10話 剣術
馬車旅を九日、ようやくエレノアの領地であるジャーヴィス領に到着した。
周りに魔獣や魔物が出る森、危険な遺跡があるからか、街には冒険者風の人がたくさんいる。そういえばママが冒険者の街のような事を言っていたな。あとは、冒険者が多いからギルドが結構な力を持っているとか、さらにそれをエレノアが牛耳っているとかいろいろ噂もあるらしい。なんというか、すごそうな人だ。
もし両手剣を片手で振り回すような筋肉ダルマが出てきたらどうしよう。
ママには「ついでに剣術も学んでくるといいわ」とも言っていたけど、そんな人が出てきたら圧倒的すぎて途中で心が折れそうだ。
と、そんな想像をしていたが、どうやらエレノアは筋肉ダルマではないようだ。
「お初にお目にかかります、シエラお嬢様。エレノア・ジャーヴィスと申します」
金髪碧眼で程よい筋肉におおきなおっぱい、腰には片手剣と、貴族というより女騎士という感じの女性だ。
そんなエレノアからシエラお嬢様なんて呼ばれるともゾクゾクする。
「シエラお嬢様?」
おっと、興奮して我を忘れていた。
「ごめんなさい、少し見惚れていたわ」
「そ、それは……ありがとうございます……」
あれ、顔が赤い。もしかしてチョロいのだろうか。弄り甲斐がありそうだけど、変態と思われたくないしやめておこう。私は自重できる女なのだ。
「ごほん。では、こちらへ」
エレノアに案内され、しっかり私好みにセットされた部屋で荷物を下ろした。
「メイドに手伝わせますか?」
「ありがとう。でもこれくらいは自分でやるわ」
「わかりました。それとこの剣……」
持ってきた魔剣のことか。正直使いこなせてないから今や魔杖替わりになっている。
「少し使ってみても?」
「ええ、むしろどれほどの剣術を扱えるのか見てみたいわ」
「わかりました。では庭のほうで」
まとめた荷物——主に服をクローゼットに収め、エレノアと庭に出る。
「では、行きますよ」
見たことのない型だ。
それにしても剣を振るうエレノア、なかなか絵になるな。前世も現世も女の私でも惚れてしまいそうだ。
舞うような剣術、是非とも習得したいな。
「どうでした?」
「エレノア様さえよければ是非その剣術を習いたいわ」
「もちろんですとも。それと、私のことはエレノアとお呼びください」
「わかったわ。なら私のこともシエラって呼んで」
シエラお嬢様って呼ばれるのもいいけど、やっぱりシエラって呼び捨てにされるか、シエラちゃんって呼ばれるのがしっくりくる。
「ではシエラ。準備して始めましょう」
「わかった。すぐ着替えるわ」
エレノアのように動きやすそうな恰好に着替え、一応持ってきた木剣をもって庭にもどる。
帰ったとき魔法を使わなくてもニーナに勝てるくらいには強くなりたい。絶対この剣術を習得して帰るぞ!
「ではさっそく先ほど見せた《アキヅキ流》の剣術を」
アキヅキ流か、名前が日本っぽいけど、似た文化の国でもあるのだろうか。もしそうならそのうち立ち寄ってみたいな。
「この剣術は遥か昔の英雄が残した剣術で、戦う姿が舞いのようにも見えて《アキヅキ流剣舞》とも呼ばれています。この基本の構えからの——」
まず習得するのはエレノアが見せた五連撃か。
ビジュアル重視のネトゲでありそうな動きだが、再現するのは難しそうだ。
しかしこの動き、どこかで見たことある気がする。こっちの世界では見てないはずだがなぜだろうか。まあその謎はそのうち思い出したら探ってみるとでもしよう。そんなことよりも、今はまずエレノアの動きを真似ることに集中だ。
まずはイメージからだ。
動きの順序、身体の細かい動作——
「せやぁ!」
できなかった。
実際に技を受けたり、一つ一つの動作を教えてもらわないとさすがに剣術は習得できないか。見て覚えるなんて才能はなかったか、残念。
「今の動き、ここの腕の角度はこう、それと力を抜いて流れるようにです」
構えから技を出すまでの流れを実際に腕の角度を調節してくれた。そして力を抜いてか。
「おっ、出来た!」
まだ構えから一段目の攻撃ができただけだが、さっきより断然動きやすい。
「そうしたら次は——」
こうして、できないところを調整、少し違ったらまた調整というのをり返したり、エレノアの動きを何度も見て調整した時の感覚を踏まえて真似してみたりと同じようなことを数時間続け、ようやくあと少しのところまでたどり着いた。
あと一歩で習得できそうだが、今日はもう終わりだ。
伏線がたまるばかりで全く回収できてない(`・ω・´)
2章に……2章になったらちゃんと回収するから……!