妖精の恋
冷たく撫でる夜の天鵞絨
シルバーブラックの毛足を伸ばし
優しく妖しく包んではほどく
裸足の裏には苔が心地よく
程よく湿ったキノコを踏んで
驚いた様に妖精が飛び立つ
歌う
唄う
謡う
謳い上げる
恋を歌う
白くしなやかなドレスの小さな妖精
タンバリンを鳴らして陽気に唄う
緑の帽子のかわいい妖精
青白く光る夜の花に腰掛け
髪の長い妖精が荘重な物語を謡う
5人輪になって蝶の羽根を震わせながら
妖精王国の栄華を謳い上げる
あなたは何処から来たかしら
踊ろ躍ろう
舞い遊べ
私は何処にもいないのよ
跳ねて上がって
飛び回れ
しゃらんしゃらんと鈴の音が
凍った星空を砕いて散らす
空を踏む小さな踊り手のステップは
どうして鋭くなるのだろう
あなたは何処から来たかしら
月は青くて
銀のいろ
私は何処にもいないのよ
跳ねて回って
舞い遊べ
妖精の鈴を振り鳴らし
月の光は琴の弦
銀の音色は草の笛
美しく気高い女王が
蝶の引く
くるまに乗って
青黒い闇を駆ける
どこへ
そんなに急いで
行くの
行くの
あなたのところ
私
待ってはいられないから
行くの
行くの
森から街へ
私
女王
なのだけど
ああ哀れなる小さきひとら
取り残された森の奥
月の光に誘われて
楽の音を合わせ
手を鳴らし
拍子を揃えて
くるりくるくる
蜘蛛の巣の銀糸をショールに纏い
広げた両手で閃かせ
星に
月に
うたに
くるりくるりくるり
あなたは何処から来たかしら
泉は水晶を表し
風よ風
踊って跳ねろ
私は何処にもいないのよ
枝もたわわな夜の実を
もいでかじって
舞い遊べ
太鼓はどんぐり
それともそれとも
それともそれとも
行くの
行くの
あなたの元へ
あなたは何処に居るかしら
花の香りを辿って行くの
あなたがくれたライラック
行くの
行くの
あなたの元へ
私は何処にもいないのよ
恋に引かれた妖精の女王
誰が止めてくれようか
蝶も蜻蛉も小鳥も蜘蛛も
何も知らずに送り出す
さよなら深い妖精の森
さよなら夜の常春の園
私は行くの
行くのよ
街へ
森の梢を飛び越えて
月のお船に乗りました
あなたといつか乗りました
私は何処にもいないのよ
あなたは何処から来たかしら
お読み下さりありがとうございます