は絶望する。
このまま僕とクロイセン神父の繋がりがあると断定されてしまっては一巻の終わりだ。
しかしどうにかして疑いを晴らさないとと焦りを露わにしていたその時、僕の後ろからヴォルンが頼もしい声を上げてくれた。
「ヴァン兄さんは僕達の中で誰よりもメノス・センテレオ教団、そしてヴェント兄さんの為に貢献してくれていた。そんなヴァン兄さんのことを家族であるにも関わらず疑うなんて酷いよっ!、アイシア姉さんっ!。……っと言いたいところですけどね」
「えっ……」
「ふふふっ……そうね、ヴォルン。私も家族……何より双子の兄妹としてヴァンのことを誰より信頼している……っと言いたいところなんだけどね……」
「ちょ……2人とも一体どうしちゃったんだよっ!。僕達は共にヴェント兄ちゃんを支えてきた家族じゃないかっ!」
「残念ですがヴァン君。アシュラス教団殲滅作戦において君が私にしてくれたことはここにいる者達、そして勿論ヴェント様もご存知でおいでなのですよ。何故ならこの私が直接全てを報告させて頂きましたからね。クロイセン神父が内通者だと発覚したものもあなたの調査を行っていた過程でのことだったのです」
「や……やっぱりあのことをヴェント兄ちゃん達に話してしまったのか……ヴォルン。でもそんなことより僕のことをヴァン君って……。一体その口調はどういうつもりなの……」
「(ふっ、我々と同じ力を持つあなたならすぐに察せられることでしょう。私もあなたやそこにいるSALE-99と同じ【転生マスター】の転生スキルを取得した魂であるということです)」
「……っ!」
「(因みに私の魂のコードネームはTC7-33と申します。以後お見知りおきを)」
僕を庇う言葉に希望を感じたのも束の間、僕は弟して大事に思っていたヴォルンから最も信じたくはない最悪の事実を知らされることとなった。
ヴォルンは僕達と同じ【転生マスター】であり、その身に転生していた魂はなんとアイシアからかつてグランディス・ワームに転生しこのメノス・センテレオ教団の本部の建設に従事していたというTC7-33。
最悪の展開に焦り抑えられない中僕は必死に冷静さを保ち【転生マスター】のテレパシーでアイシアとベル達に状況を知らせる。
「(今……ヴォルンから【転生マスター】のテレパシーで話しかけられた。やっぱりヴォルンは【転生マスター】であった上に『味噌焼きおにぎり』の連中の仲間だったみたいだ。そしてヴォルンに転生している魂は以前アイシアがグランディス・ワームに転生していたと話していたTC7-33……)」
「(はぁ……やっぱりなの……)」
「(やっぱりなの……)」
「(えっ……やっぱりって……)」
「(この場の雰囲気と一変したあのヴォルンの態度を見れば大体のことは察しがつくなの。流石にヴォルンに転生している魂がアイシアからの話に聞いていたTC7-33だとは予想がついていなかったけどなの。グランディス・ワームに転生した際に亡くなってから全然間がない間隔でヴォルンに転生できるなんて運の良い奴なの)」
「(運の良い奴なの)」
「(そうだよね。それだけ『味噌焼きおにぎり』の連中の魂が強い絆で結ばれてるってことなのかな?)」
「(そんなことよりこの場をどう切り抜けるかを考えなければっ!、マスターっ!。こうなってしまった以上『味噌焼きおにぎり』の者達との戦闘は避けられないでしょうし私が全力で連中を足止めするのでどうかマスター達だけでもこの場から逃げ延びて下さいっ!)」
「(アイシアだけであいつ等を足止めするなんてそんなの絶対無理に決まってるなのっ!。戦闘になればどの道僕達の全滅は必至……。まだ僕達が【転生マスター】だとは奴等にハッキリと打ち明けてはいないよねなのっ!)」
「(いないよねなのっ!)」
「(う……うん……。一応沈黙を保ったままヴォルンに対しても何も返事はしていないけど……)」
「(だったら今は一縷の望み最後まで奴等を誤魔化し通すことに集中するなのっ!。それで駄目だったらもう戦うか降伏して命乞いを願い出るかのどちらかを選択するしかないなのっ!)」
「(するしかないなのっ!)」
「(わ……分かった。もう無理だとは思うけどできるだけ連中を誤魔化し通してみるよ)」
恐らくもうSALE-99達は僕達が【転生マスター】だと確信しているだろう。
ヴォルン……いや。
TC7-33に対しての件がある以上隠し通すことなどほぼ不可能だ。
しかし今の僕達で『味噌焼きおにぎり』の【転生マスター】4人を相手に戦って生き延びれる希などないに等しい。
ベル達の言葉に従って僕は最後までSALE-99達を誤魔化そうと試みた。
「ち……違うんだっ!、皆っ!。僕がヴォルンにしたことは事実だけど僕は決して内通者なんかじゃないっ!。ヴェント兄ちゃん達に施して貰ったシャナ神様の力が僕に効かなかったのは『注射器魔法』の魔法で予め抽出しておいたからなんだっ!。実はシャナ神様の力を与えられる際に自分の意識とシャナ神様の意識が反発し合って苦しむことが多々あって……僕に宿るシャナ神様の力を取り除く研究をヴェント兄ちゃんや皆に内緒で行っていてしまったんだ……ごめん。それでこの前のアシュラス教団殲滅作戦の際にヴォルンが僕と同じように苦しんでいるのを見てヴォルンに宿るシャナ神様の力まで抽出してしまった……。ヴェント兄ちゃんや皆に黙って勝手なことをしてしまったことは決して許されることじゃないことは分かっている。だけど僕が内通者じゃないってことだけはどうか信じてっ!、アイシアっ!、ヴォルンっ!、アズールさんっ!、ブランカさんっ!」
「(ふっ……この期に及んでまだ白を切り続けようとするとはね。その諦めの悪さと決死の演技には素直に敬服するよ)」
「(………)」
SALE-99が必死に演技をする僕を嘲笑うように【転生マスター】のテレパシーを送ってくるけど決して言葉を返したりはしない。
例え99%僕達が【転生マスター】であることがバレてしまっているとしても最後まで嘘を貫き通してやる。
っと心に決めていたのだったが……。
「彼の言う通り私とヴァン君は何の関係もないっ!。自分達の教皇の家族を内通者と疑うなんてどうかしてるぞ、お前達っ!」
「ふっ……君の意見なんて僕達にとって全く聞く価値はないんだよ。もう用は済んだし少し黙ってて貰おうか。何よりこれから始まる僕達だけの会話に邪魔だからね」
「ぐはぁっ!」
SALE-99の手刀を後頭部に受けクロイセン神父は意識を失い地面へと倒れこんでしまった。
恐らく【転生マスター】でないクロイセン神父がこの場にいては他の者に聞かれてはいけない僕達の会話をするのに邪魔になるということなのだろう。
「さてと……これで邪魔者は排除したしもうテレパシーなんて使わずに普通に会話しても大丈夫だね。……っておっと。まだ君の方からは直接《あのこと》を打ち明けられてなかったのにこんなことを口走ってしまうのは迂闊だったかな。まぁいい。これを見れば君もすぐに自分の正体を明かしてくれるだろうさ」
「……っ!。か……母さんっ!」
また魔法で姿や気配を隠されていたのだろうか。
何もないところから今度は突然PINK-87さんが姿を現した。
SALE-99達の洗礼の儀の魔法により意識を支配された状態となって……。
「こ……これはどういうことっ!。一体母さんをどうするつもりなんだっ!、アズールさんっ!」
「ふっ……こういうつもりだよっ!」
「……っ!」
SALE-99の右手の袖からあの灰色の根が飛び出し、レイピアのように鋭く先の尖った形状へと変化するとともにPINK-87さんの首元へと差し向けられた。
少し切っ先が触れてしまったのかPINK-87さんの首についた切り口から少しの血が零れ落ちる。
「(恐らく彼女は君のソウルメイトなのだろう。あくまで【転生マスター】だと白状するつもりがないというならこの場で彼女の首を切り落とすよ)」
「う……疑われてるのは僕で母さんは何の関係もないはずだろうっ!。それにこんな真似してヴェント兄ちゃんが黙っているはずがないっ!。アイシアとヴォルンも黙ってないで何とか言ってやってよっ!」
「………」
「………」
「(ふっ、心配せずともヴェントの許可はちゃんと取ってあるよ。初めからこうするのが手っ取り早いと思ってはいたんだけど中々ヴェントの許可が下りなくてね。けれど君がヴォルンに尻尾を見せてくれたおかげでようやくヴェントの許可を得ることができたよ)」
「………」
「(さぁ、彼女の命を助けたければ早く【転生マスター】だと白状するんだ。言っとくけど僕は本気だよ)」
「ぐっ……」
「ふっ……そうかい。なら……」
「待ってっ!」
「……っ!」
僕の制止の声を聞いてPINK-87さんの首へと振り下ろされようとしていたSALE-99の灰色の根の剣が止まる。
洗礼の儀の魔法に完全に精神を支配されているPINK-87さんはこんなことがあっても微動だにせず虚ろな視線を向けているままだ。
それでもPINK-87さんの無事な姿を見て僕は心の底から安堵していた。
そしてそんなPINK-87さんを守る為僕は……。
「僕は……【転生マスター】です……」




