22話 剣と魔法のある世界 2/2
「俺たちは魔物をやるぞ! 悔しいが、あの魔族は二人に任せた」
「ええ、任せて。魔物は頼んだわよ!」
グランツのパーティー、そしてセナは魔物私たちから引き離して戦い始めた。
私とニーナの二人で男を相手にするとなると、迎撃できる数以上の魔法と転移や召喚魔法を発動させないようにしつつ、ニーナがやられないように私とアリアでサポートしなければならない。常に魔眼を使うのは疲れるが、しっかり見ておこう。
「おや、その魔剣……なるほど、あれもここに居るのですね。予定変更です」
ニーナに渡した魔剣を見て、男は攻撃をやめ、ニーナの剣劇を受け流しながら何かを考え始めた。予定変更……どちらにせよいいことではないだろうし、ここで倒すしかないだろう。
「あんたの予定なんて知らないわよ!」
水の剣と同じ感覚で青い炎の剣を生成し、男めがけて放つ。これなら掠っただけでもダメージを与えられるだろう。当たればその箇所が消し炭になるはずだ。
「シエラ、避けれるけど危ない」
「ごめんごめん。ニーナなら展開した時点で下がるかなって」
「そうだけど、あれは先に教えて」
「ごめん。次からはそうするよ」
作戦の一つとはいえ、さすがに怒られてしまった。
「あなた、本当に人族ですか? うっすら違う気配もしますが……まあ脅威であることに変わりはないですから、殺すことに変わりはありませんが」
魔力の障壁で防がれたが、今ので私への警戒レベルが上がったようだ。恐らく、これで予定どころではなくなっただろう。あとは私たちの実力次第。
「シエラ、下がってください!」
魔物に攻撃しつつ私のほうを見ていたセナは、そう言いながら男との距離を詰め、魔力を込めた腕で殴りかかった。
「おや、魔剣が……」
男はセナの拳を間一髪魔剣で受け止めたが、その魔剣は綺麗に二つに割れた。
「シエラ、魔物はあちらで何とかなりそうなので、私が魔族と戦います。ニーナと二人で、壮馬を探せま
すか?」
「大丈夫よ。アリア、セナをお願いね」
「はい、任せてください。シエラちゃんも、気を付けて」
「行かせはしません」
「邪魔はさせませんよ」
ニーナとともに男の後ろの道めがけて走り出した私たちを止めようと、男は魔法で鎖を放った。セナはそれを近接戦闘の真っ最中に魔法を発動して迎撃し、おかげで男と距離を取ることができた。
ここからはほぼ一本道だが、魔物の気配も少しずつ多くなっている。
「ニーナ、やれるわね?」
「ひとまず向こうにいる魔物ほど強そうな気配はないから大丈夫。任せて」
遺跡の奥を目指しながら、私たちは魔物を倒しながら道を進んでいった。ニーナの言う通り、対して強い魔物はおらず、ほとんど前を走っているニーナが斬り捨てて行った。一本道なので、道に迷うこともなく、入口付近の広間に似た部屋に着いた。さっきまでのほとんど整備されていない道とは違い、妙に生活館のある部屋だ。恐らく、男が拠点としている部屋なのだろう。
「……そっちから声がする」
そう言い、ニーナは本棚を指差した。横にずらすタイプではなさそうだが、どうやって入ろう。ここの本は恐らく資料になるだろうし、焼くのはやめておいたほうがいいだろう。
「とりあえず、壁をぶち破るわよ」
本棚の横の壁をぶち破って、本棚の裏まで繋げてみたら何があるかわかるだろう。
しっかり魔力量を調節し、拳に魔力を込めて壁を殴る。
「あら、これは……」
壁は幻影魔法で造られたもののようで、何かを殴った感触もなく、あっさり手が壁の向こう側に行った。魔力の影響か、殴った場所から徐々に幻影魔法が溶けて言っている。
「これは……隠し通路?」
壁の向こう側には、魔法陣が描かれた扉があった。魔法陣は確か魔法文字が書かれているので、それさえ読めたらどのような魔法なのかも理解できる。しかしそれは読めたらの話だ。さすがにここにまで侵入者用のトラップを張っているとは思えないが、念のため稼働はさせないでおこう。
「ニーナ、声はどう?」
「その壁の向こうから聞こえる。多分勇者とほかの人たちもいる」
「そう、なら問題ないわね。みんなー、ちょっと扉から離れててね」
再び腕を強化し、扉を思いっきり殴る。
「力技じゃ無理ね。どうしたものかしら」
「……えっと、扉があかないみたいな話声が聞こえるから多分扉があると思う」
「実はこの魔法陣をどうにかしたら扉が現れたりね」
発動させないように慎重にしつつ、魔法陣に触れてみる。
『偽りの光は人を惑わせ、壁は侵入者を拒む』
そんな言葉が脳裏をよぎった。恐らく、魔法陣に書かれている言葉だ。読めているわけではないが、触れたら理解できた。これなら発動させても問題ないだろう。確か、魔力を流し込めば魔法陣を起動して魔法を発動できたはずだ。だが、文字からして恐らく発動するというより解除しなければいけない気がする。どうやればいいのだろう。触れたまま魔法でも発動してみるか。
「ニーナ、ちょっと下がっててね」
魔法陣に触れた状態で、青い炎を生成し、私にまで当たらない程度に爆発させる。一応私にもニーナにも魔力を纏わせた状態でやったが、さすがにこの炎を爆発させると一気に熱くなるな。死ななくてよかったが、熱すぎて少ししんどい。が、魔法陣は無事破壊できたようだ。扉も現れている。
「えいやっ」
扉を蹴飛ばす。よかった、ちゃんと部屋がある。
「シエラ、助けに来てくれたのか?」
「うん。今はセナとアリアが戦ってるわ」
「わかった。すぐに戻ろう」
壮馬、そしていつの間にか消えていた冒険者たちとともに、私たちは急いできた道を戻った。新しく沸いたであろう魔物はニーナと壮馬が片付けたが、さっきより強くなっている。どうも嫌な予感がする。
「シエラちゃん、来ちゃだめです!」
「なっ——」
戻ると、アリア以外全員倒れていた。そこら中血痕だらけで、セナの服も血で赤く染まっている。回復魔法で血は止まっているようだが、全員気を失っている。それを守るように、アリアが防御魔法と魔杖で何とか男の攻撃を防いでいる。
「おや、戻ってきましたか……ああ、加勢しても無駄ですよ。無駄死したいのなら別ですが」
まるで別人のような魔力だ。私では到底かなわないだろう。よくて数秒時間を稼げる程度か。ここはいったんアリアの支援をしつつ——
「貴様……よくもセナさんを!」
後ろから殺気の混じった魔力を感じたと思った刹那、壮馬が一瞬で距離を詰め、男の片腕を切り落とした。
「なっ、いつのまに——」
男は腕を再生しつつ壮馬から距離を取るが、壮馬は足元から魔法を放ち、今度は男を魔法で焼いた。
「くははっ、やりますね、勇者。しかし、怒りに身を任せているようではまだまだです」
炎が収まると、男の傷は完治し、さらにさっきとは別の魔剣を持った状態で笑いながらそこに立っていた。これが魔族……圧倒的だ。もはや彼が放つ魔力を浴びている状態では、立っているのが限界だ。ニーナは魔力に中てられて意識を失っている。冒険者たちも、武器を構えてはいるものの、身体が震えている。
「シエラ、ニーナを守ってろ!」
殺気だっている壮馬は、珍しく私に声を荒げた。気持ちはわかるが、このままでは数分と持たずに負けてしまうだろう。男はさっきから壮馬の攻撃を笑いながら受け流し、そして着実に壮馬にダメージを与えている。
「壮馬、もう……」
攻撃を防ぎきれていない壮馬は、数十秒の攻防でもうボロボロだ。呼吸もだんだん浅くなってきているし、いつもと比べて魔力の流れも悪い。アリアも、壮馬のへの攻撃が致命傷にならないように魔法を使うことに精いっぱいで、回復魔法を使えていない。
「誰か——」
そう願い、膝をついた刹那、入口のほうから飛んできた両手剣が男の剣もろとも切り裂き、右胸に突き刺さった。
「騒がしいと思ってきてみれば、なんの騒ぎじゃ」
両手剣の持ち主であろう女の子の声とともに、この魔族とは比にならない重く強かな気配が近づいてきた。
「貴様、人の国で何をしとる」
「私に剣を——」
「質問に答えろ。貴様、そうやって平静を装っていられる状況でもないじゃろ」
声からして女の子なのはわかるが、ローブで姿がよくわからない。少し背が低めだが、まああの剣と雰囲気からして身長なんてあてにはならないだろう。
「小童、貴様も下がってみておれ」
そう言い、男に刺さった剣を引き抜くと、少女はそれで男を魔法障壁もろとも一撃で両断してのけた。
「魔力が多いだけの三流魔族が調子の乗って人に迷惑をかけよって……わらわも大変なんじゃぞほんと!」
「ぁ、ありがとうございます……」
「気にするでない。やるべきことをやったまでじゃ」
そうとだけ言い残すと、少女は颯爽と立ち去っていった。
あの魔族に三流と言い放ち、障壁もろとも両断する少女……噂すら聞いたことがない。今のところ敵ではなさそうだが、もし敵になればこの魔族とは比にならない脅威になるだろう。
「私たちも……ひっ」
ひとまず遺跡を出ようと立ち上がると、ちょうど足元に頭が転がってきた。
「や、これ……」
いざ冷静になると、突然恐怖が込み上げてきた。死んだ魔族の男の頭と腕、そして大量の血を流す死体が目の前に転がっているのだ。
「シエラ……」
我に返った壮馬は、私の目を覆うようにそっと抱きしめてくれた。
魔物との戦いで血は見慣れたと思っていたが、やはり魔族であろうと人型の生き物ではわけが違う。今後は私がこうやって魔族の首を落とさなければいけなくなるわけか。そう考えると、少し自信がなくなってくる。これが、剣と魔法のある世界か……。
のじゃのじゃ~