トライアングルレッスン【J】とある2月の日曜日。
ヒロシ-side-
雲一つなく、眩しすぎるほど陽の光はたっぷり注がれているものの、冴え冴えとしたその光に温もりはない。時折北風も厳しく吹き付ける。
ポケットに両手を突っ込み、マフラーに顔を埋め、信号が青に変わるのを待つ。
「ん?ユイコ?」
横断歩道の向こうにユイコを見つける。
何となく嬉しくなり、思わずマフラーから顔を出す。
しかしユイコは気付かず、代わりに誰かを見つけ嬉しそうに走り出した。
「あ。タクミ…」
向かった先に居たのはタクミだった。
タクミはどうやら部活の後輩と出掛けていたらしい。
その後輩とユイコは、最初ぎこちなく会釈していたが、すぐに打ち解けて三人で親しげに話し込んでいる。
『俺ではない三人』の光景が心に苦味を生じさせる。ジリジリとした苦しさ。
あの場所は俺じゃなくてもいいのか…?
北風の寒さに俺は再びマフラーに顔を埋め、青になった信号に背を向ける。
こんな事で踵を返す自分の小ささにも嫌気が差す。
「らしくない、かもな。」
ため息を付き、見上げた空はどこまでも青く透明でやけに痛い。北風に煽られたビニール袋が一枚、乱暴に空を転がされ高く高く飛んでいく。
タクミ-side-
買い物なんて久しぶりだな。
しかしカッコよく見えるいい感じの服を見つけて欲しい、って何で俺なんだよ。
まぁ、気のいい後輩だし俺も優しいからな!
って、あれ?ユイコじゃね?
「ユイコ!」
「あ!タクミー。」
小走りのユイコ。何だかこれだけでかわいい。
「えーっと…?」
「コイツは部活の後輩。ユイコと同学年なんだけど知ってるか?」
「後輩の高橋ですっ!初めまして、ですよね?」
「あ、そうですね。初めまして。ユイコです。」
「一人でどうした?」
「ほら、もうすぐバレンタインだからチョコ買いに来たの。タクミのチョコはすぐ決まったんだけど、ヒロシのチョコだけ、どれがいいか迷っちゃって。」
「え。それ、俺に言っちゃう?」
「…あ!ネタバレ…!?」
「あははっ!ユイコさんって正直なんすね!」
「いや、これは天然ってやつだな。」
「ごめんー。でも本当にタクミのチョコはすぐピンと来たんだよー。なんかヒロシのチョコは決められなくて…」
「繰り返さなくていいんだよっ。墓穴なんだけど?」
「え!墓穴?どうゆう事!?」
「ぶっ!ユイコさん、やばいっすね!」
後輩と一緒に笑いながらもチクン、とどこかが痛む。
捕まえたくてしょうがないのに指からするりと抜ける感覚。
ユイコはヒロシにもこの話をしてしまうんだろうか…
カラン、カラカラ…
北風に煽られ何処からか空き缶が流れてくる。
三人の間を強く風が通り抜ける。
「うわっ。」
「きゃっ。」
くそっ。さっきまで平気だったのにめっちゃ寒いじゃねーかよ。
あほユイコ。
ヒロシの嫉妬の対象は?
考え様によっては何とでも受け取れるように、ちょっとヒロシで遊びました。
どの方の作品にも繋がるといいなぁ、という邪な気持ちもありつつ。
「あほユイコ」が好きで使いがちなのはご容赦下さいませm(_ _)m
ここまでお読み下さりありがとうございました。