19話 チートvs才能 1/2
11,748字ですってよ奥さん
先日、私は壮馬の技を見様見真似で使おうとした結果、失敗した。それから、毎日失敗しないよう必死に特訓している。
あの技を簡単に使うには、アリアの強化魔法を自身の魔力で増幅させればいいらしい。壮馬は自分の魔力だけで強化したらしいが……それがなかなかうまくいかないので、今はあきらめる。壮馬自身「魔法は全属性使える」と言っていたし、自分で強化できているのかもしれない。
今日も、私はアリアの魔法増幅を、壮馬は自前の強化で真剣勝負だ。お互い寸止めできるし、腕の一本くらいならアリアが治してくれるので問題ない。
「壮馬は強化を使いこなしてるけど、やっぱり剣はまだまだね!」
「それを補うための強化だからなッ!」
「ほんっと、力だけはあるんだから……」
壮馬の強化が圧倒的すぎて、防ぐだけではそのまま吹き飛ばされてしまう。受け流しても、そこからの切り返しが早くてついて行けない。剣術はたいしたことないのに、強化でごり押ししてくるから厄介だ。
壮馬は基本使う部位を瞬間的に強化している。その時の魔力の流れを見て何とか回避できている。私ももっとうまく強化魔法の増幅をうまく調節できるようになればいいのだが、なかなか習得できない。魔力調節難しすぎる。
「ぬあー、また負けたー!」
今日も、剣を弾き飛ばされて私の負けだ。
「さすが勇者様ですね。まさか、魔法で剣術の差を埋めるなんて」
「そもそもなんでこんな早く無詠唱の魔法発動を習得してるのよ!」
「ああ、なんか習得できる固有魔法の中に《魔法発動補助》ってのがあってな」
「初めて聞く固有魔法ですね」
なんだよそれ。ただの神様にもらっただけのチートじゃないか。そりゃ勝てないわけだ。さすがに目の前で、それも仲間にチート能力を見せつけられると少し虚しくなるな。
「……そんな神様にもらったような力には負けないわよ!」
けど、だからって諦めはしない。私には才能という生まれ持った力がある。きっと、いくら壮馬の力が神様にもらったものだろうと、私ならそのうち使えるようになるはずだ。チートなんかには絶対に負けない。
「それじゃあもう一戦いっとくか?」
「もちろんよ!」
まずはアリアの強化増幅を極めよう。そして、それができるようになったら適性があるかはわからないが、自前の強化魔法を試してみる。
そして、特訓が始まっておよそ一月。
特訓の中で、私が《魔力視の魔眼》という魔力の流れを見ることができる魔眼を持っているという事がわかった。セナ曰く、魔力の流れが見えるので対人戦闘で便利。ついでに、私が魔力に敏感なのは魔眼の影響らしい。ただ、魔眼があるからと壮馬には未だ勝てていない。しかし、壮馬の魔力の流れを見ることで、なんとか自分で強化魔法を使えるようになった。どうやら、私には強化魔法の適性があったようだ。まあまだ使いこなせてはいないけど。
そして今日も、壮馬のよくわからないアドバイスを聞きながら特訓している。
壮馬はなんとなく強化したい部位に魔力を込めたら使えると言っているが、それはあくまでも魔法発動補助があるからだ。いったいどうしろと?
アリアは普段詠唱で味方に魔法を付与している。まあ残念ながらそっちもまだそれほど使えないが。
「ぬー」
全く進展がなく、モチベーションが下がってきた。ここまでうまくいかないのは初めてだ。
そう言えば、グランハイドが強化魔法を使いこなせると言っていたが、さすがに教えてもらうためだけにグラディオンには戻れない。かといって、こちらでどうにかできるとも思わない。
私の特訓に付き合ってくれていた皆には申し訳ないけど、もうここで終わろう。もちろん、諦めるわけじゃない。いつかはちゃんと習得する。今は全く進展がないから、ひとまずアキツでの冒険者活動に集中するだけだ。もしかしたら、任務での戦闘で何かヒントが得られるかもしれない。
登録してからちまちまと活動して、ひとまずランクC——中級冒険者になれた。私一人での活動は年齢的に無理だが、誰か一人成人済みの保護者枠として認められる人と一緒なら任務の受注も可能だ。となれば——
「よし。アリア、ギルドに行くわよ」
「それはいいですけど……勇者様は?」
「やだ」
「え、酷くない?」
「壮馬に活躍されると悔しいから来ちゃダメ」
「仕方ないなぁ。じゃあ俺はセナさんたちと行動するよ。無理して強化魔法を使おうとして怪我しないようにな」
「わかってるわ」
焦ってアリアの忠告もなしに一人で敵に突っ込むなんてことはしないように気を付けよう。なかなか進展がない今、感情を抑えきれる自信がない。けど、いち早く習得するためにも休む暇なんてない。少し弱音を吐いたらすぐ立ち上がる。すぐ動かないとどんどん差が開いてしまう。とにかく今は、怪我しない程度に頑張るしかないんだ。
さっそく軽く頬を叩いて気を取り直し、アリアと冒険者ギルドに向かった。
「おっ、今日は勇者の女二人だけか?」
「誰が勇者の女よ!」
いつもギルドに来ると同じように言われる。あんな奴の女になってたまるか。アリアも、特に壮馬に惚れているそぶりもなく、こういわれても微笑んで何も言わずスルーしている。
「あんたたち失礼な事言ったらいい依頼後回しにするからね! いつもすみませんね、アリアさんにシエラちゃん」
「いえ、もう慣れましたから。それで、何かいい依頼はありますか?」
「お二人でこなすとなると、この辺りはどうでしょう?」
アリアに抱っこされて、受付嬢が持ってきた依頼書を見てみる。
簡単な物だと薬草採取や買い出し、猫探しなどのお使いクエスト。特訓するのによさそうな討伐系だと、人里に降りてきた鬼退治、最近数が増えて手に負えなくなってきている強力な魔物退治、あとはこの辺りにある最近よからぬ魔力を放つ古墳の調査だ。この中なら、魔物退治が一番よさそうだ。
「……お、これ!」
「ケラスヴォルフの討伐ですか……いいですね。これなら慣れていますし、二人でもできそうですね。では、この依頼を」
「少々危険な気もしますが、お二人なら大丈夫でしょう。では、お気をつけて」
「はい。いってきます」
「いってきまーす!」
町に蔓延る霧を纏ったケラスヴォルフの討伐。今まで討伐に出た者たちは壊滅か重症での帰還、葵組も鬼退治で手が回らず、手が付けられない状況らしい。霧を纏ったケラスヴォルフ、恐らく魔族の影響を受けているのだろう。倒し方は心得ているが、霧を纏ったという表現をされているところは見たことがないし、少し警戒したほうがよさそうだ。
場所はここから少し離れた町。アリアの魔法でそこまで転移し、魔物を探す。
「なかなか見つかりませんね……」
「気配はあるんだけど、姿が……ッ」
敵からの奇襲攻撃を、ぎりぎりのところで防いだ。
「魔物が奇襲⁉」
「魔族の影響かしらないけど、こいつらなかなか頭がよさそうよ」
奇襲と同時に、魔物たちが私を囲むようにぞろぞろと出てきた。うっすらとだが魔族の気配もするし、恐らくそいつが指揮を執っているのだろう。
「戦神アレッサよ、今こそ我に力を。その力は我が同朋のため、その剣は我が祖国のために」
アリアの魔法で身体がほのかに暖かくなり、そして軽くなった。この強化と私の魔力での増幅があれば、たとえ囲まれようとも瞬殺だ。足だけ強化を増幅し、それと並行して水魔法も発動する。周囲に水の剣を二本纏い、それを私の剣の動きとリンクさせる。強化増幅と魔法の維持を同時に行うのはなかなか疲れるが、一瞬で終わらせればそんなことは些細な事。
「一瞬で——」
一気に距離を詰め、避けられる前に首を落とす。
——ガキンッ
「何それおかしいって!」
金属同士がぶつかり合ったような甲高い音とともに、私の剣はあっさりと弾かれてしまった。霧を纏ったケラスヴォルフ——ただ影響を受けただけの魔物とはわけが違うようだ。
「アリア、魔法防壁の中に隠れてて」
さすがにかばいながら戦うのは難しそうなので、アリアには常に自分を守っていてもらう。壮馬との特訓で圧倒的な攻撃の防ぎ方も覚えた。かといって攻撃が通じない相手の攻撃を防ぐのも骨が折れそうだし、さっさとけりを付けたいところだ。
硬い相手……であれば、ひたすら同じ場所を攻撃していればそのうち倒れてくれるだろう。それを数十体分なら、剣帝流で——
「でやああああああああ!」
硬い体にひたすら剣を打ち込む。圧倒的な攻撃で、今攻撃している魔物は攻撃してこない。ありがたいことに、ほかの魔物はアリアの魔力に釣られ、防壁を崩そうとアリアに群がっている。今は大丈夫そうだが、もしものことがあってはいけないし、早めに倒したほうがいいだろう。しかし、なかなか硬い皮膚に傷は入らない。いくら魔力を込めようが、魔法を同時に叩き込もうが何も変わらない。魔眼を使ってみても、魔力で出来た霧のせいで魔物の身体を流れる魔力が見えない。一切のヒントもなしか……。
「っ……なら!」
すべての魔力を腕に込め、全力で剣を振りかざす。
……辛うじて硬い皮膚に少し刃が通った。ならば——
「よしっ、このまま……いっけぇ!」
そのまま強引に剣をねじ込み、魔物の首を切り落とす。それと同時に、パキンと嫌な音が二カ所から聞こえた。
一つは私の剣、そしてもう一つはアリアのほうからだ。
よく見ると、アリアの防壁にヒビが入っている。よくてあと数発と言ったところだろう。このままではアリアが死んでしまう。
「ッ……間に合えええええええ!」
剣はもう使えないし、強化増幅だけでは足りない。強化増幅と自前の強化。出来ないじゃない。やらなきゃいけない。手足に込められる魔力をすべて込める。一蹴りで距離を詰め、一撃で敵を吹き飛ばす。イメージはあいまいだけど——
「すっ~……魔法パンチ!」
イメージ通り、全力で地面を蹴り距離を詰め、そして正面の魔物めがけて強化の上からさらに魔力を纏わせた拳を振るう。
刹那、耳を劈くような爆音とともに、魔物たちは跡形もなく消え去った。
アリアのシールド一緒に吹き飛ばしてしまったが、アリアに被害はないようだ。
「よかっ、た……」
魔力切れだ。一気に魔力を使いすぎた。
倒れる間際、綺麗に吹き飛んだ家が見えた気がしたが、まあきっとギルドの人が何とかしてくれるだろう。ちらっと見えた唖然と立ち尽くす親子っぽい人たち、ごめんね。
※ ※ ※ 【勇者side】
魔力から仲間の位置を探る便利な固有魔法でセナさんたちと合流して山に鬼退治に向かう道中、突然とんでもない轟音が響いてきた。
音に驚いたニーナはとっさに俺に抱き着き、セナは魔法発動の用意をした。もしかしたら、どこかで大規模な戦闘が起きているのかもしれない。場合によっては、俺も参戦したほうがいいだろう。
「っ、この魔力、シエラの……」
俺に抱き着いたまま、ニーナはそう言う。
シエラの物ならあまり心配しなくてもいいだろう。しかし、シエラがこれほどの力を使ってようやく倒せる相手となると、もし増援でも着たらさすがに二人では危険だ。
「ニーナ、鬼の気配は?」
「今ので全部いなくなったよ」
「わかった。ならいったんシエラたちと合流しよう」
「賛成です。恐らく鬼も当分降りてこないでしょうし」
「うし、じゃあ行くぞ!」
セナさんとニーナを小脇に抱え、足を強化して一気に音がしたほうまで跳躍する。
場所はそれほど遠くなく、一蹴りでシエラのところまで到着した。
「小脇に抱えるのは——シエラ!」
俺から離れると、セナさんは真っ先にシエラのほうに駆け寄った。
シエラを基点として扇状に地面が抉れ、家も全壊している。幸い怪我人はいないようだ。しかし、この惨状を招いた張本人であろうシエラはいつも以上に苦しそうに眠っている。
「勇者様! シエラちゃんの魔力が……」
「アリアの回復でもダメだったのか?」
「はい……。その、キスで魔力を分けようにも相性が悪いみたいで……」
キスか……確か体液には魔力が含まれているので、キスや性行為、吸血なんかでも魔力補給が出来るという事を聞いたが、さすがに俺がやるのはまずいだろう。
「……セナさんは?」
「私もだめです。命のほうが大切ですので、この際勇者が……」
「わかった。あくまで医療行為だもんな」
ごめんシエラ。初めてが俺じゃ嫌かもしれないけど、死んでほしくないんだ。とはいえ、幼女の可愛い唇とキスするのはやはり罪悪感を覚えるな。医療行為とはわかっていても、少しためらってしまう。けど、そんな暇はない。
『まって』
あと数センチというところで、そんな声が聞こえた気がした。
顔を上げると、目の前にはフードを深くかぶって顔を隠している少女が立っていた。顔は隠せてもその胸は……って、それどころじゃない。魔族の気配だ。それも、相当強い。恐らく、この少女に殺意があれば俺は一瞬で殺されるだろう。
「何か用か? 俺は早くこの子を助けなくちゃいけないんだ」
少女はわかっていると言うように、シエラの顔に手を近づけ、魔法を使った。
「大丈夫。悪い魔法じゃないから」
ニーナが悪意を感じ取れていないのなら大丈夫なのだろう。隠している可能性はあるが、もし助けてくれるというなら今はすがりたい。
少女が魔法を使い終わると、懐から出したナイフで腕を斬り、そこから流れる血をシエラに飲ませた。貧血にでもなってしまいそうな量だが大丈夫なのだろうか。
「こんなに血が……速く治癒を!」
アリアが焦って治癒魔法を使おうとするが、少女は首を振った。
血を飲ませ終わったのか、少女が傷口を指でなぞると、さっきまでの傷がなかったかのようにきれいに消え去った。しかし、立ち上がった少女は少し足取りがおぼつかない様子だ。
「あれ、私……?」
「シエラ! よかった……いまそこの少女が……って、いない?」
「いつの間にか消えてた。私も、全然気づかなかった……」
シエラが目を覚ますと、すでに少女はこの場からいなくなっていた。シエラのために相当無理していたみたいだし、何かお礼をしたかったが、これは次会った時にしよう。魔族の気配を感じたが、少なくとも今は敵ではないだろう。セナさんも、魔族はわざわざ回りくどいことなどしないと言っていたし、大丈夫なはずだ。
「さっきの子はいったい……」
「魔族の気配がしたけど、多分悪い人じゃないよ。むしろ、シエラに近い気配みたいな感じだった……」
「念のため、セレネ姉様に報告しておきましょう。依頼の件は私とアリアで説明しておくので、皆さんは先に屋敷に戻っていてください」
「わかったよ。それじゃあまた後でな」
セナさんとアリアといったん別れ、俺たちは町を離れた。家のことに関しても、セナさんがうまく説明しておいてくれるようだ。そういったことは苦手だし、ここはセナさんに任せて俺は素直にシエラを連れて帰るとしよう。
※ ※ ※
強化時のステータスはシエラ:勇者で大体10:7くらいですね多分