クリスマスの近づき ①
2022/7/17 二話目
「キラキラしてるね」
クリスマスが近づいてきている。
そういうわけで、街の至る所が飾られてきている。
乃愛はクリスマスをそれだけ盛大に盛り上げることに驚いていた。宗教行事があまり関係がない国でこうやってお祝いする日として定着しているのが面白いらしい。
冬は暗くなるのがはやい。
学園から帰宅する時間にもすでに少し暗くて、イルミネーションの光が見える。
ちなみに今、僕は寒くなったのもあり乃愛が編んでくれたマフラーと手袋を身に付けている。乃愛はそれを見て嬉しそうにしていた
乃愛と一緒に街中を歩いていると、切羽詰まった声が聞こえてきた。
「キャエリン! 逃げろ!」
杉山の声? 何だか切羽詰まっている? などと思いながらも明らかに異世界関連のことなので、偶然を装ってそちらをちらりと見る。
杉山の腕から血が流れていて、少しだけ気分が悪くなる。だって、僕誰かが怪我をするのなんて見たことがないから。
杉山たちと対峙しているのは、黒い外套を着た怪しい男。うん、怪しい。だって全身黒だし、マスクもかぶっているし。何で異世界の人たちというのは幾ら常識改変が効いているとはいえ、もう少し服装を考えないのだろうか。
……異世界だとああいう怪しい恰好も普通なのかな? あと今は杉山とフラッパーさんしかいないっぽい? ルードさんとトラジーさんはどうしたんだろうか? トラジーさんは護衛なのにその場に居なくていいのだろうか。
「わたくしが、ひかるをおいていくわけがないでしょう!!」
「でも……このままじゃ」
それにしても結構人が多い場所で、クリスマスのサンタさんの置物の前でそういうやり取りしているのを見ると中々シュールだ。
「ははははっ、勇者よ。お前を逃がすわけがないだろう!!」
そんな声と共に、その場の人々が固まるって……前に女神様がやったように時間止めてる?? え、僕このままの状態キープ? 前の時と違って歩いている時にそれをされると中々キツイのだけど。
『博人、時間停止じゃなくて、物理的に止めてる』
『闇の魔法でその動きを停止させてるというか。一般人を人質に勇者にとどめをさそうとしているみたい』
『とりあえず私と博人は大人しくしていようか』
同じように固まったフリをしている乃愛からそんな思想が飛んでくる。
……僕たちは人質かぁ。こういう時、僕の思考が乃愛に伝われば意思疎通しやすいけれど、乃愛の思考を僕に届けるは出来ても、僕の思考は乃愛に伝わらないっぽいからなぁ。
「くっ、なんて卑怯な」
卑怯も何もないと思う。
だって相手は杉山たちの明確な敵で、敵ならば勝つために手段を選ばないのも当然だろうし。
「ふははは、これで――」
「ちょっと待った!!」
……なんか誰か来た?
僕の視線は杉山たちのいない方向に固定されているので声だけしか聞こえてはこない。
「その勇者を倒すのはこの俺だ! お前如きに倒させない」
ツンデレかな?
何だかんだ言いながら助けに来ているのを見ると、今まで杉山と敵対していたライバルキャラ的なもの?
どうでもいいけれど、早く動いてよくしてほしい。この態勢辛い。
その後、何だか戦闘音などが聞こえた後に「くっ、これで終わりと思うなよ」という言葉と共に周りの人々が動き出した。
僕もようやく動き出せる。
そして乃愛と手を繋いだまま、僕は帰宅した。
「はぁ、いきなり周りが固まるからびっくりした」
「びっくりしていても素知らぬ顔で平然を貫きとおすのが博人だよねー」
部屋に戻って、クラの頭を撫でながら僕はほっと一息を着く。
乃愛はなぜか僕の頭を撫でている。
「博人がもっと顔に出る人間だったら、あの勇者たちにも見つかっていたかもね。そうなっていたら色々巻き込まれてたのかも」
「……本当に平然と出来るタイプで良かったよ」
いや、だってさ。絶対に常識改変が効かない稀有な存在として杉山たちに引っ張り出されていたら面倒だ。色々連れまわされたかもしれないし、授業を受けたいのに引っ張り出されたりしていたかもしれない。
僕の平穏な日々がなくなっていたかもしれないとおもうとぞっとする。
「でも私、博人が勇者に引っ張り出されていたとしても博人を見つけてくっついていたかも。で、勇者をどうにかして今と同じような暮らししていたかも」
「……あー、でも僕多分、乃愛の能力を効いたふりしていたかもしれないよ」
「一回は騙されても接していくにつれて私の力が効かないの分かるものだろうしね。私は博人と気づかないふりをしてのんびりするのも楽しいから全然良いけど」
乃愛の目が逃さないとでもいうようにじっと僕を見ている。
何だか乃愛の僕への執着、日に日に増してきている? 気のせいじゃなければだけど。
「乃愛、異世界関連で亡くなった人がいないって本当?」
前から気になっていたことをちょっと聞いてみる。
「ううん。死んではいるよ。お姉ちゃんがすぐに生き返らせたみたいだけど」
なんとも強引に死んでない風にしていたっぽい。
死んだなら生き返らせれば亡くなった人がいないとするなんて適当だなぁ。