18話 アキツ帝国ナカツ地方にて
長いです
長い船旅の末、私たち勇者パーティーは大アキツ帝国本州のナカツ地方というところにたどり着いた。なんというか、見たことがある街並みだ。大体江戸時代くらいだろうか。祖国グラディオンの石造りやたまにあるものすごく豪華な宮殿や城とはまた違った雰囲気で、普通に旅行気分で楽しめそうな場所だ。前世でもあまり縁がなかったしね。
「うわ、日本だなここ」
「二ホン?」
「俺の故郷だよ。まあ俺の故郷って言ってもこんな町並みは写真でしか見たことないけどな」
「なかなかいい町並みですね」
「うんうん、ロマンを感じるよね」
「セナさんもシエラもわかってんな!」
「そうですねー、街とかそういうのはあまりわからないですけど、ここの服は私好きです」
「猫耳和服……」
「勇者、気持ち悪い……」
壮馬はいつもニーナのことになるとこうなるな。まあ気持ちはわかるが、どう見ても事案だ。
「大丈夫よニーナ。こいつが何かしたら斬るから。でも、確かにニーナにここの服はに合いそうよね」
「ならせっかくついたんだし、さっそくいろいろ買っていかないか?」
「いいですね。私も服とかあの髪留めとか欲しいです!」
「しかし、今買ってしまうと荷物がかさばってしまうのでは?」
「ああ、そっか、それもあるわね……」
娯楽としてこういうところで買い物をしてしまうと、馬車か荷物持ちがいないと運べなくなってしまう。こういう時に収納魔法でもあればいいのだが、残念ながら今のところ壮馬はそう言う能力は持っていないらしいし、今買い物はしないほうがいいか。けど、どうせ長旅になるなら町々で拠点を作ってそこに保管していけば問題ないかな? いや、それだと行動範囲が狭くなりそうだな。やっぱり壮馬に頼るか。
「ねえ壮馬、能力とかで収納ってできないの?」
「収納魔法って奴か。それらしい魔法は——あ、これか?」
私には見えない何かを操作していたら収納魔法を見つけたのか、さっきとは違う操作をし、試すように手を突き出した。
「お、出来た!」
「たまにやっていますが、勇者は何をしているのです?」
「制限はあるけど固有魔法をいくつか習得できるんだよ。一応行為時のためにまだ残してるからこれで二つ目だな」
「なるほど、勇者の力というのは便利なものですね」
「神様がくれた力だからな」
「いいわねー、神様の力。うらやましいわ」
「まだ経験不足で使いこなせないけどな」
確かにまだ聖剣をただの剣としてしか使えていないし、未だにステータスの基準んがわからずにステータスを見る力も宝の持ち腐れ状態になっている。剣術に至っては全く上達せずあまり剣術が得意ではないセナにすら勝てないレベルだ。私たちが壮馬を差し置いて敵を倒すのも原因な気もするけど……。
「ちなみにその収納魔法って無制限なの?」
「ああ、容量無制限で取り出したいと思ったものを取り出せるみたいだな」
けど、こういう勇者特有の能力はとても助かる。剣術は毎日私が指南すればいいし、魔法も魔力が多いならすぐに習得してくれるだろうし、転生して一月程度という事を考慮すれば別に問題はない。元は戦とは無縁な日本で生まれ育ったような少年がすぐ適応するというのはいくら神の力があっても難しいだろう。私も、いざ戦うとなると足が竦んでしまう。壮馬が召喚されて、魔物と戦うことが増えてようやく慣れてきたくらいだ。
「ま、これで荷物の問題も解決したことだし、さっさと行こうぜ」
「そうですね。ついでに各々別行動して情報収集もしましょうか」
とのセナの提案を受け、私たちは別行動で買い物を楽しむこととなった。とはいえ、わつぃはニーナと一緒だが。壮馬は早速通りがかった人達に話を聞いている。アリアは服を見ているようだ。セナは店による様子はないし、恐らく情報収集をメインに動くのだろう。私たちも、そろそろ行くか。
「ニーナはどこに行きたい?」
「あれ欲しい」
そう言ってニーナが指差しているのは、壮馬も似合いそうと言っていた服が売ってある店だ。
「んー、じゃあとりあえず、これとこれとこれ、あとそれも、来てみよう! ね、ニーナ?」
「わ、わかった……」
まずはニーナにいろいろ着せてみる。
「おっほー、似合うねぇ。さすがニーナ!」
黒髪に猫耳、そして和服。慣れない服で少し恥ずかしそうなのもまたそそられる。さすがに着物の上から出は今はわからないが、きっと数年後には色気のある着こなしも出来るようになるのだろう。想像するだけでご飯三杯——いや四杯は行けそうだ。
「シエラ……これで終わりだよね? もうないよね?」
「ああ、ごめんね。もう終わりよ。ニーナはどれが良かった?」
「私はこれが好きだった」
そう言ってニーナはピンクベースのものを選んだ。なかなかいいセンスだ。これを着てにこっとされたら私は耐えられないと思う。壮馬に至っては鼻血でも噴き出して倒れるんじゃなかろうか。
「よし、じゃあニーナの分はこれで決まり!」
「次はシエラの?」
「ううん、私は買わないわ」
「えー、絶対似合うのに」
「私はもうちょっとこう、ピンポイントというか、そういうのがいいからね」
和服なんて初詣で散々来たような覚えがあるし、別に今更期待とは思わない。まああれとここに売ってあるものは違うが、別に今更興味をそそられることもない。それより、髪留めとかポーチとか、あと刀。そういうものが欲しい。特に刀はここで手に入れておきたいよね。
「お客さんこの国の人じゃないね? 興味でも持ってくれたのかい?」
「アキツの服や髪飾り、グラディオンとは違った良さがあるからね。このデザインに布の質、高いけど買わなきゃ損ね」
「へぇ、わかってんじゃねぇか。よっしゃ、記念にまけてやる!」
「ありがとう、おじさん」
「へっへ、いいってことよ。その代わりと言っちゃなんだが、この国を愉しんでくれよな」
「ええ、もちろんよ」
いい店主だ。まさか値引きしてくれるとは。思わぬ形で節約できたことだし、浮いたお金でおいしいものでも食べるとしよう。そもそもの値段がなかなかいい値段だったし、五人で食べ歩きできるくらいの金は残ったはずだ。
「まけてもらったし、私が欲しいものも買ったらみんなで——」
「鬼だあああああああ!」
次の店に行こうとした時、そんな声とともに、町が騒がしくなった。鬼? この世界では魔物だろうか。それとも、私の知っている鬼か。どちらにせよ、事件に巻き込まれたことだけはわかる。今ここで逃げるとみんなと合流できなくなる可能性もあるし、先に合流しよう。
「シエラ、ニーナちゃん、大丈夫か?」
「ええ、こっちは何もないわ」
「勇者様、私も戻りました」
「よかった、アリアも無事そうだな。ひとまず皆の荷物は預かるよ。セナさんは……大丈夫そうだな」
屋根の上から人々の動きと出現した鬼の動きを確認しているセナを見て、壮馬はほっと息をつく。
「私もちょっと見てくる!」
「あ、おいちょっと待て、シエラ!」
手に持っていたニーナに買った服を壮馬に預け、私も屋根の上に上り、そこからあたりを見渡す。
ぱっと見、町の人たちは城に向かって逃げているようだ。そして、その人々の背には角の生えた黒いゴブリンのような魔物が十体程度いた。これが鬼という奴か。武器としてか棍棒も持っている。それほど大きな鬼でもなさそうだし、恐らくはそれほど強くはないのだろうが、確かに戦えない人からすれば十分胸囲になりうるだろう。
「壮馬、魔法で支援するから……って、いらなそうね。上から新しいのが来てたら私がやるから任せたわよ!」
「おう、任せろ!」
壮馬に指示しようとしたが、すでに壮馬は聖剣を抜き、そこにいる鬼と戦っていた。あまりいい手際とはいいがたいが、しっかり首を落として一撃で倒しているし、挟撃にも対応できているので私の支援は必要ないだろう。
今まで壮馬がこうして戦う姿を見る機会がなかったからわからなかったが、特訓の成果はしっかり出ているようだ。
「壮馬、新しいのが来てるわよ!」
壮馬の戦う姿に関心していると、親玉らしき大きな鬼が三体現れた。
一体はセナが、そしてもう一体はニーナが抑えているが、一対一では押され気味だ。アリアはすでに魔法で戦っている三人を魔法で支援しているので、相当強い魔物なのだろう。なんとなくだが、ケルベロスに似た雰囲気の魔力も感じる。もともと強い鬼がさらに魔族の魔力に中てられてさらに強くなってしまったのだろう。それに加えて急所を守るように鎧まで身にまとっていると来た。
「クソっ、この道幅じゃ絶妙に戦いにくいな……。シエラ、魔法戦はするなよ!」
「わかってるわ。大丈夫、私だって剣の心得はあるんだから!」
街を壊さないように戦っているセナが一番苦戦しているようだし、セナの支援に入ろう。
「アリア、私にも支援をちょうだい」
「わかりました——」
アリアは詠唱をして、私にも強化魔法を掛けた。身体が軽い。これならやれる気がする。
「助太刀いたす」
「シエラ、魔法で足止めするのでその隙に首を取ってください」
「わかったわ。けど、魔法で家を壊さないようにね」
「ええ、もちろんです」
セナは街を壊さないよう水と風の魔法を低射程で、外しても影響のないように放った。
その魔法を防ぐように、鬼は金棒を振り回している。
「動きが荒いくせに近付く隙が無いわね……」
大げさに金棒を振り回す鬼になかなか近づけない。荒い動きに見えるが、魔法をすべて防ぎつつも隙を作らないよう動く、実に厄介な敵だ。決めるなら、金棒と魔法がぶつかった瞬間に、背後から一撃で決めるしかないだろう。
しっかりと機を見て——今だ!
「グオアァア!」
「うっそ硬すぎるでしょ!」
傷はつけられたが、首を落とすまでには至らなかった。しかし、鬼の反応からして致命傷ではあるのだろう。動きも鈍っている。
まずい、早く壮馬達に加勢しないと二人もそろそろ限界だ。さすがに次背後から仕掛けるのは無理だろう。こうなったら魔法しかなさそうだ。町に被害を与えずに使えそうな魔法か……。
「万物を切り裂く水の刃、魔力を喰らいて我が敵を滅する剣となれ」
詠唱をいろいろと変えた、冒険者学校で使った魔法の強化版だ。魔力消費量は相当多いが、数回程度の仕様なら問題ない。
手の動きと生成した水の剣を同期させ、防げない位置から剣を振り下ろす。
鬼も魔物と変わらず魔力に敏感なようで、セナの魔法を無視して剣を金棒で受けようとしたが、その金棒ごと切り裂き、鬼の首から反対側の脇にかけて両断し、今度こそ仕留めることができた。
「さすがです、シエラ」
「うん……でも、ちょっと疲れたかも」
魔力的にはあと二階程度同じ魔法を使えそうだが、一気に魔力を消費した反動で体力がごっそりと持って行かれたせいで、もう戦えそうにない。
「セナと壮馬はニーナの支援をしてあげて! 足止めくらいなら出来ると思うから……」
「わかったけど、無理はするなよ!」
「なら、私が無理する前に頼むわよ」
「もちろんだ、勇者をなめんな……よっ!」
壮馬は足と腕、そして聖剣に魔力を込め、セナの魔法とニーナの攻撃で出来た刹那の隙に距離を詰め、私がしたのと同じように鬼の首を落とした。
体の一部に魔力を込めるか……まだ成功したことはなかったけど、うまくいけばあんな芸当もできるのか。まだ疲れているけど私も試しにやってみよう。
まずは足に魔力を込める。イメージは魔力で足を覆うというよりは、足に魔力を含ませるという感じだろうか。腕も同じように。剣は魔剣なのでさほど難しくはない。あまり違いはわからないが、成功かどうかは実際これで攻撃してみればわかるだろう。
「すぅ~……はわぁっ⁉」
あ、ヤバい死ぬ。成功といえば成功だが、加減がわからず弾丸のように突っ込んでしまった。勢いで首は落とせたが、このままだと進行方向の壁に勢いよくぶつかってしまう。
「セナあああああああ助けてええええええええ!」
「はぁ……お嬢様、そう言うことは練習してから使ってくださいね」
セナは魔法で私に強い向い風を吹かせ、無理やり速度を落としてぎりぎりのところで止めてくれた。
「ぶへっ」
そのまま地面に顔から落ちたけど。
「ってて……いやー、あぶなかった」
「シエラ」
「あ、セナ……?」
どうやらお怒りのようだ。
「やはりシエラは魔法の才能があっても知識と経験が圧倒的に足りませんね。本当ならこうして旅に出る前にエセリアで学ぶべきでしたが、まあそこは仕方ないですね……。けど、まだ使えるかどうかわからないのなら無理して使わないでください!」
「……はい」
ごもっともです。けど、道のど真ん中でお説教するのはやめてほしい。幸い今回は人がいないからいいものの……」
「今後、見様見真似で魔法を使うならまずは元の使用者に教えてもらって、使えるようになってからにしてください」
「……はい、そうします」
「あとで、もっと話しますよ」
「はい……」
いったんここでお説教は終わり、倒した鬼の死体回収が始まった。
「あれっ、ちょっと——」
死体を一カ所に集めていると、一瞬だが、ふわりと綺麗な白髪が見えた。綺麗な長い髪だ。きっと可愛い女の子でもいたのだろう。
しかし、その髪の持ち主が走っていったであろう方向を見ても残った魔力の気配だけで、すでに姿はなかった。
「まだ何かいたのか?」
「ううん、ちょっと気配を感じただけ」
別に、報告するほどのことでもないだろう。逃げ損ねた子がいただけだろうし、怪我していてもすぐ立ち去れるのなら家で治療してもらえるはずだ。
「で、集めたはいいけどこの鬼の死体はどうすればいいんだ?」
「肉にしてもおいしくなさそうですし、念のため焼きますか」
「そうね。それじゃあ燃やすわよ」
「まて、それを焼くな!」
セナと私で死体に火を付けようとすると、侍と言うか、似非新撰組というような恰好の男たちに制止された。
「この鬼を討伐したのは貴殿らか?」
「ああ、俺たちだ。ま、主にこの子だけどな」
「すぐ撫でないでー」
壮馬が笑いながら私の頭を撫でてくる。嫌いじゃないけど人前ではやめてほしい。
「見たところまだ六歳やそこらの年だが……真か?」
「ああ、ほんとだよ」
「……ええと、貴殿の周りの女は——」
「仲間だよ。で、この子は特に強いんだ」
「だからすぐ撫でないでよ!」
「どう見ても子供にしか見えないが……」
壮馬が「この子が一番だよ」と言うたびに皆も頷くのを見て、男は納得いかなそうだが一応そう言うことで理解してくれたようだ。理解ついでに、事の経緯も壮馬がすべて説明した。
「なるほど……我々に代わり鬼を討伐してくれたこと、感謝します。もし冒険者ギルドに登録しているのならついでにこちらで処理します。なかなかいい報酬にもなりますし」
「へぇ、なら……って、そう言えば登録してなかったな」
言われてみればそうだ。魔物討伐はすべて国の依頼として直接受けていたので、冒険者ギルドに冒険者としての登録はしていなかった。
「まだ冒険者ギルドに登録してないんだけど、今から登録しても報酬ってもらえるのか?」
「はい、可能ですよ。自分が討伐の証人になりましょう」
「ほんとか、ありがとう!」
こうして私たちは、似非新撰組の男たちと、鬼の死体を冒険者ギルドの裏口まで運んだ。
そこからは似非新撰組の人たちが鬼を運び、私たちは受付で登録を始めた。
受付嬢の指示に従い各々名前、年齢、使用可能な魔法、メインで使用している武器、判明している使用可能な固有魔法を記入して提出した。この作業が終わると、次は身体測定的なものが始まった。適性があるかここで見極めるらしい。
「まずは魔力測定です。ニーナさんは獣人なのでこれはやらなくて問題ないですよ」
そもそも魔法が扱えないニーナを除いた四人の魔力測定から始まった。特殊な水晶に魔力を込めると、その量に応じて色が変わるらしい。
まずは壮馬から。
「色が変わってないぞ⁈」
「あの、ソウマさん……魔力を流せてないです」
「あっ、そうでしたか……」
聖剣とは感覚が違うようで、うまく魔力を測定できないようだ。
「ほら、こう……水晶を体の一部だと思って」
伝わらないだろうが、アドバイスしておく。
「こうか?」
正直わかりにくい気がしたが、相馬は理解してくれたようだ。色は銀。確か、アキツ帝国建国時と一緒に冒険者ギルドアキツ支部の設立にも関わったという勇者がこの色だったと聞いた。
続いてセナとアリアも同じ銀色に光った。
「ま、まさか、三人とも……」
夢でも見ているような顔をしている。
「あ、あなたは……」
「どうかしらねー」
私は魔力量自体は多いが、まだ扱える量自体は総量から言えば大した量ではない。
「黄色……七歳とは思えない魔力ではありますが、まあこれなら……」
勇者に匹敵する魔力を持つ人が一気に三人も来たせいで動揺していた受付嬢も、私の魔力に少しは驚いたものの、ありえないことではないと安心している。
「すごい……パーティーなのですね……」
「ああ、なんたって勇者パーティーだからな!」
「なるほど、それで……」
もはや、私たちが勇者パーティーという事には驚いていない。先にあんなものを見せつけられたからむしろそれで納得がいったからだろう。
「こほん。では、次です」
魔力測定が終わったら、次はどれほど武器を使いこなせるかのテストとして、人型ゴーレムとの模擬戦——といっても、一方的に斬るだけだが——をすることになった。ここではニーナが審査している受付嬢を驚かせ、そして次の簡単な筆記テストは全員難なく突破し、無事冒険者としての実力は十分という事で、登録が完了した。にしても、勇者パーティーとわかっても審査ってされるのね。別に私たちなら問題ないけど——
「ちなみに、シエラさんとニーナさんはまだ十二歳になっていないという事で、仮登録となります。本登録した三人の誰かと一緒でないと依頼の受注ができないのでお気を付けください」
と思ったが、私とニーナは年齢という一番大きな問題があったようだ。まあ基本的に五人で行動するだろうし、問題ないだろう。
「こちらがギルドカードになります。ギルドでの任務受注や店で一部商品の割引に使えるので、なくさないようにしてくださいね」
ギルドカードには、最初記入した名前と年齢、その他諸々の情報と、冒険者ランクなるものが記載されている。ランクは全員この世界でのFに相当する文字が書かれている。
「ええと、確か討伐報酬の受け取りでしたね。すでに処理は終わっています。これを」
ここまで小一時間ほど。私たちが登録に必要な事をしている間、さっきの男がそのあたりの処理をしてくれたらしい。
「小鬼が十四体、大鬼が三体ですね。報酬の打ち分けは討伐報酬分がこれ、そしてこっちは葵組からの謝礼金ですね」
葵組というのはさっきの男たちが所属している組の名前だろう。相当金持ちの組織なのか、討伐報酬と同額だ。全部で大銀貨一枚と銀貨八枚か……これだけでひとまずの生活費は稼げたな。さすがに、今回は葵組からの報酬も大きいが。
「分配はどうする?」
「とりあえず生活費として使えばいいんじゃない?」
「そうですね。これなら暫く宿を取れそうですし」
「じゃあ個人分のお金は今後どうします? 私は自前でたくさんあるからいいですけど」
「え、アリアってそんなに持ってたのか」
「はい、国から沢山……」
「私もひとまずは問題なさそうですね」
「私も溜まってるから今は大丈夫よ」
「私もシエラほどじゃないけど溜まってる」
「え、じゃあ手持ち少ないのって俺だけなのか⁉」
「そうですね」「ですね」「そうよ」「うん」
ギルドを出て、宿を探しながら報酬の分配について話した。女性陣はそもそも貯蓄がある程度あるので問題ないという事で、最初のうちは壮馬が多めにもらうという事になった。ちなみに、私とニーナは無駄遣いしないようにとセナに管理されることになった。奴隷を買ったり魔剣を買ったり、最近ではグラディオンを発つ前に読むかわからない本まで買っちゃってるから仕方ないね。
それと、葵組の男たちは、いつの間にかいなくなっていた。いろいろ手続きをしてくれていたようなので、そのことも例を言いたかったが、まあそのうち再会したら礼をしよう。
※ ※ ※
夜、私たちはギルドからの斡旋もあり、空き家を宿として使えることになった。なかなか大きな日本式のお屋敷で、全員分の部屋に加え、庭も広い。なんと言っても大きめの温泉までついている。勇者パーティーとはいえこれほどの屋敷に住まわせてもらえるのは、恐らくグラディオンから何らかの伝達があったのと、鬼討伐も多少は影響しているのだろう。
まあなんにせよ初日からこんな広い拠点を確保できたのはラッキーだ。
セナとアリアのおいしいごはんも食べたことだし、風呂までゆっくりしよう。
懐かしの和室。昔、どこかこういう部屋でくつろいでいたのを思い出す。誰の家だったかは思い出せないが、懐かしい雰囲気を感じる。
「シエラちゃん、ちょっと来てください」
「なにー? ……ほわっ」
立ち上がるのが面倒で、這ったままアリアのところへ行くと、そのまま膝枕された。アリアのちょうどいい太もも、なんとも心地よい。あぁ~、このままじゃダメになる~。
「今日はゆっくりして、魔力を回復してくださいね」
「ん~」
おっと、猫なで声が出てしまった。まあこれはアリアの膝枕が悪いよね。この太もも、回復効果でもあるんじゃなかろうか。ただ膝の上で寝ているだけで、どんどん魔力が回復していく……気がする。
「風呂出たぞー。って、随分くつろいでんな、シエラ」
「魔力回復中よー。あ、壮馬にはここ譲らないわよ?」
「はい、シエラちゃんの特等席です」
「じゃあ俺はニーナちゃ——」
「やだ」
「だよなー」
ニーナに即答で拒否されるかドン引きされるいつもの流れ。もはや壮馬もこうやって断られることになれているというか、むしろ楽しんでいる気がする。
「はぁ、男一人って切ないな……」
「なら家事でも手伝ってセナの好感度でも上げたらいいわよー。婚約者なんだし」
「……よし、頑張ってくる!」
適当に励ましてみたら、今日はいつも以上に元気になった。もしかして、ほんの数ミリ、何んら微粒子レベルかもしれないけど、壮馬ってセナに惚れてたりする? そう考えると最近壮馬がセナを見る目が少し熱くなった気がしなくもない。これは、私が恋のキューピットにでもなれば面白い展開になったりして……?
「セナさん、手伝うよ」
「はい、じゃあ洗い物は私がやるので布団を敷いてきてもらえますか?」
「了解です!」
張り切っているな、壮馬。セナは若干心配そうに壮馬のほうをちらちら見ているが、手慣れた様子でさっさと布団を敷いているし、まずは「こういうことも出来るんだぜ(きりっ)」という感じで好感度が微増したことだろう。小さなことからコツコツと。塵も積もれば山となる。この調子で頑張れ、壮馬!
まあこんなこと考えておいて、もし恋心がなかったら私の空回りでちょっと恥ずかしいけどね。
多分2章は1章より1話ごとの文章が多いと思います(/・ω・)/