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パンを焼く

作者: 武田道子

パンを焼く




小麦粉、イースト、塩

ちょっと贅沢をして

蜂蜜、バター、ミルクとクリーム



もともとは

偶然が生み出した

美味しい発見



パンを焼く

そんな習慣がついて



人肌ぐらいのぬるま湯に溶かしたイースト

粉と砂糖と塩

ぬるくしたミルクとクリーム

そして少し柔らかくなったバターと蜂蜜

しっかり混ぜ合わせラップをかけ

完全放置



ぼんやりと空を眺める時間

ぼんやりと自分を振り返る時間

ぼんやりとした時間が

ぼんやりとすぎていく

パンが呼吸を始め

ゆっくりと時間が目覚める



ベトベトとゆるい生地を

優しく引っ張り上げ

折りたたむ

少し捻りあげ

折りたたむ

なんでもない動作

ただ優しい気持ちになる

ゆっくりと引っ張り上げる

眠たい子供を起こすように

もっと眠っていたい気持ちを勇気づける



時間が私の中で消化されていく

焦った気持ち

緊張し切った感覚

ゆっくりと消化することで

柔らかくふっくらと

美味しい時間があることに

気づいていく



ふっくらすべすべ

パンは命をもらったことに

喜びで膨れ上がる

うれしくて、うれしくて

仕方がないように



けれどもまだ夢から覚め切っていない

夢だけが膨らんで

だからもう一度目覚めさせてあげる

グーっとやさしく引っ張って

折りたたみ

数度くり返して

また寝かせてあげる

全くよく眠る子

寝る子は育つ



ご無沙汰していた人達と

ゆったりしたひと時を過ごす

指も軽やかに

キーボードの上を滑る

時間は勝手に過ぎていく

気がつかないうちに消えていく

パンを焼く日

時間は私の手元に戻ってくる

ゆったりと生きることが

美味しさの秘訣



成形をして食パンの型の中へ

ちょっと窮屈だけど我慢してもらう



・・・そしてオーブンへ

香ばしいパン屋さんのような香り

こんがり狐色

中はほわほわ

しっとりきめ細かく



私の心もしっとりきめ細かに

やさしい気持ち

空の雲の動き

風と木々の対話

小鳥の囀り

草花の香り

パンを焼くことで知った

柔らかほわほわのあったかい時間


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― 新着の感想 ―
[良い点]  初めまして静夏夜と申します。  家でパンを焼く楽しみが、生地に浸透するイースト菌の如くに小麦やバターの香りが溢れて部屋の隅々まで拡がるようで、焼き立てパンを割いた折の香り立つ湯気のよう…
[一言]  パンだけではなく。  なにかしら、時間を「置く」必要があるものごとに取り組むとき。  その「間」を煩わしいと思うのではなく、むしろ大事にすること。  そんな余裕が、人生を豊かにするのかもし…
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