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天真爛漫おてんば娘は異世界を自由気ままに満喫したい  作者: cvおるたん塩
第一章 貴族の生活編
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14話 頑張るシエラちゃん最終回

 「シエラ、今日は我が領地にある冒険者養成学校で特別授業です」


 エレノアに剣を教わり始めて十日程が経った。

 毎日欠かさず特訓していたおかげで、何とか剣聖流と剣帝流の初級程度の技は習得できた。なので、今は次の段階に移行する前に習得した技を使って戦う練習をしている。しかし、さすがにエレノアとの戦闘では条件が違いすぎて、さっそく伸び悩んできた。それを昨日相談したところ、冒険者養成学校に行くことになったのだ。

 冒険者養成学校は屋敷から徒歩でも数十分程度で行けるらしく、朝少し早い時間に徒歩でそこに向かった。

 基本真剣勝負はしないらしいが、何かあったときのために一応魔剣も持って行く。


「ここです」


 だだっ広い庭に訓練場、そして大きめの校舎がある。ここは全寮制らしく、ちょうど始業時間がもうすぐのようで、たくさんの子供が登校してきている。ただ、ぱっと見年齢はバラバラだ。私くらいの子もいれば、大体十六歳前後くらいの子もいる。何歳から何歳まで通うというよりは、通い始めてから決められた年数在籍して卒業という感じなのだろう。にしても、皆まだ若いのに戦の技術を学ぶとは、さすが異世界だ。まあ魔獣がいたり魔物がいたりといろいろ危険なこの世界では必須技能なのだろう。

 生徒たちを見ながら、エレノアと校舎に入った。そして、ホームルーム的な時間に、よくある転校生のように自己紹介をする。


「シエラ・エイオスよ。今のところ剣術は剣帝流と剣聖流の初級、魔法は水と炎と風の中級が使えるわ」


 冒険者養成学校は剣や魔法を学び、それを極める場所と聞くし、とりあえずこんな感じでいいだろう。他に言うこともないしね。


「ほんとに使えんのか?」

「もちろん」


 必死に練習したからな。ただ少年よ、立場を弁えないと怒られてしまうぞ。人が起こられるところなんて見たくないから気を付けるように。とは私からは言わないでおこう。


「私から見るに、シエラはこの辺りにある遺跡なら一人で探索できる程度には強いぞ」

 意外とエレノアからの評価が高いのかもしれない。というか、エレノアって普段こんな喋りかたなのか。惚れてしまいそうだ。

 エレノアの高評価に生徒も先生も驚いている。ただ、正直高評価とは思っているが、そもそも遺跡がどんなものなのかわからないからどう喜べばいいのかいまいちわからない。


「なー先生、今日はこのシエラと戦うのか?」

「ええ、いつもみんながやっているようにね。それと、シエラ様よ」


 やんわりと注意する先生。

 先生が信頼されているからなのか、男の子はこれ以降私の事をシエラ様と呼ぶようになった。年上の男の子から様付けで呼ばれるってなんかむずむずするけどちょっと興奮するな。決して変態的な意味ではなく。


「みんな、シエラ様に何か質問はある?」

「なんでも答えるわよ」


 質問コーナーか。この世界ではどんなことを聞かれるのだろうか。


「魔法は誰に教わったの?」

「メイドのセナにすべて教わったわ」

「じゃあ剣術は?」

「騎士団のリシアとサラ隊長、それにエレノアね」


 剣術について答えると、突然歓声が上がった。エレノアに聞いたところ、どうやらサラはちょっとした有名人らしく、教えてもらえるのはすごく光栄な事らしい。さらに領主で闘技大会に出場すれば毎回優勝という超実力派で基本弟子は取らない主義のエレノアに教わるのもみんな的には羨ましいらしい。


 はっはっはいいだろうこれが貴族の力だ……なんて調子に乗ったら嫌われそうだな。親のコネで出来たことというのは事実だが。

 ほかの質問にも答えていると、見事に「実はシエラ様は本当に強いのでは?」という雰囲気になってしまった。少なくとも年の割には強いと信じてはいるが、さすがにこれほど期待されるとプレッシャーに押しつぶされてしまいそうだ。さすがに良くてここの生徒と同レベルというくらいだろう。


「では早速ですが、訓練場に移動しましょうか」


 授業開始だ。うわー、緊張する。

 まずは土魔法のゴーレムに魔法を当てるだけでいいらしいが、もしみんなより弱かったらどうしよう。あまり期待を裏切りたくはないな。


「俺から行くぜ!」


 さっきの男の子が一番手か。


「炎よ、我が敵を穿つ槍となれ!」


 詠唱式の炎魔法攻撃か。本来なら詠唱はなくても問題はないが、詠唱でイメージしやすいからなのか、相当な威力の魔法だ。実は詠唱したほうが効率よく魔法を発動できるのかもしれないな。そのうち詠唱と無詠唱で試してみよう。


 次の子も、その次の子も詠唱をして魔法を発動した。もちろん威力はなかなかのものだった。

 プレッシャーがどんどん大きくなっていく中、ついに私の番が来た。

 詠唱はよくわからないしとりあえずいつも通り魔法を使おう。得意なのは水だけど、破壊力があった方がよさそうだし炎魔法でいいかな。

 手を前に掲げ、いつものようにまずはイメージ。炎の弾を作り出し、それを思いっきり射出する。


「ふぅ、完璧」


 轟音とともに、見事にゴーレムは破壊された。威力は十分だ。しかし、やはり慣れてない魔法は無詠唱だと発動までに時間がかかるな。炎魔法はまだまだ要練習だ。


「シエラ様って無詠唱で魔法使えるんだな」

「ずっとそれで練習していたから」

「すげー、無詠唱って難しいって聞いたぜ?」

「難しいわよ。とっさに使おうと思ったらたまに失敗するし」


 今回は集中できたから使えただけで、ニーナと戦う時たまに魔法発動に失敗することもあるし、実は無詠唱で発動できるだけでまだ全然極められてない。特に炎はまだ失敗が多い。案外魔法戦では詠唱したほうがいいのかもしれない。


「もう一度やってみてもいいかしら?」

「ええ、構いませんよ」


 今度は詠唱してみよう。まだ確信はないが、魔法の詠唱に決まった文言はない。恐らく、言葉でイメージを明確にするためのものだ。なら——


「水よ、我が剣となりて悉くを切り裂け」


 剣の形の刃を生成し、限りなく薄く、そして魔力で強度を上げる。あとはビジュアルも大切だ。せっかく剣なのだから射出より斬りたいし、動きは私の手の動きに合わせる。よし、これで手を掲げて振り下ろせば——見事、ゴーレムが真っ二つだ。


「なんだ今の魔法すげー!」

「頑張って練習していたのよ」


 詠唱と言うよりほとんど今までの練習の成果という感じだったな。詠唱で固定したのは剣の形の部分だけだし。


「今の魔法炎でもできるのか?」

「うーん、まあ練習すればできるんじゃない?」


 結局のところ魔法なんて魔力とイメージだし、大抵のことは可能だろう。


「そうですね、魔法は鍛錬あるのみです」


 皆強力な攻撃魔法を使えているし、私が使った魔法と同じことくらいすぐ出来るようになるだろう。私も精進しないとすぐ追い抜かれてしまいそうだ。

 その後もいくつかの魔法を使って、魔法の授業は終了した。


 私の知らない魔法をいろいろ見られて勉強になった。先生が教えてくれた詠唱の仕方もオリジナルのものより効率がいいし、何よりかっこいい。あとは技名があれば完璧だった。

 そうして次に剣術の授業があり、お昼休みを挟んでの実戦授業だ。

 剣術はまあニーナと戦う方が勉強になりそうだなという感じだったが、やはり実際に剣を交えてみると自分の弱点が見えてくるからそう言う面では勉強にはなったな。

 


 五人一組の班を作り、実戦授業が始まった。

 今度は対人戦闘ではなく学校の近くにある森の探索だ。遺跡もあり、遺跡付近には魔物も出現するらしい。魔物か……概要はセナに教わって入るけど、実際に見たことはないし、いざ戦うとなると足がすくむかもしれない。


 早速班員たちと学校を後にして、遺跡に向かうことになった。

 メンバーは炎魔法を使っていた男の子アベル、両手剣使いのヘイザー、弓使いのナハト、槍使いのティナだ。ヘイザーが前衛のタンク、ティナが中衛アタッカー、ナハトが後衛アタッカーでアベルと私が後衛の魔法支援だ。回復はアベルが担当してくれるらしい。私は後衛で安全に攻撃しているとしよう。


「止まって、変な気配がする」


 ティナが何かの気配を察知して、遺跡の入り口の前で制止した。言われてみれば、確かに嫌な気配を感じる。正確には気配というか魔力か。感覚的なものではっきりとはわからないが、この魔力の近くにいるとすごく気分が悪くなる。


「先生たちは?」

「今は別チームのところだな」

「そう、なら入らないほうがよさそうね」

「でもそんなビビってたら冒険者なんて務まらないぜ?」


 確かに気配だけで怖気づいていては冒険者なんて務まらないだろう。ただ、これは本当に戦ってはいけない気がする。多分、一瞬で壊滅する。


「アベル、冒険者なら自分と相手の力関係くらい見極めないと死ぬよ」

「……そうだな」


 たった一言でアベルを丸め込んだ。ティナは私を除いてこのメンバーの中では一番幼く見えたけど、ティナが一番しっかりしているな。ほんと、この場にティナがいてよかった。正直、今この場に居るだけでも嫌な魔力に耐え切れず倒れてしまいそうだ。


「ねえ、もうここから離れない? 気分が悪くなってきたわ……」

「そうだね。とりあえず引き返——」

「ティナ危ないっ!」


 遺跡から離れ、来た道を戻ろうとしたところで、突然魔物が襲い掛かってきた。


「ッがあああああああああああああ」


 痛い痛い痛い痛い痛い。

 軽くではあるが、脇腹を抉られてしまった。大量に血が出ている。痛みで辛うじて意識が保ててはいるが、この魔物から出ているであろう嫌な魔力のせいで今にも倒れてしまいそうだ。回復魔法を使いたいが、まともに詠唱すらできない。


「ヘイザー、ナハト、私とあいつを足止めするよ。アベルは回復お願い!」


 ティナは指示を出しながら、ヘイザーと魔物の足止めを始めた。ナハトは後方から攻撃して魔物の弱体化を狙っている。こうして三人で魔物の注意を引き付けなければ、魔力に敏感な魔物は魔法使いを優先的に狙ってきてしまう。そうなれば、私も巻き添えだ。次攻撃を食らえば死ぬだろう。


「聖なる癒しの精霊よ、我が友を癒したまえ《エルヒール》」

「っ……はぁ、はぁ……あ、ありがとう……」


 まだ痛みはあるが、血は止まったようだ。完全に治すには噂の聖女や冒険者の中でも有名なパーティーに所属している僧侶にでも頼まないと無理そうだ。ひとまずは魔力が尽きない限り死ぬことはないが、さすがにこの状態でいるのは辛いな。今までに経験したことのない痛みに、見たこともない量の血。これが、ファンタジー世界か……。

 ダメだ、生命の維持に一気に魔力を吸われたせいか意識が朦朧としてきた。


「みん、な……ごめ……」



※ ※ ※



 魔物の攻撃からティナを庇い、シエラが負傷した。

 アベルの回復魔法で止血だけはできたものの、痛みは消えず、さらに大量の出血で低下した生命力を補うようにシエラの魔力が生命力に回され、彼女は魔力を激しく消耗している。


 寿命とは別に存在していると言われている生命力。これが尽きることで、生物は死に至る。しかし、魔力が多い場合生命力が著しく消耗した場合でも、魔力でそれを維持するため、魔力が枯渇する前に回復魔法を掛ければ何とか死を回避することはできる。しかし、アベルの魔法では傷を完治することができず、魔力の消耗量が少し減っただけで、シエラは魔力を消費し続けている。このままでは、回復魔法での治療はほんの少しの延命にしかならず、いずれシエラは死ぬ。


 魔物を食い止めているティナ、ヘイザー、ナハトは辛うじてシエラとアベルを庇えている程度で、ほとんどダメージを与えられていない。それどころか、三人は魔物の攻撃をうまく防ぎきれず、傷が増えて言っている。


 アベルは引き続きシエラに回復魔法を掛けているので、三人を援護することはできない。この状態が後数分続くだけでも全滅は確実だ。

 そんな絶体絶命な状況の中、魔物の後方から何者かが近づいてくる音が聞こえてきた。


「だめ、これ以上は——」


 ティナが一人でもなんとかしようと最前線で戦っているヘイザーの前に立とうとした刹那、魔物の首が斬り落とされた。


「ケルベロス相手によくここまで耐えたな」

「え、エレノア様……助かりました……しかし、どうしてここに?」

「シエラ様を遠くから見張っていた密偵から報告を受けてな。聖女ももうすぐ到着するはずだ。それまで回復を続けておいてくれ。それと、この遺跡の周辺には強力な魔物もいるかもしれない。ひとまずは、ここにとどまっておくんだ」

「わかりました。それで、この魔物は?」

「こいつはケルベロス。本来は魔界か魔族の支配域にしか生息しない変異種のはずだ。これは、国に報告しなければいけないな」


 ケルベロス。強力な魔族の放つ魔力によって魔獣が魔物へと変異したもので、魔族の魔力の影響を受けているため、討伐するには騎士団長クラスの剣士と宮廷魔術師クラスの魔法使いが必須とされている魔物だ。


「魔族……」


 その単語を聞き、ティナは恐怖で全身の力が抜け、その場に座り込んだ。頭のいいティナは理解してしまったのだ。この遺跡には魔族がいると。そして、私たち程度では即死だと。

 普段は怖いものなしでどんな敵にでも勇敢に立ち向かうヘイザーも、ケルベロスの魔力に中てられてもなんともなかったアベルですら震えている。ナハトに至っては放心状態だ。


 伝承では、強力な魔族はたった一人で街を壊滅させられると伝えられている。そんな魔族が身近にいると思うと、そうなるのも当然だろう。もし魔族に襲われでもしたら、ケルベロスの首を一撃で斬り捨てたエレノアがいようと、逃げる時間分ほんの少し生存時間が増える程度だ。


「っ……この魔力は……」

「よかった、間に合ったか。この魔力は恐らくそこの遺跡の奥から。ケルベロスがいたから魔族が原因のはずだ」

「なるほど、それで……」


 駆けつけてきた少女は魔力に耐えながら、何とかシエラに治癒魔法を掛ける。すると、すっかりシエラの傷は完治し、さらに服まで元通りになった。


「本当にありがとう、アリア」

「いえ、これが私の使命ですから」


 シエラに治癒魔法を使った少女——アリアは、回復や身体能力向上などの味方を支援する魔法に秀でた所謂聖女だ。ここに駆けつけてこられたのは、アリアだけが持つ固有の魔法「都市間転移」と特殊な眼である

「未来視の神眼」があったからだ。これがなければ、シエラは最悪死んでいた。

「アリア様、皆を連れて急いで撤退すべきです」


 アリアと一緒に来た護衛であろう軽装の女騎士が進言する。


「そうですね。ひとまずエレノアの屋敷まで転移します」

「私はこの周囲を見回ってから戻る。アリア、また無理をさせてしまって済まないな」

「いいんです。私の力で大勢の人が救えるのですから」

「それはそうだが、無理はしすぎるな……なんて、私が言えたことではないな」

「いえ、状況が状況ですから。ご心配、ありがとうございます。それでは——」


 アリアは都市間転移を発動させ、エレノア邸へと転移した。


つよつよ生命力

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