12話 頑張るシエラちゃんpart1
朝、窓から差し込む日差しで目が覚めた。
さすがにあれから昼まで寝れば体調も回復し、気持ちも楽になった。
夢見はあまりよくなかったが、身体が重いというわけでもないし、さっさとご飯を食べてエレノアと特訓したい。
アキヅキ流にナルセ流、さすがに一ヵ月でどちらもマスターするというのは無理だろうが、初級クラスの技だけでも習得しておきたい。
「それではシエラ、行きますよ!」
朝食を取り終わると、さっそく特訓が始まった。
エレノア曰く「実際に技を受けてみると自分では見えなかったものが見えてきます」とのことで、今日は特訓の序盤から模擬戦だ。
見えなかったものか……型や動き、速さは恐らく完璧なのだが、どうもしっくりこない。
完璧を目指しすぎているから……ではなさそうだ。何度技を受けながらエレノアの動きを見ても、私とエレノアの動きの違いが判らない。特に間違っているところもないはずだ。前世の記憶にもヒントになりそうなものはない。
いっそのこと本人にでも教えてもらえばわかるかもしれないが、死んだのは数千年前の話だから到底無理だな。突然今は子供たちに剣を教えている伝説の剣士みたいな人が来てくれればいいんだけど。
「どうですか?」
「さっぱりわからないわ」
即答する。なにもつかめない。むしろ防御ばかり上達している気さえする。
「では、私にあの技を使ってみてください。もしかしたらわかるかもしれません」
「わかったわ。それじゃあ」
別に構えなくとも攻撃にはつなげられるが、一応構えから始める。そして、一昨日習った通りに動く。
ばっちり習った通りに動けた。しかし、やはり何か違う。
「そうですね……習ったようにではなく、やりやすいようにやってみてください」
「やりやすいように?」
「多少型が崩れても構いません。シエラの動きやすいように」
私が動きやすいようにか。それなら——
「こんな感じ?」
「ふむ、では今のを私に」
もう一度、私のやりやすい動きでエレノアに攻撃する。
「やはりさっきよりいい動きですね」
攻撃を受け流されても、さっき攻撃した時より切り返しが早くなった気がする。正直何が改善されたのはわからないが、とりあえず動きやすくはなった。
「もしかしたら、私がやっている通りに教えたのが原因かもしれません」
「どういうこと?」
「私とシエラでは筋肉量、身体の柔らかさ、手足の長さも全く違いますからね。そういうことです」
なるほど、完全にエレノアをまねようとしていたからよくなかったのか。確かにエレノアと私では体格が全く違うからな。どおりでうまくいかなかったわけだ。
しかし、まさかやりやすいようにと言われて一発で成功するとは。実は私、天才なのでは?
この調子でもっと技を覚えて、さらにナルセ流も習得したい。
「ちなみに今更ですが、この流派は基本的に魔物と戦う際見栄えを重視したい時くらいしか使えません」
「今更過ぎるわよ!」
実用性皆無じゃないか。
私が男で好きな女冒険者にアピールしたいとかならまだしも……。
「ですがこれを対人で使えば見栄えがいいので人気に慣れますよ」
「人気ねぇ……」
エレノアは闘技大会にも出場しているらしいし、そういった場では確かに映えそうだ。まあ私にはまったく縁のない話だが。
にしても実用性皆無か……剣舞なんて呼ばれていると知った時点で気付くべきだった。
まあ今回はいろいろ気付きがあったし、そう言う面でいい勉強になったと思おう。
「エレノア、ナルセ流も教えて欲しいわ!」
「ナルセ流ですか。申し訳ありません、私はアキヅキ流と剣聖流しか習得しておらず……」
「剣聖流?」
また新たな流派が出てきた。剣聖という単語自体は聞いたことがあるけど、詳細はよく知らないな。
「剣聖流は防御とカウンターが主軸の盾役向けの流派ですね」
「そっかー、でもそれも覚えておきたいわ」
魔物どころか魔王も存在する世界にいるのだ、戦闘に関する技術は身に着けておいて損はないだろう。特に最後は剣を使った戦いになるだろうし、覚えておいた方がきっと将来のためにもなる。ナルセ流はまたそのうち習得した人に習おう。
「ではお手本をお見せします」
エレノアが土魔法でゴーレムを創り、それを動かして自分に攻撃させた。
その攻撃を綺麗に受け流し、そのままカウンターで一刀両断。
「大体こんな感じです。他にも数種類のカウンター技があり、そこから別の技に派生させるのが基本ですね」
カウンターで攻撃を与えてから攻めに転じるという感じだろうか。なかなか難しそうだ。これは習得し甲斐がある。
アキヅキ流の時と同じように、まずはエレノアの動きを見てそれを摸倣する。そしてなんとなく動きがわかってきたら今度はエレノアの攻撃をカウンター。普段使うカウンターの癖が染みついているからなのか、なかなか難しいな。
頑張れシエラちゃん!