16話 勇者召喚
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七歳になった。そして、妹のクレアが産まれ、ついに私もお姉ちゃんデビューだ。そして、ルーグという婚約者も出来た。
ルーグは王家の五男らしく、聞いたときはセレネお姉ちゃんががほんとにお姉ちゃんになるなんて最初は思っていたが、会ってみたら正直逃げたくなった。端的に言うと変態だ。第一声から「なんと美しい……これは成長が楽しみだ」なんて言われ、一緒にいる時は常に身体中嘗め回すように見てくる。向こうから何か会話を振ってくることなんてないし、話しかけてきたときは大体身体がどうのという話だ。
どうにかして、このルーグとの婚約を解消したい。
さすがに王家の五男との婚約なので、お父様に言ってもどうにもならなかった。この際私のイメージはもうどうでもいいから、ルーグに別の女を捕まえてもらうか、最悪私がどこかに逃げよう。
そんな悩ましい日々の中、朗報が舞い降りた。
私が冒険者学校と合同で授業を受けたとき、遺跡でケルベロスに遭遇した。その件でついに、勇者を召喚することになったらしい。歴史書では、こういった事件の数年後には魔王が復活していた。そして、ケルベロスのように魔族の影響を受けた魔物も増えたと記されていた。
何とか勇者を逃げる口実にできないだろうか。各地の魔物を討伐するという名目でならルーグから離れることも出来るだろう。もっとも、私が勇者について行ければだが。一応私も勇者召喚に立ち会えることになったから、あとは私の交渉次第だろう。
今すでにお母様とセナ、そしてニーナと王都にいる。召喚は明後日。一応、勇者について行く口実は考えてある。あれから剣も魔法もさらに上達したし、理由次第ではついて行けるはずだ。勇者について行って、ルーグから逃げる。ついでに旅を楽しめたらいいだろう。もちろん、戦闘も観光もだ。
そう言えば、最近この世界に対する好奇心が薄れてきた気がする。こちらの生活に慣れてきたからだろうか。それとも、ルーグへの嫌悪感のほうが上だからか。どっちでもいいな。今はルーグから逃げられさえすればそれでいい。
当日、説得を頑張るぞ!
斯くして勇者召喚当日。
『我らが守護神リィンよ、契約に従い、願いを聞き届けよ。魔を滅する刃、人を守護する盾。ここに我らの血肉と魂を捧げる。神よ、我が願いを聞き届け、異界の勇者を今ここに《リインカーネーション》』
血で書かれた強大な魔法陣、そして魔法陣に置かれた触媒。それを取り囲む数十人の宮廷魔術師が一斉に詠唱し、それが完了すると、魔法陣が紅く光った。
私でもわかるくらい綺麗な——神聖な魔力が、この部屋に満ちた。そして、紅い光が収まるとともに、触媒が消え、宮廷魔術師は倒れ、そして魔法陣の中心には一人の少年が立っていた。
ぱっと見年齢は十七歳くらいだろうか。どこのものかはわからないが、制服を着ている。前世でよく見たような制服だ。黒髪で平均的な身長、顔はまあまあだ。日本人らしい顔立ちだが、まさか私や過去の勇者たちと同郷なのだろうか。
『ほんとに、転生したのか……?』
「勇者は何と?」
「すまない、私では……」
珍しい言語でしゃべると思ったら、これは日本語だ。久しく聞いたから一瞬わからなかったが、しっかり意味は分かる。が、別にこの程度のセリフは翻訳するまでもないだろう。
『なあ、ここはどこなんだ?』
勇者はあたりを見渡して、国王を見つけると、国王にそう問いかけた。しかし、日本語で言っているので全く通じていない。
「国王陛下、勇者はここはどこかと聞いていますわ」
「シエラよ、言葉がわかるのか?」
「ええ、多少は」
まあ元日本人だしね。
「では勇者に説明してもらえるか?」
「ええ、承りました」
私が年の割に剣や魔法を使いこなせている天才少女と認識されているおかげで、特に疑問は持たれなかった。ならひとまずこのまま進めていいだろう。
『グラディオンへようこそ、勇者様。私はシエラ・エイオスよ。あなたは?』
『シエラ……君がシエラちゃんか。まさかこんな幼女とは……』
どうやらこの勇者、私の事を知っているらしい。
『私の事を知っているのね』
『ここに召喚される前に神様がシエラに頼れって言ってたんだ』
『私に……なんで?』
『そこの理由までは教えてくれなかったなー』
恐らく私が転生者だからだろう。というか、どうせ勇者に会うなら自分で知識とか言語とか教えてあげたらよかったのに。
『でもまさか、シエラがこんなちんちくりんだとは思わなかったよ』
『ちんちくりんって何よ!』
突然失礼な奴だ。
『あはは、悪いな。でもほんと、神様に頼れって言われたからお姉さんが来るかと思ったよ』
『まあ普通七歳に頼れなんて言われるとは思わないわよね……』
『七歳か……でもその割にはなんか俺の国の言葉が喋れるみたいだし大人びてるっぽいし、案外頼りになるのかもな』
『案外って……でも、何かあれば協力するわ』
『ああ、ありがとな。そういえば名乗ってなかったな。俺は佐藤壮馬だ』
『壮馬ね、こちらこそよろしく。召喚の理由とか説明する前に一つ聞いておくけど、突然知らない世界に呼ばれたわけだけど、その辺大丈夫かしら?』
私も形は違えど転生者だ。辛いこともいくつかあった。だからこそ、もし何かあるなら、極力それに合わせていきたい。
『大丈夫だよ。未練がない……とは言えないけど、神様の世界でしっかり考えてきたから』
『そう、ならよかったわ。それじゃあ——』
初めてケルベロスと遭遇した時のことから、なるべくわかりやすく壮馬に説明した。もともと壮馬はファンタジー世界の予備知識があったおかげで、早く説明が終わった。私が知っている程度の知識ならすぐ覚えられるが、魔法の習得も早かった。
『よくわかったよ、ありがとう。そういえば根本的な問題なんだけど、言語の壁ってどうすればいいと思う?』
言葉の壁もあったな。まさか、この世界の言葉がわからない状態とは思わなかった。さすがに今から言葉を教えるのは難しい。魔法でもあれば楽なのだが……そうだ、神様に会ったのなら、もしかしたら壮馬はそういう魔法を習得しているかもしれない。
『特殊な魔法とか習得してないの?』
『魔法……とはちょっと違うけど、ステータスってのを見れるらしい』
『ステータス?』
『ああ、なんかこの世界での強さの基準を簡単に見るための特別サービスだって言ってたな。あとはスキルで攻撃が使えるらしい。あ、ステータス画面に自動翻訳機能付いてた』
『最初から使いなさいよ……』
恐らくステータス画面でも操作しているのだろう。壮馬が何かを押した。
「これで聞き取れるか?」
自動翻訳機能をオンにしたのか、聞きなれたこの世界の言葉が聞こえてきた。
「おお、勇者様……」
「翻訳忘れてて悪いな。シエラも、わざわざありがとう」
「気にしなくていいわよこのくらい。あとは国王陛下が教えてくれると思うから。それじゃあ私は戻るわね」
壮馬が自分で会話できるようになったので、私はセナ達のところに戻った。
「勇者の故郷の言葉がわかるのですね」
「あー、うん。なんか夢でね……」
「夢で見ただけでってすごいね、シエラ」
「まあ、私だからね」
何とか言いくるめられた……のかな? さすがに実は転生者とは思われてないはず。今までの努力が思わぬ形で役に立ったと信じておこう。
※ ※ ※
国王と壮馬の話が終わり、さっそく旅に出てもらうという話になった。そして、案の定誰か連れて行っていいという事になった。勇者に取り入って地位を手に入れたい貴族や騎士が続々と立候補している。もちろん、私も。
「シエラ、あなたはまだ学ぶことがあるからダメよ」
が、当然お母様には止められた。しかし、対策はしてある。
「勇者との旅は確実に私にはいい経験になるわ。自分の目で、自分のの足で……国を——世界を知りたいわ」
「それも、そうね……」
お、よさげな流れだ。これは押せば行けそうだ。
「座学も大切なのはわかってるわ。でも、それでも自分で世界を知りたいの。そうすれば、文字だけじゃわからないこともわかると思うの」
「……わかったわ。ついて行けるかは別として、ひとまず許可するわ。ただし、十三歳になったら絶対に帰ってきなさい。エセリアには行ってもらうわよ」
「わかったわ。ありがとう!」
案外早く許可を勝ち取った。十三歳になったら帰るという条件付きではあるが、十分だろう。五年程度は旅できそうだ。
許可をもらったので、さっそく勇者のところへお供志願をしに行く。
「壮馬、私も行きたいわ!」
「お嬢様が行くなら私も」
「シエラが行くなら私も」
ついでにセナとニーナも来た。
「シエラ……。魔王を倒すための旅なんだからさすがに危ないぞ?」
「そんなの承知の上よ。それに、これでも私は強いわ」
「へぇ、そうなのか」
突然、壮馬が私を品定めするようにじっくり見だした。えっなになに、怖いんだけど。もしかして突然ロリコンにでも目覚めたの?
「なっ、俺より強いのかよ……」
「え?」
「どういうことだ、この娘が勇者より強いだと……?」
勇者の周りにいた貴族たちがざわめきだした。どうやら壮馬は地雷を踏みぬいてしまったらしい。
「いや、でもそんなことは……」
まずい。うまくフォローしたほうがよさそうだ。
「壮馬、どういうこと?」
「ほらこれ」
どうやら壮馬のステータスという能力は他人のものも見ることが出来たり、見せたりできるらしく、私のステータスと壮馬のステータスを同時に見せてもらった。
ふむ、筋力以外は全部私のほうが上か。それも、ほとんどが数倍の差をつけている。魔力に至ってはギリギリ最大値として表示されている壮馬のものとは違って私のものは文字化けしている。ただ、そもそもこの数値を見ても全く訳が分からない。なんだよ攻撃力九十万って。そもそもこの国の、冒険者や騎士の平均がわからないとこれを見た所で自分の強さはよくわからないな。もしかしたら今まで鍛えてきたからで、壮馬もこれから強くなるのかもしれない。
「これは私が鍛錬を積んできたからよ。壮馬は勇者なんだから聖剣を使えるし、きっと私なんかよりずっと強くなるわ」
よかった。「そうだよな……」と、そう言う雰囲気になってくれた。
(ちょっと壮馬、迂闊な事言わないでよね)
(そ、そうだな、悪かった)
下手なこと言わないようにあとでしっかり言っておこう。
「それで、誰と旅するか決めたの?」
「そうだな、全員のステータスを見るのも面倒だしとりあえずシエラ、一緒に来てくれるか?」
「ええ、もちろんよ! それならこの二人も……」
「ハーレムかー」
「いいじゃない。男としては誇れることじゃないの?」
「そうだけど、まだその獣人の子はいいけどさ、さすがに、その、メイドさんは……美人すぎてその、恥ずかしいというか……」
なんだよ可愛いかよこいつ。確かにセナは美人だしおっぱいも大きいけどさ。
「ちなみに、メイドさんは強いのか?」
「セナね。セナは魔法の技術がすごいのよ!」
「そうか、よくわからんがすごそうだな」
「そうよ、すごいのよ!」
説明が面倒だから詳しくは自分の目で見てねという事で。
「なら、じゃあまあセナさんも」
これで壮馬含め四人だ。確か、魔物と戦う時は五人が最適とか言われているし、あと一人か。
「壮馬、出来ればあと一人は回復魔法が使える人が欲しいわ」
「なるほど。じゃあ回復魔法が使えるヒーラー……僧侶? はいるか?」
唐突に静まる壮馬の周り。まさか誰もいないとは。なんなら、勇者パーティー志願者のほとんどがそもそも戦闘経験が少ない説まである。実戦で言うと私が言えたことじゃないが。
「勇者よ、もし回復魔法を使える者が必要なら、聖女を連れて行ってはどうだ?」
「聖女?」
「ああ、聖女ならば回復程度容易くこなすだろう。セレネ、呼んできてくれるか?」
「わかりました。しばしお待ちください、お父様」
まさかのあの時助けてくれた聖女が仲間入りか。うれしいけど、壮馬がハーレム状態になってしまう。あと一人、荷物持ちでもいいから男の人に入ってもらいたい。
「勇者様、どうか俺をパーティーの一員に!」
男でもと思っていると、突如大声でそう言いながら男がこちらに向かってきた。ルーグだ。
「あらルーグ様、あなたも共に旅をしたいのですね」
「当然だ。俺の未来の妻がこの男に取られてしまうかもしれん。それに、獣人風情が勇者とともに行動出来て王族であるこの俺が勇者とともに行動できないはずがないだろう!」
この傲慢な態度も本当に気に入らない。それに、何が未来の妻だ。ルーグ風に言い換えたら肉奴隷の間違いなんじゃないの? 前もメイドさんとやることやってたし。
「回復ができるのか?」
「貴様、王族に向かって……いや、いい。俺が使えるのは剣だ。片手剣でも両手剣でも、王宮騎士直伝の剣術がある」
「剣か……」
自慢げに腰に下げた剣を抜き、掲げるルーグ。もう剣士は間に合っているんでお引き取りください。
「ルーグ様、剣士ならば勇者様を筆頭にニーナと私も剣を使えますので間に合っております」
「貴様の意見など聞いておらんわ!」
「あらそうですか。では勇者様、どうです?」
「できればシエラに判断してもらいたいけど、ダメそうだしなぁ……」
「(騒ぎが起きないようにしてね)」
念のため釘をさしておく。この男は何を言い出すかわからないからね。
「じゃあシエラに勝てたらッてのはどうだ?」
「ふん、女——それもこのような幼女に負けるほど弱くはない。それに、この美貌を傷つけるには惜しいからな、手加減してやろう」
「いえ、手加減など必要ありません。これでもサラ、リシア、エレノア、そして我が兵たちに剣術を教わっていますから」
「貴様……」
ルーグが目に見えて苛立っている。私みたいな幼女に軽く煽られた程度で苛立つとは、本当に呆れた男だ。
「ルーグ、そしてシエラよ……聖女が来るまでこの場で戦うことを許可する」
「感謝する父上。では、真剣勝負だ」
「なら少しお待ちを」
念のため普段ニーナと剣術の練習をする時の服とまだちゃんと使ったことはないけど魔剣を持ってきていてよかった。
噂もあるし、あまり変に騒がれたくはないので、なるべく戦闘を長引かせて接戦を演じつつ勝ちたいので、さっさと着替えて、広間に戻る。
「お待たせいたしました。では、行きましょうか」
「ほう、いい得物ではないか」
魔剣だしね。まあ使いこなせないけど。ただ、剣で戦うだけなら問題ないだろう。最近魔力の込め方でちょうどいいサイズに変えられることも判明したし。
「ルーグ様から来てくださってよいのですよ?」
「ふん、調子に乗るな!」
といいながら、しっかりルーグから仕掛けてきた。
攻撃が遅い。これではニーナにすら勝てないだろう。が、一撃でねじ伏せるわけにはいかないので、ギリギリっぽく防ぐ。
「調子に乗っていた割にはその程度か!」
手加減されていることにも気づかないとは。まあ女のことしか考えてないような男では到底わかるわけがないか。
「では私からも」
ただ防いでいるだけでは押されているようにしか見えないだろうし、私からも攻撃を仕掛けてみよう。これでルーグがどの程度の実力なのかはっきりわかるだろう。ついでにどの剣術を扱えるのかもわかればいいかな。
攻撃は防ぎやすい程度に弱点を狙っていけばいいだろう。
「ほう、なかなかやる——」
適当に攻撃していると、つい手が滑って首を落とすところだった。
「あら、どうやら私のほうがほんのすこーし強かったようですね」
さすがに真剣で切ってしまうと死んでしまうので寸止めはしたが、これで勝負はついた。一応「クソっ、なかなか攻撃の隙が見いだせない——はっ、今なら!」的な雰囲気だったし、はたから見たら接戦っぽかっただろう。我ながら完璧だな。
「……申し訳ないけど、七歳の女の子にも勝てないようじゃな……」
「魔物の掃討、そして魔王討伐を最終目的とした旅でシエラに勝てぬようでは私としても許可はできないな」
国王は心底呆れたようにそう言い放った。あの顔からして、ルーグが手加減されていると気付かず調子に乗っていたという事を見抜いていたのだろう。援護射撃感謝します、国王陛下!
「しかし父上——」
「二度言わせる気か?」
「いえ、申し訳ありません……」
さすがのルーグも言い返せないか。
それほど圧倒していたわけでもないし、私たちの決闘を見ていた人たちはさすがシエラ様という程度の反応だ。噂になる程度には頑張ってきて正解だったな。
「アリアを連れてきました」
私を睨みながらも項垂れているルーグを見上げていると、セレネお姉ちゃんがアリアを連れて戻ってきた。
「お初にお目にかかります、勇者様」
「君が、聖女……?」
「見た目は壮馬と同じくらいでもアリアは二十四歳よ」
「なっ、マジかよ……」
「マジよ」
知ったときは私もびっくりした。
膨大な魔力を持つ者はその魔力によって全盛期の時点で肉体の成長が止まるというのは知っているが、やはり実際見ると驚いてしまう。それに、私も成長が止まってしまいそうで怖い。
「ちなみに聖女の力ってのはどんなもんなんだ?」
「私が使えるのは固有魔法の都市間転移、数日程度ですが未来が見える未来視の神眼、回復は死にさえしなければどんな傷でも治せます。あとは体に負担がかかりますが身体能力向上も可能ですね」
「へぇ、便利そうだな」
「魔王を倒す旅ならば、是非私もご一緒させていただきたいです」
「……わかった、是非一緒に来てくれ」
「はい、これからよろしくお願いします」
謎の間があったのは男一人に対して女四人になってしまうからだろう。それもうち二人は見た目だけなら壮馬と同年代にしか見えないし仕方ないだろう。慣れないうちはあまり居心地がいいとは言えないだろうけど、そこは何とか我慢してもらうしかない。まあ全男子高校生の夢を実現させたとでも思えば多少はマシに……ならないか。私に男心はよくわからないし、とりあえずできる限りのサポートだけはしよう。
「英雄色を好むとも言うしな……よかろう。ではこれから聖剣が眠っている遺跡まで案内しよう」
「あの、それは助かるけど……俺が女たらしとかそう言うことじゃないですから! たまたま集まったのが女の子だっただけですからね!」
「ふはははは、わかっておる。まあ問題さえ起こさなければそれでよい。もっとも、今のところ問題を起こせるほどの勇気があるようには見えないがね」
「そうだけど、そうだけど癪に障るなぁ!」
壮馬と国王、なんだかいい雰囲気だ。まあ粛々と事務的に対応されるよりはこういう風に仲良くやってくれた方が私としても気が楽だから助かるけど。というか、まさか国王が冗談を言う人だとは思わなかった。今までずっと固い人だと思ってた。いや、でも娘のセレネを見れば納得もできるな。
遺跡は今いる城の地下にあるらしく、しっかり魔物も掃討されていたので、特に何の山場もなく私たち勇者パーティー、そして国王とどうしてもとついてきたセレネお姉ちゃんと談笑しながら歩いた。
壮馬もある程度はなれてきたようで、早くも普通に会話できるようになっていた。ただ、さすがにセナとアリアと話すときは少し目をそらしている。さては童貞だな? 国王もそんな壮馬を見て笑っている。
「ふぅ、久々に笑わせてもらった。さて、ここが聖剣の眠る祭壇だ」
終始笑っていた国王は、遺跡の奥の祭壇に付くと、パッといつもの国王モードに切り替えた。
祭壇の中央には神々しい剣が突き刺さっている。選ばれしものだけが引き抜けるとかいうあれだろう。そういうゲームも嗜んだことはあるからちょっとテンション上がるな。
「すっげー、まさにファンタジーって感じだな!」
壮馬もこの光景に感動している。わかる、わかるぞ同士よ。ここで語り合いたいところだけど、心の中にとどめておこう。けど、これだけはやる。
「国王陛下、試しに抜いてみても?」
「それは構わないが、くれぐれも適正があるなんてことにはなるなよ?」
「もちろんです」
さすがに念を押された。
「壮馬も、いいかしら?」
「ああ、いいぜ」
よし、この二人の了承を得たなら問題ないだろう。
早速祭壇に上がり、剣の柄を両手で握る。
まだ封印されているからか、特に力は感じない。
「行くわよ!」
アニメで、ゲームで、小説で見たように、聖剣を引き抜く。
「あれ? あれれれれれれれれ?」
さすがに勇者でもない私には抜けないだろうと思っていたが、落ちていた剣を拾うくらいの感覚で引き抜けてしまった。やってしまったかもしれない。
「あー、俺の出番とったな! って、大丈夫か? シエラ……シエラ!」
引き抜いたのはいいが、突然眩暈がして倒れてしまった。
後から聞いた話によると、聖剣は神に認められた者なら引き抜けるが、そもそも個人として適正がなければ一方的に魔力を吸われてしまうらしい。残念ながら、私には適正がなかったようだ。倒れたのも、急激に魔力を消費した反動からだとか。
壮馬が勇者として聖剣を手にして真に勇者となる瞬間が見たかったなぁ。
そろそろ第一章も完結です
勇者、重要っぽいのでしっかり覚えてあげてください!