17話 何がともあれ旅に出る
タイトル詐欺だよね
聖剣に魔力を吸われて倒れた私は、目を覚ますと縛られた状態で見知らぬ部屋にいた。
誰かいる様子はないし、服も武器もそのままなので、まだ縛られてここに運ばれただけのようだ。ただ、その部屋に問題がある。
三角木馬に手枷足枷、ムチや剣がおいてある。恐らく、拷問質だろう。何とか落ち着いて考えられてはいるが、よく割らない煙のせいで少し頭がぼーっとしているし、少し体が熱い。
まずい。非常にまずい。こんな部屋で縛られているという事は、誰か来た時その人に拷問されるのは確実だろう。よく見たら大人のおもちゃ的な物も落ちている。まさかとは思うが、この部屋は——
「ちっ、起きてたか」
予想が当たってしまった。この拷問室、ルーグのものだ。
「んんん、んんんん!(ルーグ、こないで!)」
さるぐつわのせいでしゃべれない。身体を縛られているせいで抵抗も出来なそうだ。煙の影響か、力も全く出ないし、魔法を発動させるほど集中も出来ない。これ、詰みでは?
「魔封じの霧と媚薬の効果が出ているな。知っているぞ、シエラが俺に嫌悪感を向けていることを。お前はその俺に抵抗も出来ず犯されるんだ」
「んんんんんんんんんんんんんんん!(あんたに処女は上げないんだから!)」
「何を言っているかわからないなぁ……。まあその必死な顔も嫌いではないな。続けろ」
何を偉そうに。寝込みを襲って道具まで使わないと七歳の私を捕まえられないのによくこう調子に乗れたものだな。あとで絶対ぶっ殺す。
「んんんんっ」
ダメだ、だんだん身体が熱くなってきた。抵抗する力もどんどんなくなっていく。
「顔が赤いじゃないか。まさか、シエラは発情でもしているのか? とんだ淫乱幼女だな!」
「んんんんん!(ちがうわよ!)」
決して発情なんてしてない。ただ媚薬のせいで体がほてっているだけだ。発情ではない。仮にそうだとしてもルーグを相手にするくらいなら死んだほうがましだ。そんな屈辱受けたくない。くっ、殺せ……なんて冗談で言っている余裕はない。本気で死んだほうがましだ。
「幼稚体系に興味はないが、締まりもよさそうだし自害される前に使っておくか」
そう言うと、ルーグはおもむろにズボンを降ろし、一物をあらわにした。そんな汚いものを見せるなケダモノが。
「これでは奥まで簡単に入ってしまいそうだな」
ルーグは私を縛っていた縄をほどき、私の服をゆっくりと脱がせていく。
せっかく拘束が解けたのに、全く力が入らずまともに抵抗できない。
「やはり体を見ただけでは興奮できんな。今の状態では、俺専用の穴として使える程度か」
発言がいちいち下種すぎる。いったいなぜこんな奴と婚約しなければならないのか。
すでに私は全裸にさるぐつわという何とも屈辱的な恰好をしている。
「んんん、んんんんん!(いやだ、見ないでよ!)」
「入れるならこれでも使った方が早そうだな」
ルーグは近くの瓶に入っていた液体を少し私の身体に垂らした。
「これは催淫効果のある液体でな、こういうことをするときにはちょうどいい——」
※ ※ ※
「セナさん、シエラがいない!」
「なんですって⁉ ……やられましたね」
壮馬はパーティーを抜け出しシエラの様子を見に医務室に入った。しかしそこにシエラの姿はなかった。
「一人でどこかに行けるわけない……よな?」
「ええ、恐らくはルーグのところでしょうね」
「あいつ……相手はまだ七歳だぞ!」
「ルーグはそういう男です」
セナは自身が知っているルーグの行いを勇者に話した。
複数のメイドを身籠らせ、不都合だからと殺すか追放していたこと、奴隷を買い、その奴隷たちのアキレス腱を切って死なない程度にだけ治療をして逃げられなくしたうえで犯していたこと、そしてシエラに対する態度。しかし、それらが隠蔽され続けた結果がこの現状だ。
「急いで探しに行くぞ!」
「場所に心当たりがあります。こちらへ」
王城のことを把握しつくしているセナは、ルーグが使いそうな部屋や捉えるのに最適な部屋をいくつも探して回った。地下室、隠し部屋、庭から入れる研究室。あらゆる部屋を探した。
そして一時間ほど探し回っていると、声が響いてきた。
「んんん、んんんんん!」
※ ※ ※
「お嬢様!」
ルーグが私の陰部に手を伸ばし、そこにも液体を塗り込もうとしたとき、セナの声が聞こえてきた。
「ルーグ、貴様……」
そう言ったのは一緒に来ていた壮馬ではなく、セナだった。
まるで別人のようなオーラを放っている。セナの魔力を通してか、殺気が伝わってくる。
「俺の婚約者だ。なら何をしようと——」
「グラディオン王国国王の娘セナとして、お嬢様のメイド兼姉として、ここに我が力を開放することをお許しください」
セナはいつも付けている十字架のネックレスを外した。
刹那、浴びればまともに立っていることすらできないレベルの魔力がセナから放たれた。
「王族としての誇りも力もなくただ周りを騒がせるだけの偽物をセナの名において処刑します」
「せ、セナ……?」
「お嬢様、目を瞑っていてください」
「おい、セナさん!」
「勇者も、あまり見ないほうがよろしいかと」
本気だ。セナは本気でルーグを殺そうとしている。正直霧のせいで何が起こっているのかいまいち整理がつかないが、とにかく救われたことだけはわかった。
「や、やめろ、俺は王族だぞ!」
「今はメイドの身とは言え、私の力も紛れもなく王族のものです。この力、その身をもって味わいなさい!」
「ぎゃあああああああああああ」
とてもさっきまで私を犯そうとしていた奴の出す声とは思えない悲鳴がした直後、ルーグはその場に倒れこんだ。
「セナ……?」
ルーグの身体に傷はないので、恐らく殺したわけではないのだろうが、叫び声からして痛みはあったのだろう。
「殺してはいません。ただ、肉体への攻撃を精神への攻撃に変換しただけです。固有魔法ですね」
剣を治めたセナは、何事もなかったのように説明してくれた。
どうやらセナは国王と愛人の間にできた子らしい。国王とその愛人はセナのことを愛していたものの、政敵に利用されることを恐れ、存在を隠していたらしい。そんなセナが私の下へと流れ着いた経緯はセレネお姉ちゃんと過ごしているときもっと強くなりたいと相談したところ、エイオス家なら信用できるし強者ぞろいだから安心だという事でエイオス家のメイドになり、そして私の教育係になったらしい。通りなかなか過去を話してくれなかったわけだ。こんな過去、そう簡単に言えるはずもない。
「今までなかなか話せず申し訳ありません」
「ううん、いいの。こんなこと、そう簡単に言えるわけないわ」
私だって転生者であることを隠しているし、恐らくセナにも一生教えることはないだろう。
「でも、セナの過去がどうであろうとセナはセナだし、これからも私のメイドで、お姉ちゃんよ。それは絶対変わらないわ」
「お嬢様……ありがとうございます。でも、その格好じゃ雰囲気が台無しですね」
「あ……もっと早く言ってよ!」
屈辱的だったが、それ以上に怖かった。本当に泣いてしまいそうだったが、その直後にセナの重い話が始まって、その話に全て持って行かれた。一応壮馬の上着を着ていたから全裸ではなかったが、確かに格好としては少々はしたない恰好のままだった。
「その、セナの話は分かったんだけど、媚薬と催淫効果の液体のせいで、身体が……」
「勇者、今すぐ戻りなさい」
「はい、わかりました!」
「よろしい。ではお嬢様、少々失礼して——」
結論だけ言うと、セナのおかげで体のほてりもおさまったので、まあそれでいいだろう。あの男にされなかっただけましと、今は考えておく。イケナイ遊び……とは少し違うが、背徳感に押しつぶされてしまいそうだ。
翌朝、私は普段の寝間着を着た状態で、上質なベッドの上で目覚めた。
あの後セナがしっかり服を着せてくれたらしい。
ルーグは私に手を出してしまったことで投獄され、無事ルーグとの婚約も解消された。お母様も「ひとまず当分婚約者のことは考えなくていいわ」と言っていたし、恐らく新たな婚約者が出来ることはないだろう。
が、この件で、なぜかセナに婚約者ができた。その相手こそ勇者である壮馬だ。国王が壮馬にごり押ししたらしい。もし結婚したら将来壮馬は私の兄兼執事になるという認識でいいのだろうか。ダメか。ダメだよね。
婚約を祝して、今日も盛大に祝うらしい。それもいいけど、せっかく勇者を召喚したのだからそろそろ魔物討伐に出かけたほうがいいと思う。
ルーグから逃げるという目標が達成されたとはいえ、勇者との旅は楽しそうだし、このまま旅に出たいとは思う。
こうして、私の身辺の問題も解決し、旅が始まるまで様々なハプニングがありながらも、無事私シエラの勇者パーティーでの旅(十三歳までの期限付き)が始まることとなった。
一章書き終わったぞ!