表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

揺らめき移ろうものたち

妖精の恋

作者: 黒森 冬炎

冷たく撫でる夜の天鵞絨(びろうど)

シルバーブラックの毛足を伸ばし

優しく妖しく包んではほどく

裸足の裏には苔が心地よく

程よく湿ったキノコを踏んで

驚いた様に妖精が飛び立つ




歌う

唄う

謡う

謳い上げる


恋を歌う

白くしなやかなドレスの小さな妖精


タンバリンを鳴らして陽気に唄う

緑の帽子のかわいい妖精


青白く光る夜の花に腰掛け

髪の長い妖精が荘重な物語を謡う


5人輪になって蝶の羽根を震わせながら

妖精王国の栄華を謳い上げる



あなたは何処から来たかしら

踊ろ躍ろう

舞い遊べ


私は何処にもいないのよ

跳ねて上がって

飛び回れ




しゃらんしゃらんと鈴の音が

凍った星空を砕いて散らす

(くう)を踏む小さな踊り手のステップは

どうして鋭くなるのだろう




あなたは何処から来たかしら

月は青くて

銀のいろ


私は何処にもいないのよ

跳ねて回って

舞い遊べ




妖精の鈴を振り鳴らし

月の光は琴の弦

銀の音色は草の笛


美しく気高い女王が

蝶の引く

くるまに乗って

青黒い闇を駆ける

どこへ

そんなに急いで



行くの

行くの

あなたのところ

待ってはいられないから


行くの

行くの

森から街へ

女王

なのだけど




ああ哀れなる小さきひとら

取り残された森の奥

月の光に誘われて

楽の音を合わせ

手を鳴らし

拍子を揃えて

くるりくるくる


蜘蛛の巣の銀糸をショールに纏い

広げた両手で閃かせ

星に

月に

うたに

くるりくるりくるり




あなたは何処から来たかしら

泉は水晶を表し

風よ風

踊って跳ねろ


私は何処にもいないのよ

枝もたわわな夜の実を

もいでかじって

舞い遊べ




太鼓はどんぐり

それともそれとも

それともそれとも




行くの

行くの

あなたの元へ

あなたは何処に居るかしら


花の香りを辿って行くの

あなたがくれたライラック


行くの

行くの

あなたの元へ

私は何処にもいないのよ




恋に引かれた妖精の女王

誰が止めてくれようか

蝶も蜻蛉も小鳥も蜘蛛も

何も知らずに送り出す




さよなら深い妖精の森

さよなら夜の常春の園

私は行くの

行くのよ

街へ



森の梢を飛び越えて

月のお船に乗りました

あなたといつか乗りました




私は何処にもいないのよ

あなたは何処から来たかしら


お読み下さりありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 「冷たく撫でる夜の天鵞絨」や「凍った星空を砕いて散らす」など、あちこちに散りばめられた綺麗なフレーズが好きです。確かにいるけど、どこにもいない妖精、不思議ですね。
[良い点] なんとも情景描写が細やかでそして美しい、本当に歌いたくなるような素敵な詩だなぁと感動しました(^^♪ 幻想的な言葉選びだけではなく、お話の視線が妖精そのものになっているため、詩の世界観に一…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ