第104話 最悪の予想
「はぁ……まさか本当にSALE-99の勘が当たってたとはね。残念だわ、ヴァン。双子の兄妹として私は結構あんたのこと気に入ってたのに……」
「まだ【転生マスター】だという確証があるわけではありませんが洗礼の儀の影響をまるで受けていないようだったのでまず間違いないでしょう。仮に【転生マスター】でなくとも我々を欺いていたことに変わりません。ヴァン君に対しては早急に対処する必要があるでしょう」
「TC7-33の言う通り。他の【転生マスター】には同じ【転生マスター】である僕達が対応に当たると転生前に事前に取り決めてある。まぁ、現在の君にはそんな記憶はないだろうけどね。とにかくヴァンへの対処は僕達に任せて貰って構わないかなVS8-44」
「ああ……」
「ふっ……なら少し君の母親とお兄さんを借りさせて貰うよ。恐らくヴァンのソウルメイトである彼らを利用すれば容易に【転生マスター】だと自白させられるだろうからね」
「分かった……お前の好きにしろ、SALE-99」
「ふふっ……了解」
「ちょっと待ってください、SALE-99」
「何だい?、TC7-33」
「ヴァン君の処分を下す前に私に少しだけ彼を説得する機会を与えて貰えないでしょうか?。彼が我々と同じく【転生マスター】を取得している魂ならそれだけで希少な存在ですし、彼の扱うあの『注射器魔法』の魔法にも目を見張るものがあります。できることなら我々の同志として迎え入れたいとは思いませんか?」
「その気持ちは分かるよ、TC7-33。教団内での活躍ぶりもあるし僕もヴァンのことはそれなりに評価している。けれど恐らくヴァンが僕達の元に降ることはないと思うよ」
「それは何故です?」
「勘だよ。彼からは決して僕達とは相容れないような感覚がヒシヒシと伝わってくるんだ。それに10年以上の間僕達を欺き続けておいて今更こちらに降るような真似をするとは思えないしね。けれどまぁやるだけやってみるといいよ、TC7-33」
「ええ。ではそういう手筈でお願いします」
ヴェント・サンクカルトことVS8-44,アズール・コンティノアールことSALE-99、ブランカ・ティーグレことCC4-22、アイシア・サンクカルトことLS2-77、そして僕はまだ正体を掴めていないヴォルン・サンクカルトことTC7-33。
『味噌焼きおにぎり』の主要メンバー達が揃って改めて【転生マスター】の可能性が高いと発覚した僕への対応を話し合っていた。
ヴォルンの洗礼の儀を取り除いたことでヴェント達に僕の正体がバレてしまう可能性があることは僕自身も自覚はできていたのだが、だからといって如何することもできず只不安を抱えたまま日々を過ごしていた。
『味噌焼きおにぎり』の連中の魔の手がすぐそこまで迫ってきているとは思うこともなく……。
「(はぁ……僕がヴォルンの洗礼の儀を取り除いたことヴェント達にバレちゃってたらどうしよう……。今頃ヴェント達が【転生マスター】だと発覚した僕達を始末する算段を立てているかもと思うと食事も喉を通らないよ……)」
「(僕達は止めたにも関わらず自分の意志であんな無謀な真似した癖にメソメソしてるんじゃないなのっ!、LA7-93っ!)」
「(メソメソしてるんじゃないなのっ!)」
「(ごめん……。だけど僕の自分勝手な行動のせいでアイシアとベル達まで危険に巻き込んで……。やっぱり僕のこと怒ってるよね……)」
「(滅茶苦茶怒ってるなのっ!。だけどだからといって別にLA7-93のを嫌いになったりしてないし……。むしろ好きになったのだからそんな風にくよくよしてないで元気を出して前に進むなのっ!)」
「(進むなのっ!)」
「(えっ……でも好きになったってどうして……)」
「(【転生マスター】としてソウルメイトでないことが分かっているはずなのに大事な弟の為にあそこまでしてやれるのは立派なことだと思うなの。【転生マスター】として冷たいことばかり言ってるけど本当は僕達だってLA7-93のように常に他の魂に対して情愛や敬意……そして自分自身への情熱を絶やさずに転生していたいなのっ!)」
「(転生していないなのっ!)」
「(ベル……ベルル……。2人に助けて貰うばかりか迷惑さえも掛けてばかりの僕をそんな風に言ってくれるなんて……。僕……2人とソウルメイトになれて本当に良かったと思ってるよっ!)」
「(その気持ちは僕達も同じなのっ!。これからもずっとソウルメイトとしてLA7-93の細胞に転生するって心に決めてるからよろしくお願いするなのっ!)」
「(よろしくお願いするなのっ!)」
僕がヴォルンにしでかしたことがあるにも関わらずベル達はこれまで通り……いや。
これまで以上に僕達に親しみを込めて僕に接してくれた。
僕とアイシアにはとても有難いことだ。
しかしだからといってそれでヴォルンにしでかしたことで僕が『味噌焼きおにぎり』の連中に脅威に晒される危険性が消え去ったわけではなかった。
「(けれどやっぱり『味噌焼きおにぎり』の連中に僕の正体がバレていないかは心配だよ。一応『注入』の能力で洗礼の儀の術式に似せた魔法を代わりにヴォルンの体に注入しておいたから詳しく調べでもされない限り気付かれはしないだろうけど……)」
「(それは僕達もそう思うけどなの……。僕達として最も最悪な展開はヴォルンに転生している魂がヴェント達『味噌焼きおにぎり』の連中の仲間で、更にはSALE-99やブランカのように【転生マスター】であることなの)」
「(あることなの)」
「(えっ……そんなまさか……。蘇ったアイシアに続いてヴォルンまで【転生マスター】なんてことが……)」
「(仮にそうだった場合ヴォルンの体に施した小細工など無意味で僕達が【転生マスター】だってことはヴェント達にバレてしまっているはずなの。【転生マスター】の力で自分が『味噌焼きおにぎり』の一員だとハッキリ自覚できているなら僕達のことをヴェント達に黙っているわけはないしなの……)」
「(黙っているわけはないしなの……)」
「(で……でもさ……。ヴォルンが【転生マスター】だとしたらヴェント達が洗礼の儀の魔法を施してたのは変じゃない。ヴェント達は以前洗礼の儀が【転生マスター】には効かないことを利用して僕の正体を暴こうとしたわけだし……っ!。ま……まさかヴォルンもあの時の僕達と同じように僕を罠に掛ける為にわざと洗礼の儀に掛かった演技を……)」
「(うん……なの。RE5-87や他のメノス・センテレオ教団の実力者でさえ洗礼の儀の効果にはまるで抗えてなかったのにまだ子供のヴォルンだけが意識を保つことができていたなんてやっぱりちょっとおかしいなの)」
「(おかしいなの)」
「(だとしたら本当は何ともなかったのに僕にも洗礼の儀の効果が及んでいないことを確かめる為にあんなに苦しんだ振りをしていたってことか……)」
「(もしそうなら今頃アシュラス教団殲滅作戦での出来事は全てヴェント達の耳にも入っているということですっ!。我々の正体を知ったヴェント達が何時粛清に乗り出してくるとも限りませんっ!。万が一のことも考えて今の内にミーズ・ニーズ教団へと亡命しておくべきではありませんかっ!、マスターっ!)」
「(確かにミーズ・ニーズ教団の保護を受ければ僕達の安全はそれなりに保証して貰えるだろうけど……。それだとPINKー87さん達をヴェント達の元に置き去りにしないといけないことになる。PINKー87さん達が僕達のソウルメイトであろうことは【転生マスター】であるSALE-99達なら容易に予想できるだろうし……。もし僕達が裏切ってメノス・センテレオ教団の元を離れれば皆に何をしでかすか分からないよ)」
「(ですがPINKー87さん達が『味噌焼きおにぎり』の連中のリーダーである以上他の者達も容易く手出しできないと思うのですが……)」
「(そうかもしれないけど確証がない以上やっぱりPINKー87さん達を置いてはいけないよ。もしPINKー87さん達がSALE-99にターナやトド達と同じ目に合わされてしまったら思ったら僕は……)」
「(マスター……分かりました。マスターの決断に従うのが従者である私の務めですので私の考えなど気になさらずどうかご自分の気持ちを尊重なさって下さい)」
「(僕達もアイシアと同じでPINKー87達を守りたいというLA7-93の気持ちを尊重するなのっ!)」
「(尊重するなのっ!)」
「(うん……ありがとう、アイシア、ベル、ベルル)」
一応ヴォルンの体から洗礼の儀の魔法を取り除いたことをヴェント達に簡単には知られない為の工作をしておいたのだが、ベル達の言う通りもしヴォルンが本当に【転生マスター】で『味噌焼きおにぎり』の一員であったとしたらそんなものは全くの無意味だ。
今頃ヴォルンからアシュラス教団殲滅の際の僕の行動の全てを聞いたヴェント達が僕達の粛清に向けて動き出していることだろう。
そして数日後。
僕達にとって最悪のその予想が現実のものとなってしまうのだった。




