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第102話 ヴォルンとの任務

 「(なる程……。なら奴等の天竺五行とやらを発動するには最低でも後7つの街をメノス・センテレオ教団の信仰の支配下におく必要があるってことか)」


 「(うん。信者を増やすだけじゃなくて実際に街を占拠して人々の祈りの力を収集施設を建設する必要があるみたいだよ、BS1-52君)」


 テネリタース教団での悲劇から5年が経過したある日、僕はゼルウィンドの街でBS1-52君との密会を行っていた。


 テネリタース教団での工作任務による功績を得たのを機にメノス・センテレオ教団内での地位を着実に伸ばしていった僕とクロイセン神父はより機密度の高い情報をBS1-52君とミーズ・ニーズ教団へと流している。


 しかしながらメノス・センテレオ教団の勢力の拡大、増強の速度は凄まじく、いくら情報を手にしたところでこのままでは『味噌焼きおにぎり』の連中の野望を打ち砕くことなど到底不可能となってしまうのではないかと僕達は懸念していた。


 今では小規模な宗教勢力はヴェント達によってことごとく潰され、残っているのは僕達が裏で同盟を結んでいるミーズ・ニーズ教団以外にごく僅かだ。


 それら全ての勢力を結集したとしてもメノス・センテレオ教団の戦力には遠く及ばないだろう。


 できるだけ早く行動を起こすようミーズ・ニーズ教団に促しているのだが未だ情報不足の一点張り。


 確かに現段階で勝算がある作戦を立案するのは難しいかもしれない。


 けれど敵との戦力差が開き続ける一方であるこの状況では情報の有無に関わらず最早まともに立ち向かうことすら不可能となってしまう恐れもある。


 手遅れになる前に思い切って行動を起こすしかないと思うのだが、そんな決定権など持っていない僕達は引き続き情報の収集に専念するしかなかった。


 「えっ……今回の作戦にはヴォルンも参加させるって……。それって本気で言ってるのっ!、ヴェント兄ちゃんっ!。凄い才能があるって謂ってもヴォルンはまだ5歳になったばかりなんだよっ!。僕だって初めて戦場に出たのは8歳になってからだったのに……」

 

 情報収集の為引き続きメノス・センテレオ教団の一員としての活動を続ける僕だったかある日ヴェントからとんでもない任務を言い渡されてしまう。


 任務の内容自体はアシュラス教団を殲滅してカプリースの街を占拠するというこれまで通りのものだったのだが、なんとその任務にまだ5歳になったばかりの僕の弟ヴォルンも参加させるというのだ。


 僕との訓練の成果もあって既に高い実力を有しているとはいえまだ5歳の可愛い弟を戦場に送り出すなんて僕としては大反対に決まっている。


 けれどヴェントが命令を取り消さない以上はどうしようもなく、僕はヴォルンと共に任務へと向かって行った。


 「あっ!、カプリースの街が見えてきたよっ!、ヴァン兄さんっ!。あの街がこれから僕達が討伐しなければならないアシュラス教団の本拠地なんだね」


 「そうだよ、ヴォルン」


 「凄く綺麗な街……。こんな遠くの街に来るなんて初めての経験だし僕色んなところを見て回りたいよ、ヴァン兄さん」


 「残念だけどそれは無理だよ、ヴォルン。僕達はアシュラス教団を殲滅する為にここにやって来たんだから目立つ真似はできないよ」


 「そっか……そうだよね。ヴェント兄さんから直々に命じられて任務に参加したっていうのに甘えたこと言ってごめん……」

 

 初めて訪れるカプリースの街に嬉しそうな様子のヴォルン。


 しかし僕達は遊びではなくヴェントから直々に命じられた任務の為にやって来ているのだから浮かれたことは言ってられない。


 僕に注意をされてヴォルンは少し落ち込んだ様子だった。


 「ところでヴォルン……。ヴェント兄ちゃんから直々に命じられたとはいえ本当にこんな任務を引き受けて良かったの……」


 「えっ……それって今回の任務を引き受けるのに僕じゃあ実力不足ってこと?、ヴァン兄さん」


 「いやっ!、決してそんなことはないよっ!。ヴェント兄ちゃんと同じで僕もヴォルンの実力は認めているよ。けれど今回はアシュラス教団の殲滅という危険度極まりないこの任務。きっとヴォルンは嫌でも初めての実戦を経験することなる。そうなった時異教徒であるとはいえ相手の命を奪う覚悟はできているのかい?。半端な覚悟で戦いに臨むと自分の身を危険に晒すことになるんだよ」


 「覚悟はできてる……っていうと嘘になるかな。ヴェント兄さんやメノス・センテレオ教団の役に立ちたいって気持ちはあるけど本当はあんまり他の人を傷つけることはしたくない。例えそれが異教徒であってもね……」


 「やっぱり……。ヴォルンは僕と同じで優しい性格をしていたからきっとそう感じていると思っていたよ。それが分かっていたっていうのにもっとちゃんとヴェント兄ちゃん達に反対してやれなくてごめんね。もし本当に戦いが辛く感じた時は遠慮せず兄ちゃんに言うんだよ。アシュラス教団なんて兄ちゃん1人でもぶっ倒せるしまだ5歳のヴォルンが無理をする必要なんてないんだから」


 「ありがとう、ヴァン兄さん。だけどそんなに心配しないで。年齢なんかに関係なく正式なメノス・センテレオ教団の一員となった以上は僕だって兄さん達と同じように立派に任務をこなしてみせるっ!」


 「そう……。ならいいんだけど……」


 ヴォルンは僕以上にとても優しい性格をしていて、やはり戦場に出て実際に他者を傷つけることに抵抗があるようだった。


 それでもヴォルンは僕に心配を掛けまいと気丈に振る舞ってみせる。


 ヴォルンの強がりを見抜いていた僕は兄としてヴォルン自身、そしてヴォルンの優しい心を何としても守ってみせるとそう胸の奥で誓っていた。


 「てりゃぁぁーーーっ!」


 「ぐはぁっ!」


 僕達がカプリースの街に潜伏して3日目の夜にアシュラス教団の殲滅作戦が決行された。


 僕達の奇襲を受けて混乱した様子のアシュラス教団の信者達を『水剣ウォーター・ブレイド』の剣で次々と切り伏せていく。


 順調な出だしのように思えるが今回は街に潜伏しての奇襲に重点を置いた作戦の性質上任務に参加する部隊が極少数となっている。


 奇襲を受けた相手側の混乱が収まっていき、僕達に対し的確な対処を行えるようになっていく中で段々と戦局が押し返されてきた。


 そんな時不意に僕、そしてこの場で戦いに出ているメノス・センテレオ教団の者達全員の身にある異変が引き起こされる。


 「(……っ!。こ……これはっ!)」


 「(どうやらまたヴェント達が洗礼の儀の魔法を発動させたみたいなの)」


 「(発動させたみたいなの)」


 僕も含めこの場で戦っているメノス・センテレオ教団の皆の体が突然白い光に包まれ、瞳の色が失われてまるで人形のように無表情で生気を感じさせないものへと変わる。


 どうやらヴェント達が洗礼の儀の魔法を発動させたようだ。


 洗礼の儀の発動中、信者達は全員自らの意識を失いヴェント達『味噌焼きおにぎり』の連中の意のままに動く文字通り人形と化してしまう。


 それだけでなくヴェント達から魔力を供給されることにより戦闘能力が飛躍的に向上し、感情をなくし只命じられるままに敵を殲滅していく姿はまるで殺戮マシーンのようである。


 これまでにも他の教団を殲滅する際にヴェント達が洗礼の儀の魔法を発動させることは多々あった。


 信者達全員の戦闘能力が向上するとなれば相当な戦力の増強となり瞬く間に敵を殲滅することができてしまう。


 欠点として洗礼の儀を発動された信者達がその間の記憶を完全に失ってしまうことになるのだが、そちらについてはメノス・センテレオ教団が神として崇めるシャナ神と意識が繋がることにより一種のトランス状態になっているのが原因であると説明している。


 信者達にとって自分達の神と繋がることは光栄でしかなく、記憶がないことに対して何の疑問も抱くことなくヴェント達の説明に納得しているようだ。


 「な……何だ……こいつ等っ!。変な光に包まれた思ったら急に人形みたいに無表情になりやがって……。気持ちわりぃんだよぉぉー-っ!」


 「………」


 「ぐあぁぁぁー--っ!」


 洗礼の儀の支配下にある信者達は無表情どころか一言も発することなく淡々と敵を打ち破っていく。


 一切の感情を感じさせずに向かってくる僕達メノス・センテレオ教団の信者達。


 アシュラス教団の信者達は、姿は自分達と同じ人間でありながらも何か得体の知れない存在を相手にしているような恐怖に陥ってしまっているようだった。


 表情や仕草、発する気配から相手の行動を何も読み取ることができないとなればそうなってしまうのも仕方ない。


 冷静さを失ったアシュラス教団の信者達はメノス・センテレオ教団の信者達に次々に打ち取られていく。


 「(本当に何度見ても悍ましい光景だよ。何も知らない間にこんなに大勢の人を手に掛けて皆何も気にならないのかな?)」


 「(皆『味噌焼きおにぎり』の連中に騙されてメノス・センテレオ教団の信仰にどっぷりと浸かってしまってるから仕方ないなの。そんなことより僕達も怪しまれないようちゃんと洗礼の儀に掛かった振りをして戦いを続けるなの)」


 「(続けるなの)」


 【転生マスター】である僕達はヴェント達が洗礼の儀を発動させたところでその支配を受けることはない。


 しかし僕達は自分達が【転生マスター】であることをひた隠しにする為洗礼の儀が発動された際は自分達も他の信者達と同じように洗脳に掛かった振りを装った行動を取るようにしていた。


 今もできる限り感情を無にして機械のように淡々とアシュラス教団の信者達を切り伏せていく。


 「(くっ……僕はもうこんなこと慣れっこだけどヴォルンは……っ!)」


 「(えっ……マスターっ!)」


 「(何処に行くなのっ!、LA7-93っ!)」


 「(何処に行くなのっ!)」


 「(ヴォルンのところだよっ!。ヴォルンは例え異教徒であっても他者を傷つけるようなことはしたくないと言っていた。そんな優しいヴォルンに洗礼の儀に掛かって知らない間に人の命を奪うような真似をさせたくないっ!)」


 「(なっ……気持ちは分かりますがそれはなりませんっ!、マスターっ!)」


 「(アイシアの言う通りなのっ!。ここで洗礼の儀の命令に反するような行動を取るとまたSALE-99達に僕達が【転生マスター】だと疑いを掛けられてしまうなのっ!)」


 「(掛けられてしまうなのっ!)」


 「(今この場にヴェントや他の『味噌焼きおにぎり』の連中は見当たらないし大丈夫だよ。睡眠薬でヴォルンを眠らせて安全な場所に避難させたらすぐまた洗礼の儀に掛かった振りをして戦闘に戻るから)」


 「(もうぉぉーーっ!。そんなことしてこれまで『味噌焼きおにぎり』の連中を欺いて来た苦労が水の泡になっちゃったらどうするなのぉぉーーっ!)」


 「(どうするなのぉぉーーっ!)」


 アイシアやベル達の怒りは最もだが僕は構うことなくヴォルンの元へと向かって行く。


 ヴォルンが生まれて以来僕は弟としてこれでもかというぐらい大事にしてきた。


 それにはソウルメイトであるにも関わらず、すっかりメノス・センテレオ教団の信仰の息が掛かってしまったPINK-87達家族と心の距離が空いた状態がずっと続きこの上ない寂しさを感じていたことがあるのかもしれない。


 まだ無垢な赤ん坊の時から接することのできたヴォルンのみが僕にとって唯一の家族であるような感覚に陥ってしまっていたんだ。


 只そんな感覚に陥らせることこそがヴェント達の狙いであったことを必死の思いでヴォルンの元へと向かおうとする僕は知る由もなかった。

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